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宿屋の一夜
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歩いている道の舗装路がしっかりした人工的なものになり、人家もまばらに見えてきた。
「こちらはファラドンへ続く街道の枠道となります。ミドルは大きな街道が3つ交差した中心に成り立った街ですので。ちょうど円を描くように街が広がっておりまして、街の中心が時計塔広場です。」
「ああ、後、イファラ、とハテまで続く街道だな。交差するのは。」
ファラドンはファラメルンの王都で、王国一の港町イファラの西に位置する。
このミドルはハテやイファラまでの穏やかな気候の田園地帯からの農作物、南下した海岸線沿いの街々からの海産物、魔の森や、大霊山脈沿いに広がる森からの魔石と魔道具、と幅広い物流の流通を中心に商業都市として栄えている。
増えてくる、行き交う人々の視線に、何か見られてる? と、ティアはレイにそっと聞いて見た。
「ねえ、なんか目立ってるような気がするんだけど・・・」
「む、マントを被っておけ。ここはハテより幾分寒いからあまり目立たんだろ。」
動きやすい服は確かに肌の露出が多い。ハテは常夏のように暖かい気候だったので、村では普通の格好だったが、ここでは確かに人々は薄い長袖姿だ。
目立つのはティアの本意に反する。
急いでマントを取り出し、ばさっと服の上から被っておく。幾分視線は減ったような気がするが、やはり視線を感じる。
何だろう、と二人して首をかしげる様子を、チリは呆れて見ていた。
ティアもレイも稀に見る美男美女で、レイは上背もあってどこか気品があり体格もいい。ティアは女性らしいカーブの肢体の持ち主でやはり品がありその神秘な目の色は吸い込まれるようだ。で、その二人が小姓のように、こちらも見目は悪くないチリを連れて歩いているのだから、どうしても目立つ。
マントでティアの身体を隠したくらいでは隠し切れない二人のオーラに、二人ともまるで気づいていない。
「あの、もしよければ、手前どもの店によっていただいて、適当な衣類を用意させましょう。ティアさんも、普通のドレスを着れば今より格好はマシになるかと・・・」
確かにレイは流れの戦士のような旅人の格好だが、ティアはどこかの女性傭兵戦士のような格好だ。ありがたいチリの申し出に二つ返事で頷いて、街の中心へとチリに案内されていった。
建物がだんだんどっしりとした煉瓦造りや石を加工した作りのものが多くなり、人や屋台が行き交う中、久しぶりの大きな街に、ティアは自然と気分が高揚する。
(ミドルの街まで来るのは初めて! 流石大きな街ね、店の数と街の大きさが全然違うわ。)
追っ手を避けるため、なるべくハテから行動範囲を広げていないティア達は、初めから船でハテに流れ着きそのままハテに住み着いて亡命した。人の多い街は10年ぶりとなる。
色とりどり商品が並ぶ商店のショーウィンドウ、外までテーブルが並ぶ食堂。さすが商業都市だけあって何処までも商店がずらっと並ぶ。
商店街にはお洒落な店舗の大きな店が多くなり、女性に好まれそうな宝石店、生地屋、カフェなどが賑やかに連なる通りを曲がると、大きな馬車二台分の専用の道がある大通りに出てきた。
商業都市の大通りらしく、行き交う人々の数は日暮れ時の今もまだ途絶えてはいない。仕事帰りの大勢の客が出入りする、並びの看板も見事な一際目立つ商店街に案内された二人は、チリの後に続いて’ミドルサウス商会’、と看板に書かれた店構えも立派な店に入っていった。
「いらっしゃいませー、あれ、チリ、どうしたんだい一人で? 旦那様は? 何か急ぎかい?」
「はい、実はザビ様が街道で襲われて・・・」
「な、な、何! こりゃ大変だ、おい誰か、商工所へ人をやって・・・」
一気にてんやわんやになりかけた大きな商店の店先で、慌ててチリは番頭らしき男に助けてもらった事情を手短に説明する。
「・・なら、旦那様は、無事に青湖のほとりで応援を待っていらっしゃるのだな?」
「はい、そうです。人を集めてください。場所は私が案内できますので。」
「わかった。おい、聞いていたな、至急ギルドに行って収集をかけろ。何かあるといけないから、ハンターギルドにも行って護衛も集めてくれ。」
番頭らしき年配の男は、指示を出すとすぐにレイとティアに向き直り、丁寧にお辞儀をしてお礼を述べてきた。
「このたびは主人を助けて頂きまして、誠に有難う御座います。わたくし、このミドルサウス商会の番頭をしております、ボッタ、と申します。」
「ああ、あなたがボッタ殿か、ザビ殿から手紙を預かった。」
レイが懐から取り出した手紙に素早く目を通したボッタは、目を丸くして驚いたようにレイとティアを見てまた腰を折って頭を下げた。
「盗賊団まで始末していただけたようで、どうも本当に有難う御座います。私共、商人にとって、誠ありがたいことです。盗賊退治の依頼は出ていたのですが、どうも討伐に向かったハンターも盗賊に加わってしまったようで、あっという間に数が増えてしまって。ギルドで対処しきれなくなったのでお役所に報告を上げていたのですが、大変助かりました。」
「ああ、ついでだったから、いい。ところでもう日も暮れてきたし、宿の世話を頼みたいのだが?」
「もちろんですとも、ご案内させて頂きます。」
「俺はちょっと役所に用事があるから、ティアを先に宿に案内してくれるか? 俺には役所への道のりを教えてくれ。」
「それではティア様のご案内はチリにさせましょう。わたくしも、盗賊団が討伐された旨を報告せねばなりませんから、一緒にまいりましょう。」
そう言って、レイとボッタは店を連れ立って出て行くと、チリがティアを店の奥へ、どうぞこちらへ、と案内してくれた。
色々な品物が綺麗に並べて展示される中、一部はドレス専門のコーナーになっていた。
そこで、チリは、少々お待ち頂けますか、と断りしばらくして店の奥から何やら大きな箱を抱えて戻ってきた。
ティアさんには・・あ、オススメはこちらで、と嬉々として、碧と銀の豪華な刺繍とキラキラ光る宝石の付いた、如何にも高価なドレスを箱から出してくる。
わあ、すごい! 懐かしい・・・・・
わらわらと、女性のメイドがやって来て、あっという間に着替えをさせられる。
靴はこれ、髪飾りは、ついでに下着も、とあれよと言う間に支度が整って、鏡の前に立ったティアに、周りは思わず称賛の溜息をついた。
「当店の今年、一押しの新作ドレスなんです。今年催されるともっぱら噂の王家主催の舞踏会を見込んで作られたドレスの一つなんですけど、手違いでこれだけ本店に送られてきたんですよ。ドレスメーカーが何か目玉商品を、と予算に構わず仕上げた力作の逸品でして、他のドレスと別にファラドンの支店に発送されたはずだったんですが、丁度良かった。」
ほんと何処ぞの姫のようです、いや女神のような美しさでお綺麗です、と褒め称えるメイドたちの声を聞きながら、昔、舞踏会で着たドレスと似たようなドレスに、ティアはつい懐かしくなる。
動くとフワッと裾が軽く広がる舞踏会用の正式なドレス、ティアの気持ちはこの華やかで優美なドレスに強く惹かれた。
(・・・けど、一体何処にこのドレスを着る機会があるというの?)
