【完結】Ωの王子はαのドS執事と絶倫騎士に啼かされる~生意気な王子でごめんなさい~

翡翠蓮

文字の大きさ
上 下
43 / 51

第四十三話「遊ばれているなんて、嫌だ」

しおりを挟む

 学院に入学してから半年が経った。
 今日は前期魔術試験、剣術試験の日だ。

 昨日は国史や経済といった座学の試験だった。
 今回は完全に技術の試験である。

「殿下、頑張りましょうね!」
「ああ、一緒に頑張ろう」

 エシエルが拳を見せて笑顔で言った。

 試験は受かる受からないのものではなく、日本のテストのようなもので、受ければ単位がもらえるというもの。

 学年順位も張り出される。
 良い成績を取らなければ、国家試験には受かるはずもない。
 俺は緊張しながらもそれぞれの教師がいる試験に挑んだ。

「はぁ~、疲れた……」
「殿下、どうでしたか? 僕は結構難しかったです……」
「うーん、俺は……どうだろ……」

 正直手ごたえがあったように思う。
 グランとカルヴェとの練習の成果が十分に出ていた……気がする。

 試験の内容は自分が持っている属性魔法を十分に使いこなせているかというものと、通常授業で習ったことの振り返り、剣の振り方、属性魔法を付与したときの戦闘方法などだった。

 教師は点数をつけるため俺に影響を及ぼすことは何も言わなかったが……うんうんと頷いていたし、失敗することもなかった。

 学年の順位も中くらいにはいけてるんじゃないだろうか。

「試験も全て終わりましたし、一緒にお茶でもしませんか?」
「いいな、行こう」

 そういえばエシエルとお茶をするのは初めてだ。
 仲は良かったけど、学校内のエシエルしか知らないな。
 いや、もしかしたら俺が転生する前に出かけていたりしたのかもしれない。

 俺は迎えに来てくれたカルヴェに「エシエルも乗せていいか?」と頼み、エシエルと一緒に学院から人通りが多い場所へと向かった。

「カルヴェ様、お久しぶりです。今日は殿下と共にお茶をしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。殿下をよろしくお願い致します」

 カルヴェが左手を胸に添えてお辞儀をする。
 元々エシエルと仲が良いと教えてくれたのもカルヴェだ。
 カルヴェとエシエルも険悪な仲ではないのだろう。

 二人でどこの店に行くか相談し、アフタヌーンティーがやっている店に行くことにした。
 エシエルは甘いものが好きなのだ。

 令嬢たちがよく女子会を開くアフタヌーンティーに男二人で行くことを気にするより、多分今は試験で疲れているから、すごく甘いものが食べたいのだろう。

 馬車を止めてもらって、エシエルとカルヴェの後に降りる。

「では、私はここでお待ちしていますね」
「ありがとう」

 カルヴェは店の外で待機してくれるらしい。

 久々(なのだろうか)のエシエルとのお茶に自分は介入せず、二人でゆっくり楽しめということだろう。

 エシエルが馬車に指示をして連れてきてくれた店は、ミントグリーンとホワイトが塗られたストライプの屋根に、ケーキがたくさん手書きされた立て看板が置かれているところだった。

 高級店なのか、中を見るとお茶会をしている令嬢たちがわんさかといる。

「殿下、こういうところは平気ですか?」
「平気だよ。行こう」

 ホワイトペンで絵が描かれたガラスのドアを開けると……エプロンを着て兎の耳をした女性がやってきた。

「いらっしゃいませ……って、王太子殿下だわ! ようこそ当店にお越しくださいました! 二階席は今人が少ないので、そちらを準備致しますね」
「ありがとう……」

 兎の耳、本物じゃないよな?
 と思ったが、店員は皆頭に猫の耳や熊の耳などが生えている。
 もしかして、フィリベルト先生が言っていた――。

「ここの店員さんたち、獣人なんですよ。ほら、北方のゾーオンという村があるでしょう? そこは、滅亡した獣人の生き残りの方が住んでいるんです。その方たちを、今の国王陛下が差別のないようにとスカウトして王都に店を開いたんですよ」

 歴史学で習った話だ。
 昔、この国は獣人が多かったらしい。

 だが獣人を嫌う人間と自分たちより力が弱い人間を差別する獣人とで軋轢が生じ、内戦が起きたのだとか。

 人間は魔術師の手を借りて兵器を生み出し、それで獣人を滅亡させた。

 北方のゾーオンという村は、その生き残りが密かに暮らしていると聞いていたが……その数人が王都で店を開いているとは。

 父様はいつも斬新な考えをなさる人だ。
 店員たちは尻尾を揺らしてパフェなりケーキなりを運んでいる。
 エシエルのほうを見遣ると……瞳をキラキラ輝かせて店員たちを見つめていた。

「はぁ……いいですよね、獣人……モフモフしたい……結婚したい……」

 エシエルはこの店員たちをそういう目で見てるのか……。

 もしかしてエシエルって……普通の人間の女性には全く興味なくて、獣人の女性しか興味ないタイプなのか?

