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森の湖を渡って
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ピチピチピチ、早起き鳥の囀り声が聞こえてくる。
ピーチク、ピピピッ、夜明け前の早朝、賑やかに囀る鳥たちの声でティアは目が覚めた。
ふあ~、と大きな伸びをして目を開けると、整ったレイの寝顔が真横にある。
ふぎゃあ~!とビックリして声をあげそうになるが、すんでの所で、あ、昨夜、そういえば・・・隣で横になって寝たんだっけ・・・寝る寸前の記憶が蘇り悲鳴を飲み込んだ。
やっぱり黙ってると、カッコいい・・・
まじまじと遠慮なく、寝ているレイの横顔を観察する。
レイが初めてマントを脱いだ時も、予想に反しての精悍な整った顔にちょっと、どころか、かなり驚いたが、こうして間近で見てみると彼の美しさが一層はっきりした。
キリッとした眉や、長い睫毛、笑うと案外優しい口元、顎にはほんの少し無精ひげが生えてきていて、男らしいセクシーさが余計強調される。
ちょっと、なんでこんなにドキドキするの、静まれ私の心臓・・・
久しぶりに高まる胸を急いで自分で戒める。
はあー、こんな感じ久しぶり・・・ふふ・・・
村にも同じくらいの年頃の男達はいるが、皆ちゃんと恋人がいて、ティアはいつも村の祭りでも、一人寂しくジンや年長者と踊る。
恋人、欲しいけど・・・今は無理よね・・・・
ティアの初恋の人はジンだ。
いつでもスウと共にティアの側に控えてくれて、その上戦いとなると強い。父上や母上、可愛い弟と別れなければいけない、と諭された時も、憧れのジンと姉のように慕っていたスウが一緒にいてくれたこそ、耐えられたのだ。一緒に暮らすようになって直ぐに、自分の気持ちはただの憧れでスウとジン、どちらも同じくらい好きだと気付いたが・・・
感傷に浸りがちな心に、湖が目の前に映る。
(さあ、レイが目を覚まさないうちに、水浴びでもしよう。)
昨日、水浴びをしたかったのだが、流石に若い男が見ている前で裸になる訳にもいかず、我慢したのだ。レイがぐっすり眠っているのを確認すると、パパッと服を脱いで湖に飛び込んだ。
(気持ちいいー、ちょっと泳いじゃおう。)
久々の、広々とした誰も見ていない水辺・・・・・
開放感に溢れたティアは、はしゃいで水に飛び込むと、水の精霊たちとまだ暗い湖を泳いで楽しむ。
ハテの海岸は村中から見えるので大っぴらに泳げない。
月は明るいし、もう直ぐ夜明け・・・空もぼんやり赤く朝焼けになってきた。
散々遊んで、はあ、久しぶりに楽しかった・・・・・上機嫌で鼻歌を歌いながら水辺に戻ってきたティアは、揺れる水に映る自分の姿を見て青ざめた。
(しまった! 染料が全部溶けちゃった!)
紫がかった青色の瞳に、水に映る自分の髪は、朝焼けを受けてキラキラ光る眩いプラチナブロンド・・・・これこそがティアが皆の前で泳げない理由でもあった。
この国ではレイのような黄金色のブロンドは少ないが珍しくない、が、ティアの、月の銀光のようなプラチナブロンドは目立ってしょうがない。
父であるマリス大公が国を取り戻そうと反旗を揚げている以上、敵に捕まって足を引っ張る訳にはいかなかった。
(あちゃー、レイが起きる前に、急いで染め直さないと!・・・)
腕輪から染料を取り出し、髪に塗り込んでゆく。
スウが調合した染料は、ちょっとの水では落ちないが、先程、はしゃいで思いっきり水に飛び込んだりしたので、染料は物の見事に全て抜け落ちてしまっていた。
いつか、姫様が国に御帰りになる時、傷んだ髪ではいけない・・・そう言って、スウはわざとキツく染まる染料を調合せず、肌や髪が痛まない自然な染料をティアのために調合してくれている。
ティアの髪は何色にでも染まりやすいが、手に入りやすい炭から取れる黒が一番手っ取り早かった。
(失敗、失敗、・・よし、これでもう大丈夫。)
手早く風魔法で髪を乾かし、念入りに鏡で確認して、ホッと一息をつく。
あっ、まだ服を着てなかった!
