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第十七話「やってしまった……」
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◇◇◇
……まずい。殿下とセックスしてしまった。
陛下に報告したらただで済まされることではないと思う。
でも……あんな誘い方で断れる男がいるだろうか。
涙目で懇願してきて、殿下がしたくないと断ったとしても私が襲ってしまっていたように思う。
「だが……殿下がΩだとは」
驚いた。
陛下もαだし、第二王子のエリアン殿下も優秀な成績から考えて恐らくαだ。
第二の性は遺伝とは関係しない。
そして今までの行動や生活習慣も関係がない。
生まれつき決まっているものだ。
それが、殿下はΩだった。
それだけのことだが……この先辛い思いをすることは避けられないだろう。
次期国王という決まりは、軍から重い罪でも科せられるか、陛下のご意向でないと覆らない。
王都では陛下の考えを尊重して差別をなくしていこうという運動が広まりつつあるが、地方では差別が顕著だ。
国王になったら地方にも赴くことは多々あるだろう。
そのときに、私が支えられるようにしなくては……。
殿下がΩだということは、本人にとっては辛いことかもしれないが、私としては殿下を芯から支えようと努めることができるのは嬉しかった。
「殿下、可愛い……」
私は眠ってしまった殿下の身体を隅々まで濡れたタオルで拭き、布団を被せ、新しい服を用意してあげる。
衣装は畳んで回収した。
殿下の寝顔は普段以上に幼く、子どもの頃を思い出させる表情だった。
今までも、悪夢を見たときなどに寝かしつけたことがあったのに。
そのときとは違う、心にほんのり温かい明りが点ったような、そんな感覚が私を駆け巡る。
セックスをしているときも、こんなに殿下に欲情してしまうとは思わなかった。
ラットのせいだと思うが……それ以外にも自分で感じたものもある。
殿下は人と身体を重ねるとき、あんなにも美しく乱れて心を掻き乱すということがわかって、私の心臓はばくばくと早く鳴った。
この鼓動の高鳴りは、間違いなく……。
「カルヴェ」
「……グラン」
部屋から出ると目の前にグランがいた。
いつも通りの騎士の恰好に、殿下の成人祝いとして赤い薔薇を胸元に一輪挿している。
「随分お楽しみだったようで」
「……っ!?」
グランがにやりと笑った。
「いや、殿下の具合が悪いって聞いたから、急いで部屋まで来たんだよ。そしたら、まぁ……聞こえてきてな」
「そう、ですか」
恥ずかしさを隠すように私は視線を逸らした。
グランは少し遠慮気味に私の顔を覗きこむ。
「……殿下は、Ωだったのか?」
「……ええ」
言ってもいいものか迷ったが、昔から同じように殿下の世話をしてきたグランは信用できる。
首肯すると、グランは「ふーん……」と顎に手をあてて口角を上げた。
「今までβとしかセックスしたことなかったが……殿下には、興味あるな」
「……っ!? 殿下としてはいけません!」
「なんで? 殿下とカルヴェは恋人同士なのか?」
「……」
そう言われれば、何も答えられなくなってしまう。
むきになって止めるなんて、私らしくない。
でも殿下のことになると、私の感情はことごとく暴走してしまう。
ゆっくり深呼吸をして、グランと向き合った。
「とにかく、明日にでも発情抑制剤を買いにいきます。貴方もついてきてくれるとありがたいのですが」
「わかった。明日は王都の城門の護衛が午後にあるから、午前中でいいか?」
「大丈夫です」
殿下の護衛と王城の護衛を担っているグランは、毎日睡眠時間を削るほど忙しい。
もし事件が起きたときにはすぐに向かわないといけないし、空いている時間がほとんどないと思う。
だが明日ちょうど午前中殿下の護衛が予定なら、一緒に買いに行ってもらおう。
殿下は目を覚まして落ち込んでいないだろうかと、そっと殿下の部屋のドアを開けて彼を覗いた。
「……寝てる」
眠っている殿下は口を僅かに開けていて可愛らしい。
