【完結】Ωの王子はαのドS執事と絶倫騎士に啼かされる~生意気な王子でごめんなさい~

翡翠蓮

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第三十六話「殿下とデート」

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◇◇◇

 ……避けられている気がする。
 殿下と練習棟で肌を重ねた日から、殿下は俺と目を合わせなくなった。

 俺が「殿下、おはようございます」と挨拶をしても、「お、おはよう……」と不器用な言い方で返してくる。

 他にも、学院へ行く際の護衛もカルヴェに任せてばかりで、俺のほうにはやってこない。
 やはり、何度も犯してしまったことに怒りを覚えているのだろうか。

 それなら、改まって謝らないといけない。
 それに……身体目当てでないことを伝えておきたい。

「うーん、どうしたものか……」

 王宮の護衛を担っているときに、隣の護衛に聞こえないよう小さな声で唸る。
 殿下に俺といてもすぐに襲って来たりしないこともお伝えしたいし……。

 どうすれば殿下と共にいられるだろう。

 俺は絶倫だと王都の令嬢や令息には普通に噂が出回っている。
 恐らくそれは殿下の耳にも届いているだろう。

 その先入観を、どうにかして殿下から引きはがしたい。
 いや、絶倫なことに変わりはないのだが……。

「うーん……」

 男と適当にセックスしてきたばかりで、本気で好きになった人にどう自分をアピールすればいいか全然わからない。

 花でも送ればいいだろうか。

 悩んでいると、すぐそこで令嬢とその婚約者であろう令息が仲睦まじく歩いているのを見かけた。

「レヴィ嬢、今度は海に行きませんか?」
「まぁ、いいですわ。ぜひ、一緒に行きましょう」

 にこにこ笑いながら通り過ぎていくさまは、とても幸せそうでこちらも気持ちが和む。
 そうか、その手があったか。
 そう……デート、だ。

「よし……」

 俺は拳を硬く握りしめ、殿下にお会いできるときを楽しみに待った。

◇◇◇

 それから数日後、学院から帰宅したあとにカルヴェではなくグランが迎えにやってきた。
 今まで避けていた分、会話をするのが少し難しい。

「……む、迎えにきてくれてありがとう」
「ええ、殿下。今日はカルヴェはサンテリ料理長に手が足りなくて料理を手伝えと言われておりまして、それで迎えに来れなかったそうです。代わりに俺が」

 グランはしっかり俺の目を見て話しているが、俺はあまりグランを直視できない。
 あんなに乱れた姿を見せてしまったし、淫乱男だと思われていたらどうしよう。

 気まずくて馬車に乗っている間も目を合わせられず、俺は早く王宮に帰宅しないだろうかと窓の外を見ていた。

「……あれ?」

 だが、馬車はいつもの王宮への帰宅路を無視して別の方角へ向かっている。
 王宮へ帰るときは市場をまっすぐ通るのだが、その市場を右に曲がってしまった。
 これでは王宮から遠ざかってしまう。

「グラン。どこに行くんだ?」
「ふふ……秘密ですよ」

 グランが人差し指を唇にあてる。
 その仕草がなんとも色っぽい。
 秘密って……教えてくれないと不安になってしまう。

 まさか、この世界にもラブホテルなるものが存在していて、そこに連れて行かれるとか!?

 どうしよう、また俺は犯されるのか……? グランの考え的にその可能性は高い……。

 しばらく窓から外を見つめていると、森に入った。
 グランって、青姦が性癖だったの!?

 蹄が音を立てて走る。

 森にはたくさんの薬草や花が咲いていて、窓を少し開けると自然の匂いが鼻腔に一気に入って来た。

 遠くで鶯の鳴き声が聞こえる。
 葉から零れる木漏れ日が地面を照らし、花が輝いていて美しい。

 ここなら魔術の練習にも良さそうだなと考える。
 自然の香りを楽しんでいると、急に馬車が止まった。

「殿下、お手を」

 グランが下りて、俺は差し伸べられた手を取り馬車から降りる。
 徐に俺の手を握って、道になっている土を踏みしめ歩き始めた。

 歩いてみると、薬草のツンとした匂いがしてくる。
 薬師はこういうところで薬草を採取して、怪我を直す薬とか作っているのだろうか……。

「あまり植物に触れてはいけませんよ。毒性のものもありますからね」
「あ……わかった」

 グランは俺の手を、逃がさないようにだろうか、ぎゅっと強く握りしめている。
 俺、こんなところで犯されたくないんだけど……。

 それでもグランの力は俺では抵抗できないからついていくと、開けたところについた。
 そこには――。

「……! 綺麗……」

 太陽に反射して宝石のように煌めく湖があった。
 深さは浅く、砂利が透けて見える。
 その砂利も蒼い石から桃色の石まであって、それが湖を虹色に輝かせているようだった。

「綺麗でしょう? 殿下にこれを見せたかったんです」

 え、犯すわけじゃなかったの!?

 なんだ、グランって意外と普通の思考しているんだな……。って、失礼なこと思ってごめんなさい。

 湖の美しさに目を奪われていると、一歩グランが俺に歩み寄った。

「殿下、俺と話すの気まずいって思っているでしょう」
「え……っ、ナ、ナンノコトカナ~……」
「もう、ごまかさないでください」

 目を逸らすと、グランが俺の顎を掴んでぐいっとグランのほうに向かせた。
 グランの瞳が湖に反射して綺麗に輝いている。

 顎から手が離れたかと思うと、突然グランが頭を下げた。

「こないだは、すみませんでした。いきなり殿下の身体を奪ってしまって……。不快でしたよね」
「いや、別に……俺も発情期が来ちゃってたし、仕方ないよ」
「それは、俺とのセックスが嫌ではないということですか?」
「え……っ」

 答えに困る質問を寄こしてこないでくれ……!
 グランの顔は真剣だ。
 正直ものすごく嫌かと言われたら、そんなことはない。

 グランとのえっちは気持ち良かったし、俺に気遣ってくれたところもあるし、激しかったけどそこに優しさがたくさん詰まっていた……。

 答えに悩んでいると、グランが「ダメだな俺は……すぐに焦ってしまう」と言ってかぶりを振り、口を開いた。

「殿下といつも通りに接したくて……連れて来たのですよ。湖を見て、その……元気を出していただきたかったというか……俺とも話してくれると嬉しかったというか。海みたいな広いところじゃなくて、申し訳ないんですけど」

 グランが耳を赤く染めて照れくさそうに頭をかく。
 そうか。グランは犯すつもりなんて全然なくて、俺と話したいだけだったんだな。

 湖を見るまで不埒なことを考えていた自分を今すぐぶん殴りたい。
 グランの優しさに触れて心が温かくなる。

「……ありがとう、グラン」

 俺が微笑んで言うと、グランは黙って俺から視線を逸らしてしまった。

「殿下、その笑みは反則ですよ……」
「え? 今なんて言った?」
「いえ、湖が美しいですねって言っただけです」

 あまりにも小さな声で聞き取れなかった。

 でもグランの言うとおり、この湖は美しいし、見ていて落ち着く。マイナスイオンと言うべきなのだろうか。

 すぐそこにベンチがあったから二人で座って、しばらく他愛のない話をし、湖を眺めた。
 すごく心地良い時間で、俺は日頃の疲れが一気に取れた気がした。

 グランはセックスのとき以外でも優しい性格をしていることを知れて、俺は少し嬉しかった。
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