上 下
22 / 34

第二十二話 本

しおりを挟む
 歩いていくと、書斎室が見つかった。 
 金色に輝くドアプレートにアイヴァン殿下の名前が彫られている。殿下の書斎室だ。 
 何度かノックすると、「入れ」といういつもの低い声が聞こえた。 

「失礼します」 

 中に入ると、まぁ殿下の書斎室だなぁというように書類が散らばりまくっていた。飾られている時計や調度品にも埃がかかっている。 
 殿下は正面の椅子に座って、机にシルフ地区の地図を広げていた。 
 銀色の睫毛が伏せられて、眸が地図を追っている。 
 それだけで俺の胸が高鳴るのは、少しおかしいだろうか。 

「なんの用だ?」 

 殿下が顔を上げずに言った。 
 正直殿下に会いたかっただけで、何をしにきたわけでもない。 
 答えに迷っていると、ちょうど本棚が目に止まった。 

「えーっと、本を読みたくて」 
「そうか。好きなものを読め」 

 高価な本でも、殿下は躊躇いなく俺に貸してしまうんだな……。 
 本棚は左右天井ギリギリまで置かれていて、ぎっしり本が詰まっていた。 
 時々空いている場所にランプが置かれている。 

「あれ……?」 

 左の本棚を見て、ある違和感に気づいた。 
 右にある本棚に行って違和感を確かめてみると、やっぱりそうだ。 
 この書斎室には、どれも四大精霊契約者の祖先の本や、セルヴ殿下たちが出した本しかない。 
 本が高価なもので読んだことがないからわからなかったけど、もしかしてこれって……。 

「殿下、一般の方が書いた書物はないんですか?」 
「一般? 本は高価なものだから、四大精霊契約者しか書くことはできないが」 

 ……文化が進んでいないのって、これじゃないか? 
 差別があるのも、これが原因じゃないんだろうか。 
 一般の人たちが差別に訴えたり何かを発明した本を出せば、国は変わっていくんじゃないか? 
 俺が、『日本』にあった文化を取り入れていけば……もしかしたら……。 

「殿下!」 
「なんだ。いきなり大声を出すな」 
「俺、この国に伝えたいことがあるんです。本を書くことはできませんか?」 

 殿下がは? というように呆然と目を見開いた。 

「どうした。何かとんでもないことでも思いついたのか」 
「い、いや、その……夢で見たんです。それで、こういうのがあれば便利だなって思って」 
「例えば」 
「例えば……電気や化学製品で乗り物が作れたら面白くないですか? きっと馬車より便利なはずです。あとスマホ……は難しいよな……料理でも、魚を捌いて生で食べるのも美味しいと思うんですよ。それから今起きてる時事問題とかを報道するために、新聞だけじゃなくてみんなに伝えられる機械を作ったりとか……」 
「ふむ……」 

 殿下は地図から目を離して俺を見る。 
 俺の説明が下手だったから、多分二割も伝わっていないと思う。だけど殿下は真剣に顎に手をあて唸りながら考えている。 

「本を作りたいなら、四大精霊契約者に許可を取らなければいけないはずだ。最も、取れた者はいないが」 
「え、いいんですか」 
「もう一度言う。許可を取れた者はいない。だが、頼んでみるだけ価値はあるだろう」 
「……ありがとうございます!」 

 俺はすぐに書斎室を飛び出し、王宮を早足で歩き回った。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

二度目の人生は魔王の嫁

七海あとり
BL
「彼以上に美しい人間は見たことがない」 そう誰もが口を揃えるほど、カルミア・ロビンズは美しい青年だった。 そんな優美な彼には誰にも言えない秘密があった。 ーーそれは前世の記憶を持っていることだった。 一度目の人生は、不幸な人生だった。 二度目の人生はせめて人並みに幸せになろうとしたはずなのに、何故か一国の王子に見染められ、監禁されていた。 日々自由になりたいと思っていたそんな彼の前に現れたのは、眉目秀麗な魔族でーー。 ※重複投稿です。

これを愛だと呼ばないで

田鹿結月
BL
とある町にある喫湯店で働く犬獣人、ドナ。 ドナはとある理由から運命の番いというものを強く欲しており、町に暮らす全てのオメガは彼と付き合ったことがあるという噂が出るほどに様々なオメガと付き合ってきた。 だが、皆匂いが合わない。これまで交際した全てのオメガのフェロモンが、ドナにとっては酷い悪臭にしか思えなかった。 運命の番いは、この町や地方にはいないのかもしれない。そんな思いを抱え始めていたドナが出会ったのは、大衆食堂で働く一人の青年だった。 ホワイトスイスシェパードα×人間β(だと思い込んでいるΩ) ※モブレ表現・その他注意描写あり ハッピーエンドです。 ※ふじょっしー様にて2019年頃に投稿したものです。 ※続編ではR-18となりますが、今回投稿するものは全年齢です。

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~

てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」 仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。 フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。 銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。 愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。 それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。 オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。 イラスト:imooo様 【二日に一回0時更新】 手元のデータは完結済みです。 ・・・・・・・・・・・・・・ ※以下、各CPのネタバレあらすじです ①竜人✕社畜   異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――? ②魔人✕学生   日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!? ③王子・魔王✕平凡学生  召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。 ④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――? ⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。

処理中です...