暫くはドレスの裾を翻したりして懐かしい感触を楽しんでいたティアは、鏡で自分の姿を見直して、こんなドレス着て、ハテにかえれるか!と考え直し、即、却下する。
結局、あれやコレや持って着た豪華なドレスを全部却下して、シンプルな仕立てのいい町娘の青のドレスを選んだ。
うん、こんなものよね・・・今のティアの境遇に相応しい、こざっぱりとした町娘の格好をしたティア。
それを見て、チリは渋い顔をして、勿体無い、こんな似合ってるのに・・・と豪華なドレスに未練タラタラだ。
「ティアさん、品があって美人なんですから、こういうドレスを着れば、それこそ貴族の姫も顔負けなのに、なんと欲のない・・・」
「まあ、ありがとう。でもそのドレスじゃ、街から一歩出た途端、追い剥ぎのいいカモよ。」
「・・・わかりました。じゃあ、とりあえずその安っぽいドレスと、この、ティアさんにピッタリのドレス、二つを差し上げます。いえいえ、将来何が起きるかわかりませんから、念の為。今年の舞踏会は王太子様の花嫁選びを兼ねて国中の目ぼしい貴族が呼ばれるそうですから、レイさんも例外ではないでしょう。」
口を開けて断ろうとしたティアをチリはやんわり遮り、手際良く丁寧に、ティアも心惹かれた碧の一番豪華な舞踏会用ドレスを手早くたたみ、これまた豪華な箱に入れて強引にティアに手渡した。
やっぱり、レイって騎士と名乗らなくても、雰囲気でわかっちゃうのね・・・
「ドレスの為にも貰ってやって下さい。さっきも申し上げた通り、もともとファラドンの支店に配送予定だった最新作ですが、手違いでこのミドル本店に送られてきたドレスで、ここでは着る機会が少なくて買い手もなかなかいませんしね。それに新作ですから目垢もついていません。誂えたようにティアさんにピッタリですし、ティアさんに着られた方がドレスも幸せです。」
「・・・・・」
そりゃー、この舞踏会用ドレスは、買い手を選ぶだろう。
目玉商品と言うだけあってさっきメイドに着せられて思ったが、凝った銀の刺繍に体の線がはっきり出る裁断の仕方、生地は極上の柔らかさで幾重にも重なった目の覚めるような光沢のある碧色、飾りの宝石が惜しげも無く撒き散らした星のようにドレスの至る所でキラキラしている。
いったい幾らで売られるのか想像もつかないが宝石だけでもひと財産吹っ飛びそうな豪華さが漂い、つまり、ドレスそのものが豪華過ぎて、着ている本人を引き立てるどころか下手すると、ドレスそのものだけが目立ってしまうのだ。
「さあ、後ろを向いていますから、さっさと仕舞って下さい。」
「えっ?」
「人払いをさせましたから、見ているものはおりません。」
どうやら、やはり、小さなお飾りの袋を肩から提げただけ、荷物を持っていないティアをチリも詮索する気はないようで、ティアは丁寧にお礼を述べると、ささっとドレスやらついでに付いてきた靴やらを腕輪にしまい込んだ。
そうして、あっさりした青いドレスを着て町娘の格好をしたティアは、従業員全員に店先まで見送られた後、これまた、お食事処、と書かれた美味しそうな店が集まる繁華街の中心にある立派な宿に案内された。
「いらっしゃいませ、お二人様、ご案内・・・あれ?チリさん?」
「ああ、今日は、ちょっとお客様をご案内してきたんだ。一番いい部屋空いてるかい? 部屋代は ’ミドルサウス商会’ につけといてくれ。」
「はい、ただ今、ご案内させていただきます。どうぞこちらへ。」
一階は食堂兼食事処も兼ねている奥へと案内される。チリは宿屋の主人らしい年配の男と話をすると、丁寧に頭を下げてティアに挨拶した。
「それでは、明朝、青湖に出発前に ’何でもからくり屋’ にご案内させて頂きます。今晩はごゆっくりおやすみください。」
「ありがとう、チリ、何から何まで、本当助かったわ。」
「いえいえ、とんでもない。こちらこそ助けて頂いてなんとお礼を申し上げたらいいのか、主人共々大変感謝しております。それでは今日はここで失礼いたします。」
チリが帰っていくと、宿屋の主人に案内されて、階段の上階に登るのかと思いきや、奥の渡り廊下を渡って宿の離れに案内される。離れは、綺麗なこじんまりとした別荘のようなつくりの建物だった。
「ここは、カップル用の離れでして。新婚の方々などがよくご利用になられます。お連れ様がいらっしゃればお食事をお持ちしますので、どうぞごゆっくりお寛ぎください。」
へ?新婚?・・・あ、そういえば、チリにはキスしてるところ見られたっけ?
