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二人の約束

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「なにか大きなペットをミレイユにプレゼントしたらしいな。騎士達が、魔法も剣も凄腕の美女だ、と騒いでいたぞ。」
「私がプレゼントしたんじゃないわよ、勝手にルナが飛び込んできて、私はちょっとミレイユに才能の使い方を教えてあげただけよ。」
「何にしても、良いニュースだ。これで、ミレイユに心強い護衛がいつでもつく事になる。護衛はもちろん続けてもらうが、ティアがいない時もこれで安心だな。」

ただいま、と今日も鍵を掛けたはずの正面玄関から堂々と入ってきて、台所で夕食の支度をしていたティアの唇に軽くキスをすると、早速夕飯の支度を手伝いだしたレイ。

疲れてるなら座ってていいのに、と幾分疲れが見えるレイにティアが気を使うと、一日中会議で、手を動かした方が気がまぎれる、とレイは台所で何やら美味しそうなスープを混ぜているティアの背後から抱きついて頭の上から、ん、いい匂いだ、と嬉しそうに髪にキスをする。

手伝いよりも、ティアの隙をみては抱き寄せてキスをしてくるレイに、手にお玉を持ったティアはされるまま、だ。

今日も美味しい夕食を二人で食べ終わり、サロンのソファに移動した二人は、窓を開いて、外の新鮮な空気を部屋に取り入れた。

「ティア、今日、イリスの使者が王に謁見中、例のポーションの副作用の話をすると逃げ出そうとしてな、そのままその場で倒れた。王妃様の回復と同時刻にな。」

ああ、やっぱり、と驚かず納得したように頷くティアを見て、やはり知っていたか、とレイは話を続ける。

「何とも奇異なタイミングじゃないか、と馬車に残っていたイリス使節団使者の付き添いの者に問い詰めたところ、そこに居たイリスの者全員が御者も含めて、城に押し入ってきた。目的は王族の拉致、人質を取って援助を促す計画だったらしい。」
「ああ、それで私達に向かってきたのね。道理で。」
「王族だと知らずに女官だと思ったらしいが。捕まって、ミレイユが王子の嫁だと知って、もう一度逃げ出した。」
「・・・ごめんなさいね。ルナがちょっと虫の居所が悪くって当事者飲み込んじゃって。尋問まだだったんでしょう?」
「残りの者から、大体は裏が取れた。ファラメルンはマリスの援助を決定した。イリスの王室には正式な抗議文を発表して、残りの使節団の者と共にイリスに送還した。」
「・・・私がコメントするのも何だけど、妥当な処置だと思うわ。」
「もちろん、タダで返すのも何だからな、抗議文をイリスの王室に口頭で伝えるまでは、どんな悪党もこれをつけるとおとなしくなると評判の、眠ると必ず悪夢を見るという魔道具の枷を返礼させてもらった。今頃は必死で、本国に向かっている事だと思われる。」
「・・・・・」

いろんな魔道具があるものね・・・イリスに辿り着けるのは多分早く見積もっても一ヶ月。早馬で港町イファラまで夜を通して走って、そこからは大海を船で、だ。

「だが尋問中、気になる事を聞き出してな。イリスは古代神殿との繋がりを大切にしているらしく、何かと神官の名がしょっちゅう尋問中も出てきた。今度の魔道具の枷をつけても、神官にゲートを開いてもらって転移を実行する、と漏らした。ティア、何の事か意味がわかるか?」

神官、ゲート、転移・・・まさか、本当にできるの?

「古代史の授業で習ったわ。確か古い文献によると、世界中に散らばる古代神聖帝国文明の神殿は、転移ゲートと呼ばれる魔道具で繋がっていて神殿同士を自由に行き来出来た、と。そして高位の神官は世界の何処からでも各地の神殿に転移できる魔道具を持っていた、とも。それに今日ルナが飲み込んだやつは、イリスの使者なんかじゃない、神官だったわ。召喚術で神獣を呼び出すことが出来るのは一部の神官だけのはずよ。」
「ふむ、成る程、どうやら選民意識の塊らしいイリス王室が自分達が古代文明の子孫だと主張している根拠は、その神殿の力が大きいようだな。」
「子孫だか何だか知らないけど、もともと神聖魔術の一環である召喚術をあんな風に歪めて自分達の私利私欲の為に行使するなら、そんなもの神殿ではもうないわ。もともと神殿は、世界が一つの国であった古代神聖帝国の平和を守り、人々を正しく導く為の施設、今の衛兵や騎士団の役割だったはずよ。」
「そうか、分かった。ちょっと考えてみる。俺は書斎に居るから、ティアは風呂に入って来い。」
「うん、ありがとう。じゃあお先に。」

