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第四十八話「苛立ち」

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「この後どうする?」
「またアトラクション乗ったりしよう。あ、確かこのテーマパークってアップルパイが名物だよね。食べてもいい?」
「あ、うん。俺も食べたかった」
「最後はショー見て、ホテルに帰りたいな。それでもいい?」
「うん」

 昼食が食べ終わって、俺たちは再び手を繋ぐ。
 レストランの中にいたからか、手袋をしていても蒼馬の手が温かく感じる。
 太陽は雲に隠れて冷たい風が吹いているのに、どうしてか身体の内側は暑い。

 さっき恥ずかしい本音をぶつけたのと、今蒼馬の手の温もりを感じているからだろう。
 恋は平常心や気温すらも奪ってしまうのかと、恋をするのは蒼馬が初めてだったからこんな自分に驚いてしまった。

「蒼馬、トイレ行ってくるからその辺で待ってて」
「うん、わかった」

 昼食後、俺たちはいろんなアトラクションに乗って、アップルパイも食べた。

 シューティングゲームでさっき蒼馬が負けたからもう一度対戦しようと言われて再び競ったり(申し訳ないがそれも俺が勝った)、猫の形をした車に乗ってクリスマスの装飾がされた道をドライブした。

 アップルパイも今までに食べたことがないくらい美味しくて、パイ生地はサクサク、中から溢れる林檎はシナモンの味がしっかりついていて香ばしく、最高に満足する一品だった。

 蒼馬の言う通り、最高の思い出だ。
 日も暮れてきてしまい、もうすぐショーの時間になる。
 ショーはテーマパークの出入り口付近で行われるもので、音楽隊がやってきて演奏しながらテーマパークのキャラクターたちが踊るといったものだ。

 ショーが終わったら、約三十分後に閉園。
 だから、すぐに帰りやすい出入り口付近で行うのだろう。

「……あれ、蒼馬?」

 用を済ませて外に出ると、蒼馬の姿がない。

 勝手にどこかに行くはずがない、と近辺をうろうろすると、レストランの近くに蒼馬が女性と一緒に何か喋っていた。
 女性は二人いて、冬だというのに一人は肩出しのニットを着ているし、一人はミニスカートで生足を曝け出している。

 露出度が高すぎる格好で蒼馬に迫る二人にイライラしたが、それ以上に蒼馬に苛立った。
 蒼馬は、女性二人とにこにこしながら話していたのだ。
 楽しそうかつ幸せそうに話していて、今の今まで苛立ってたのに、急に泣きそうな気分になった。

 ――ああ、結局、男のオメガはいらないんだな。

 オメガは男もいるけど、ベータの人たちは男女で結婚するのが普通だ。
 アルファとオメガで結婚して子どもを授かるのも、オメガが女性ということがこの社会では圧倒的に多い。

 蒼馬は女性のほうが良かったんだ。
 じゃなかったらあんな笑み、見ず知らずの奴に向けたりしない。
 だから、この日を最高の思い出にして別れようとしていたんだ。
 留学も、どうでもいいのだろう。

 苛立って悲しくなって胸がきゅっと締めつけられて、こんな姿見られたくないのに蒼馬は目敏く俺がいることに気づいた。
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