急いで脱ぎ散らかして木の枝にかけておいた服を身につけていく。
身なりを整えて、今度こそ、と立ち上がったティアは、レイが寝ていた場所から動いていないのを確かめると、朝ごはんの支度を始めた。
魔法で一晩中燃えていた浄化火でパンを焼き、野菜スープを作って、お茶の葉を煎じて出来上がり。
「レイ!起きて、朝ごはんよ。」
「ん~、わかった。」
目をこすりながら起き上がったレイは、そのまま顔を洗ってくる、と湖の方へ行ってさっぱりした顔で身だしなみを整え、髭を剃って戻ってきた。
「おっ、なんか美味しそうだ。君が作ったのか、ティア?」
「そうよ、さあご飯を食べて出発よ。」
朝ご飯が済むと、目当ての崖まで歩いて行き、崖を覆う蔦を退け、茂みに隠してあった小舟を指差した。
「レイ、これを湖まで運ぶわよ。」
「船?こんな所に?」
「私達が作った船よ。湖を渡るのに使うの。」
「だが、湖にも魔物がいるだろう?」
「水の精霊たちが水路を導いてくれるから大丈夫。それに魔物がいたら前もって教えてくれるわ。」
「へえー、便利な物だな。」
「行くわよ。」
「よし、これを引っ張れ。」
レイがティアも見覚えのある魔法の縄で小舟を縛り、身体強化して二人で縄を引っ張って湖まで小舟を運ぶと、早速船に乗り込む。
「水の精霊たち、湖の主を起こさぬよう、対岸までの静かな航路を示して。」
ティアが頼むと水面に僅かに光った道筋ができ、船がそれを追うように静かに動き出した。
「レイは後ろの見張りをお願い。私は前を見張るわ。これで一気に対岸まで今日は行くわよ。」
「了解だ。」
薄霧が立ち込める静かな早朝の湖の水面を、ティア達の乗った小舟は滑るように前に進んでいく。
魚が跳ねる以外はごく静かな水面の見張りに、時々、眠気覚ましに前後の見張り交代をするが、二人が船ですれ違うたび、お疲れ、と言ってレイが頭を撫ぜてきた。
えっ、ここにきて子供扱い?
最初に撫ぜられた時、睨みつけようとして顔を上げると、びっくりする程優しいエメラルドの瞳に出会い、思わず見とれてとっさに顔を赤らめてしまった・・・・・
落ち着かないじゃない、そんな目で見られたら・・・
それから、すれ違う度何か言いたげな瞳と大きな手で頭を優しく撫でられて、自分の中で、ドキドキ、と脈が早まるのがわかる。平気なふりをして見張りを続けていると、だいぶ出発してから時が経った気がした。
太陽も頭上高く昇りつめ、お昼近くね、もう・・・ティアは、そろそろお腹が空いた、とご飯にする事にした。
「レイ、暫く見張り頼むわ。私はお昼の用意をするから。」
釣り道具を取り出して釣りを始めたティアを、レイはまた好奇の目で見ている。
魚が二人分釣れると、どちらも三枚におろしてぶつ切りにし、一つは指から出した炎であぶり、用意しておいた氷水につけて皿に盛る。ソースをかけて、よし、さてもう一つは、魔道具を出してっと・・・簡易コンロを出して、用意しておいた衣をつけて油で揚げた魚を味見して、よし、こんなものか・・・とレイを呼ぶ。
「レイ、ご飯にしましょ。これは揚げたてでないと美味しくないから、食べるわよ。」
「今行く。」
「はいどうぞ。」
「美味しいな。こんな食べ方初めてだ。」
「ハテは魚料理、美味しいわよ。」
「さすが漁村だな、ほんと美味しい。」
嬉しそうにティアの手料理を頬張るレイ。
昨日も思ったが、こんな野外でも彼の食べ方は丁寧で上品だ。
二人で美味しく釣った魚を食べて一息ついた頃、船の前方を先行していた手の平大の水の精が騒ぎ出した。
「どうしたんだ?」
「前方に、大きな魔物が潜んでいるらしいわ。水の中で待ち伏せしているんですって。」
「避けるか? 正確な場所、わかるか?」
「えっと、ちょっと待って、・・・・こっちの動きを見張っているみたい。水の精が潜んでる場所の上空に行ってくれるそうよ、でも、私は見えるけど、レイ、見えないでしょう、どうしよう、私が何か打ち込もうか?」
「いや、水の中では魔法の威力は半減する。俺は見えないが気配は探れる、大丈夫だ。俺が拘束して湖からひっぱり上げるから、そこにファイアボールでも打ち込んでくれ。水の中に潜り込まれて、逃げられたら厄介だ。一発で決めるぞ。」
「わかった。いつでもいいわよ。」
「よし、行くぞ。」
レイが鋭い目で一瞬空を確認して気配察知でピンポイント、水の中を探ると、手元が一瞬光り、魔物を拘束したのがわかった。