宿屋の主人が退がると、ティアは何とも気まずそうに、如何にも、な部屋をぐるりと見渡す。
可愛い二人用のテーブルには、花言葉は ’愛’ の高価な赤い花が飾ってあり、小さな庭に出れる窓には淡い色のレースのカーテンがかかっている。
ユラユラ揺れるロマンチックな魔道具の明かりに奥の部屋を覗いてみると、大きなベッドが、ででん、と中央に置いてあり、窓際にはこれも高級そうな魔道具の付いたお風呂が備え付けてある。
(はあ~、まあ否定しなかった私たちも悪いんだけど、ここって、すっごい高そうな高級宿よね・・・・その、離れって・・・・・)
一般の、清潔なベッドが二つ並ぶ普通の宿を期待していただけに、こんな豪華な宿に泊まれる事に、ちょっと戸惑ってしまう。
とりあえずレイが帰って来るまで、待つ、か・・・と、ブーツを脱いでベッドにゴロン、となっていると、トントン、と部屋をノックする音がして、お食事をお持ちしました、とメイドが豪華な食事を運んできた。
テーブルに効率よく皿を並べながら、お連れ様は遅くなるので、先に休んでおくように、との伝言を承りました。お食事が済みましたら、皿は廊下のトレイの上によろしくお願いします、とお辞儀をして退出していった。
そっか、レイは遅くなるんだ、じゃあ遠慮なく・・・
美味しそうな匂いのする温かい湯気立つ出来立ての食事を、ふうふう、と久しぶりのテーブルで食べ、食後、ゆっくりとお湯に浸かって部屋を眺める。
(・・・よく考えたら、私って、魔の森を案内するために雇われたのよね? ということは、レイとはここでお別れ・・・今日が最後の夜・・・・・)
レイと初めて会ったのは、ほんの数日前の筈なのに、もう何年も経ったような不思議な感じがする。
彼を最初は嫌な奴、と思ったけど、どうやら、好奇心が旺盛なだけで、悪いヤツではないらしい、と少し見直した頃がなんだか懐かしい。
(もともと、レイはルナデドロップを採取するのが目的だったのだし、ここまで案内すれば、礼もする、といって押し切られたんだっけ・・・・・)
彼の強引さは、戸惑いもするが、嫌な感じはしない。
むしろ、お別れは寂しい、離れるのがツライ、とひしひし感じる自分がいる。
・・・私、レイに強く惹かれてる・・・・・
一見強引な態度の中にもレイの優しさが感じられて、時々、びっくりするくらい上品な動作も見せる。
例えば食事の食べ方、ふとした時に差し出される手、剣の扱い・・・若いが熟練の剣士の動きをする彼は、騎士とは言え、もともとは育ちがいいお坊っちゃんなのだろう。
婚約者候補が、10人はいるって言ってたし・・・
わかってる、貴族の男性は村娘を相手にしたりは普通しない。
ティアは元、姫の出身ではあったが、祖国がひっくり返っている今の現状、ファラメルンでは一介の村娘だ。
・・・でも、レイが与えてくれるキスや恋人同士の愛撫は、いつでも優しくて情熱的で気持ちいい。
強引ではあるけど、決してティアを傷つける様な乱暴な扱いはされた事がなかった。
(はあ~、嬉しかったのにな、レイに触れてもらって・・・)
でも、一時の慰めだったにしろ、恋も知らずに知らない男に嫁ぐ前にレイと知り合えて良かった・・・
強がってみるものの、心が沈んで悲しくなり、知らずに目尻に溜まった涙を拭って風呂から出る。
(あ、そういえば、寝衣を持って来なかった、宿に泊まるなんて思ってなかったもんね・・・)
でも流石に、服を着たままこんな肌触りのいい上質のコットンシーツが敷いてある豪華なベッドに寝るのは居心地悪い。
もう今更だし、レイに見られて困るところなどないけれど、恥ずかしいから、と下着だけで寝ることにした。
広い大きなベッドに潜り込んで、凝った天井の飾りを眺めてレイを待っているうちに、今日は走りっぱなしで疲れたティアの身体はそのままクーと寝てしまった。
そして、その夜、寝ているベッドが軋む音がかすかに意識に引っかかり、何か声を聞いたような気がした。
「なんで下着なんかつけているんだ。」
優しい手が胸当てを外し、そのまま後ろからふんわりと抱きかかえられたと思うと、まだ、ブツブツ言う声が寝ぼけた頭に響く。
「こっちを向け、顔が見えないじゃないか。」
そうして、何やら大きな手がティアの身体を抱えて、もうすっかり所定の位置になってしまった、レイの肩にティアの頭を乗せて片腕でティアを抱き込むと、満足そうな溜息が聞こえ、そのままティアもまたレイの温もりに包まれて安心したのか意識を手放した。
シーンとした森の音、いつも聞こえる小鳥のさえずりや、木の葉のかすれる音、涼しい風が顔に当たる感じがしない。
異変を感じてパッっと起き上がろう、と、して身体に絡むたくましい腕に、ばたん、とベッドに引き戻されてしまった。
パチリと開けた目に白い天井が映り、あ、森じゃない、宿だった、と今更気づく。
「ん、どうした? トイレか?」
「もう!、デリカシーないわね!、わかってるなら手をのけて。」
低く掠れたレイの寝起きのセクシー声。
このまま一緒にベッドに寝ていたら、その温もりで別れが辛くなる。
ティアは、わざとレイの腕をぐいと押して身体からのけ、絡まる手足から抜け出す。
ぎゃー、なんでまた裸なの?
