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第二十四話「殿下が可愛すぎてもうダメです」
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◇◇◇
「それで、私から魔術を教わりたいのですか?」
「ああ。頼む。学院外でも学びたいんだ」
「……」
カルヴェが視線を俺から逸らして考え込んでいる。
やがて微笑を浮かべ、帰宅した俺が座っているソファの下のローテーブルにカチャリとティーカップを置いた。
「ええ、殿下がやる気であれば、いつでも魔術について教えますよ。私で良ければ、ですが」
「本当か! よかった……」
安堵の笑みを浮かべながら、俺は紅茶を飲んだ。
ハーブティーだ。
疲れた身体には持ってこいで、一気に安らいでいく。
ふーふーと口で紅茶を冷ましていたら、カルヴェと目が合った。
カルヴェは俺を見ていたことが俺にバレたくなかったのか、「こほん」とわざとらしく咳をして視線を逸らす。どうしたんだろう。
「では、四日後は休日ですし、そのときにでも魔法の練習をしましょうか」
「ああ。よろしくな! カルヴェ」
「……ええ」
俺が笑ったら、カルヴェは何故か頬を赤くしていた。
俺、何か変なこと言っただろうか。挨拶をしただけなんだが……。
◇◇◇
まずい。殿下が可愛すぎる。
あのとき一夜を共にしてからどうしたのだろう、殿下と会うたびに私の心拍数がおかしくなっている。
我儘だった殿下に、もうとっくに恋慕は冷めたと思っていたのに。
先程の紅茶をふーふー冷ましているのだって可愛すぎる。
殿下は猫舌だっただろうか、あんな風に唇を尖らせて紅茶を冷ますだなんて……興奮が抑えきれないから私の気持ちも冷まして欲しい。
それに、今までの生意気な態度とは打って変わって、私でよければ魔術を教えると言ったらあの屈託のない笑顔。
正直天に召されてしまうかと思った。
尊すぎて、直視ができない。
「殿下、無自覚なんですかね……」
「ん?」
「いえ、なんでもありませんよ。魔術の練習、楽しみですね」
「ああ!」
またとびきり可愛い笑顔を向けられてしまったので、私は気持ちを落ち着かせるために紅茶をぐびっと一杯飲んだ。
こんなに殿下が可愛く見える日が来ると思わなかった。
私は昔、元々魔術に秀でていたけれど、両親が私を産んですぐに亡くなってしまっていて、親戚にたらいまわしにされている状況だった。
そんな中魔術の優秀さに国王陛下に拾われ、十の歳で三歳の殿下の面倒を見るように仰せつかったのだ。
殿下の面倒を見ていくうちに、私は執事へと昇格したのだが……殿下の寝顔は可愛いと思ったことは何度もあったが、普通に過ごしていて可愛いと思ったことは高等部以降そこまでなかった。
殿下は、高等部に入ってからかなりワガママになったのだ。
学園の初等部に入ったころは、勉学が嫌で何度も部屋を抜け出していたが、そのくらいで反抗期、可愛いなくらいにしか思わなかった。
七歳ほどしか殿下と歳が変わらない私は、いつしか殿下を慕うようになっていたが……。
私が殿下を好きになったのは、高等部に入った頃みたいに私が持ってくる菓子などに文句をつけたり、些細なことで我儘を言わなかったからだ。
高等部に入ってから私の愛は冷めていった……と思ったのに、成人した途端、殿下は落ち着いた性格になった。
そして、国王陛下の言葉を純粋に飲み込んで魔術の勉学がしたいと言ってきた健気な彼に、私はどうしようもなく可愛さを感じてしまったのだ。
「このままでは、どうにかなってしまう……」
殿下に気づかれないような小声で呻き、今までの気持ちを抑え込むように侍女が持ってきたマカロンを咀嚼した。
「それで、私から魔術を教わりたいのですか?」
「ああ。頼む。学院外でも学びたいんだ」
「……」
カルヴェが視線を俺から逸らして考え込んでいる。
やがて微笑を浮かべ、帰宅した俺が座っているソファの下のローテーブルにカチャリとティーカップを置いた。
「ええ、殿下がやる気であれば、いつでも魔術について教えますよ。私で良ければ、ですが」
「本当か! よかった……」
安堵の笑みを浮かべながら、俺は紅茶を飲んだ。
ハーブティーだ。
疲れた身体には持ってこいで、一気に安らいでいく。
ふーふーと口で紅茶を冷ましていたら、カルヴェと目が合った。
カルヴェは俺を見ていたことが俺にバレたくなかったのか、「こほん」とわざとらしく咳をして視線を逸らす。どうしたんだろう。
「では、四日後は休日ですし、そのときにでも魔法の練習をしましょうか」
「ああ。よろしくな! カルヴェ」
「……ええ」
俺が笑ったら、カルヴェは何故か頬を赤くしていた。
俺、何か変なこと言っただろうか。挨拶をしただけなんだが……。
◇◇◇
まずい。殿下が可愛すぎる。
あのとき一夜を共にしてからどうしたのだろう、殿下と会うたびに私の心拍数がおかしくなっている。
我儘だった殿下に、もうとっくに恋慕は冷めたと思っていたのに。
先程の紅茶をふーふー冷ましているのだって可愛すぎる。
殿下は猫舌だっただろうか、あんな風に唇を尖らせて紅茶を冷ますだなんて……興奮が抑えきれないから私の気持ちも冷まして欲しい。
それに、今までの生意気な態度とは打って変わって、私でよければ魔術を教えると言ったらあの屈託のない笑顔。
正直天に召されてしまうかと思った。
尊すぎて、直視ができない。
「殿下、無自覚なんですかね……」
「ん?」
「いえ、なんでもありませんよ。魔術の練習、楽しみですね」
「ああ!」
またとびきり可愛い笑顔を向けられてしまったので、私は気持ちを落ち着かせるために紅茶をぐびっと一杯飲んだ。
こんなに殿下が可愛く見える日が来ると思わなかった。
私は昔、元々魔術に秀でていたけれど、両親が私を産んですぐに亡くなってしまっていて、親戚にたらいまわしにされている状況だった。
そんな中魔術の優秀さに国王陛下に拾われ、十の歳で三歳の殿下の面倒を見るように仰せつかったのだ。
殿下の面倒を見ていくうちに、私は執事へと昇格したのだが……殿下の寝顔は可愛いと思ったことは何度もあったが、普通に過ごしていて可愛いと思ったことは高等部以降そこまでなかった。
殿下は、高等部に入ってからかなりワガママになったのだ。
学園の初等部に入ったころは、勉学が嫌で何度も部屋を抜け出していたが、そのくらいで反抗期、可愛いなくらいにしか思わなかった。
七歳ほどしか殿下と歳が変わらない私は、いつしか殿下を慕うようになっていたが……。
私が殿下を好きになったのは、高等部に入った頃みたいに私が持ってくる菓子などに文句をつけたり、些細なことで我儘を言わなかったからだ。
高等部に入ってから私の愛は冷めていった……と思ったのに、成人した途端、殿下は落ち着いた性格になった。
そして、国王陛下の言葉を純粋に飲み込んで魔術の勉学がしたいと言ってきた健気な彼に、私はどうしようもなく可愛さを感じてしまったのだ。
「このままでは、どうにかなってしまう……」
殿下に気づかれないような小声で呻き、今までの気持ちを抑え込むように侍女が持ってきたマカロンを咀嚼した。
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