「はっ」
掛け声とともに飛び上がり、飛び石のように空中上に氷が飛び石のように形成され、瞬く間にそれらを使ってレイは上空に駆け上がる。氷の足場にもかかわらず慣れた様子で真下に続く縄をグッと引っ張った。
バッシャン、と水から大きな噛みワニが引き揚げられ、それを目にした途端、ティアの顔が輝く。
「きゃあ、噛みワニ、行くわよ!」
張り切ったティアの周りに魔法陣が浮かび、強力なウオーターカッターで拘束されて動けないワニの頭、四肢と尻尾をスパンと切ってレイに叫ぶ。
「レイ、胴体と尻尾逃がさないで!」
「あ? ああ・・・・」
水にぷかぷかと浮かんだそれらをレイが縄を引っ張って引き寄せ、ティアが受け取って機嫌良く皮を綺麗に削いでゆく。
「噛みワニの皮、水を弾くのと火にも強いから高く売れるのよ。」
「ああ、成る程。水着の材料だと聞いた事があるな。」
これでよし、と削いだ皮を腕輪に収めティアは大満足だ。剥いだ皮の跡を感心したように見ているレイに説明する。
「本当は干して加工すればもっと高く売れるんだけど、私じゃ上手くできないから、取り敢えずこれでOKね。」
「なかなか実りのある旅だな。」
「レイのおかげよ、噛みワニは人気の背中を傷つけないで捕獲するのは難しいんだから。ありがとう。」
「どういたしまして。そうだ、今度これで作った水着、着て見せてくれ。いい仕立て屋知ってるから、プレゼントする。」
「えっ、水着って物凄く高いのでしょう。」
「材料はタダなんだから、仕立て代だけだ。大した事ない。それより約束だ。絶対着て見せてくれ。」
レイのいやに熱心な押しの強い言い方に思わず、うん、いいけど、とティアは頷いた。
ふ~ん、どうやら水着ってこっちでは珍しいのね・・・マリスは水の豊かな国だった為、水着はそれ程珍しく無かった。体にまとわりつかない様、短いスカートの様な造りであったが・・・・
まあ、いいかと気を取り直し、水の旅路の先を急ぐ。
今日の夕方には対岸につかないと、日が沈む真っ暗な魔の湖の中を進むことになる。
水の精霊たちの導きがあっても、魔物に襲われるリスクが桁違いに高くなる夜間の活動はできるだけ避けたかった。
運のいいことに朝からここまでは大した問題もなく、安全にスピードを保って湖を渡って来れた。正確な位置は把握できないが、それほど対岸から離れていない筈だ。
ちょうどお昼時で魔物もお腹が空いたのか、ポツポツと似たような魔物が二人の行く手に現れる。レイと二人で同じような要領で進行の邪魔になる湖の魔物たちを、二人連携で応戦して片付けてゆく。
よかった、思ったよりずっと戦いやすい、レイとは連携とりやすいわ・・・ティアは安心してレイに任せられるところは任せる。
昨日組んだばかりの二人の連携はもう息ピッタリだ。
ティアの、レイへの信頼度は魔物と交戦するたび増してゆく。
そうしてオヤツが欲しくなった頃、対岸が見えてきた。
「凄いな、本当に今日一日で対岸に着いた。」
「でしょう。よおし、上陸するわよ。」
先に船から飛び降りてティアに手を差し出したレイは、軽々とティアを抱き上げて壊れ物でも扱うようにそっと優しく岸に下ろしてくれる。
船から飛び降りようと構えていたティアは、なんだか急に、レディ扱いされて戸惑ってしまう・・・・
なんだか、調子狂っちゃう・・・それにちょっと照れちゃうじゃない・・・
胸の高鳴りは、きっとレイを意識しているせい。
だって、レイって、戦っている時の自信あふれる態度とか普段の物腰がどこか上品で、周りにいる村の男性とは全然違う・・・・
ここまで案内してくれた水の精霊たちにお礼を言って、また船を適当な目印がある茂みに隠し、小腹も空いた、と一休みする事にした。
今朝焼いたパンを取り出して木苺を即席ジャム状に塗り、オヤツを食べると、ふうっと一息満足して、また元気に歩きだす。今度は、鬱蒼とした森を用心して進んでゆく。
ここからは、焦りは禁物、足元も用心しなきゃ・・・
魔の森の奥深く、カサカサ、ピピピッと動物や風の音が絶え間無く聞こえ、生きている森の自然を感じさせる。背の低い潅木の枝を時々払いのけ、警戒しながら森を進む、と、しばらくして、何か近づいてくる気配がした。二人して顔を見合わせ、足をピタと止める。
「レイ・・」
