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第十一話「夜会で俺と踊る相手は……」
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一週間後、時間通り昼の十三時に仕立て屋がやってきた。
ちなみに成人式は他の者も卒業式の後に行われる。
理由は成人式で性別診断をするから、卒業する前から第二の性がわかってしまっていると、差別が起こってしまうからだ。
「よろしくお願い致しますね、殿下」
仕立て屋の人の名前はティース・メッザ。
女性の人で長い髪を後ろに三つ編みにし、服はロリータというのだろうか、フリルとレースがふんだんに使われたものを着ている。
「成人式は今から一か月後ですから、五つの月でございますね。少し涼しい恰好に致しましょう」
そう言って、ティースは素早く俺の身体を採寸し始めた。
五つの月というのは、前世の世界でいう五月のことだ。
この国は基本日本の春のような季節だが、五月から八月にかけては二十八度から三十二度と暑い。
日本のようなジメジメとした暑さはないのだが、その分照りつけてくる太陽が眩しい。
成人式はたくさん人を呼ぶのだろうし、涼しい恰好のほうが俺としては助かる。
「ああ、殿下は腰が細くて良い身体をしておりますね……どのような恰好に致しましょう。殿下は蒼い瞳をされていますから、蒼と白の刺繍でもいいですし……金髪ですから、蒼と金の刺繍でも良さそうですね。ブローチは何色に致しましょう……袖口は金縁で……」
ティースが目をかっぴらいてメモをし始めた。
挨拶してきたときは普通の人だと思っていたけど、ぶつぶつ言いながら羽根ペンですらすらとメモをとる様子は、若干怪しいがプロの意識を感じる。
ティースが持ってきた巨大な鞄から、彼女は綺麗に畳まれた布と煌めく衣装を出し始めた。
「こちらがこの国で有名な織物師、ウェール様が作られたシルクの布でございます。殿下は白皙の肌をしておられますし……白の衣装はどうでしょう? 蒼と金の刺繍が映えると思いますよ」
「ふむ……」
「あとはこの国の鉱山で二パーセントしか取れないアレットという宝石を使われた綺麗な衣装がございます。こちらも刺繍は映えると思いますよ。いかがなさいますか?」
宝石を使った衣装は、袖口や胸元に蒼紫の宝石がちょこんと装飾されていて、上品だった。
それに、蒼と金の刺繍も綺麗に見えそうだ。
「じゃあ、このアレットを使った衣装でお願いします」
「承知致しました。では、こちらでお作り致しますね」
ティースがにこっと笑って一通りメモし終えると、カルヴェに衣装のことを報告して、帰りの支度を始めた。
カルヴェが「紅茶の用意がございますが……」と聞いていたけど、ティースはそれを断りすぐに帰っていった。
王宮御用達の仕立て屋だ。
忙しいのだろう。
「殿下、お疲れでしょう。今紅茶と菓子を用意致しますね」
さすが、カルヴェはわかっている。
俺との付き合いも四年だもんな。
俺が疲れたら甘いものを食べたいということが、もうカルヴェにはわかってしまっているのだろう。
ソファに座って身体を休めていると、カルヴェがドアをノックしてから温かい紅茶とパインケーキを持ってきてくれた。
「殿下の成人式、楽しみにしております。当日は疲れるかと思いますが、楽しみましょうね」
「俺も殿下の晴れ舞台、楽しみにしていますよ。たくさんの貴族をお呼びしますからね、大規模なパーティーになると思いますよ」
げ、大規模なパーティーになるほど貴族を呼ぶのか……。
第一王子の成人式だし、大規模になるのは当たり前か。
社交的な会話があまり得意ではないが……一応、自分の成人式なのだし頑張ろう。
「それから、成人したら夜会にも参加しなければなりませんね」
「夜会?」
「ええ。夜の茶会のようなものです。基本は誰かから誘われたら行くものなのですが……殿下は王子ですから顔を見せなくてはなりません。お気に入りの方を誘ってもよろしいのですよ?」
と言われても、そもそも気になる人がいない。
学園生活はほぼエシエルと過ごしてしまった。
授業も男女別だし、女性と過ごす時間があまりなく、成人を迎えてしまった。
学園では確かに女性と交流を持っている人もいた。
が、エシエルが結構女嫌いなのか人見知りなのか、俺と二人きりという状況がどうしても良いらしく、交流を持つに持てなかった。
エシエルの天使のような笑みを独り占めできるので、それは嬉しかったのだが。
「もし、夜会に誰も誘わないのであれば……私と踊りましょうか」
「え……えっ!? 男同士で!?」
「ええ。この国は大体第二の性で分けられているのですよ。ですから番のαとΩや、βとβなど、男女ではなく第二の性で分けて踊ることがほとんどです。殿下はまだ成人しておられなかったので男女で分けられていたのでしょうけど、成人してからは第二の性で分けられますよ」
「そ、そっか……」
「俺とも踊ってくださいよ、殿下」
「う、うーん……」
カルヴェとグランと踊るのはごめんだ。
第一俺は背が低いから、二人と踊ったら身長差ですごいことになってしまう気がする。
それに、夜会に参加できるなら女の人と踊りたい。
男同士で踊るのはロマンがないというか……前世でも夜会なんてしたことなかったし、一度は女性と踊ってみたい。
そう思いながらパインケーキを口に運ぶ。
カルヴェが運んできてくれたパインケーキは、さっぱりしていて果汁たっぷりで美味しかった。
ちなみに成人式は他の者も卒業式の後に行われる。
理由は成人式で性別診断をするから、卒業する前から第二の性がわかってしまっていると、差別が起こってしまうからだ。
「よろしくお願い致しますね、殿下」
仕立て屋の人の名前はティース・メッザ。
女性の人で長い髪を後ろに三つ編みにし、服はロリータというのだろうか、フリルとレースがふんだんに使われたものを着ている。
「成人式は今から一か月後ですから、五つの月でございますね。少し涼しい恰好に致しましょう」
そう言って、ティースは素早く俺の身体を採寸し始めた。
五つの月というのは、前世の世界でいう五月のことだ。
この国は基本日本の春のような季節だが、五月から八月にかけては二十八度から三十二度と暑い。
日本のようなジメジメとした暑さはないのだが、その分照りつけてくる太陽が眩しい。
成人式はたくさん人を呼ぶのだろうし、涼しい恰好のほうが俺としては助かる。
「ああ、殿下は腰が細くて良い身体をしておりますね……どのような恰好に致しましょう。殿下は蒼い瞳をされていますから、蒼と白の刺繍でもいいですし……金髪ですから、蒼と金の刺繍でも良さそうですね。ブローチは何色に致しましょう……袖口は金縁で……」
ティースが目をかっぴらいてメモをし始めた。
挨拶してきたときは普通の人だと思っていたけど、ぶつぶつ言いながら羽根ペンですらすらとメモをとる様子は、若干怪しいがプロの意識を感じる。
ティースが持ってきた巨大な鞄から、彼女は綺麗に畳まれた布と煌めく衣装を出し始めた。
「こちらがこの国で有名な織物師、ウェール様が作られたシルクの布でございます。殿下は白皙の肌をしておられますし……白の衣装はどうでしょう? 蒼と金の刺繍が映えると思いますよ」
「ふむ……」
「あとはこの国の鉱山で二パーセントしか取れないアレットという宝石を使われた綺麗な衣装がございます。こちらも刺繍は映えると思いますよ。いかがなさいますか?」
宝石を使った衣装は、袖口や胸元に蒼紫の宝石がちょこんと装飾されていて、上品だった。
それに、蒼と金の刺繍も綺麗に見えそうだ。
「じゃあ、このアレットを使った衣装でお願いします」
「承知致しました。では、こちらでお作り致しますね」
ティースがにこっと笑って一通りメモし終えると、カルヴェに衣装のことを報告して、帰りの支度を始めた。
カルヴェが「紅茶の用意がございますが……」と聞いていたけど、ティースはそれを断りすぐに帰っていった。
王宮御用達の仕立て屋だ。
忙しいのだろう。
「殿下、お疲れでしょう。今紅茶と菓子を用意致しますね」
さすが、カルヴェはわかっている。
俺との付き合いも四年だもんな。
俺が疲れたら甘いものを食べたいということが、もうカルヴェにはわかってしまっているのだろう。
ソファに座って身体を休めていると、カルヴェがドアをノックしてから温かい紅茶とパインケーキを持ってきてくれた。
「殿下の成人式、楽しみにしております。当日は疲れるかと思いますが、楽しみましょうね」
「俺も殿下の晴れ舞台、楽しみにしていますよ。たくさんの貴族をお呼びしますからね、大規模なパーティーになると思いますよ」
げ、大規模なパーティーになるほど貴族を呼ぶのか……。
第一王子の成人式だし、大規模になるのは当たり前か。
社交的な会話があまり得意ではないが……一応、自分の成人式なのだし頑張ろう。
「それから、成人したら夜会にも参加しなければなりませんね」
「夜会?」
「ええ。夜の茶会のようなものです。基本は誰かから誘われたら行くものなのですが……殿下は王子ですから顔を見せなくてはなりません。お気に入りの方を誘ってもよろしいのですよ?」
と言われても、そもそも気になる人がいない。
学園生活はほぼエシエルと過ごしてしまった。
授業も男女別だし、女性と過ごす時間があまりなく、成人を迎えてしまった。
学園では確かに女性と交流を持っている人もいた。
が、エシエルが結構女嫌いなのか人見知りなのか、俺と二人きりという状況がどうしても良いらしく、交流を持つに持てなかった。
エシエルの天使のような笑みを独り占めできるので、それは嬉しかったのだが。
「もし、夜会に誰も誘わないのであれば……私と踊りましょうか」
「え……えっ!? 男同士で!?」
「ええ。この国は大体第二の性で分けられているのですよ。ですから番のαとΩや、βとβなど、男女ではなく第二の性で分けて踊ることがほとんどです。殿下はまだ成人しておられなかったので男女で分けられていたのでしょうけど、成人してからは第二の性で分けられますよ」
「そ、そっか……」
「俺とも踊ってくださいよ、殿下」
「う、うーん……」
カルヴェとグランと踊るのはごめんだ。
第一俺は背が低いから、二人と踊ったら身長差ですごいことになってしまう気がする。
それに、夜会に参加できるなら女の人と踊りたい。
男同士で踊るのはロマンがないというか……前世でも夜会なんてしたことなかったし、一度は女性と踊ってみたい。
そう思いながらパインケーキを口に運ぶ。
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