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第四十四話「誕生日祝い」
しおりを挟む「もし、さ」
「うん?」
「俺がオメガなことがバレて、音楽業界で炎上して、コンサートも出られなくなって、どうしようもなくなったらどうする?」
そんな質問をされると思っていなかったのか、蒼馬はゆっくり目を見開いた。
顎に手を当ててじっくり考えている。
少し、無茶な質問をしてしまっただろうかと訊いてから後悔した。
「俺は……湊がそんな目に遭ったら、絶対に守る。記者が殺到してきたら絶対湊を家とか寮から出さないようにするし、SNSのDMとか返信欄は俺が管理する。湊が悲しい思いをするのが、俺は一番嫌だから。炎上が沈下して、コンサートに出られるようになったら俺が湊のSPになって舞台裏までついていくよ」
「……うん」
「炎上してる間だってずっと湊と一緒にいる。俺は絶対裏切らないから。俺だけは絶対傍にいる。それだけは、どうしようもなくなったときでも信じていて」
「……そっか」
口元に手をあてて、頬杖をつく。
そうでもしないと、以前の蒼馬みたいににやにやしてしまいそうだったから。
蒼馬という、心強い恋人がいてくれて良かった、だなんて恥ずかしくて言えるはずもない。
「……蒼馬って、誕生日いつ?」
「俺? 十二月十九日だよ。湊と同じ月」
「俺の誕生日知ってたの?」
「うん、雑誌のプロフィールに載ってるからね。去年、プレゼント渡せなくてごめん。好きな人以外から貰うのは嫌かなって思ってて」
「じゃあさ、十二月、テーマパーク行こ」
「へ……?」
「お前の誕生日、お祝いしたい」
こんなに俺を大事に思ってる人に、何か返したい。
身体じゃないもので何か返すっていったら、これくらいしか思いつかなかった。
コンクールで優勝したときに貰った賞金が、まだ口座に残っている。
だからチケット代も出すし、なんなら傍にある大きなホテルも予約してしまおう。
こういうときに貯金は崩すものだ。
「そ、そんな、お祝いとか……しなくていいのに」
「ううん、俺が祝いたい。だ、大事な……恋人だし」
改めて口にすると恥ずかしくて仕方なくて、全然目を合わせられない。
しかも人の多いカフェでこんなことを言ってしまって、恋人ができると馬鹿になるとは聞いたことがあったけど、その通りだった。
蒼馬に両手を優しく握られる。
見上げると、蒼馬は幸福感で満たされた顔をしていた。
「湊。大好き」
真正面から言われて、ぶわりと足先から頭まで熱が上る。
ああ、蒼馬とずっと一緒にいたい。
もう、留学なんてやめてしまおうか。
「……俺も、蒼馬のこと――」
「お待たせ致しました。マルゲリータとポモドーロになります」
店員がやってきて、ハッと我に返る。
お互いここがカフェということを忘れていたみたいで、店員が来た途端俺たちはすぐに手を離して顔を真っ赤にした。
店員は気にしてないのかにこにことピザとパスタをテーブルに置く。この瞬間が盛大に気まずい。
店員がいなくなってから、俺たちはそっと視線を合わせる。
「……俺たちって、もしかしてバカップル?」
「蒼馬が主に馬鹿なんだよ」
「そ、そんなこと言わないでよ~!」
そう八つ当たりみたいに言っちゃったけど、大概俺も馬鹿だと思う。
しょぼんと落ちこんだ蒼馬は、既に等分されているピザを皿から剥がし、俺の皿に置いた。
「すっごい美味しそうだね! 見て、チーズとろとろ」
「分けてくれてありがと。じゃあ、いただきま――?」
食べようと手を合わせたとき、ブーッとスマホのバイブが鳴った。
SNSの通知かと思えば、規則的に連続で鳴っていて電話だとわかる。
相手は――父さんからで、思わず眉を顰めた。
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