「ああ、俺も感じるが、何も見えないな。」
「すごく近くにいるはずなんだけ・・・キャア」
突然ティアが空中に投げ飛ばされた。
木の根っこが所々に地面から覗いていて、足場の悪い森の中、ティアはとっさに両手をついて体制を整えたものの、かすり傷を負ってしまった。
「ティア!」
「大丈夫、とっさにバリアを張ったから、引っ掻かれたけど、大した事ない。」
「魔物か?」
「う~ん、にしては小さかったような・・・きゃあっ」
また引っ掻かれたティアに駆けつけて、レイが二人の周りに強力な防御バリアを展開する。すると何も見えないのに、ドン、とバリアに何か体当たりした音がした。
「あっ、わかった、さっき微かにキィ、って声が聞こえた。きっとコイツら ’見えザル’ よ。」
「何? あの全身透明化できるサルか? 厄介だな。」
「あいつら光り物が好きだから、きっとこの腕輪を狙ったのね。」
「参ったな、見えないなら気配で探れるが、君を置いていくのは心配だ。傷は深いか?」
「かすり傷よ。私もバリアを張れるから大丈夫、行って。」
「・・・わかった。」
ティアの言葉にレイは剣を構えて気配を探るが、すぐにティアのバリアからドンと音がした。
「コイツらティアだけを狙ってる・・・・ティア、何か色の着く液体を持ってないか、ソースでも何でも。」
(あ、髪の染料!)
「あるわ! はいこれ。」
「よし、くらえ!」
レイがティアから受け取ったボトルを風に乗せて気配がする方へばら撒く。すると30匹ぐらいの黒いサルがたちまち現れた。
「お返しだ!」
ウオーターカッターでいっぺんに見えザルを全滅させたレイは、急いでティアの傷の具合を確かめる。
「大丈夫か?」
「ほんのかすり傷よ、こんなの、傷薬をつければ治るわ。」
「薬を貸せ、俺が塗る。」
「ありがとう。」
親切なレイの申し出にティアは頷いた。
レイは、光が差す森の柔らかい草むらにティアを移動させ、腕の怪我した傷に指でそっと薬を塗っていく。
スウの調合した薬はたちまち傷を治して、ティアのスベスベの肌に傷一つ残ることはない。元通り、滑るような肌触りの綺麗なティアの肌をゆっくり撫で上げ、レイは感嘆したように述べる。
「この薬、何だ? こんな薬見た事ない・・・」
「スウは薬草と魔法にすごく詳しいのよ。若い頃は研究熱心な学者だったって聞いたわ。」
「・・・こんな才能、ハテに眠らせておくのは・・・」
「スウは派手なことを嫌うのよ、研究が出来れば満足って感じ。」
「そうか・・・それにしても・・・」
腕を塗り終わって、膝の後ろの傷に薬を塗ろうとするが、レイは見えない、とティアに側の木に掴まって後ろを向くように言った。
そしてブーツと戦闘用ドレスの合間の素足にできた傷に薬を塗っていく。
「ドレス、破けてるな。中まで引っ掻かれたんじゃないか?」
うー、さっきからお尻の方が沁みるのはそれか!
でもでも、さすがにそこに薬を塗ってもらうのは・・・
「ちょっとこれ、ずらすぞ。ああ、ほらやっぱり、ここ、引っ掻かれたんだろう。」
「ま、まって、それ以上は・・・」
「ティア、かすり傷でも魔物の傷だ。ダメだ、ほっとく訳にはいかない。君じゃ届かないだろ。沁みるんだろうけど、我慢するんだ。ドレスは後から俺が直す。塗るのに邪魔だ。」
「きゃあ!」
「大丈夫、ドレスを切り取っただけだ。痛くないだろ。」
痛くないけど、この格好恥ずかしすぎる!
下半身、ショーツとブーツだけで木に掴まって後ろ向きに立っている・・・・誰もいないけど、いや、レイが居たか、めっちゃ恥ずかしい!
ヒヤリ、と薬が丁寧に太ももの裏に塗られる。レイの塗り方は優しくて、指でそっと抑えるように傷に気を使ってくれているのは、分かる。分かるけど、それと恥ずかしいのは別の問題なのよ・・・なんか身体が熱くなってくる。
「ここもか、ちょっとどけるぞ。」
「ああっ・・」
ショーツまであっけなく脱がされて、すべすべしたお尻にヒンヤリとした薬がレイの暖かい長い指で丁寧に塗られていく。
いっやー、もう勘弁してください。
心の中で叫んだティアは、恥ずかしさと、気持ち良さで涙目だ。レイが優しく丸みのある肌を撫でさすったのにも気がつかない。
「ティア、もう痛いところはないか?」
「ないない、ないです。」
「じゃあ、ほら、服だ。」
(嫌!無理!こンな格好で振り向けないから!)
