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第九話「もしも殿下がΩだったら、私は……」
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家庭教師の勉学と、王立学園での勉強を重ねて二年の月日が経った。
Ωの首輪問題だが、父様が尽力した結果、多少は張るが平民でも買えるほどの値段で買えるようになった。
俺は礼儀作法も覚え、この国の歴史も、経済学も基礎は覚えることができた。
だが、問題は魔術と剣術だ。
あまり俺には伸びしろがないのか、一昨年から成長することはなかった。
俺は相変わらずカルヴェとグランに命令をして、王子『様』として暮らしている。
「カルヴェ、喉が渇いた。冷たい紅茶持ってきて」
「かしこまりました」
カルヴェがお辞儀をして去っていく。
うーん、気持ちがいい。
転生してから二年が経ったし、もう前世での鬱憤もそこまでなくなった。
このまま性別診断でαだとわかって、ハーレムを作れればいいと思っていた。
だが、一向に女性にモテる気配がない。
学園では男女の不純異性交遊をなくすために、授業が男女で分かれているのだ。
恋愛は第二の性がわかる成人になってから楽しめというのがこの国の暗黙の了解らしい。
だから、女性に会えるときが昼休みと帰りくらいしかない。
昼休みはエシエルがいるし……エシエルは女性に興味がないみたいだから、女性と一緒に食事をするとかいう選択肢がない。
むしろ、俺と二人で食べたいようだ。
一回なんとか頼み込んで一緒に食事をしてもらえる女性を探したが、俺が王子だからか、みんな遠慮してしまった。
こう……なんかこうもっと、王子様! キャー! とか、なることはないのか?
俺が王子にしては平凡な顔してるから?
魔術も剣術もあまり秀でてないから?
よくわからないが……ハーレムは成人してからのほうが、パーティみたいなのもあるみたいだし築きやすそうだ。
俺はトホホ……と寂しい顔をしながら、カルヴェが紅茶を持ってくるのを待った。
◇◇◇
「しかし、殿下は少々生意気ですね」
冷たい紅茶が入ったティーカップと、クッキーなどの菓子を皿に盛り付け、トレーに乗せて私は持っていく。
一緒に来ている近衛騎士のグランに、少しだけ愚痴を零した。
「そうだな。前まで……それこそ頭を打って倒れるまで大人しかったが、どうでもいいことでも命令するようになったな」
「全く。どう躾ければいものか……」
私が深くため息を吐く。
「お前のお得意様の鞭で躾けたらどうだ? 鬼畜執事様にはもってこいじゃないのか?」
「そうはいっても、まだ十八歳ですよ。殿下は綺麗だから……鞭で身体を赤く腫れさせたら、理性がどう転ぶかわからない」
「ふ、相変わらず悪趣味だな」
グランがくすりと笑う。
私はそれが少々馬鹿にしているように見えて、グランを睨めつけた。
「うるさいですね、絶倫のくせに」
「俺は殿下がβだったら多分、手を出してしまいそうだ。Ωだったら、番にしたい」
「飽きたら捨てる騎士様が、番に? 責任は取るおつもりなんでしょうね」
「さあな」
グランがそのまま私を通り越して護衛に向かってしまう。
全く。その恋愛に対する適当な態度が、弄んでいるというのですよ。
殿下の護衛や王都の護衛には真摯に取り組んでいるのに……。
だが、私は絶対にこの男に殿下を取られたくなかった。
幼い頃から殿下を守ってきたのだ。
私はこの熱意が、この男には抜かされたくない、という強い思いと微かな恋愛感情を心に宿しているからだというのはわかっていた。
小さな頃から王子の面倒を見てきた。
ずっと成長を見守ってきた殿下を、私はいつしか慕うようになってしまった。
最近は我儘な命令が多くなっているから、私の恋愛感情も若干冷めてきているが……。
それでも、胸の内に宿る切ない想いは未だに消えていない。
だが、相手は次期国王になる第一王子だ。
殿下も言っていた。
自分はΩではないと。