いつの間にか脱いでしまったらしい胸当てを急いでつけて、レイの裸を意識しないようにしながら、ベッドから遠ざかる。幸いショーツは今朝は無事だった。
ふぁ~、と大きな伸びをしながら上半身を起こしたレイを尻目に、隣の居間に服を持って移動した。
早朝の朝焼けの空はぼんやりとした光をカーテン越しに部屋に投げかけている。
今日も天気良さそう、と身支度をしてから、ティアはドアになっている窓を押し開いて小さな庭にでてみる。
朝の冷たい空気、知らない街の匂い。
海の匂いがしない街の空気は久しぶり・・・
水の女神を象った小さな噴水から水がちょろちょろと出ていて、朝から元気に働いている商人達の喧噪や、荷馬車が通る音、などを和らげていた。
・・・レイ・・・
二人で過ごした時間を思い返し、心の中で名前を呼び、ティアは思わず目を閉じた。
「なんだ、こんな所にいたのか。」
「・・・ちょっと、新鮮な空気を吸いたくて。」
レイの前で感傷的になるのが嫌で、庭のベンチにちょこんと座るティアの横にまだ欠伸をしながら座ったレイは、当たり前のようにティアを抱き寄せ、唇を重ねる。
「おはよう、ティア。」
「ん・・・」
優しく繰り返されるキスに、もうすっかり当たり前のように応えながら、心の何かが溶けてゆく。
はぁ、レイ・・・
大きな手で服の上から胸をそっと掴まれ、乳首をキュっと摘まれると、全身から力が抜けてしまう。
噴水の水がちょろちょろと流れる中、変化がない水と、ティアの反応に気を良くしたレイはキスを深めながら、スカートの中に手を入れてきた。
レイ・・・ダメ、こんな所で・・・
レイの大きな手が太ももの素肌を優しく撫でると、与えられる快楽への期待感で、サッと緊張したのは一瞬で、レイの手を誘うようにそのまま足を開いた。
唇を離したレイはそのまま頬を唇で辿り、耳にそっと囁く。
「いい子だティア、そのまま力を抜いていろ。」
「ふ・・んん・・・」
耳たぶをかじられながら、レイの手がショーツの上から探ってくる。
クチュ、と濡れた音がして、ティアは慌てた。
「やだ、私、トイレに・・・」
「さっき行っただろ。大丈夫だ、これは君が感じている証拠だ。そのまま感じていろ。」
「あ・・んっ」
レイが優しくショーツの上から感じる場所を擦ると、声が漏れて自然と腰を揺らしてしまう。
レイはそのまま、手をゆっくり優しく動かしながら、顔を離して満足そうに頬を染めて身体をくねらすティアの反応を見て楽しんでいる。
もう、レイの意地悪・・・
身体が強い反応をする度、手を緩めて焦らしてくるレイを涙目でティアは睨んでしまう。
「はは、そう睨むな。よし、もっとよくしてやる。」
「えっ?」
いきなり屈み込んだレイは、ティアのスカートをたくし上げて中に潜り込んだ。
「きゃっ、レイ?!」
「しっ、黙ってろ。」
? レイったら、一体何を、あぁぁ・・・
太ももの内側に温かい息を感じて、強ばらせた身体にいきなり鋭い快感が痺れのように走り、そのまま疼く中心を強く吸われて、身体が震えるのが止まらない。
「やっ。だめっ。ダメっ あぁん・・」
全身の力が抜けてクタッとベンチにもたれ掛かったティアの身体を、スカートから顔を出して、ベンチに座り直したレイが支える。
「おおっと、よしよし、イッたな。ここまで感じて力を使わなかったようだな。いい子だ。よし、合格だ。」
優しく頭を撫でる、レイの温かい手を感じながらティアは、心の中で罵った。
当たり前でしょ! 私はレイが好きなんだから。レイが触るから感じるんじゃないの。この鈍感男!
だいたいあんな所に口をつけるなんて!・・・・・
身体に走った甘い痺れは、レイがティアに触れている、と思うからこそなのだ。
濡れたしまったショーツに、ため息をついて、身体に力を入れると、ちょっと下着を変えてくる、と顔を赤くしてレイに告げる。と、またもやレイは素早くチュッと唇にキスをして、ははは、と笑いながら身体を解放してくれた。
レイのばか! 意地悪! 鈍感男! なるべく、考えないようにしてたのに、こんな事されたら嫌でも自覚しちゃうじゃない!
自分はどうやら本格的にレイが好きらしい。
こんな恥ずかしい事までされて、嬉しいと思う自分は相当な間抜けだ・・・下着を変えながら考えるとため息が出る。
最悪・・・あんな意地悪で、鈍感で、婚約者候補が10人もいる奴、好きになるなんて・・・・
その上、今日がお別れの日なのだ。
何で自分は、こんな時、自覚しちゃったんだろう・・・
隣の部屋で着替えている間に運ばれたらしい朝食を、さっきの情熱的な1幕などまるで無かったようにカトラリーを優雅に操り、食欲旺盛に食べている男の姿を見て、つくづく思う。
「おっ、悪いな。あまりにも腹が減ってたんで先に始めてしまった。」
「良いわよ別に、気にしないわ。いただきます。」
なまじ、顔がいいから余計腹が立つ。テーブルマナーもバッチリで、焚き火のそばでスープを頬張っていた姿とのギャップ、ありすぎだ。
だいたい昨夜は、何処に行ってた訳?