何もつけてない裸で振り向けるはずもなく、ティアはそこから動けない。
「動けないのか?じゃあ、俺が着せてやる。」
直してもらったショーツを足をあげて履かせてもらうと、ピリっと肌に痛みが走った。
「イっ・・」
「あ、こら、まだ傷が残ってたんだな。どこだ。」
(ダメダメ、絶対恥ずかしくて言えない・・)
モジモジと太ももを閉じたティアを見ても、レイは容赦がなかった。
「こら、ティアだめだ、ちゃんと傷は治すんだ。跡が残ったらどうする」
「でもでも、あの、私、自分で・・・」
「見えないだろ。いい加減に塗ったらダメだ。」
「あのね、でも・・」
「いいから、もう一度、やり直し。」
「キャ、きゃあ。」
「ここか、ちょっと暗くて見えないな、ティア、足もっと広げろ。」
(ふえん。こんな格好・・・)
だけど、ここまできたら治してもらわないと、なんか見られ損のような気がする。
恥ずかしさに全身真っ赤になりながら、少しずつ太ももを広げたティアを満足そうに見て、足の間にレイはそっと手を入れる。
「暗くて見えないからどこが痛いのか、教えてくれ、ここか?」
フルフルと頭を振るティアを見て手を移動させる。
「痛っ」
「ここか、ちょっと待ってろ。」
薬を塗ってもらって、もうこれで勘弁・・・と全身から力を抜いたティアは、突然走った快感に身体をビクンと大きく震わせた。
「もう他に痛いところはないか?」
「やっ、やっ・・・」
秘所を優しく指で確かめるように撫でられて、身体に力が入らない。だんだん奥に入ってくる指に、ダメだ、止めなきゃ、と思うのに、太ももは震えるばかりだ。だんだん花びらのような割れ目の上に濡れた指が上がってきて膨らんだ突起にレイの指がクチュ、と擦れた途端、背を大きく反らして身体に力を入れることができず、ティアそのまま崩れるように倒れた。
「ああっ!・・」
「おっと、大丈夫か。」
ポト、ポト、ぽつん、と一瞬通り雨が降って二人の髪を濡らす。
そのまま動けないティアを柔らかい草の上に寝かせて、レイは修復した服を次々と、ティアに着せて行く。
ゼエゼエと荒い息を吐くティアの側に座り、レイはそっと柔らかいティアの髪を撫ぜている。
ティアの息が整ってくると、前髪をそっとあげて聞いてきた。
「ティア、大丈夫か、動けるか?」
「う・・ん、大丈夫、怪我はもうない。」
「しばらく休憩するか?」
「いや、動ける。ちょっと、待って。」
(あともう少しで、目的地の滝だ。日が暮れる前に・・・これくらい何でもない。)
それにコレは痛くてこうなったんじゃない、さっき身体中に走った快感が原因だ。
恥ずかしてそんな事、とてもじゃないがレイに言えない・・・・そっと起き上がった、ティアを心配そうにレイが見ている。
しっかりしなきゃ、ここは魔の森、油断は命取りになる。
「うん、大丈夫、もう痛くない。さあ出発よ。」
「ああ、無理はするなよ。」
お腹に力を入れて、さもなんでもないように、レイと肩を並べて先を急ぐ。
長年の勘と太陽で位置を確かめながら、しばらく小一時間ほど葉の茂る暗い森を魔物と戦いながら進むと、遂にルナデドロップの自生する目的地、滝がある野原に二人は辿りついた。
ピーチク、ピピピッ、夜明け前の早朝、賑やかに囀る鳥たちの声でティアは目が覚めた。
ふあ~、と大きな伸びをして目を開けると、整ったレイの寝顔が真横にある。
ふぎゃあ~!とビックリして声をあげそうになるが、すんでの所で、あ、昨夜、そういえば・・・隣で横になって寝たんだっけ・・・寝る寸前の記憶が蘇り悲鳴を飲み込んだ。
やっぱり黙ってると、カッコいい・・・
まじまじと遠慮なく、寝ているレイの横顔を観察する。
レイが初めてマントを脱いだ時も、予想に反しての精悍な整った顔にちょっと、どころか、かなり驚いたが、こうして間近で見てみると彼の美しさが一層はっきりした。
キリッとした眉や、長い睫毛、笑うと案外優しい口元、顎にはほんの少し無精ひげが生えてきていて、男らしいセクシーさが余計強調される。
ちょっと、なんでこんなにドキドキするの、静まれ私の心臓・・・
久しぶりに高まる胸を急いで自分で戒める。
はあー、こんな感じ久しぶり・・・ふふ・・・
村にも同じくらいの年頃の男達はいるが、皆ちゃんと恋人がいて、ティアはいつも村の祭りでも、一人寂しくジンや年長者と踊る。
恋人、欲しいけど・・・今は無理よね・・・・
ティアの初恋の人はジンだ。
