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第三十四話「幸福」
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◇◇◇
「あ、起きた?」
目を覚ましたときにはとっくに日が暮れていて、高築がベッドに座って俺の頭を撫でていた。
その手の心地よさにまた眠りそうになりながらも、ゆっくり身体を起こす。
「……今、何時?」
「今は夜の七時半。コンビニでご飯買ってきたよ。あと、体温も後で測ろう。身体はさっき拭いたから、もう拭かなくてもいい?」
高築の言う通り、俺の身体はすっきりしていて、べたつきが一切ない。
腹についていた精液もなくなっていて、高築が全部綺麗にしてくれたのかと思うと申し訳なくなってしまう。
「いきなり寝ちゃってごめん。身体、ありがと」
「ううん、全然良いんだよ。それより俺こそ……中に出しちゃってごめん」
「別にいい。アフターピル飲むし」
アフターピルは早めに飲んだほうがいいから、もしものために備蓄しておいたアフターピルを水と一緒に流しこむ。
俺がトレーに置いてある食事を食べるためにベッドから移動しようとしたら、少し動いただけで高築に抱きしめられた。
またあの甘い匂いが鼻腔に入り込んできて、下が反応しそうになってしまう。
「ねえ」
「なに?」
耳元で高築の声がする。
「これから、湊って呼んでもいい?」
「……別に、いいけど」
「毎日、湊の部屋に行ってもいい?」
「いいよ」
「おはようとおやすみのメッセージ、毎日送ってもいい?」
「……高築ってメンヘラだったっけ」
「違うよ。離れてるときでも繋がってたいんだ」
それがメンヘラなんじゃ? と思ったけど、高築の言ってることがわからなくもなくて、結局「いいよ」と頷いてしまった。
うなじの部分に高築の吐息が掠めて、擽ったさに身を捩る。
「高築」
「蒼馬って呼んで」
「……蒼馬」
「なに?」
「番にならないのか?」
疑問に思っていたことをぶつける。
蒼馬は俺の肩から顔を離して、肩を両腕でつかみ俺をしっかりと見据えた。
既に眼鏡をかけていて、ブラックダイヤみたいな瞳はレンズ越しにしか見えない。
……整った顔してるんだから、コンタクトにすればいいのに。
「両想いになったばかりだろう? だから、番になるのはもう少し先にしよう。番はオメガにとってすごく危険なリスクを伴ってるものだし。……俺が湊と番契約を解除しようなんて、死んでも思わないけどさ」
そう、一度番契約をしたあとアルファが解除してしまえば、オメガにはとんでもないほどの精神負担がかかる。
鬱になってしまうオメガもいるし、病んでまともな意思疎通ができなくなってしまったり、最悪自殺するケースも少なくはないのだ。
「……わかった」
俺は頷いて、蒼馬から離れ食事を摂ることにした。
蒼馬が買ってきてくれたのは、冷やしとろろ蕎麦とパックのレモンティー、新作のスイーツ。
俺が蕎麦を好きなのも把握してるし、新作のスイーツまで買ってきてくれるなんて俺が欲しいもの全部わかってくれている。
その熟知が嬉しい。
蒼馬は自室でご飯を食べてきていたらしく、俺が黙々と頬張っているのを微笑みながら観察していた。
「……そういえば」
「どうしたの?」
「今日の実技試験で、講師からボロクソに言われた」
「え、湊が?」
昼のことを思い出してまた腹が立ってくる。
蒼馬は信じられないと口を開けていて、いや、俺も信じられないという気持ちだった。
「うん。今年から入ってきた講師。厳しくて有名でさ。俺の音楽は誰にも影響されない、みたいなこと言ってきたから……すごいムカついた」
「湊の音楽は俺にとって世界一だよ。いや、宇宙一だね。俺を変えてくれた人なんだから」
そうだ、肌を重ねる前蒼馬が自分の過去を話してくれた。
蒼馬の中で俺は、好きにさせるくらい彼を救った人物なのだろう。
「だから、本当に湊の演奏を聴けて良かったと思ってる。今も同じ学校に入れてすごく嬉しい。湊の音楽は、俺の人生を変えるほどのたくさんの影響をもたらしたよ」
「……ありがと」
「大丈夫だよ、湊」
俺の頭を、蒼馬が優しく撫でる。
蒼馬の手は温かくて慈愛に溢れている。
こんな風に誰かに頭を撫でられたことはなくて、もっと撫でてほしいと頭を蒼馬の手に寄せる。
「不安なことがあったらすぐに俺に言って。全部話聞くから」
「……なんでお前って、そんなに俺に尽くすの?」
「俺の好きな人で、恋人だからに決まってるだろう?」
人に世話を焼いて尽くすのは大変なはずなのに、蒼馬は幸せそうに笑う。
……蒼馬以外に好きになる人なんて、この先いないだろうな。