幾ら何でも役所があんな遅くまで開いてるはずがない。
深夜まで、ぼんやりレイの帰りを待っていたティアに、あらぬ嫌疑を掛けられたレイ。
まさか、久しぶりの街で黙って羽を伸ばしてきたんじゃ・・・・
ティアの思惑をよそに、レイは迎えにきたチリと一緒に、また、面白そうにティアの明らかに不機嫌そうな顔を見ていた。
「こちらはファラドンへ続く街道の枠道となります。ミドルは大きな街道が3つ交差した中心に成り立った街ですので。ちょうど円を描くように街が広がっておりまして、街の中心が時計塔広場です。」
「ああ、後、イファラ、とハテまで続く街道だな。交差するのは。」
ファラドンはファラメルンの王都で、王国一の港町イファラの西に位置する。
このミドルはハテやイファラまでの穏やかな気候の田園地帯からの農作物、南下した海岸線沿いの街々からの海産物、魔の森や、大霊山脈沿いに広がる森からの魔石と魔道具、と幅広い物流の流通を中心に商業都市として栄えている。
増えてくる、行き交う人々の視線に、何か見られてる? と、ティアはレイにそっと聞いて見た。
「ねえ、なんか目立ってるような気がするんだけど・・・」
「む、マントを被っておけ。ここはハテより幾分寒いからあまり目立たんだろ。」
動きやすい服は確かに肌の露出が多い。ハテは常夏のように暖かい気候だったので、村では普通の格好だったが、ここでは確かに人々は薄い長袖姿だ。
目立つのはティアの本意に反する。
急いでマントを取り出し、ばさっと服の上から被っておく。幾分視線は減ったような気がするが、やはり視線を感じる。
何だろう、と二人して首をかしげる様子を、チリは呆れて見ていた。
ティアもレイも稀に見る美男美女で、レイは上背もあってどこか気品があり体格もいい。ティアは女性らしいカーブの肢体の持ち主でやはり品がありその神秘な目の色は吸い込まれるようだ。で、その二人が小姓のように、こちらも見目は悪くないチリを連れて歩いているのだから、どうしても目立つ。
マントでティアの身体を隠したくらいでは隠し切れない二人のオーラに、二人ともまるで気づいていない。
「あの、もしよければ、手前どもの店によっていただいて、適当な衣類を用意させましょう。ティアさんも、普通のドレスを着れば今より格好はマシになるかと・・・」
確かにレイは流れの戦士のような旅人の格好だが、ティアはどこかの女性傭兵戦士のような格好だ。ありがたいチリの申し出に二つ返事で頷いて、街の中心へとチリに案内されていった。
建物がだんだんどっしりとした煉瓦造りや石を加工した作りのものが多くなり、人や屋台が行き交う中、久しぶりの大きな街に、ティアは自然と気分が高揚する。
(ミドルの街まで来るのは初めて! 流石大きな街ね、店の数と街の大きさが全然違うわ。)
追っ手を避けるため、なるべくハテから行動範囲を広げていないティア達は、初めから船でハテに流れ着きそのままハテに住み着いて亡命した。人の多い街は10年ぶりとなる。
色とりどり商品が並ぶ商店のショーウィンドウ、外までテーブルが並ぶ食堂。さすが商業都市だけあって何処までも商店がずらっと並ぶ。
商店街にはお洒落な店舗の大きな店が多くなり、女性に好まれそうな宝石店、生地屋、カフェなどが賑やかに連なる通りを曲がると、大きな馬車二台分の専用の道がある大通りに出てきた。
商業都市の大通りらしく、行き交う人々の数は日暮れ時の今もまだ途絶えてはいない。仕事帰りの大勢の客が出入りする、並びの看板も見事な一際目立つ商店街に案内された二人は、チリの後に続いて’ミドルサウス商会’、と看板に書かれた店構えも立派な店に入っていった。
「いらっしゃいませー、あれ、チリ、どうしたんだい一人で? 旦那様は? 何か急ぎかい?」
「はい、実はザビ様が街道で襲われて・・・」
「な、な、何! こりゃ大変だ、おい誰か、商工所へ人をやって・・・」
一気にてんやわんやになりかけた大きな商店の店先で、慌ててチリは番頭らしき男に助けてもらった事情を手短に説明する。
「・・なら、旦那様は、無事に青湖のほとりで応援を待っていらっしゃるのだな?」
「はい、そうです。人を集めてください。場所は私が案内できますので。」
「わかった。おい、聞いていたな、至急ギルドに行って収集をかけろ。何かあるといけないから、ハンターギルドにも行って護衛も集めてくれ。」
番頭らしき年配の男は、指示を出すとすぐにレイとティアに向き直り、丁寧にお辞儀をしてお礼を述べてきた。
「このたびは主人を助けて頂きまして、誠に有難う御座います。わたくし、このミドルサウス商会の番頭をしております、ボッタ、と申します。」
「ああ、あなたがボッタ殿か、ザビ殿から手紙を預かった。」
レイが懐から取り出した手紙に素早く目を通したボッタは、目を丸くして驚いたようにレイとティアを見てまた腰を折って頭を下げた。
「盗賊団まで始末していただけたようで、どうも本当に有難う御座います。私共、商人にとって、誠ありがたいことです。盗賊退治の依頼は出ていたのですが、どうも討伐に向かったハンターも盗賊に加わってしまったようで、あっという間に数が増えてしまって。ギルドで対処しきれなくなったのでお役所に報告を上げていたのですが、大変助かりました。」
「ああ、ついでだったから、いい。ところでもう日も暮れてきたし、宿の世話を頼みたいのだが?」
「もちろんですとも、ご案内させて頂きます。」
「俺はちょっと役所に用事があるから、ティアを先に宿に案内してくれるか? 俺には役所への道のりを教えてくれ。」
「それではティア様のご案内はチリにさせましょう。わたくしも、盗賊団が討伐された旨を報告せねばなりませんから、一緒にまいりましょう。」
そう言って、レイとボッタは店を連れ立って出て行くと、チリがティアを店の奥へ、どうぞこちらへ、と案内してくれた。
色々な品物が綺麗に並べて展示される中、一部はドレス専門のコーナーになっていた。
