【完結】Ωの王子はαのドS執事と絶倫騎士に啼かされる~生意気な王子でごめんなさい~

翡翠蓮

文字の大きさ
上 下
19 / 51

第十九話「抑制剤を買いに行きます」

しおりを挟む
 約束通りの午前十時。
 カルヴェとグランが俺の部屋にやってきて、一緒に王宮を出た。

 繋ぎ場にとまっている馬車に乗り、王都へと向かう。
 王宮の外にある庭は広い。

 赤い薔薇やネモフィラ、ルピナスなどが咲き誇り、花の香りが心地良い。
 奥にはカゼボがあって、天井に蔦が絡まり緑を感じる。

 時々そこのカゼボで、学園を卒業する前などにゆっくり紅茶を飲んでいることがあったな。
 王宮を護衛しているグランとよく会って、他愛もない会話をしたっけ。

 庭を通り過ぎ、門番に門を開けてもらって街に入る。
 しばらく馬車に揺れていると、人混みが多く屋台で賑わうところに辿りついた。

 ちなみに俺たちが乗っている馬車には認識魔法をかけている。

 もし魔法をかけずに馬車を王都に走らせてしまうと、外側に描かれた大きな王家の紋章で、王族用の馬車だとわかってしまうからだ。

 だから、認識魔法で紋章を他人から見えなくさせている。
 これを施してくれたのはカルヴェだ。

 カルヴェは魔術に長けている。
 属性魔法だって、確か火や水、風、土など五つくらい有していたはずだ。

 属性魔法は普通の人間は一つしか持てない。
 もっと多くの種類の魔法を使いたいなら、難関試験に挑まなくてはならないのだ。

 カルヴェはその試験に何度も合格したというわけで……。

 さらに、普通の人間なら認識魔法は詠唱して行うはずなのだが、カルヴェは詠唱せずにぱっと作ってしまった。

 いつも冷静な顔からは想像できないけど……カルヴェは化け物級の魔力を持っているんだよな。

「見えてきましたよ。あそこです」

 隣に座っているカルヴェが指さす。
 そこは『オメガティエンダ』と書かれているお店で、狭い路地にあった。

 馬車では通れないから、繋ぎ場に一旦停めておく。

「殿下も行かれますか?」
「あ、うん……ちょっと興味あるかも」

 自分の性別の店なのだ。
 知っていて損はないだろう。

「でしたら、殿下に認識魔法をおかけしますね。一般の平民だと誰もが認識できるようにします。一応、グラン団長と私にもかけておきますね」

 カルヴェはそう言って俺とグラン、自分に認識魔法をかけた。

 認識魔法は魔力が高くないとできない。
 俺は学園で習ったけど、魔力が足りなくて全然できなかった。

 魔力は鍛え上げれば多く所持することができるが、鍛え方が少し違うのか俺にはあまり効果が見られない。

 カルヴェはその認識魔法を三人プラス馬車にかけている。

 確か、カルヴェは王宮魔術師にならないかとスカウトもされたとグランから話で聞いたことがある。

 だが、自分は俺を守る役目があるからと言って執事として現在までいるそうだ。
 一体どれほどの魔力がカルヴェの中に存在しているのだろう……。

 それに、どうしてカルヴェは俺のもとにいるのだろう。
 そのまま王宮魔術師になれば、出世して大金持ちになれたかもしれないのに。

「では、参りましょうか」

 カルヴェが俺より先に馬車を出て、俺に手を差し伸べる。
 俺はその手を取って馬車を降りた。

 店の中に入ると、そこには様々な種類の発情抑制剤や、首輪が売られていた。

 こじんまりとしたお店で、狭い路地の中にあるし少しわかりにくい。
 Ωを配慮してのことだろう。

「でん……アル、こちらが発情抑制剤でございますよ。発情期をコントロールできます」
「こっちが比較的安い抑制剤で、右にいくにつれて高価になっていきますよ。値段は効果の持続時間によって違うんです」

 カルヴェとグランが順に説明してくれる。
 抑制剤は小さな箱に入っていて、どれも少量だ。

 安いのは銀貨二枚から……比較的安い値段だ。
 多分、父様が大臣と話し合って王宮魔術師と交渉し、首輪と同じように値段を安く設定し直したのだろう。

「アルは一番右の抑制剤に致しましょう。私が出しますので」
「あ、ああ……ありがとう」

 この店は狭いから商人に会話が聞こえる。
 カルヴェがお金を持っている人間で、俺は普通の平民という設定なんだと思う。

 商人に抑制剤を二箱持っていき、会計を終える。
 カルヴェは抗フェロモン剤も購入していた。

 Ωの店に抗フェロモン剤が売っているというのは、Ωが購入してαに渡し、理解してほしいということなのだろう。

 商人がいるところの裏にはアフターピルが置かれていた。

 アフターピルはすごく高価で万引きされやすいことから、店頭に並ばせることは難しい。
 だから裏に置いてあるみたいだ。一応一箱買っておいた。

 首輪は買わなかった。
 俺が首輪をつけていたら、王子はΩですと言って歩いているようなものだからだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

運命の番が解体業者のおっさんだった僕の話

いんげん
BL
僕の運命の番は一見もっさりしたガテンのおっさんだった。嘘でしょ!?……でも好きになっちゃったから仕方ない。僕がおっさんを幸せにする! 実はスパダリだったけど…。 おっさんα✕お馬鹿主人公Ω おふざけラブコメBL小説です。 話が進むほどふざけてます。 ゆりりこ様の番外編漫画が公開されていますので、ぜひご覧ください♡ ムーンライトノベルさんでも公開してます。

【完結】運命の番に逃げられたアルファと、身代わりベータの結婚

貴宮 あすか
BL
ベータの新は、オメガである兄、律の身代わりとなって結婚した。 相手は優れた経営手腕で新たちの両親に見込まれた、アルファの木南直樹だった。 しかし、直樹は自分の運命の番である律が、他のアルファと駆け落ちするのを手助けした新を、律の身代わりにすると言って組み敷き、何もかも初めての新を律の名前を呼びながら抱いた。それでも新は幸せだった。新にとって木南直樹は少年の頃に初めての恋をした相手だったから。 アルファ×ベータの身代わり結婚ものです。

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。 

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

処理中です...