いつでもスウと共にティアの側に控えてくれて、その上戦いとなると強い。父上や母上、可愛い弟と別れなければいけない、と諭された時も、憧れのジンと姉のように慕っていたスウが一緒にいてくれたこそ、耐えられたのだ。一緒に暮らすようになって直ぐに、自分の気持ちはただの憧れでスウとジン、どちらも同じくらい好きだと気付いたが・・・
感傷に浸りがちな心に、湖が目の前に映る。
(さあ、レイが目を覚まさないうちに、水浴びでもしよう。)
昨日、水浴びをしたかったのだが、流石に若い男が見ている前で裸になる訳にもいかず、我慢したのだ。レイがぐっすり眠っているのを確認すると、パパッと服を脱いで湖に飛び込んだ。
(気持ちいいー、ちょっと泳いじゃおう。)
久々の、広々とした誰も見ていない水辺・・・・・
開放感に溢れたティアは、はしゃいで水に飛び込むと、水の精霊たちとまだ暗い湖を泳いで楽しむ。
ハテの海岸は村中から見えるので大っぴらに泳げない。
月は明るいし、もう直ぐ夜明け・・・空もぼんやり赤く朝焼けになってきた。
散々遊んで、はあ、久しぶりに楽しかった・・・・・上機嫌で鼻歌を歌いながら水辺に戻ってきたティアは、揺れる水に映る自分の姿を見て青ざめた。
(しまった! 染料が全部溶けちゃった!)
紫がかった青色の瞳に、水に映る自分の髪は、朝焼けを受けてキラキラ光る眩いプラチナブロンド・・・・これこそがティアが皆の前で泳げない理由でもあった。
この国ではレイのような黄金色のブロンドは少ないが珍しくない、が、ティアの、月の銀光のようなプラチナブロンドは目立ってしょうがない。
父であるマリス大公が国を取り戻そうと反旗を揚げている以上、敵に捕まって足を引っ張る訳にはいかなかった。
(あちゃー、レイが起きる前に、急いで染め直さないと!・・・)
腕輪から染料を取り出し、髪に塗り込んでゆく。
スウが調合した染料は、ちょっとの水では落ちないが、先程、はしゃいで思いっきり水に飛び込んだりしたので、染料は物の見事に全て抜け落ちてしまっていた。
いつか、姫様が国に御帰りになる時、傷んだ髪ではいけない・・・そう言って、スウはわざとキツく染まる染料を調合せず、肌や髪が痛まない自然な染料をティアのために調合してくれている。
ティアの髪は何色にでも染まりやすいが、手に入りやすい炭から取れる黒が一番手っ取り早かった。
(失敗、失敗、・・よし、これでもう大丈夫。)
手早く風魔法で髪を乾かし、念入りに鏡で確認して、ホッと一息をつく。
あっ、まだ服を着てなかった!
急いで脱ぎ散らかして木の枝にかけておいた服を身につけていく。
身なりを整えて、今度こそ、と立ち上がったティアは、レイが寝ていた場所から動いていないのを確かめると、朝ごはんの支度を始めた。
魔法で一晩中燃えていた浄化火でパンを焼き、野菜スープを作って、お茶の葉を煎じて出来上がり。
「レイ!起きて、朝ごはんよ。」
「ん~、わかった。」
目をこすりながら起き上がったレイは、そのまま顔を洗ってくる、と湖の方へ行ってさっぱりした顔で身だしなみを整え、髭を剃って戻ってきた。
「おっ、なんか美味しそうだ。君が作ったのか、ティア?」
「そうよ、さあご飯を食べて出発よ。」
朝ご飯が済むと、目当ての崖まで歩いて行き、崖を覆う蔦を退け、茂みに隠してあった小舟を指差した。
「レイ、これを湖まで運ぶわよ。」
「船?こんな所に?」
「私達が作った船よ。湖を渡るのに使うの。」
「だが、湖にも魔物がいるだろう?」
「水の精霊たちが水路を導いてくれるから大丈夫。それに魔物がいたら前もって教えてくれるわ。」
「へえー、便利な物だな。」
「行くわよ。」
「よし、これを引っ張れ。」
レイがティアも見覚えのある魔法の縄で小舟を縛り、身体強化して二人で縄を引っ張って湖まで小舟を運ぶと、早速船に乗り込む。
「水の精霊たち、湖の主を起こさぬよう、対岸までの静かな航路を示して。」
ティアが頼むと水面に僅かに光った道筋ができ、船がそれを追うように静かに動き出した。
「レイは後ろの見張りをお願い。私は前を見張るわ。これで一気に対岸まで今日は行くわよ。」
「了解だ。」
薄霧が立ち込める静かな早朝の湖の水面を、ティア達の乗った小舟は滑るように前に進んでいく。
魚が跳ねる以外はごく静かな水面の見張りに、時々、眠気覚ましに前後の見張り交代をするが、二人が船ですれ違うたび、お疲れ、と言ってレイが頭を撫ぜてきた。
えっ、ここにきて子供扱い?