そこで、チリは、少々お待ち頂けますか、と断りしばらくして店の奥から何やら大きな箱を抱えて戻ってきた。
ティアさんには・・あ、オススメはこちらで、と嬉々として、碧と銀の豪華な刺繍とキラキラ光る宝石の付いた、如何にも高価なドレスを箱から出してくる。
わあ、すごい! 懐かしい・・・・・
わらわらと、女性のメイドがやって来て、あっという間に着替えをさせられる。
靴はこれ、髪飾りは、ついでに下着も、とあれよと言う間に支度が整って、鏡の前に立ったティアに、周りは思わず称賛の溜息をついた。
「当店の今年、一押しの新作ドレスなんです。今年催されるともっぱら噂の王家主催の舞踏会を見込んで作られたドレスの一つなんですけど、手違いでこれだけ本店に送られてきたんですよ。ドレスメーカーが何か目玉商品を、と予算に構わず仕上げた力作の逸品でして、他のドレスと別にファラドンの支店に発送されたはずだったんですが、丁度良かった。」
ほんと何処ぞの姫のようです、いや女神のような美しさでお綺麗です、と褒め称えるメイドたちの声を聞きながら、昔、舞踏会で着たドレスと似たようなドレスに、ティアはつい懐かしくなる。
動くとフワッと裾が軽く広がる舞踏会用の正式なドレス、ティアの気持ちはこの華やかで優美なドレスに強く惹かれた。
(・・・けど、一体何処にこのドレスを着る機会があるというの?)
暫くはドレスの裾を翻したりして懐かしい感触を楽しんでいたティアは、鏡で自分の姿を見直して、こんなドレス着て、ハテにかえれるか!と考え直し、即、却下する。
結局、あれやコレや持って着た豪華なドレスを全部却下して、シンプルな仕立てのいい町娘の青のドレスを選んだ。
うん、こんなものよね・・・今のティアの境遇に相応しい、こざっぱりとした町娘の格好をしたティア。
それを見て、チリは渋い顔をして、勿体無い、こんな似合ってるのに・・・と豪華なドレスに未練タラタラだ。
「ティアさん、品があって美人なんですから、こういうドレスを着れば、それこそ貴族の姫も顔負けなのに、なんと欲のない・・・」
「まあ、ありがとう。でもそのドレスじゃ、街から一歩出た途端、追い剥ぎのいいカモよ。」
「・・・わかりました。じゃあ、とりあえずその安っぽいドレスと、この、ティアさんにピッタリのドレス、二つを差し上げます。いえいえ、将来何が起きるかわかりませんから、念の為。今年の舞踏会は王太子様の花嫁選びを兼ねて国中の目ぼしい貴族が呼ばれるそうですから、レイさんも例外ではないでしょう。」
口を開けて断ろうとしたティアをチリはやんわり遮り、手際良く丁寧に、ティアも心惹かれた碧の一番豪華な舞踏会用ドレスを手早くたたみ、これまた豪華な箱に入れて強引にティアに手渡した。
やっぱり、レイって騎士と名乗らなくても、雰囲気でわかっちゃうのね・・・
「ドレスの為にも貰ってやって下さい。さっきも申し上げた通り、もともとファラドンの支店に配送予定だった最新作ですが、手違いでこのミドル本店に送られてきたドレスで、ここでは着る機会が少なくて買い手もなかなかいませんしね。それに新作ですから目垢もついていません。誂えたようにティアさんにピッタリですし、ティアさんに着られた方がドレスも幸せです。」
「・・・・・」
そりゃー、この舞踏会用ドレスは、買い手を選ぶだろう。
目玉商品と言うだけあってさっきメイドに着せられて思ったが、凝った銀の刺繍に体の線がはっきり出る裁断の仕方、生地は極上の柔らかさで幾重にも重なった目の覚めるような光沢のある碧色、飾りの宝石が惜しげも無く撒き散らした星のようにドレスの至る所でキラキラしている。
いったい幾らで売られるのか想像もつかないが宝石だけでもひと財産吹っ飛びそうな豪華さが漂い、つまり、ドレスそのものが豪華過ぎて、着ている本人を引き立てるどころか下手すると、ドレスそのものだけが目立ってしまうのだ。
「さあ、後ろを向いていますから、さっさと仕舞って下さい。」
「えっ?」
「人払いをさせましたから、見ているものはおりません。」
どうやら、やはり、小さなお飾りの袋を肩から提げただけ、荷物を持っていないティアをチリも詮索する気はないようで、ティアは丁寧にお礼を述べると、ささっとドレスやらついでに付いてきた靴やらを腕輪にしまい込んだ。
そうして、あっさりした青いドレスを着て町娘の格好をしたティアは、従業員全員に店先まで見送られた後、これまた、お食事処、と書かれた美味しそうな店が集まる繁華街の中心にある立派な宿に案内された。
「いらっしゃいませ、お二人様、ご案内・・・あれ?チリさん?」
「ああ、今日は、ちょっとお客様をご案内してきたんだ。一番いい部屋空いてるかい? 部屋代は ’ミドルサウス商会’ につけといてくれ。」
「はい、ただ今、ご案内させていただきます。どうぞこちらへ。」
一階は食堂兼食事処も兼ねている奥へと案内される。チリは宿屋の主人らしい年配の男と話をすると、丁寧に頭を下げてティアに挨拶した。
「それでは、明朝、青湖に出発前に ’何でもからくり屋’ にご案内させて頂きます。今晩はごゆっくりおやすみください。」
「ありがとう、チリ、何から何まで、本当助かったわ。」
「いえいえ、とんでもない。こちらこそ助けて頂いてなんとお礼を申し上げたらいいのか、主人共々大変感謝しております。それでは今日はここで失礼いたします。」
チリが帰っていくと、宿屋の主人に案内されて、階段の上階に登るのかと思いきや、奥の渡り廊下を渡って宿の離れに案内される。離れは、綺麗なこじんまりとした別荘のようなつくりの建物だった。
「ここは、カップル用の離れでして。新婚の方々などがよくご利用になられます。お連れ様がいらっしゃればお食事をお持ちしますので、どうぞごゆっくりお寛ぎください。」
へ?新婚?・・・あ、そういえば、チリにはキスしてるところ見られたっけ?
