10 / 51
第十話「卒業式」
しおりを挟む◇◇◇
転生してから早四年。
俺はようやく二十歳を迎える。
そして、今日は学園の卒業式。
普通科、貴族科の人々が大ホールに集まって、卒業証書を授与する。
その証書は立派なもので、俺はそれの重さをひしひしと感じていた。
証書を受け取ったあと、貴族科卒業生代表、普通科卒業生代表の者が言葉を述べる。
貴族科卒業生代表は……当然、将来国王になる俺だ。
「みなさん、卒業おめでとうございます。皆様がそれぞれの誇りを持って卒業できたこと、大変喜ばしく思います。精霊たちも、喜んでいることでしょう」
卒業生代表の文を書くのは大変だった。
カルヴェに命令を言って無理やり手伝わせたのは秘密だ。
だが、こうして舞台に立ち、みんなが俺を注目していると思うと、なんとなく気持ちがいい。
俺は、次期国王になる者。
恥のないように、これからも過ごさなくちゃならない。
普通科の周りの女性たちを見たけど、みんな「ふーん、この人が王子なんだ」というような瞳しか向けていなかった。
なんで!? もっと王子の俺に興味を持ってよ!
いや、もしかしたらαだと診断されれば、もっと注目を浴びて女性が寄ってくるかもしれない。
そう考えておくことにしよう。
決して俺の顔が平凡だからってわけじゃないんだからな!
「殿下、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
卒業式を終えたあと、グランとカルヴェが迎えに来てくれる。
グランは卒業式を無事に終えることができるよう、学園の護衛をしていたようだ。
学園の門にグランがいて、馬車の傍にカルヴェがいた。
カルヴェがピンクや白、赤といった鮮やかな薔薇の花束を渡してきてくれる。
「これは……?」
「卒業祝いですよ。王立学園は、薔薇をモチーフにしているので卒業式は薔薇の花束を贈るのが礼儀なんです」
薔薇をモチーフ……ああ、通りで廊下の窓に薔薇が入った花瓶が置いてあったわけだ。
「カルヴェ、ありがとう」
「俺からも受け取ってください」
グランからも、黒や白といった大人っぽい色で集められた薔薇の花束を貰った。
「グランも、ありがとう」
「殿下!」
振り向くと、エシエルが手を振りながらこちらにやってきた。
いつ見ても可愛らしい笑顔だ。
カルヴェとグランに挨拶をしてから、俺に向き直る。
「殿下、卒業おめでとうございます。殿下は、成人したら学院に通われるのですか?」
「学院……うーん、どうしようかな」
成人後は、王立テオフィリース学院という魔術研究や剣術を極めたり、深い経営学を学べる学院に貴族は任意で行くことが可能だ。
もちろん、平民でも金を払うことができれば入れる仕組みになっている。
いわゆる日本でいう大学みたいなところだ。
俺は正直魔術も剣術も長けていないから行ったところで、という感じだし、早く俺の理想であるハーレムを作りたい。
「行けたら、行く感じかな」
「わかりました。僕は通う予定ですので、もし入学されるのでしたら、お待ちしてますね」
エシエルがにこりと笑う。
うう、可愛い……。
その可愛い笑みでどのくらいの人間を墜としてきたのだろうか。
罪な男である。
エシエルと別れて馬車に乗る。
学園が遠ざかり、代わりに王都の活気あふれた街を走る。
カルヴェは俺の隣に座って、俺の身体をまじまじと見ていた。
え、なに? 俺の身体がどうかしたの?
不審にカルヴェを見上げると、突然がしっと腰を掴まれた。
「ひっ……なに? カルヴェ」
「いえ……殿下は、意外と腰が細いのですね」
いきなり何を言い出すんだ!?
と思ったら、カルヴェが何やらメモ帳にさらさらっとペンで記し始めた。
「どうしたんだ、カルヴェ」
「成人式の服を用意するのですよ。それで、腰のサイズを測らせていただきました」
「腰のサイズなんて、仕立て屋に測らせればいいじゃないか」
グランの言う通りだ。
カルヴェはほんのり耳を赤くして、腕組みをした。
「まぁ、そうなんですけどね。……殿下、仕立て屋は一週間後に来る予定です。それから一か月後に衣装が到着致しますので、その後成人式になります。殿下を品定めする者たちが多いので、何かあったら私のところへ来てください」
「俺のところでも、大歓迎ですからね」
「いえ、私のところへ」
「いや、俺のところに」
「そもそも貴方は成人式のときは王宮の護衛があるでしょう」
「そうだが、何かあったときは団長の俺のほうが強いからな」
ぐぬぬ……とカルヴェがドヤ顔しているグランを悔しそうに睨んでいる。
とりあえず、何かあったら二人に報告することにしよう。
5
お気に入りに追加
500
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる