【完結】Ωの王子はαのドS執事と絶倫騎士に啼かされる~生意気な王子でごめんなさい~

翡翠蓮

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第四十七話「レヴィルの処遇」

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 翌日、父様に呼び出された。
 あれだけの騒動があったのだ。

 生徒たちが第一王子の俺の性別はΩだということがわかり、噂になり、父様と会議を行っている大臣たちの元へと話が流れたのだろう。

 俺は胸を押さえて緊張しながら父様の部屋のドアをノックした。

「入りなさい」

 その声は、僅かに苛立ちが混ざっているような気がする。

 深呼吸をしてからドアを開けると、そこには紅茶を優雅に飲んでいる父様が柔和に笑みを浮かべて座っていた。

 隣には、苦い顔をしたエリアンが立っている。
 父様の瞳を覗くと、俺には苛立っていないように見えた。

 俺が座ると、侍女が俺にも紅茶を淹れてくれた。

 高い位置からなみなみと紅茶を注がれ、父様に「飲んでもよいよ」という合図を貰って一口いただく。

 フルーツティーで甘く、全身の緊張が解れていく気がした。

「さて、昨日の件なんだが……」
「はい」
「まず、怪我はなかったか? 我が息子よ」

 心配されるとは思っていなくて、思わずぱちぱちと瞬きしてしまった。
 一瞬の沈黙のあと、俺はゆっくり頷く。

「特にありません」
「なら良い。エリアンも心配していた。そうだろう?」
「ええ、とても心配しましたよ。……兄様、怖かったでしょう」

 エリアンが珍しく瞳を潤ませて言った。
 そのあと溜め息を吐いて、不快そうに顔を歪ませる。

「あのレヴィルという男、絶対に許しません。本当に最低です。兄様をあんな目に遭わせて、二度と日を見られないようにしてやりたいです」

 瞳の色を見るに、本気のようだ。

 エリアンはとても聡明な人間だ。
 将来本当にレヴィルから日を奪ってしまうときが来るかもしれない。

「エリアン、心配してくれてありがとう。俺はもう平気だよ」
「でも……っ、刻まれた傷はなかなか癒えないものでしょう!」

 エリアンがぎゅっと拳を握って震わせる。
 目尻を釣り上げているエリアンを見て、本当に心配してくれていたのだと嬉しさが募った。

 俺とエリアンはあまり王宮でも顔を合わせないし、エリアンはまだ高等部で一緒に登校するわけでもない。

 あまり顔を合わせていなかった自分の弟から、俺が危険な目に遭ったときにはこんなに声を荒げてくれるのだとわかって、素直に嬉しい。

「エリアンが心配してくれただけで、俺の傷は癒えたようなものだよ」
「兄様……」

 エリアンの瞳がうるっと揺れた。
 そっぽを向いて鼻を啜る音と、小さな呟きが耳に入る。

「俺の兄は、なんて強い子に育ったのでしょう……」

 ハンカチで涙を拭く仕草が見えて、俺は後ろを向いているエリアンに微笑んだ。

「そして、オーレリアン宰相の息子、レヴィルの処罰についてなのだが……」

 父様が紅茶を一口飲んでから口を開く。

「オーレリアン宰相が激怒してな。レヴィルは退学、爵位を剥奪されたそうだ。もう宰相にはなれまい」
「そう、なんですか……」

 意外にも重い罰で、少し驚いた。

 オーレリアン宰相は成人式で俺に挨拶してきたとき、腰も低かったし丁寧で真面目そうな方だった。

 息子と仲良くしてくれと言っていたが……その息子が俺に暴力を振るったとなると、自分の顔に泥を塗ることにもなるし、怒りを抑えることはできなかったのだろう。

「レヴィルは今牢にいる。二年半ほど出てこれないそうだ。余としては一生牢から出られなくしてやりたかったのだがな」
「あはは……」

 俺が苦笑いをしても、笑いごとではないというように父様の瞳は笑っていなかった。

 ……そうだよな。俺は自分が経験したことを甘くみていたかもしれない。
 強姦なんて、許されることではないんだ。

「それと、昨日余と大臣で緊急会議を開いた。アルマがΩだということは、すぐに知れ渡り、余は非難された」
「あ……申し訳ありません」
「いや、謝らなくていい。差別をする大臣たちが悪いのだ。苛立って仕方ないからな」

 そうか、声音が少し苛立っていたのは、大臣たちに対してだったのか。

「……アルマ」

 父様が真っすぐ俺を見た。
 その真摯な瞳を見ていると、心が洗われていく。

「大丈夫だ。余は何があってもアルマ、お前を国王にする。敵は多い。それでも、お前が国王になったら誰も逆らえない。お前が、この国の差別を変えることができるのだ。もし、アルマがαだったらできないことだ。余はずっとお前の父親として傍にいる。いつまでも応援している。負けるな、アルマ。これからこの差別と闘っていくのだ」
「父様……」

 父様の力強い言葉に圧倒される。
 俺は、応援されているのだ、家族に。

 いや、家族だけじゃない。カルヴェやグランだって俺を支援してくれるだろう。
 周りの人々の温かさに、俺は目の奥が熱くなってくる。
 だけど実の父親の前で涙は見せたくなく、ぐっとこらえて父様を見据えた。

「はい。このアルマ、立派な国王になってみせます」

 堂々と言うと、父様は満足したように微笑んだ。

 父様と会話をしたその日は事件があった次の日だし、学校を休んでゆっくりしたほうがいいとカルヴェに言われて言葉通りリラックスして休んだ。

 だが、長時間休むにも休んでいられない。
 もうすぐ属性魔法習得国家試験が迫ってきている。

 今まで滞りなく魔術の練習は続いていたが……カルヴェを避けていたり意識していたのもあってあまり上達していなかった。

「カルヴェ、今日もよろしく頼む」
「いいのですか? ゆっくり休まれたほうが……」
「時間がないだろう。それに、身体を動かしていたほうがいい」
「……わかりました」

 俺が強引に練習したいと言ったおかげで、その日は数時間魔術を高めることができた。

 カルヴェも最初は止めていたが、なんだかんだいって俺が成長していくことが嬉しいのか、上機嫌で教えてくれていた。
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