私はすやすや寝ていることを確認して、殿下の部屋から離れた。
……まずい。殿下とセックスしてしまった。
陛下に報告したらただで済まされることではないと思う。
でも……あんな誘い方で断れる男がいるだろうか。
涙目で懇願してきて、殿下がしたくないと断ったとしても私が襲ってしまっていたように思う。
「だが……殿下がΩだとは」
驚いた。
陛下もαだし、第二王子のエリアン殿下も優秀な成績から考えて恐らくαだ。
第二の性は遺伝とは関係しない。
そして今までの行動や生活習慣も関係がない。
生まれつき決まっているものだ。
それが、殿下はΩだった。
それだけのことだが……この先辛い思いをすることは避けられないだろう。
次期国王という決まりは、軍から重い罪でも科せられるか、陛下のご意向でないと覆らない。
王都では陛下の考えを尊重して差別をなくしていこうという運動が広まりつつあるが、地方では差別が顕著だ。
国王になったら地方にも赴くことは多々あるだろう。
そのときに、私が支えられるようにしなくては……。
殿下がΩだということは、本人にとっては辛いことかもしれないが、私としては殿下を芯から支えようと努めることができるのは嬉しかった。
「殿下、可愛い……」
私は眠ってしまった殿下の身体を隅々まで濡れたタオルで拭き、布団を被せ、新しい服を用意してあげる。
衣装は畳んで回収した。
殿下の寝顔は普段以上に幼く、子どもの頃を思い出させる表情だった。
今までも、悪夢を見たときなどに寝かしつけたことがあったのに。
そのときとは違う、心にほんのり温かい明りが点ったような、そんな感覚が私を駆け巡る。
セックスをしているときも、こんなに殿下に欲情してしまうとは思わなかった。
ラットのせいだと思うが……それ以外にも自分で感じたものもある。
殿下は人と身体を重ねるとき、あんなにも美しく乱れて心を掻き乱すということがわかって、私の心臓はばくばくと早く鳴った。
この鼓動の高鳴りは、間違いなく……。
「カルヴェ」
「……グラン」
部屋から出ると目の前にグランがいた。
いつも通りの騎士の恰好に、殿下の成人祝いとして赤い薔薇を胸元に一輪挿している。
「随分お楽しみだったようで」
「……っ!?」
グランがにやりと笑った。
「いや、殿下の具合が悪いって聞いたから、急いで部屋まで来たんだよ。そしたら、まぁ……聞こえてきてな」
「そう、ですか」
恥ずかしさを隠すように私は視線を逸らした。
グランは少し遠慮気味に私の顔を覗きこむ。
「……殿下は、Ωだったのか?」
「……ええ」
言ってもいいものか迷ったが、昔から同じように殿下の世話をしてきたグランは信用できる。
首肯すると、グランは「ふーん……」と顎に手をあてて口角を上げた。
「今までβとしかセックスしたことなかったが……殿下には、興味あるな」
「……っ!? 殿下としてはいけません!」
「なんで? 殿下とカルヴェは恋人同士なのか?」
「……」
そう言われれば、何も答えられなくなってしまう。
むきになって止めるなんて、私らしくない。
でも殿下のことになると、私の感情はことごとく暴走してしまう。
ゆっくり深呼吸をして、グランと向き合った。
「とにかく、明日にでも発情抑制剤を買いにいきます。貴方もついてきてくれるとありがたいのですが」
「わかった。明日は王都の城門の護衛が午後にあるから、午前中でいいか?」
「大丈夫です」
殿下の護衛と王城の護衛を担っているグランは、毎日睡眠時間を削るほど忙しい。
もし事件が起きたときにはすぐに向かわないといけないし、空いている時間がほとんどないと思う。
だが明日ちょうど午前中殿下の護衛が予定なら、一緒に買いに行ってもらおう。
殿下は目を覚まして落ち込んでいないだろうかと、そっと殿下の部屋のドアを開けて彼を覗いた。
「……寝てる」
眠っている殿下は口を僅かに開けていて可愛らしい。
私はすやすや寝ていることを確認して、殿下の部屋から離れた。
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