頭を撫でてくれて、俺に微笑みかけてくれる幸せを、俺は蕎麦を啜りながら噛み締めた。
「あ、起きた?」
目を覚ましたときにはとっくに日が暮れていて、高築がベッドに座って俺の頭を撫でていた。
その手の心地よさにまた眠りそうになりながらも、ゆっくり身体を起こす。
「……今、何時?」
「今は夜の七時半。コンビニでご飯買ってきたよ。あと、体温も後で測ろう。身体はさっき拭いたから、もう拭かなくてもいい?」
高築の言う通り、俺の身体はすっきりしていて、べたつきが一切ない。
腹についていた精液もなくなっていて、高築が全部綺麗にしてくれたのかと思うと申し訳なくなってしまう。
「いきなり寝ちゃってごめん。身体、ありがと」
「ううん、全然良いんだよ。それより俺こそ……中に出しちゃってごめん」
「別にいい。アフターピル飲むし」
アフターピルは早めに飲んだほうがいいから、もしものために備蓄しておいたアフターピルを水と一緒に流しこむ。
俺がトレーに置いてある食事を食べるためにベッドから移動しようとしたら、少し動いただけで高築に抱きしめられた。
またあの甘い匂いが鼻腔に入り込んできて、下が反応しそうになってしまう。
「ねえ」
「なに?」
耳元で高築の声がする。
「これから、湊って呼んでもいい?」
「……別に、いいけど」
「毎日、湊の部屋に行ってもいい?」
「いいよ」
「おはようとおやすみのメッセージ、毎日送ってもいい?」
「……高築ってメンヘラだったっけ」
「違うよ。離れてるときでも繋がってたいんだ」
それがメンヘラなんじゃ? と思ったけど、高築の言ってることがわからなくもなくて、結局「いいよ」と頷いてしまった。
うなじの部分に高築の吐息が掠めて、擽ったさに身を捩る。
「高築」
「蒼馬って呼んで」
「……蒼馬」
「なに?」
「番にならないのか?」
疑問に思っていたことをぶつける。
蒼馬は俺の肩から顔を離して、肩を両腕でつかみ俺をしっかりと見据えた。
既に眼鏡をかけていて、ブラックダイヤみたいな瞳はレンズ越しにしか見えない。
……整った顔してるんだから、コンタクトにすればいいのに。
「両想いになったばかりだろう? だから、番になるのはもう少し先にしよう。番はオメガにとってすごく危険なリスクを伴ってるものだし。……俺が湊と番契約を解除しようなんて、死んでも思わないけどさ」
そう、一度番契約をしたあとアルファが解除してしまえば、オメガにはとんでもないほどの精神負担がかかる。
鬱になってしまうオメガもいるし、病んでまともな意思疎通ができなくなってしまったり、最悪自殺するケースも少なくはないのだ。
「……わかった」
俺は頷いて、蒼馬から離れ食事を摂ることにした。
蒼馬が買ってきてくれたのは、冷やしとろろ蕎麦とパックのレモンティー、新作のスイーツ。
俺が蕎麦を好きなのも把握してるし、新作のスイーツまで買ってきてくれるなんて俺が欲しいもの全部わかってくれている。
その熟知が嬉しい。
蒼馬は自室でご飯を食べてきていたらしく、俺が黙々と頬張っているのを微笑みながら観察していた。
「……そういえば」
「どうしたの?」
「今日の実技試験で、講師からボロクソに言われた」
「え、湊が?」
昼のことを思い出してまた腹が立ってくる。
蒼馬は信じられないと口を開けていて、いや、俺も信じられないという気持ちだった。
「うん。今年から入ってきた講師。厳しくて有名でさ。俺の音楽は誰にも影響されない、みたいなこと言ってきたから……すごいムカついた」
「湊の音楽は俺にとって世界一だよ。いや、宇宙一だね。俺を変えてくれた人なんだから」
そうだ、肌を重ねる前蒼馬が自分の過去を話してくれた。
蒼馬の中で俺は、好きにさせるくらい彼を救った人物なのだろう。
「だから、本当に湊の演奏を聴けて良かったと思ってる。今も同じ学校に入れてすごく嬉しい。湊の音楽は、俺の人生を変えるほどのたくさんの影響をもたらしたよ」
「……ありがと」
「大丈夫だよ、湊」
俺の頭を、蒼馬が優しく撫でる。
蒼馬の手は温かくて慈愛に溢れている。
こんな風に誰かに頭を撫でられたことはなくて、もっと撫でてほしいと頭を蒼馬の手に寄せる。
「不安なことがあったらすぐに俺に言って。全部話聞くから」
「……なんでお前って、そんなに俺に尽くすの?」
「俺の好きな人で、恋人だからに決まってるだろう?」
人に世話を焼いて尽くすのは大変なはずなのに、蒼馬は幸せそうに笑う。
……蒼馬以外に好きになる人なんて、この先いないだろうな。
頭を撫でてくれて、俺に微笑みかけてくれる幸せを、俺は蕎麦を啜りながら噛み締めた。
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