宿屋の主人が退がると、ティアは何とも気まずそうに、如何にも、な部屋をぐるりと見渡す。
可愛い二人用のテーブルには、花言葉は ’愛’ の高価な赤い花が飾ってあり、小さな庭に出れる窓には淡い色のレースのカーテンがかかっている。
ユラユラ揺れるロマンチックな魔道具の明かりに奥の部屋を覗いてみると、大きなベッドが、ででん、と中央に置いてあり、窓際にはこれも高級そうな魔道具の付いたお風呂が備え付けてある。
(はあ~、まあ否定しなかった私たちも悪いんだけど、ここって、すっごい高そうな高級宿よね・・・・その、離れって・・・・・)
一般の、清潔なベッドが二つ並ぶ普通の宿を期待していただけに、こんな豪華な宿に泊まれる事に、ちょっと戸惑ってしまう。
とりあえずレイが帰って来るまで、待つ、か・・・と、ブーツを脱いでベッドにゴロン、となっていると、トントン、と部屋をノックする音がして、お食事をお持ちしました、とメイドが豪華な食事を運んできた。
テーブルに効率よく皿を並べながら、お連れ様は遅くなるので、先に休んでおくように、との伝言を承りました。お食事が済みましたら、皿は廊下のトレイの上によろしくお願いします、とお辞儀をして退出していった。
そっか、レイは遅くなるんだ、じゃあ遠慮なく・・・
美味しそうな匂いのする温かい湯気立つ出来立ての食事を、ふうふう、と久しぶりのテーブルで食べ、食後、ゆっくりとお湯に浸かって部屋を眺める。
(・・・よく考えたら、私って、魔の森を案内するために雇われたのよね? ということは、レイとはここでお別れ・・・今日が最後の夜・・・・・)
レイと初めて会ったのは、ほんの数日前の筈なのに、もう何年も経ったような不思議な感じがする。
彼を最初は嫌な奴、と思ったけど、どうやら、好奇心が旺盛なだけで、悪いヤツではないらしい、と少し見直した頃がなんだか懐かしい。
(もともと、レイはルナデドロップを採取するのが目的だったのだし、ここまで案内すれば、礼もする、といって押し切られたんだっけ・・・・・)
彼の強引さは、戸惑いもするが、嫌な感じはしない。
むしろ、お別れは寂しい、離れるのがツライ、とひしひし感じる自分がいる。
・・・私、レイに強く惹かれてる・・・・・
一見強引な態度の中にもレイの優しさが感じられて、時々、びっくりするくらい上品な動作も見せる。
例えば食事の食べ方、ふとした時に差し出される手、剣の扱い・・・若いが熟練の剣士の動きをする彼は、騎士とは言え、もともとは育ちがいいお坊っちゃんなのだろう。
婚約者候補が、10人はいるって言ってたし・・・
わかってる、貴族の男性は村娘を相手にしたりは普通しない。
ティアは元、姫の出身ではあったが、祖国がひっくり返っている今の現状、ファラメルンでは一介の村娘だ。
・・・でも、レイが与えてくれるキスや恋人同士の愛撫は、いつでも優しくて情熱的で気持ちいい。
強引ではあるけど、決してティアを傷つける様な乱暴な扱いはされた事がなかった。
(はあ~、嬉しかったのにな、レイに触れてもらって・・・)
でも、一時の慰めだったにしろ、恋も知らずに知らない男に嫁ぐ前にレイと知り合えて良かった・・・
強がってみるものの、心が沈んで悲しくなり、知らずに目尻に溜まった涙を拭って風呂から出る。
(あ、そういえば、寝衣を持って来なかった、宿に泊まるなんて思ってなかったもんね・・・)
でも流石に、服を着たままこんな肌触りのいい上質のコットンシーツが敷いてある豪華なベッドに寝るのは居心地悪い。
もう今更だし、レイに見られて困るところなどないけれど、恥ずかしいから、と下着だけで寝ることにした。
広い大きなベッドに潜り込んで、凝った天井の飾りを眺めてレイを待っているうちに、今日は走りっぱなしで疲れたティアの身体はそのままクーと寝てしまった。
そして、その夜、寝ているベッドが軋む音がかすかに意識に引っかかり、何か声を聞いたような気がした。
「なんで下着なんかつけているんだ。」
優しい手が胸当てを外し、そのまま後ろからふんわりと抱きかかえられたと思うと、まだ、ブツブツ言う声が寝ぼけた頭に響く。
「こっちを向け、顔が見えないじゃないか。」
そうして、何やら大きな手がティアの身体を抱えて、もうすっかり所定の位置になってしまった、レイの肩にティアの頭を乗せて片腕でティアを抱き込むと、満足そうな溜息が聞こえ、そのままティアもまたレイの温もりに包まれて安心したのか意識を手放した。
シーンとした森の音、いつも聞こえる小鳥のさえずりや、木の葉のかすれる音、涼しい風が顔に当たる感じがしない。
異変を感じてパッっと起き上がろう、と、して身体に絡むたくましい腕に、ばたん、とベッドに引き戻されてしまった。
パチリと開けた目に白い天井が映り、あ、森じゃない、宿だった、と今更気づく。
「ん、どうした? トイレか?」
「もう!、デリカシーないわね!、わかってるなら手をのけて。」
低く掠れたレイの寝起きのセクシー声。
このまま一緒にベッドに寝ていたら、その温もりで別れが辛くなる。
ティアは、わざとレイの腕をぐいと押して身体からのけ、絡まる手足から抜け出す。
ぎゃー、なんでまた裸なの?