お風呂を終えて、今日もいいお湯だった、と上機嫌で書斎を覗いたが、レイの姿が見えない。

? あれ、トイレかな? ・・ちょっと喉も渇いたし。

台所に行ってお水を飲んで、書斎に帰ってきたが、レイの姿が見えず、サロンにも足を伸ばしてみる。レイはいなかったが開けっ放しの窓から入る風は火照った肌に気持ちよく、ティアは外に出てみた。
広いバルコニーから望む湖は雲の影に潜む月の光にその暗い水面を照らされ、時々水鳥の鳴く声と隣の森からの葉音が聞こえる以外静かな夜だ。
ふらふわ水の精霊達が湖から飛んできて、あっち、と館の側の湖のほとりにある野原な様な場所を指差した。何だろう、とバルコニーから覗いてみると、そこには今日の夕方までは見かけなかったファラドンまでの旅で乗ってきた、魔道具の卵が、デンと野原の真ん中に着陸していた。

もしかして、ずっとここに隠してあったの? 消去の機能で姿を消してあったのね・・・

レイが卵の中にいる、と確信したティアはバルコニーから直接館のサイドに階段があるのに気づき、バスローブ姿で階段を慎重に下りて行った。

「レイ?」
「ここだ。ティア、こっちにおいで。」

扉が開いて、レイが姿を現す。ティアが卵に乗り込むと、レイは辞書のような分厚い本を片手に卵と会話を試している最中だった。

『そうです、転移のボタンを押すと選択した神殿に転移が可能です。その他、本船は神器の元へも転移は可能です。』
『選択? ’選択した神殿’の意味は何だ?』
『この中から任意の神殿を選ぶ事です。』

卵の壁に世界地図が現れ、ほとんどの箇所が赤の文字で古代神聖語で何か書いてあったが、その中で青の文字で書いてある場所が光る。

「あ、これ、ここはイリスの神殿よ。随分大陸の形は違うけど、これが東大陸だとしたら、この川が私たちマリスの国のマリス川、ここがイリスの鉱山、位置的にこの辺りだからきっとこれがそうよ。」
「成る程、やはりイリスの神殿の転移ゲートとやらの魔道具はまだ生きているのだな。」
「ふうーん、これを使って逃げ帰ることが出来るのね。でも、この地図で見る限り西大陸に使えるゲートは無いみたいだし、こちらに来ることは出来ない一方通行ね。」
「よし、差し当たってここまで分かれば今日はよしとするか。『おやすみ』」
『了解です、スリープモードに入ります。グウ、スピー・・・』

魔道具の、やけにコミカルな擬人音を後に元来た階段を上がりながら、ティアはレイに確認した。

「あの魔道具、ずっとここに置いてあったの?」
「ああ、城に他国の使者などが出入りしていたからな、念のため城から直接見えないここに姿を見えなくして停泊した。一応今日で外交使節団の件は片付いたから解除した。」

確かに、この不思議な卵型魔道具はその姿で嫌に目立つし、秘密裏に事を運びたかったレイやファラメルン王室にとってこの場所は、館に隠れて直接王城から見えず且つひらけたちょっとした野原になっていて、卵の着陸地点としては理想的な場所、と言えた。

部屋に戻って、戸締りをするから、と先にレイに風呂に行ってもらい、窓の鍵、玄関のドアともう一度確かめて、ベッドルームに戻り、今日一日外に干したお陰で、お日様の匂いのするシーツに寝そべる。
いつの間にか二人の間で暗黙の了解になっている、ティアの寝る側の枕を抱えてレイを待っていると、ティアとお揃いのバスローブを着たレイがベッドのそばまで来て、恥ずかしそうにレイを見ているティアを見て、ふっと笑う。

「ティア、おいで。」
「ん。」

レイはベッドに乗り上げ膝をついて、素直に身を起こしレイの前に同じように膝立ちするティアの片手を引っ張り、バスローブの前どめまで持ってくると、ティアの目をエメラルドの瞳でじっと見つめる。

