【完結】Ωの王子はαのドS執事と絶倫騎士に啼かされる~生意気な王子でごめんなさい~

翡翠蓮

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第四十八話「きっと、世界が変わるときがくる」

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 翌日、学院に通うことになった。
 シャツをぴっしり着て、鏡で自分に変なところがないかを確認する。

 もちろん、発情抑制剤も飲んだ。

 こないだの発情誘発剤は一日で効果がなくなるらしく、次の日も発情期に悩まされることはなかった。

「大丈夫ですか、殿下。今日も休まれたほうが……」
「いや、大丈夫。いつまでも休んでちゃ、多分エシエルも心配するだろうしな」
「殿下、気を付けてくださいね。俺も帰りに迎えにいきますから。あ、少し調べものがあるので、遅くなったら申し訳ありません」

 グラン、調べものがあるのか。何を調べるんだろう?
 カルヴェと共に馬車に乗って、学院へと向かう。

 学院に着くと、門の前にエシエルを見かけた。

 眉をハの字にして心配そうな顔で左右をきょろきょろ見渡していて、俺の姿を見かけると走り出し、ぶわっと涙を溢れさせて抱きついてきた。

 ちょ、エシエル、ここ、門前だよ! 門前!

「でんかああぁぁ! もう、僕、しんぱいでじんばいでええぇ」

 ……しまった。一日休んだだけでもエシエルは心配してしまう人だった。
 俺はしゃくり上げるエシエルの背中を宥めるように撫でる。

「僕のせいなんですっ……僕が、ご飯食べに行こうって、誘ったから……っ、すぐ帰宅して馬車に乗っていれば、あんなことにならなくて、済んだかも、しれないのに……!」
「大丈夫だよ、エシエル。エシエルのせいじゃないよ」
「でも、でも……っ」
「俺、結構元気だし。そりゃ、怖かったけどさ。でもそうやって心配してくれる友達がいるんだから、嬉しいよ。それにもう終わったことなんだし、後悔してても仕方ない。エシエルのせいだと俺は思ってないよ、安心して。全部あいつが悪いから」
「殿下……」

 俺の胸板に埋めていたエシエルが顔を上げる。

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていて、俺はポケットからハンカチを取り出して拭いてあげた。

 しかし、エシエルに一昨日の話が伝わっているということは、生徒たちにも噂になっているはずだ。

 俺がΩであるということは、生徒全員に知れ渡っているだろう。

「教室に入ろう。授業受けに行こうよ」
「はい……っ」
「しばらく俺のハンカチ使ってていいからさ」
「ありがとう、ございます……っ」

 既に俺のハンカチはびしょ濡れになっている。

 ああ、ありがとな、俺のハンカチ……。
 教室に着くと、俺が入っただけで騒がしかった教室が一気にしんと静まり返った。

 俺を見て、生徒たちが耳打ちする。

「見て、Ωの王子……」
「だよな、殿下、Ωだったんだよな」
「しかも強姦されかけたって……」
「第一王子でもΩになるなんて……」
「国王陛下の実子なんだろ? なのにΩだなんて……」

 おいお前ら、聞こえてるんですけど。
 俺が生徒たちを見渡しても口を噤むことはない。

 席に座ってもずっと視線を感じるし噂話をされて、苛立った俺は仕方なく立ち上がった。

「おい、お前たち」

 俺が言葉を放つと、ぴたりと生徒たちの小声が止む。
 わかりやすいやつらだな、まったく。

「確かに私はΩだ。だが、それがなんだという?」

 生徒を一人一人睨んだら、みんなサッと視線を逸らした。

「私はΩだが、魔力が尽きそうなほど努力して、魔術試験で学年一位を取った。剣術試験以外でもほとんど一位だった。学年でトップの成績だ。それは、Ωでも劣っていないという事実なんじゃないか?」

 教室が沈黙で包まれる。
 みんな呆然と俺を見つめ、なんて言ったらいいのかわからないらしい。

 みんなの言葉を待っていると、俺の傍で拍手の音が聞こえた。
 ……エシエルだ。

「僕もΩだけど、殿下に勇気を貰えました。僕もその……強姦されそうになったときがあって、そのときに殿下が助けてくれたんです。もう差別をする時代じゃないって、仰ってくださりました。第二の性別の差別をしないお方が、国王になるのは国の誇りだと僕は思います」

 エシエルが堂々と言い放つと、他の生徒たちも一人、また一人と拍手するようになった。

「そう、だな。何せ、殿下は成績トップだ。差別をしたところで、妬みにしかならない……」
「Ωでも、努力をすればαを抜かすことができると証明された。なら、俺たちがどうこう言ったりすることなんてできないよな……」

 αの人や、他の性別の人たちも拍手を湛える。
 俺はその心地良い音を聞きながら、ああ、差別を変えることはできるんだなと実感した。

 こうして一つ一つ変化を取り入れていけばいいのだ。
 そうすれば、近いうちに差別がなくなる時代になる。

 俺はそのときを楽しみに待つことにした。
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