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第二十七話「東条玲弥」
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◇◇◇
春休みも終わり、二年次に入った。
新入生歓迎会の演奏に俺は第一ヴァイオリンに選ばれた。コンマスは先輩だ。
ピアノは一年のピアノ専攻の中で成績がトップの高築。
まさか、高築の成績がピアノ専攻の中でトップだとは思わなかった。
でも、こないだの定期演奏会の演奏を聞いた奴らは……納得するだろう。
曲目は『ラプソディー・イン・ブルー』。
新入生歓迎会では必ずこの演奏を贈るらしい。
「……」
高築のピアノと演奏を合わせる。
このときだって――高築は才能を俺に見せつけてくる。
初めての定期演奏会で、俺は高築にひどく苛立った。
これが、アルファの才能なんだと。
オメガに才能があったって、アルファには敵いもしないんだと。
それ以来、俺は高築に苛立つようになった。
――もう二度と俺に近づくな。迷惑だ。
八つ当たりするようにそう言ってやった。
高築は傷ついたような顔をしていたけれど、でも苛立ちは抑えきれなかった。
その日はもうすぐ発情期が来る予兆があって、抑制剤を飲んでいたけれど……演奏が終わったくらいのときに突然やってきて、パニックになった俺は資料室に逃げ込んで……二度と近づくなって俺に言われた高築に収めてもらった。
あのときの羞恥を思い出して、演奏が乱れそうになる。
二年になっても、頭の中は高築ばかりだ。
高築のことを考えると演奏も乱れそうになるし、勝手に悶々と考えてしまう自分にイライラしてくる。
「臼庭先輩!」
新入生歓迎会が終わって寮に帰ろうとしたとき、突然腕を掴まれた。
振り返ると、茶髪の男性が俺を必死に見据えている。
釣りがちの猫目で、眉は少し下がり気味。
背丈は……俺より少し高い。
「臼庭先輩……ですよね? 俺、一年のピアノ専攻の東条玲弥です」
「一年が何か用?」
俺が問うと、東条は突然ガバッと頭を下げた。
「お願いします……俺と卒業式でデュオを組んでください!」
……またか。
この話題は何回目だろう。
俺が成績上位に行くとも限らないのに。
歳が一個下でも、鈴響音楽大学の卒業演奏会は大学三年生の成績一位の者であれば、卒業生と混ざって演奏することができる。
こいつは自分が成績一位になれると踏んでいるのだろうか。
だとしても、デュオを組む気なんてさらさらない。
「悪いけど、デュオの相手は決めてない。俺が成績上位を取るかもわからないしな」
「先輩だったら取れますよ! お願いです! 一緒にデュオ組みましょうよ~!」
東条が腕を引っ張ってくる。
……こいつ、初対面なのにさっきからべたべた触ってきてなんなんだ。
「……俺、オメガなんですよ! だから臼庭先輩と少しでも仲良くなりたくて……」
ああ、やっぱり番になりたいって思ってるのか。
俺は腕を掴んでくる東条の手を無理やり引きはがして、冷たい眼差しを向けた。
「番とか特に考えてないから。俺、これから練習室行ってくるから、じゃあな」
「……ふーん。番とか考えてないんですね」
東条はこれ以上引き留める気はないみたいだったから、彼の言葉を無視して練習室へと向かった。
春休みも終わり、二年次に入った。
新入生歓迎会の演奏に俺は第一ヴァイオリンに選ばれた。コンマスは先輩だ。
ピアノは一年のピアノ専攻の中で成績がトップの高築。
まさか、高築の成績がピアノ専攻の中でトップだとは思わなかった。
でも、こないだの定期演奏会の演奏を聞いた奴らは……納得するだろう。
曲目は『ラプソディー・イン・ブルー』。
新入生歓迎会では必ずこの演奏を贈るらしい。
「……」
高築のピアノと演奏を合わせる。
このときだって――高築は才能を俺に見せつけてくる。
初めての定期演奏会で、俺は高築にひどく苛立った。
これが、アルファの才能なんだと。
オメガに才能があったって、アルファには敵いもしないんだと。
それ以来、俺は高築に苛立つようになった。
――もう二度と俺に近づくな。迷惑だ。
八つ当たりするようにそう言ってやった。
高築は傷ついたような顔をしていたけれど、でも苛立ちは抑えきれなかった。
その日はもうすぐ発情期が来る予兆があって、抑制剤を飲んでいたけれど……演奏が終わったくらいのときに突然やってきて、パニックになった俺は資料室に逃げ込んで……二度と近づくなって俺に言われた高築に収めてもらった。
あのときの羞恥を思い出して、演奏が乱れそうになる。
二年になっても、頭の中は高築ばかりだ。
高築のことを考えると演奏も乱れそうになるし、勝手に悶々と考えてしまう自分にイライラしてくる。
「臼庭先輩!」
新入生歓迎会が終わって寮に帰ろうとしたとき、突然腕を掴まれた。
振り返ると、茶髪の男性が俺を必死に見据えている。
釣りがちの猫目で、眉は少し下がり気味。
背丈は……俺より少し高い。
「臼庭先輩……ですよね? 俺、一年のピアノ専攻の東条玲弥です」
「一年が何か用?」
俺が問うと、東条は突然ガバッと頭を下げた。
「お願いします……俺と卒業式でデュオを組んでください!」
……またか。
この話題は何回目だろう。
俺が成績上位に行くとも限らないのに。
歳が一個下でも、鈴響音楽大学の卒業演奏会は大学三年生の成績一位の者であれば、卒業生と混ざって演奏することができる。
こいつは自分が成績一位になれると踏んでいるのだろうか。
だとしても、デュオを組む気なんてさらさらない。
「悪いけど、デュオの相手は決めてない。俺が成績上位を取るかもわからないしな」
「先輩だったら取れますよ! お願いです! 一緒にデュオ組みましょうよ~!」
東条が腕を引っ張ってくる。
……こいつ、初対面なのにさっきからべたべた触ってきてなんなんだ。
「……俺、オメガなんですよ! だから臼庭先輩と少しでも仲良くなりたくて……」
ああ、やっぱり番になりたいって思ってるのか。
俺は腕を掴んでくる東条の手を無理やり引きはがして、冷たい眼差しを向けた。
「番とか特に考えてないから。俺、これから練習室行ってくるから、じゃあな」
「……ふーん。番とか考えてないんですね」
東条はこれ以上引き留める気はないみたいだったから、彼の言葉を無視して練習室へと向かった。
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