「ティア、俺のローブを脱がしてくれ。」

頬を染めながら案外華奢な両手でバスローブの結び留めを解くと、パラリ、レイの逞しい裸身が露わになる。

はあ、いつ見てもいい身体、惚れ惚れしちゃう。

ウットリと胸板に触れてくる細い指に、レイの胸の筋肉がピクリと反応する。
掠れた声で名前を呼ばれて、レイの顔を見上げると、すぐに熱い吐息が降りて来てレイの大きな手がティアの髪に絡まり引き寄せられて唇が塞がれた。

「ん・・んん」

唇が強引にこじ開けられ、レイの熱い舌が侵入してくる。
両手を上げてレイの首に回そうとしたティアの手に、肩にかかった柔らかい生地が触れ、手で白い生地を肩の後ろにそっと押しやり、レイの身体から邪魔なローブをベッドに落とす。

ああ、裸のレイを見てると、なんか身体が熱くなってきちゃった。触りたい・・・

安堵のため息のようなものがティアの口から漏れ、逞しく張りのある背中の肌に手を滑らすとその感触をたっぷり楽しんでから、うなじ、首筋、と手を這わし、レイの柔らかい金糸のような髪に手を差し入れた。

レイ・・・

ティアの身体に回されるレイの腕。熱い舌が絡まって、つう、と溢れた唾液が口の端から溢れもれる。背中を彷徨っていたレイの大きい手が背骨に沿ってだんだん下に降りていく感触。
期待感に思わず身体を震わしたティアの柔らかいお尻の肉をレイはグッと両手で掴み、熱く硬い身体に引き寄せ、軽く持ち上げて柔らかい身体にぐりっと腰を押し付ける。

「あっ・・・ん」

足の間の疼く膨らみに、レイの硬く兆したものがちょうど当たって、じん、と甘くティアの身体が疼いてくる。身体に痺れるような快感が波状に広がって、思わず腰を揺らしてティアもレイの兆しに感じる身体を擦り付けた。

「はぁ・・ん」
「こらこら、そんな煽るな、我慢出来なくなるだろ。」
「我慢なんてしないで。」
「っ・・・煽るなと言っただろうが、俺もいい加減ギリギリなんだからな。」

口づけを解いて、燃えるような目でティアの顔を見つめ、レイは残念そうに熱いティアの身体をゆっくり下ろし自分から引き離す。
そのまま、ティアの細い手を濡れた口元に持ってゆき、華奢な人差し指を舌で舐め上げて、ゆっくり口に含んでゆく。

「んっ・・・」

指先に絡まる熱い舌。指を舐められているだけなのに、胸の動機が早まり、身体が熱く火照ってくる。
思わずレイの片手を同じようにティアの口元に持っていき、濡れた舌で濡らした後、レイがやって見せたようにゆっくり自分の口に含んでいった。
クチュ、チュッと熱い舌でお互い見つめ合いながら、夢中で指をしゃぶり合う。

レイってこんな味がするんだ・・・

レイの指を味わうように舐めて吸っては溜まった唾液を、ゴックンと飲み込む。

「ティア、こら、この俺が珍しく体裁を気にして・・・煽るなといっただろう、このおてんばめ・・・」

ティアの細い指を口から外し、自分の指もティアの口から外して、ティアのローブの結びを解くとそのまま濡れた指が腹部を何度か優しくさすって、ゆっくりショーツと肌の間の隙間に手を差し入れる。

「熱いな、それに充分濡れてる。」
「んんっ・・・レイ」
「俺にも触れてくれ。」

柔らかいひだを指でなぞられ、クチュ、と濡れた音がしてレイの指が蜜を擦りつけるように花びらに触れる。

ひゃん、なんか凄く身体が敏感になってる? 
ぁん・・レイも濡れてる・・・

そっと触れたレイは硬く、その熱い感触に身体の奥が反応して蜜が溢れだし、レイの指をまたしとどに濡らしてゆく。
教えられた通りに優しく先端に触れたティアは、プツ、と押し出された雫を指ですくい、スベスベの丸い先端に広げるように塗っていく。

「や、レイ・・そんなとこ・・・」
「トロけだした、まだ、違和感があるか? とりあえず今日は指一本入るまでだな。」

指、一本?

「きゃぁ、なんか変・・・レイ」
「大丈夫だ、これ以上は入れない。」

蜜が溢れてくる蜜口に、前も感じた違和感を感じる。浅く入れられた指が、今日はもっと深くまで入ってくる。

「あぁぁ・・・んん」

でも、前ほど緊張してないせいか、異物感が少ない? 

