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第十三話「運命の、性別診断」
しおりを挟む「皆様、私の成人式にお越し下さりありがとうございます。ぜひ、最後まで楽しんでいってください」
よし、声は上擦らなかった、グッジョブ!
心の中で親指を立てながら、俺は口角を少しだけあげてささやかな笑みを浮かべる。
貴族と一緒にいるときは、満面の笑みよりも品のある笑みのほうがいいとカルヴェに言われたのだ。
「お美しい……」
「綺麗なお方ですわ……」
貴族が俺に釘付けになる。
綺麗な方だと女性から言われたのはこれが初めてだ。
それまで注目もされなかった俺って……はは、涙が出てきそう。
それから父様が今日の成人式の挨拶をして、自由の場になる。
すぐに貴族たちが俺に挨拶をしにきた。
「初めまして、アルマ殿下。私はレッグリード公爵家の当主、カリータ・レッグリードでございます。私たちはメルヴィラ王国南地区のアメールという高級宿を経営しておりまして、ぜひ、殿下にお越しいただきたい所存でございます。また、領地にも遊びに来て下さいませ。良い葡萄酒を用意して待っておりますので」
「はい、ありがとうございます。高級宿、私も泊まりたいと思っておりました。機会ができましたら、すぐに行きますね」
「はい、殿下」
にこりと笑ったら、立派な髭が生えたカリータ当主はなぜか頬を染めて去っていった。
シャンパンで酔ってしまったのだろうか。
「初めまして、アルマ殿下。私はこのメルヴィア王国で宰相を務めております、オーレリアン・クラワードでございます。殿下は、王立学院には通われますか?」
「通う予定ではありますよ」
「ならば、ぜひ私の息子のレヴィル・クラワードと仲良くしていただけますと、幸いです。少々気難しい性格をしておりますが……息子も殿下と交流を深めたいと言っております。どうか、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします、レヴィル宰相」
学院には通う予定とは言ったが、実際父様からはどちらでも良いと言われている。
何故なら、学院はオメガバースの差別がかなり強いらしいからだ。
だから、αなら躊躇いなく行けばいいし、βやΩであれば無理に行く必要はないと父様は言ってくれた。
優しい父親だ。
「殿下、こちらへ」
一通り挨拶が終わったあと、王宮魔術師の一番偉い方が俺に耳打ちしてきた。
そう、これから第二の性を診断することになる。
αの父様の長子だし、恐らくαで間違いないだろうが……第二の性の診断は王宮魔術師が慎重に行うのと、デリケートな診断なので別室に通される。
彼についていって入った別室は、俺とその王宮魔術師以外誰もいない空間。
広い部屋の真ん中にテーブルと椅子がちょこんと置かれているだけの殺風景な光景。
テーブルには、グラスと金色の洗い桶が置かれている。
「改めまして殿下、私は王宮魔術師を統括しております、エリク・オールディスでございます。これからα、β、Ωと呼ばれる第二の性の診断をさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
「では、まずこちらの聖水で手を清めてください」
言われたとおり、洗い桶に手を浸して洗っていく。
洗い終えるとエリクがハンカチを俺に渡してくれた。
「次に、こちらのお酒を一口飲んでください。こちらは私たち王宮魔術師が開発したペタルムというお酒で、第二の性を私にわかりやすく伝えられるよう、貴方の脳に物質が分泌されます」
すごいものを作るんだな、王宮魔術師って……。
成人式のときにみんな性別診断を行うから、酒を飲めたぞ、成人したぞっていう意味を示すものでもありそうだ。
じゃなかったらわざわざお酒にしないで、ジュースでもいいわけだしな。
俺はエリクが黙ったと同時に酒を一口飲んだ。
一瞬喉が焼けるように熱くなり、嚥下すると不思議と力が湧いてくる。
俺が飲んだのを認めたエリクが、俺の胸に手をかざす。
「こちらの紙に、貴方の性別の文字が浮かびます」
机には、よく見ると小さなアイボリー色の紙も置かれていた。
エリクが力をこめて魔力を流す。
性別診断は、この王宮魔術師を統括する人にしかできないのだろうか。
いや、それじゃあ手が回らないだろう。
きっと性別診断ができる王宮魔術師がたくさんいて、この国を飛び回っているんだろうな。
紙にうっすらと文字が浮かんできた。
だが、それを俺は認めたくなかった。
思わず視線を逸らしてしまった。
だが、俺の意思を無視して文字ははっきりと浮かんでくる。
浮かんできた文字は――Ωだった。
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