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第二十一話「次期国王として」

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 少しの沈黙のあと、父様は紅茶を飲んで答えた。

「国王を継ぐのは、第一王子の役目だ。お前は学園時代に家庭教師をつけ、この国の歴史や情勢全てを学んだであろう? 他にも、礼儀作法や経済学など十分に学んだはずだ。余はそんなお前に国王を継いでほしいと思っている」
「ですが……」
「それに、Ωの国王でも良いではないか。いや、Ωである人間が国王のほうが、絶対に良い」
「どういうことですか?」

 父様はふっと美しい笑みを湛えた。

「Ωが国王であれば、Ωでもαと同じくらいの権力を持ち、富を築くことが可能だと平民に思わせることができる。アルマには少々辛い思いもさせるかもしれないが……だが、そうすれば差別は徐々に減っていくはずだ。アルマが、納得のいくΩの国王であればな」
「納得のいく?」
「ああ。例えば、魔術がαと同じくらいに長けていたり、もし戦争が起きたときに作戦や戦術を組み立てる頭の回転の速さ、他にも剣術が強く、アルマに敵う者はほとんどいない、といったものだな。何か一つ秀でているものがあれば、αの平民でも貴族でも、Ωが国王であったとしても納得がいくだろう」
「なる、ほど……」

 何か一つα並みに強くなれていればいいということか。
 父様が沈黙し、俺は視線を下にうつして熟考する。

 ああ、俺のやりたいことが見えてきた気がする。

 Ωがαに追いつくことは通常の何倍も努力しなければならないけど……父様は俺を国王にしないことはない。
 エリアンだって、賛成している。

 なら、俺が国王にふさわしい人間になればいいということを、父様は言っているのだ。
 だが、魔術や剣術、戦術を独学で学ぶのは難しい。
 それならば、俺は……。

「陛下。俺を、王立学院に通わせていただけませんか」

◇◇◇

 今は春の三の月。
 精霊が暖かい季節に喜び空を飛び回っている。
 王宮の庭は色とりどりの美しい花が咲き、風に揺られて花の香りを運んでくる。

 王立学院の入学式の申し込みにはギリギリ間に合い、翌月に俺は新入生代表として言葉を述べることになった。

 第一王子だからな。仕方がない。
 王立学院は魔術や剣術などを極められる場所だ。

 最初は行けたら行こうかなと、そんな感じだったが……国王にふさわしい人間になるには、通わなければならないところだろう。

 思えば今まで次期国王としての意識が低かった。
 もっと自分を鼓舞しなければ。

「殿下。入学式当日は、抑制剤を飲むことを忘れないようにしてくださいね」

 新入生代表の原稿を書いているとき、カルヴェが俺の顔を覗きこんでくる。

 抑制剤を購入してから二週間。
 発情期がくることなく過ごせていた。

 でも、あのときの感覚を未だに思い出してしまう。

 火照った身体。
 カルヴェ……αの身体が欲しくてたまらなくなる衝動。
 身体を繋げることの気持ちよさ。

 もう一度あの快楽を味わいたいというのは少しあった。
 でも、誰とでもセックスがしたいわけではない。

 できればもう一度……カルヴェとしたい。

 カルヴェだったら、今まで俺を守ってくれた執事だし、安心して身体を委ねることができる気がするから。

「……い、いやいやいや! 俺はノンケなんだって! なに流されてんだ!」
「……? 殿下、のんけとはなんでしょう?」

 しまった。思わず口に出してしまった。
 俺はノンケでハーレムを作る予定で……って、待てよ?

 Ωは子を産む役割を担っている。

 確か、Ωの男は直腸の奥に子宮ができて、αの女は女性器の部分に男性器ができると高等部の保健体育で学んだ。

 それって、もし俺が女の人と番になったら、俺は突っ込まれる側になるってこと……?

「ああ……俺のハーレムルートがああぁぁ……」
「はーれむ?」

 原稿に突っ伏す俺を、カルヴェは不思議そうに見つめていた。
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