最初に撫ぜられた時、睨みつけようとして顔を上げると、びっくりする程優しいエメラルドの瞳に出会い、思わず見とれてとっさに顔を赤らめてしまった・・・・・
落ち着かないじゃない、そんな目で見られたら・・・
それから、すれ違う度何か言いたげな瞳と大きな手で頭を優しく撫でられて、自分の中で、ドキドキ、と脈が早まるのがわかる。平気なふりをして見張りを続けていると、だいぶ出発してから時が経った気がした。
太陽も頭上高く昇りつめ、お昼近くね、もう・・・ティアは、そろそろお腹が空いた、とご飯にする事にした。
「レイ、暫く見張り頼むわ。私はお昼の用意をするから。」
釣り道具を取り出して釣りを始めたティアを、レイはまた好奇の目で見ている。
魚が二人分釣れると、どちらも三枚におろしてぶつ切りにし、一つは指から出した炎であぶり、用意しておいた氷水につけて皿に盛る。ソースをかけて、よし、さてもう一つは、魔道具を出してっと・・・簡易コンロを出して、用意しておいた衣をつけて油で揚げた魚を味見して、よし、こんなものか・・・とレイを呼ぶ。
「レイ、ご飯にしましょ。これは揚げたてでないと美味しくないから、食べるわよ。」
「今行く。」
「はいどうぞ。」
「美味しいな。こんな食べ方初めてだ。」
「ハテは魚料理、美味しいわよ。」
「さすが漁村だな、ほんと美味しい。」
嬉しそうにティアの手料理を頬張るレイ。
昨日も思ったが、こんな野外でも彼の食べ方は丁寧で上品だ。
二人で美味しく釣った魚を食べて一息ついた頃、船の前方を先行していた手の平大の水の精が騒ぎ出した。
「どうしたんだ?」
「前方に、大きな魔物が潜んでいるらしいわ。水の中で待ち伏せしているんですって。」
「避けるか? 正確な場所、わかるか?」
「えっと、ちょっと待って、・・・・こっちの動きを見張っているみたい。水の精が潜んでる場所の上空に行ってくれるそうよ、でも、私は見えるけど、レイ、見えないでしょう、どうしよう、私が何か打ち込もうか?」
「いや、水の中では魔法の威力は半減する。俺は見えないが気配は探れる、大丈夫だ。俺が拘束して湖からひっぱり上げるから、そこにファイアボールでも打ち込んでくれ。水の中に潜り込まれて、逃げられたら厄介だ。一発で決めるぞ。」
「わかった。いつでもいいわよ。」
「よし、行くぞ。」
レイが鋭い目で一瞬空を確認して気配察知でピンポイント、水の中を探ると、手元が一瞬光り、魔物を拘束したのがわかった。
「はっ」
掛け声とともに飛び上がり、飛び石のように空中上に氷が飛び石のように形成され、瞬く間にそれらを使ってレイは上空に駆け上がる。氷の足場にもかかわらず慣れた様子で真下に続く縄をグッと引っ張った。
バッシャン、と水から大きな噛みワニが引き揚げられ、それを目にした途端、ティアの顔が輝く。
「きゃあ、噛みワニ、行くわよ!」
張り切ったティアの周りに魔法陣が浮かび、強力なウオーターカッターで拘束されて動けないワニの頭、四肢と尻尾をスパンと切ってレイに叫ぶ。
「レイ、胴体と尻尾逃がさないで!」
「あ? ああ・・・・」
水にぷかぷかと浮かんだそれらをレイが縄を引っ張って引き寄せ、ティアが受け取って機嫌良く皮を綺麗に削いでゆく。
「噛みワニの皮、水を弾くのと火にも強いから高く売れるのよ。」
「ああ、成る程。水着の材料だと聞いた事があるな。」
これでよし、と削いだ皮を腕輪に収めティアは大満足だ。剥いだ皮の跡を感心したように見ているレイに説明する。
「本当は干して加工すればもっと高く売れるんだけど、私じゃ上手くできないから、取り敢えずこれでOKね。」
「なかなか実りのある旅だな。」
「レイのおかげよ、噛みワニは人気の背中を傷つけないで捕獲するのは難しいんだから。ありがとう。」
「どういたしまして。そうだ、今度これで作った水着、着て見せてくれ。いい仕立て屋知ってるから、プレゼントする。」