いつの間にか脱いでしまったらしい胸当てを急いでつけて、レイの裸を意識しないようにしながら、ベッドから遠ざかる。幸いショーツは今朝は無事だった。
ふぁ~、と大きな伸びをしながら上半身を起こしたレイを尻目に、隣の居間に服を持って移動した。
早朝の朝焼けの空はぼんやりとした光をカーテン越しに部屋に投げかけている。
今日も天気良さそう、と身支度をしてから、ティアはドアになっている窓を押し開いて小さな庭にでてみる。
朝の冷たい空気、知らない街の匂い。
海の匂いがしない街の空気は久しぶり・・・
水の女神を象った小さな噴水から水がちょろちょろと出ていて、朝から元気に働いている商人達の喧噪や、荷馬車が通る音、などを和らげていた。
・・・レイ・・・
二人で過ごした時間を思い返し、心の中で名前を呼び、ティアは思わず目を閉じた。
「なんだ、こんな所にいたのか。」
「・・・ちょっと、新鮮な空気を吸いたくて。」
レイの前で感傷的になるのが嫌で、庭のベンチにちょこんと座るティアの横にまだ欠伸をしながら座ったレイは、当たり前のようにティアを抱き寄せ、唇を重ねる。
「おはよう、ティア。」
「ん・・・」
優しく繰り返されるキスに、もうすっかり当たり前のように応えながら、心の何かが溶けてゆく。
はぁ、レイ・・・
大きな手で服の上から胸をそっと掴まれ、乳首をキュっと摘まれると、全身から力が抜けてしまう。
噴水の水がちょろちょろと流れる中、変化がない水と、ティアの反応に気を良くしたレイはキスを深めながら、スカートの中に手を入れてきた。
レイ・・・ダメ、こんな所で・・・
レイの大きな手が太ももの素肌を優しく撫でると、与えられる快楽への期待感で、サッと緊張したのは一瞬で、レイの手を誘うようにそのまま足を開いた。
唇を離したレイはそのまま頬を唇で辿り、耳にそっと囁く。
「いい子だティア、そのまま力を抜いていろ。」
「ふ・・んん・・・」
耳たぶをかじられながら、レイの手がショーツの上から探ってくる。
クチュ、と濡れた音がして、ティアは慌てた。
「やだ、私、トイレに・・・」
「さっき行っただろ。大丈夫だ、これは君が感じている証拠だ。そのまま感じていろ。」
「あ・・んっ」
レイが優しくショーツの上から感じる場所を擦ると、声が漏れて自然と腰を揺らしてしまう。
レイはそのまま、手をゆっくり優しく動かしながら、顔を離して満足そうに頬を染めて身体をくねらすティアの反応を見て楽しんでいる。
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身体が強い反応をする度、手を緩めて焦らしてくるレイを涙目でティアは睨んでしまう。
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「えっ?」
いきなり屈み込んだレイは、ティアのスカートをたくし上げて中に潜り込んだ。
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「やっ。だめっ。ダメっ あぁん・・」
全身の力が抜けてクタッとベンチにもたれ掛かったティアの身体を、スカートから顔を出して、ベンチに座り直したレイが支える。
「おおっと、よしよし、イッたな。ここまで感じて力を使わなかったようだな。いい子だ。よし、合格だ。」
優しく頭を撫でる、レイの温かい手を感じながらティアは、心の中で罵った。
当たり前でしょ! 私はレイが好きなんだから。レイが触るから感じるんじゃないの。この鈍感男!
だいたいあんな所に口をつけるなんて!・・・・・
身体に走った甘い痺れは、レイがティアに触れている、と思うからこそなのだ。
濡れたしまったショーツに、ため息をついて、身体に力を入れると、ちょっと下着を変えてくる、と顔を赤くしてレイに告げる。と、またもやレイは素早くチュッと唇にキスをして、ははは、と笑いながら身体を解放してくれた。
レイのばか! 意地悪! 鈍感男! なるべく、考えないようにしてたのに、こんな事されたら嫌でも自覚しちゃうじゃない!
自分はどうやら本格的にレイが好きらしい。
こんな恥ずかしい事までされて、嬉しいと思う自分は相当な間抜けだ・・・下着を変えながら考えるとため息が出る。
最悪・・・あんな意地悪で、鈍感で、婚約者候補が10人もいる奴、好きになるなんて・・・・
その上、今日がお別れの日なのだ。
何で自分は、こんな時、自覚しちゃったんだろう・・・
隣の部屋で着替えている間に運ばれたらしい朝食を、さっきの情熱的な1幕などまるで無かったようにカトラリーを優雅に操り、食欲旺盛に食べている男の姿を見て、つくづく思う。
「おっ、悪いな。あまりにも腹が減ってたんで先に始めてしまった。」
「良いわよ別に、気にしないわ。いただきます。」
なまじ、顔がいいから余計腹が立つ。テーブルマナーもバッチリで、焚き火のそばでスープを頬張っていた姿とのギャップ、ありすぎだ。
だいたい昨夜は、何処に行ってた訳?
幾ら何でも役所があんな遅くまで開いてるはずがない。
深夜まで、ぼんやりレイの帰りを待っていたティアに、あらぬ嫌疑を掛けられたレイ。
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ティアの思惑をよそに、レイは迎えにきたチリと一緒に、また、面白そうにティアの明らかに不機嫌そうな顔を見ていた。
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