でも、もし、もしも殿下がΩだったら……。
「……」
その気持ちに蓋をするように、私は小さく咳払いをした。
Ωの首輪問題だが、父様が尽力した結果、多少は張るが平民でも買えるほどの値段で買えるようになった。
俺は礼儀作法も覚え、この国の歴史も、経済学も基礎は覚えることができた。
だが、問題は魔術と剣術だ。
あまり俺には伸びしろがないのか、一昨年から成長することはなかった。
俺は相変わらずカルヴェとグランに命令をして、王子『様』として暮らしている。
「カルヴェ、喉が渇いた。冷たい紅茶持ってきて」
「かしこまりました」
カルヴェがお辞儀をして去っていく。
うーん、気持ちがいい。
転生してから二年が経ったし、もう前世での鬱憤もそこまでなくなった。
このまま性別診断でαだとわかって、ハーレムを作れればいいと思っていた。
だが、一向に女性にモテる気配がない。
学園では男女の不純異性交遊をなくすために、授業が男女で分かれているのだ。
恋愛は第二の性がわかる成人になってから楽しめというのがこの国の暗黙の了解らしい。
だから、女性に会えるときが昼休みと帰りくらいしかない。
昼休みはエシエルがいるし……エシエルは女性に興味がないみたいだから、女性と一緒に食事をするとかいう選択肢がない。
むしろ、俺と二人で食べたいようだ。
一回なんとか頼み込んで一緒に食事をしてもらえる女性を探したが、俺が王子だからか、みんな遠慮してしまった。
こう……なんかこうもっと、王子様! キャー! とか、なることはないのか?
俺が王子にしては平凡な顔してるから?
魔術も剣術もあまり秀でてないから?
よくわからないが……ハーレムは成人してからのほうが、パーティみたいなのもあるみたいだし築きやすそうだ。
俺はトホホ……と寂しい顔をしながら、カルヴェが紅茶を持ってくるのを待った。
◇◇◇
「しかし、殿下は少々生意気ですね」
冷たい紅茶が入ったティーカップと、クッキーなどの菓子を皿に盛り付け、トレーに乗せて私は持っていく。
一緒に来ている近衛騎士のグランに、少しだけ愚痴を零した。
「そうだな。前まで……それこそ頭を打って倒れるまで大人しかったが、どうでもいいことでも命令するようになったな」
「全く。どう躾ければいものか……」
私が深くため息を吐く。
「お前のお得意様の鞭で躾けたらどうだ? 鬼畜執事様にはもってこいじゃないのか?」
「そうはいっても、まだ十八歳ですよ。殿下は綺麗だから……鞭で身体を赤く腫れさせたら、理性がどう転ぶかわからない」
「ふ、相変わらず悪趣味だな」
グランがくすりと笑う。
私はそれが少々馬鹿にしているように見えて、グランを睨めつけた。
「うるさいですね、絶倫のくせに」
「俺は殿下がβだったら多分、手を出してしまいそうだ。Ωだったら、番にしたい」
「飽きたら捨てる騎士様が、番に? 責任は取るおつもりなんでしょうね」
「さあな」
グランがそのまま私を通り越して護衛に向かってしまう。
全く。その恋愛に対する適当な態度が、弄んでいるというのですよ。
殿下の護衛や王都の護衛には真摯に取り組んでいるのに……。
だが、私は絶対にこの男に殿下を取られたくなかった。
幼い頃から殿下を守ってきたのだ。
私はこの熱意が、この男には抜かされたくない、という強い思いと微かな恋愛感情を心に宿しているからだというのはわかっていた。
小さな頃から王子の面倒を見てきた。
ずっと成長を見守ってきた殿下を、私はいつしか慕うようになってしまった。
最近は我儘な命令が多くなっているから、私の恋愛感情も若干冷めてきているが……。
それでも、胸の内に宿る切ない想いは未だに消えていない。
だが、相手は次期国王になる第一王子だ。
殿下も言っていた。
自分はΩではないと。
でも、もし、もしも殿下がΩだったら……。
「……」
その気持ちに蓋をするように、私は小さく咳払いをした。
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