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第十話「卒業式」
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転生してから早四年。
俺はようやく二十歳を迎える。
そして、今日は学園の卒業式。
普通科、貴族科の人々が大ホールに集まって、卒業証書を授与する。
その証書は立派なもので、俺はそれの重さをひしひしと感じていた。
証書を受け取ったあと、貴族科卒業生代表、普通科卒業生代表の者が言葉を述べる。
貴族科卒業生代表は……当然、将来国王になる俺だ。
「みなさん、卒業おめでとうございます。皆様がそれぞれの誇りを持って卒業できたこと、大変喜ばしく思います。精霊たちも、喜んでいることでしょう」
卒業生代表の文を書くのは大変だった。
カルヴェに命令を言って無理やり手伝わせたのは秘密だ。
だが、こうして舞台に立ち、みんなが俺を注目していると思うと、なんとなく気持ちがいい。
俺は、次期国王になる者。
恥のないように、これからも過ごさなくちゃならない。
普通科の周りの女性たちを見たけど、みんな「ふーん、この人が王子なんだ」というような瞳しか向けていなかった。
なんで!? もっと王子の俺に興味を持ってよ!
いや、もしかしたらαだと診断されれば、もっと注目を浴びて女性が寄ってくるかもしれない。
そう考えておくことにしよう。
決して俺の顔が平凡だからってわけじゃないんだからな!
「殿下、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
卒業式を終えたあと、グランとカルヴェが迎えに来てくれる。
グランは卒業式を無事に終えることができるよう、学園の護衛をしていたようだ。
学園の門にグランがいて、馬車の傍にカルヴェがいた。
カルヴェがピンクや白、赤といった鮮やかな薔薇の花束を渡してきてくれる。
「これは……?」
「卒業祝いですよ。王立学園は、薔薇をモチーフにしているので卒業式は薔薇の花束を贈るのが礼儀なんです」
薔薇をモチーフ……ああ、通りで廊下の窓に薔薇が入った花瓶が置いてあったわけだ。
「カルヴェ、ありがとう」
「俺からも受け取ってください」
グランからも、黒や白といった大人っぽい色で集められた薔薇の花束を貰った。
「グランも、ありがとう」
「殿下!」
振り向くと、エシエルが手を振りながらこちらにやってきた。
いつ見ても可愛らしい笑顔だ。
カルヴェとグランに挨拶をしてから、俺に向き直る。
「殿下、卒業おめでとうございます。殿下は、成人したら学院に通われるのですか?」
「学院……うーん、どうしようかな」
成人後は、王立テオフィリース学院という魔術研究や剣術を極めたり、深い経営学を学べる学院に貴族は任意で行くことが可能だ。
もちろん、平民でも金を払うことができれば入れる仕組みになっている。
いわゆる日本でいう大学みたいなところだ。
俺は正直魔術も剣術も長けていないから行ったところで、という感じだし、早く俺の理想であるハーレムを作りたい。
「行けたら、行く感じかな」
「わかりました。僕は通う予定ですので、もし入学されるのでしたら、お待ちしてますね」
エシエルがにこりと笑う。
うう、可愛い……。
その可愛い笑みでどのくらいの人間を墜としてきたのだろうか。
罪な男である。
エシエルと別れて馬車に乗る。
学園が遠ざかり、代わりに王都の活気あふれた街を走る。
カルヴェは俺の隣に座って、俺の身体をまじまじと見ていた。
え、なに? 俺の身体がどうかしたの?
不審にカルヴェを見上げると、突然がしっと腰を掴まれた。
「ひっ……なに? カルヴェ」
「いえ……殿下は、意外と腰が細いのですね」
いきなり何を言い出すんだ!?
と思ったら、カルヴェが何やらメモ帳にさらさらっとペンで記し始めた。
「どうしたんだ、カルヴェ」
「成人式の服を用意するのですよ。それで、腰のサイズを測らせていただきました」
「腰のサイズなんて、仕立て屋に測らせればいいじゃないか」
グランの言う通りだ。
カルヴェはほんのり耳を赤くして、腕組みをした。
「まぁ、そうなんですけどね。……殿下、仕立て屋は一週間後に来る予定です。それから一か月後に衣装が到着致しますので、その後成人式になります。殿下を品定めする者たちが多いので、何かあったら私のところへ来てください」
「俺のところでも、大歓迎ですからね」
「いえ、私のところへ」
「いや、俺のところに」
「そもそも貴方は成人式のときは王宮の護衛があるでしょう」
「そうだが、何かあったときは団長の俺のほうが強いからな」
ぐぬぬ……とカルヴェがドヤ顔しているグランを悔しそうに睨んでいる。
とりあえず、何かあったら二人に報告することにしよう。
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