「やん、そんな搔き回しちゃ・・・」
「柔らかくなってきたな。よしよし。」

鼻をかじられて上を向いたティアに、深く唇を重ねて、片手はゆっくり蜜口を、クチュ、クチュ、と弄られ、ティアの震える身体をもう一つの逞しい腕が支えてくれる。

膝がガクガクして、ダメ、立ってられない・・・

与えられる刺激に耐えられず崩れそうになるティアの身体をレイはゆっくり支えて背中からベッドに下ろしていく。マットレスに沈み込んだ身体に深く舌を差し入れながら口づけを続けて、レイの熱い舌と蜜口を掻き回す指の動きが重なり、一定のリズムを持ち始める。

「や・・ぁ・・ん・・ん・・」

あ・・ん・・な・に、これ、身体が・・勝手に動・・いちゃ・・

腰が揺れて、レイの身体を引き寄せ、気持ちいい、とだんだん深くなる指の潜入も忘れて、レイ、レイ、と気づけば口づけを夢中で返している。や、ダメ、なんか、そこは・・指が蜜口の浅い壁に当たると、きゅう、身体が締まる感覚がする。

「いい子だ、ご褒美だ。」
「やっ、ダメ、レイ!」

口づけを解いたレイは、指を引き抜いて、ゼイゼイと荒い息をして弛緩しているティアの太ももに手をかけると、グイッと大きく開ける。思わず閉じようとしたティアの身体が突然縄に縛られ、おとなしくしていろ、とレイの声がティアの下腹部から聞こえた。

「ああっ、んんっ」

や、また、そんなとこ、舐めちゃ・・・あ・・

ぴちゃ、くちゅ、水音がさらに大きくなり、身体の震えが止まらない。何度も太ももが弛緩を繰り返し、喉から喘ぎ声が漏れる。
縛られた身体では動くことが最小にしか出来ず、反射的に閉めようとする度に軽く縄が太ももに食い込む。

いやっ、なに? これっ あぁ こんな・・・

花弁の内側をレイの舌が柔らかく辿りだんだんジワリと快感を求めて震える花芽に、触れるか触れないかで何度も舌先でつつかれ焦らされる。
ティアのあられもない声が掠れて、レイが、遂に疼きの中心にある小さな花芽を口に含み、強く吸い込む。

も、ダメ、ああっ!

縛られたまま背中が反って大きく震え、頭がふわっと軽い酩酊感に包まれた。

「よかったか? ここまで蕩けたら、いいだろう。」

いつの間にか身体を縛っていた縄は消えて、レイが最後に蜜口に舌を差し入れて、じゅう、と溢れる蜜を啜る音がする。

恥ずかしい!・・・だけど、身体が動かない・・・・・

ぼんやりした頭で、羞恥心は感じるのだが、なにせ身体は今だに痺れたように震えて動かせない。

レイは、今度は俺を解放してくれ、もう限界だ、となされるままのティアの身体を持ち上げてベッドの端に腰掛けたレイの膝の上に跨がせる。
そのまま熱い屹立を濡れたティアの足の間に腰を持ち上げては擦り付け、目の前にあるティアの胸にレイは齧り付く。

「あ・・は・・」
「ティア・・・」

だんだん激しくなる突き上げに、擦れる水音がベッドルームに響き渡って、何故かティアは滝の洞窟で初めてレイに触れた後、感じた気恥ずかしい思いが蘇ってくる。

ああ、まだあれから、それほど日は経ってないのに、なんて私は変わってしまったんだろう・・・

レイ、大好き、愛してる・・・

切ない想いと共に、身体に甘い痺れが走って、ティアからぎゅうとしがみ付いて震える身体を押し付けると、レイも動きを止めて固く抱きかえしてくれた。

「くっ・・・ティア・・俺の・・・」

どろっとした熱い飛沫が二人にかかり、レイはティアを抱きしめたまま、離さない。
うなじにキスを何度もしながら、ティアの耳元で、よかったぞ、ティア、と囁きそのまま耳を甘齧りする。

レイ・・ああ・・私も気持ちよかった・・・・・

身体をゆっくり持ち上げられて立ち上がってからそっとベッドに下され、レイがバスルームから持ってきた濡れたタオルで身体を優しく拭かれる。

「おやすみ、ティア、俺はもうちょっと仕事だ。終わったら、また戻ってくる。」
「おやすみなさい。頑張ってね。」

既に半分閉じた瞼で、レイにおやすみを言って、幸せそうに毛布に潜り込んだティアの、レイの為に夜はプラチナブロンドに戻している髪に優しくキスを落とし、スースーと眠りだしたティアを起こさないよう、そうっとレイはドアを閉めた。


