甘く謳う二重奏~氷の天才ヴァイオリニストは執着アルファに溺愛される~

翡翠蓮

文字の大きさ
上 下
43 / 68

第四十三話「カフェ」

しおりを挟む

 練習室の廊下を出てから無性に蒼馬に会いたくなって、蒼馬の部屋のインターホンを押した。

『はーい……って、湊! どうしたの?』
「どうしたのって……会っちゃだめなの」
『会っちゃだめなんて思ってないよ! 俺に会いたくなったの?』
「……うん」
『今すぐ行くから、ちょっと待ってて。あ、俺の部屋は絶対覗かないでね。見ちゃだめだからね』
「う、うん」

 いつも二人で過ごすときは決まって俺の部屋だ。
 蒼馬は自分の部屋に俺を入れたがらない。
 どうしてかわからないが、まあ男子特有の見られたらまずいような本でも置いてるんだろう。俺は置いてないけど。

「お待たせ! お昼ご飯は食べた?」
「いや、まだ。だから、一緒に買いに行こ」
「あ、良かったら外食しない? この辺、カフェばっかりだけど」
「うん、いいよ」
「じゃあ、行こう!」

 帰省している人が多いとはいえ、寮に誰もいないわけじゃない。
 だから、寮の中でも大学の周辺でも、俺たちは手を繋がない。

 交際がバレたら俺がアルファで蒼馬がオメガという噂を流してしまえばそこまでまずいものではないけど……一応、隠しているのだ。

 外出届簿を寮監に提出し、外に出る。
 今日は晴れていて太陽がコンクリートを照りつけ、日焼け止めを塗らないと確実に日焼けする暑さだった。

「はぁ、あつ……」
「ラーメンでも食べる? 良い汗かけるよ」
「うわ、さらに暑くなるつもりなんかないよ……」
「じゃあカフェに入る?」
「そうだな。入りやすいとこにしよ」

 女の人ばかりのカフェにはさすがに男二人じゃ入りにくい。
 駅周りのほうが店は多いから、スマホで美味しそうなカフェを探しつつ、駅のほうに向かった。
 駅周辺は人が多く、オフィスが多いため昼休みのサラリーマンやOLでごった返している。
 俺たちは駅から徒歩二分とサイトに書かれている、イタリアンの店に入った。

「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
「はい」
「お席をご案内致しますね」

 カフェは落ち着いた雰囲気の店で、ダークブラウンの椅子とテーブルがいくつも並べられている。
 壁にはいくつもの白黒写真や小物、ギターまで飾ってあって、結構お洒落だ。

 店内には女の人が数人で女子会をしているグループもあったけど、サラリーマンやOLが一人で食べていたり、インフルエンサーらしき美人な人が一人で写真を撮っていたりと、一人客が多かった。

「せっかくだから、パスタとピザ半分こしない?」
「いいよ。蒼馬は何が食べたい?」
「えっと……ピザならマルゲリータ食べたいな」
「じゃあ、マルゲリータとポモドーロにしてもいい?」
「そうしよう! すいませーん」

 蒼馬が店員を呼んで、料理を注文する。
 しばらく黙っていると、テーブルに置いていた俺の両手を、蒼馬がぎゅっと握った。
 にぎにぎと包まれて、店の中でそんなことをされて恥ずかしくなる。

「な、なにやってんの」
「んー? 見た感じ、鈴響大学の人いなさそうだし。湊に触りたかったんだよ、ずっと」

 手の甲をさすられたり指を絡められたりして、じわじわ俺の顔に熱が溜まっていく。

「俺は顔が割れてるから鈴響大の奴らがいなくても嫌なんだよ……!」
「んー? 何か記者に言われたら、俺がオメガってことにしちゃえばいいよ。湊は今後、公表するつもりはないんだろう?」

 ……オメガであることを公表、か。
 それは、中学のころからずっと悩んで考えてきたことだ。

 オメガであることを世間に公表して、炎上した音楽家や俳優、モデルなどの芸能人をたくさん見てきた。

 オメガだってわかった途端SNSで『淫乱』だとか『アルファを誘う最低な奴』だなんて中傷されたり、体調不良でコンサートに出れなかったり番組に穴あけると、発情期だってすぐに噂されて『相手してあげるよ』だなんてDMでからかわれたりするのが現状だ。

 政府が発情抑制剤を値下げしたりアルファに発情フェロモンを八割カットするマスクを配布したことで、差別は昔よりなくなったとは聞いている。

 でも、それでもオメガだと公表して伸し掛かってくる差別は俺にとってすごく重い。

 炎上するから、発情期がいつ来るかわかんないから、発情期が来たらアルファを無差別に誘うからって仕事が減るのも当たり前だ。

 いつまで隠し通せるかはわからない。
 でも、隠せるならずっと隠していたかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

処理中です...