 エシエルってそういう性癖を隠し持っていたのか!?

 程なくして店員がやってきて、二階のテラス席に案内された。
 夏とは違った涼しい風が吹く中、メニューを渡される。

「殿下、アフタヌーンティー頼んでもいいですか? ここ、予約しなくても頼めるんですよ」
「そうなのか? じゃあ頼もう」

 すんなりメニューが決まって注文したあと、すぐにサービスの紅茶が運ばれてきた。

 俺はフルーティーカモミールを頼んだが……今までに飲んだことがない味でとても美味しい。
 甘いのにカモミールの後味がしてさっぱりする。いくらでも飲めてしまいそうだった。

「殿下、その……ずっと気になっていたことがあるんですが」
「なんだ?」

 エシエルは唾をごくりと飲んで、意を決したように口を開いた。

「グラン団長とその……二人きりで練習をして、何かありませんでしたか?」

 ……ギクッ。
 数か月前の初めて剣術を練習したときのセックスが一気に蘇る。

 俺が頭まで熱が上ったのがわかったのか、エシエルは目を見開いて、

「何かあったんですね!?」

 と大声で叫んだ。

 エシエルに何があったのか聞かれる前に、アフタヌーンティーが到着する。

 運ばれてきたのはリンゴやカボチャなどが使われた上品なスイーツと、ローストビーフが挟まれたミニクロワッサンや生ハムなどのセイボリー。

 どれも美味しそうで、いつもの挨拶をしたあと一緒に下段から取っていく。

 最初に食べたのはローストビーフとチーズ、レタスが挟まれたミニクロワッサンで、ソースがそこまで塩気がなくて美味しい。

 咀嚼していると、エシエルが紅茶を飲みながら聞いてくる。

「グラン団長と……シたんですか? その……セックス」
「まぁ、うん……したな」
「殿下……」

 エシエルが憐れむようにため息を吐いた。

「初めてだったんですか?」
「え、その……初めて、ではないな」
「ええっ!?」

 エシエルは顔を赤くして、恥ずかしむように生ハムを口に放り込んだ。
 俺の初めては……カルヴェだ。

 グランとはあれきり一回もしていないし、カルヴェとも魔力の補給をするためにキスをするくらいで、もうしていない。

 そのことを告げると、エシエルは「へあぁ……」と変な声を出した。

「殿下って……その二人のことをどう思っているんですか?」
「どう思っているって……うーん、よくわからないなぁ」

 大事な従者兼友人だと思っていたが……従者でも友人でもセックスをすることはないだろう。
 なら、俺と二人の関係って……なんだ?

「もしかして俺、遊ばれてる?」
「それは、ない……とは言い切れないですね」

 エシエルの正直な答えにずん、と胸が錘のように重たくなるようなショックを受けた。
 遊ばれてた? 俺がΩだから?

 俺のことが大切だと二人とも言ってくれていたけど、あれは嘘で、本当は俺で遊びたかったのか……?

 悲しくなって、喉の奥がきつく締まり涙腺が緩んでくる。

「で、殿下……!?」
「え……」

 エシエルが驚いた顔をしてハンカチをポケットから取り出し、俺の目元を拭いてくる。
 知らない間に、俺は涙が零れていたらしい。

「……そんなに、悲しいんですか?」
「悲しいって言われたら、悲しいかも……」

 喋っている間も涙が止まらなくて、エシエルが拭き続ける。
 どうして俺は悲しいと思っているんだろう。

「俺、なんでカルヴェとグランに遊ばれてるのが嫌なんだろ……」
「……」

 エシエルが何故かジト目で俺のことを見つめて来た。

「殿下って、ことごとく鈍感ですよね……自分のことに対しても……」
「な、なんだよ……」
「ふふ、なんでもないです」

 エシエルがくすりと笑って、流し続ける俺の涙を拭いてくれた。

 しばらくして泣き止んだあと、授業の話や試験の話をして盛り上がり、アフタヌーンティーを腹が膨れるまで食べて夕方頃に解散した。

 それでも、二人が俺で遊んでいるという事実が頭の中をぐるぐると回って、上手くエシエルと話せなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...