「ティア、聞いた? 今度の舞踏会、二週間後の夜に開かれるそうよ。早速必要なもの、午後に買い物に行きましょう。二週間ってほんと時間がないわ、もっと後だと思っていたのに!」
「良いわね、私、まだファラドンで買い物に行ったことないのよ。」
「本当に? まあ、それじゃあ、是非行きましょう。美味しいケーキ屋もあるのよ。」
「ケーキ屋さん? わあ、それは楽しみだわ!」

ミレイユとすっかり仲良しになったティナは、毎日昼食前にバラの館を訪れるのがこの一週間程の慣習になっていた。
午前中は騎士の稽古を見学したり、手合わせしたりと訓練を兼ねて過ごし、それが終わるとミレイユの館に来て昼食を一緒に作って食べる。
見聞を深める為にこの国を訪れていることになっているティアの為に、ルナのお礼に、とミレイユはこの国の歴史や慣習、自慢料理などをティアに熱心に教えてくれるのだ。昼食はファラドン名物、ファラ丼ぶりと呼ばれるこの国には珍しい米と呼ばれるパンの代わりの料理であったり、湖で釣れる鱒の料理だったり、とハテにはなかった料理を教えて貰い、復習に夕食に出してレイに褒めてもらったりもした。

今朝も、散々灼けるような愛撫をたっぷりレイから施され、思い出すと胸の先が疼いて、足の間が濡れてくる。毎晩施される、レイのベッドでの愛のレッスンはもう指三本までになり、レイはとても嬉しそうにエメラルド色の瞳を輝かせながら、今度開かれる舞踏会の準備をしろ、と言ってきた。

「今度の舞踏会は表向きは王妃様の回復祝いだが、外交問題が急速に終焉に向かう祝いでもある。無礼講で全ての騎士、めぼしい令嬢が呼ばれているから、ちょうど良い。ティアも出席するつもりで用意するんだぞ。」
「何を用意すればいいの?」
「そうだな、ドレスに靴、か? 髪飾りはティアは要らんだろうから。ふむ、ミレイユ嬢に聞いてみても良いかもな。」
「わかったわ、聞いてみる。」

言ってらっしゃいのキスをして見送った、今朝の会話を思い出して、丁度良かった、これで必要な物が手に入りそうだわ、と腕輪に入っている、今朝レイから渡された支度金に感謝する。
ティアは要らない、と言ったのだが、ルナデドロップの案内報酬だ、正当な報酬なのだから受け取れ、と無理やり渡された支度金。
金貨の数に呆気にとられたティアに、足りないか? と心配そうに聞いてきたレイを、多すぎよ! と言って返そうとしたが、ドレス代は結構掛かるはずだ、いいか、俺の為にも倹約しないでティアにふさわしいドレスを買うんだぞ、と念を押され、渋々レイから金貨を受け取ったのだ。

レイと一緒に踊るとなれば、確かにドレス代は惜しんでいられない。

確か国中の令嬢が出席する、と言ってたわよね。これはちょっと気合入れて着飾らないと、レイに恥をかかせてしまうわ。

今からでも、レイに群がる女性軍団が目に見えるようで、ここはどんな手を使ってでも、レイにふさわしいように装わなくては、とミレイユと一緒に張り切って、生地屋、仕立て屋、洋服屋を見て回る。

そう言えば、チリにもらったドレスもあるのよね、でも・・・

そういえば、すっかり忘れていたが、ミドルの街でチリから助けて貰ったお礼に、と貰ったドレスがあったのだった。
だけど、とりあえず他のドレスと比べて見ても悪くないんじゃないかしら、とりあえず市場調査は大切だ、と買い物心がくすぐられる店々の華やかな看板を見てドレスのショッピングを楽しむことにした。

さすがは王都。店の数は星の数ほどもあるようで、明るい石畳の通りに女性たちが賑やかにお喋りしながら絶えず行き交う活気のある通りを、馬車から降りてミレイユと二人でウキウキ歩いてゆく。
街路樹と花壇が可愛い商店街の端から順番に見て回ったが、今日半日でも店の数のまだ半分も訪れていない。

今日見た店にはこれといったものが無かったわね、これは明日は朝から来るか、とミレイユとお茶を飲んでいると、見慣れた凸凹コンビの姿が店の外に現れた。イゼルとジュノがそのまま可愛らしいケーキ屋に入ってきて、若い女性ばかりの店内を真っ直ぐケーキを頬張っているティアの所まで来た。
いやに店内で浮いている二人はミレイユに失礼、と目礼して、あねさん、ちょっと時間頂けますか? と聞いてきた。

