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第二十三話「学院の授業、無理ゲーだろ」
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と拳を握って決意したのも、束の間。
「水魔法で四十メートル先の的に当てる……? いや、無理だろ……」
入学式の翌日、一限目の魔術授業でもう俺の心は挫けた。
むりぽ。水魔法なんて掌でせいぜい動かすのが精いっぱいなのに、どうやったら的に当てるなんてできるんだ。
この魔術授業は己に備わっている魔法の属性を極める授業だ。
エシエルは風魔法だから正面から見てホールの右奥にいて、水魔法の俺はホールの左奥にいる。
エシエルのほうに視線を向けると、エシエルも苦戦しているようだった。
だけど俺と目が合うと、「がんばって」と口パクで送ってくれた。
なんて優しいんだ、エシエル……!
「くっ……どうやっても、できない……」
他の水魔法を使っている者たちは、さも当たり前のように水を的に当てている。
「赤い部分に当たった! これ、思っていたより簡単じゃないか?」
「そうだな。まぁ、βとΩには難しいらしいが」
まずい、ちらりと視線を寄こされてしまった。
俺はΩじゃありませんよ~というように髪をかき上げて汗を拭く仕草をする。
本当は汗なんて出てませんけど。
いや、全然できなくて冷や汗出てきましたけど。
やはりα、β、Ωで魔術にも差が出てしまうのか……。悲しい事実だ。
俺の隣で練習している、首輪をつけているΩの男の子も苦戦している様子だ。
αのカルヴェは、国家試験が受かって自分が本来持っている属性魔法に追加して様々な属性魔法を習得している。
αなら、そのくらいはできてしまうのだ。
俺もできるようにならないと、国王陛下になったときにαから批判が来るかもしれない。
剣術は俺の体格上、試験で首位を取るのは無理だ。
どうあがいても、グランみたいなムキムキのαが学院ではそこら中にいるから、勝てる気がしない。
なら剣術は中の上を目指して、魔術は試験で首位を取れるようにするぞ! と意気込んだのだが……早くも挫折しそうだ。
「アルマくん、水魔法は難しいですか?」
「あ……はい」
俺は第一王子ではあるが、教師と生徒という立場では下だ。
だから、殿下とは呼ばずにアルマと呼んでほしいと言っている。
じゃないと、目立ってしまうからな。
「もっと自然の流れを感じるのですよ。聞こえてきませんか? 大地の響きや、木々のさざめき、川のせせらぎが……」
いや、今ホールにいるし聞こえてこないよ。
聞こえてきたとしても幻聴だよ、危ないよそれ!
「えっと……聞こえてきませんね」
「もっと感じてください、自然の声を。そうすれば、貴方の水魔法は強くなれますよ」
魔術の担任であるクリス先生がにこりと笑う。
クリス先生は王宮魔術師の出だ。
今は王立学院の教師を勤めているが……昔は相当の魔力を持った魔術師で、全属性魔法を習得していて、王宮魔術師の中で欠かせない存在だったと聞く。
そんなクリス先生の話は聞くべきであろうが……自然の声ってなに!? そんなスピリチュアルなこと言われても困ります……!
結局今日の魔術授業は恥をかくだけで、全然できなかった。
剣術も一緒だ。
自分の属性魔法が付与された模造剣を持って摸擬戦をするのだが、これがとにかく重い。
振り回すので精いっぱいで、何度も摸擬戦に負けてしまった。
担任の先生曰く、水魔法と会話をすれば剣は軽くなると言っていたが……これもスピリチュアルでよく意味がわからない。
王立学院の授業は学園にいたときより難しい。
学園は一コマ五十分だったが、学院は九十分もあるし、正直疲れる。
結局自分の魔術と剣術ができなさすぎて、自分に対して怒りが湧くだけで終わってしまった。
「はぁ……」
深いため息を吐いて、担任からの連絡を聞くためクラスの教室に戻る。
エシエルが隣にやってきて、「今日の授業、どうでしたか?」と聞いてきた。
エシエルも剣術が大変だったのか、額に汗を浮かべて息を切らしている。
「うーん、微妙。すごい難しかった」
「そうですよね……! 良かった、僕だけじゃなかったんだ……なんだかみんな、普通にできていて。学園ではこんな授業やらなかったのに、みんなができることに驚きました」
「すごいよな。俺もびっくりした」
やっぱり第二の性の素質で、αの人は特に秀でているのだろう。
どうにか俺も強くならなければならない。
といっても、担任の先生の言葉の意味が理解できないんじゃ、いつまでたっても強くなれない気がする。
身近で剣術と魔術が得意な人は、いないだろうか……。
「……あ」
「どうしました?」
エシエルが俺の素っ頓狂な声を聞いて覗きこんでくる。
いるじゃないか。
剣術を得意としている人と、魔術を得意としている人が、すぐそこに。
「水魔法で四十メートル先の的に当てる……? いや、無理だろ……」
入学式の翌日、一限目の魔術授業でもう俺の心は挫けた。
むりぽ。水魔法なんて掌でせいぜい動かすのが精いっぱいなのに、どうやったら的に当てるなんてできるんだ。
この魔術授業は己に備わっている魔法の属性を極める授業だ。
エシエルは風魔法だから正面から見てホールの右奥にいて、水魔法の俺はホールの左奥にいる。
エシエルのほうに視線を向けると、エシエルも苦戦しているようだった。
だけど俺と目が合うと、「がんばって」と口パクで送ってくれた。
なんて優しいんだ、エシエル……!