「どうしたの?」
「レイが待ってるんで、一緒に来て頂けますか?」
「わかったわ、ミレイユ、ちょっと抜けていい?」
「もちろんよ、私はやっぱりこのベリーパイも挑戦するわ。」

デザートは別腹、と二つも並んだケーキを前に宣言するミレイユに手を振って、午後の日差しも眩しい中をレイの待つ木陰のベンチへと歩いてゆく。小さな泉の広場のベンチに腰掛けて優雅に足を組むレイに、あちらこちらから女性達がチラチラ熱い視線を注いでいる。

「ティア、ここだ。」
「レイ、どうしたの?」
「すまない、ちょっと任務で、今から急遽出掛ける事になった。」
「! 何処へ? いつまで?」
「任務なので何処へ、は言えないが、二週間後の舞踏会までには絶対帰ってくる。だからいいか、誰に申し込まれても、舞踏会のパートナーは既にいる、と言って断固断るんだぞ! 今朝初めて知ったが、城内の騎士たちと随分仲がいいそうだな。」
「ああ、朝の練習の相手をしてもらっているだけよ。」
「ファンクラブまであると聞いたぞ。」

こらあ、喋ったわね! と咄嗟に目を背けたジュノを睨む。

今朝、いつものように数人の騎士と剣の訓練をしていたところを、ジュノがたまたま通りかかった。
あねさん、浮気ですか? とふざけてジュノが言ったところに、とんでもない、ティアさんはみんなのアイドルです、ファンクラブまであるんですよ、と稽古中の騎士達が漏らしたのだ。

「そんなものがあるなんて、私も知らなかったわよ。」
「まったく、これだから城の男どもは油断がならん。いいか、いくら寛容な俺でも、浮気は許さんぞ! 二週間後の舞踏会で婚約発表だ、いいな!」

!! え? ええっ! 恋人期間すっ飛ばして、いきなり婚約?!

「へ? 婚約??!」
「そうだ、だからちゃんとした格好のドレスを買うんだぞ! ちょっと会議続きで忙しいとこれだ、油断も隙もないな、さっさと発表して、虫がつかないようにしなければ。結婚式は日を改めて相談しよう。」
「えっと、レイ? 恋人期間は!? いきなり婚約で結婚式??」
「ティア、君、今、一体誰と一緒に館に住んでると思ってるんだ? え? 俺は案山子かかしか? 誰の腕の中で昨日の夜も今朝も可愛く鳴いた?」
「こ、こ、このっ、バッカぁ、だからデリカシーが無いと言ってるでしょ!!」

ざわめく人波、目を丸くしたイゼルとジュノを見て、真っ赤になったティアが叫んでレイに憤慨するが、レイは何処吹く風、で易々と暴れるティアを腕に閉じ込める。

「ちゃんと手順は踏んでるだろうが、まさか今更結婚は別、とか言うなよ。」

また口づけで口を塞がれてティアは、うー、と唸るばかりだ。
素早く舌まで入れて短いが深いキスをしてティアを黙らせ、心の浮気も絶対許さん、まあ、帰ったらタップリ身体に聞いてやる、と耳元でささやいて、反省の色が無い! と憤慨するティアを置いて、イゼルとジュノを従え堂々と去ってゆくレイ。

「そっちこそ、浮気したら館の敷居は一歩も跨がせないわよ!」
「ははは。」

ティアの捨てゼリフに、レイは笑って手を振り通りに逞しい姿が消えて行く。

な・ん・で! 私! あんな、あんなひとが好きなの!!・・・

女性率が圧倒的に多い広場のど真ん中で気恥ずかしい思いをさせられた挙句、あっさり放置・・・

いきなりの婚約、結婚宣言、の意味にようやく頭が追いつきはじめ、今頃心臓がばくばくしてきた。熟したトマトより真っ赤になったティア、いつだってレイの情熱には本当驚かされる。

・・・しんみりしたお別れよりかは、マシか・・・

留守の間寂しく無いよう、まさかそこまで気を遣って・・・いやいや、そうだとしても、あれは半分以上性格だ!

あちこちから飛んでくる嫉妬の視線が突き刺さる中、後に残されたティアは木陰のベンチで百面相を繰り返した後、最後にハア~、と大きな溜息をついて、温かい胸の思いを抱えてケーキ屋に帰って行った。

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