「くっ……どうやっても、できない……」
他の水魔法を使っている者たちは、さも当たり前のように水を的に当てている。
「赤い部分に当たった! これ、思っていたより簡単じゃないか?」
「そうだな。まぁ、βとΩには難しいらしいが」
まずい、ちらりと視線を寄こされてしまった。
俺はΩじゃありませんよ~というように髪をかき上げて汗を拭く仕草をする。
本当は汗なんて出てませんけど。
いや、全然できなくて冷や汗出てきましたけど。
やはりα、β、Ωで魔術にも差が出てしまうのか……。悲しい事実だ。
俺の隣で練習している、首輪をつけているΩの男の子も苦戦している様子だ。
αのカルヴェは、国家試験が受かって自分が本来持っている属性魔法に追加して様々な属性魔法を習得している。
αなら、そのくらいはできてしまうのだ。
俺もできるようにならないと、国王陛下になったときにαから批判が来るかもしれない。
剣術は俺の体格上、試験で首位を取るのは無理だ。
どうあがいても、グランみたいなムキムキのαが学院ではそこら中にいるから、勝てる気がしない。
なら剣術は中の上を目指して、魔術は試験で首位を取れるようにするぞ! と意気込んだのだが……早くも挫折しそうだ。
「アルマくん、水魔法は難しいですか?」
「あ……はい」
俺は第一王子ではあるが、教師と生徒という立場では下だ。
だから、殿下とは呼ばずにアルマと呼んでほしいと言っている。
じゃないと、目立ってしまうからな。
「もっと自然の流れを感じるのですよ。聞こえてきませんか? 大地の響きや、木々のさざめき、川のせせらぎが……」
いや、今ホールにいるし聞こえてこないよ。
聞こえてきたとしても幻聴だよ、危ないよそれ!
「えっと……聞こえてきませんね」
「もっと感じてください、自然の声を。そうすれば、貴方の水魔法は強くなれますよ」
魔術の担任であるクリス先生がにこりと笑う。
クリス先生は王宮魔術師の出だ。
今は王立学院の教師を勤めているが……昔は相当の魔力を持った魔術師で、全属性魔法を習得していて、王宮魔術師の中で欠かせない存在だったと聞く。
そんなクリス先生の話は聞くべきであろうが……自然の声ってなに!? そんなスピリチュアルなこと言われても困ります……!
結局今日の魔術授業は恥をかくだけで、全然できなかった。
剣術も一緒だ。
自分の属性魔法が付与された模造剣を持って摸擬戦をするのだが、これがとにかく重い。
振り回すので精いっぱいで、何度も摸擬戦に負けてしまった。
担任の先生曰く、水魔法と会話をすれば剣は軽くなると言っていたが……これもスピリチュアルでよく意味がわからない。
王立学院の授業は学園にいたときより難しい。
学園は一コマ五十分だったが、学院は九十分もあるし、正直疲れる。
結局自分の魔術と剣術ができなさすぎて、自分に対して怒りが湧くだけで終わってしまった。
「はぁ……」
深いため息を吐いて、担任からの連絡を聞くためクラスの教室に戻る。
エシエルが隣にやってきて、「今日の授業、どうでしたか?」と聞いてきた。
エシエルも剣術が大変だったのか、額に汗を浮かべて息を切らしている。
「うーん、微妙。すごい難しかった」
「そうですよね……! 良かった、僕だけじゃなかったんだ……なんだかみんな、普通にできていて。学園ではこんな授業やらなかったのに、みんなができることに驚きました」
「すごいよな。俺もびっくりした」
やっぱり第二の性の素質で、αの人は特に秀でているのだろう。
どうにか俺も強くならなければならない。
といっても、担任の先生の言葉の意味が理解できないんじゃ、いつまでたっても強くなれない気がする。
身近で剣術と魔術が得意な人は、いないだろうか……。
「……あ」
「どうしました?」
エシエルが俺の素っ頓狂な声を聞いて覗きこんでくる。
いるじゃないか。
剣術を得意としている人と、魔術を得意としている人が、すぐそこに。
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