「えっ、水着って物凄く高いのでしょう。」
「材料はタダなんだから、仕立て代だけだ。大した事ない。それより約束だ。絶対着て見せてくれ。」
レイのいやに熱心な押しの強い言い方に思わず、うん、いいけど、とティアは頷いた。
ふ~ん、どうやら水着ってこっちでは珍しいのね・・・マリスは水の豊かな国だった為、水着はそれ程珍しく無かった。体にまとわりつかない様、短いスカートの様な造りであったが・・・・
まあ、いいかと気を取り直し、水の旅路の先を急ぐ。
今日の夕方には対岸につかないと、日が沈む真っ暗な魔の湖の中を進むことになる。
水の精霊たちの導きがあっても、魔物に襲われるリスクが桁違いに高くなる夜間の活動はできるだけ避けたかった。
運のいいことに朝からここまでは大した問題もなく、安全にスピードを保って湖を渡って来れた。正確な位置は把握できないが、それほど対岸から離れていない筈だ。
ちょうどお昼時で魔物もお腹が空いたのか、ポツポツと似たような魔物が二人の行く手に現れる。レイと二人で同じような要領で進行の邪魔になる湖の魔物たちを、二人連携で応戦して片付けてゆく。
よかった、思ったよりずっと戦いやすい、レイとは連携とりやすいわ・・・ティアは安心してレイに任せられるところは任せる。
昨日組んだばかりの二人の連携はもう息ピッタリだ。
ティアの、レイへの信頼度は魔物と交戦するたび増してゆく。
そうしてオヤツが欲しくなった頃、対岸が見えてきた。
「凄いな、本当に今日一日で対岸に着いた。」
「でしょう。よおし、上陸するわよ。」
先に船から飛び降りてティアに手を差し出したレイは、軽々とティアを抱き上げて壊れ物でも扱うようにそっと優しく岸に下ろしてくれる。
船から飛び降りようと構えていたティアは、なんだか急に、レディ扱いされて戸惑ってしまう・・・・
なんだか、調子狂っちゃう・・・それにちょっと照れちゃうじゃない・・・
胸の高鳴りは、きっとレイを意識しているせい。
だって、レイって、戦っている時の自信あふれる態度とか普段の物腰がどこか上品で、周りにいる村の男性とは全然違う・・・・
ここまで案内してくれた水の精霊たちにお礼を言って、また船を適当な目印がある茂みに隠し、小腹も空いた、と一休みする事にした。
今朝焼いたパンを取り出して木苺を即席ジャム状に塗り、オヤツを食べると、ふうっと一息満足して、また元気に歩きだす。今度は、鬱蒼とした森を用心して進んでゆく。
ここからは、焦りは禁物、足元も用心しなきゃ・・・
魔の森の奥深く、カサカサ、ピピピッと動物や風の音が絶え間無く聞こえ、生きている森の自然を感じさせる。背の低い潅木の枝を時々払いのけ、警戒しながら森を進む、と、しばらくして、何か近づいてくる気配がした。二人して顔を見合わせ、足をピタと止める。
「レイ・・」
「ああ、俺も感じるが、何も見えないな。」
「すごく近くにいるはずなんだけ・・・キャア」
突然ティアが空中に投げ飛ばされた。
木の根っこが所々に地面から覗いていて、足場の悪い森の中、ティアはとっさに両手をついて体制を整えたものの、かすり傷を負ってしまった。
「ティア!」
「大丈夫、とっさにバリアを張ったから、引っ掻かれたけど、大した事ない。」
「魔物か?」
「う~ん、にしては小さかったような・・・きゃあっ」
また引っ掻かれたティアに駆けつけて、レイが二人の周りに強力な防御バリアを展開する。すると何も見えないのに、ドン、とバリアに何か体当たりした音がした。
「あっ、わかった、さっき微かにキィ、って声が聞こえた。きっとコイツら ’見えザル’ よ。」
「何? あの全身透明化できるサルか? 厄介だな。」
「あいつら光り物が好きだから、きっとこの腕輪を狙ったのね。」
「参ったな、見えないなら気配で探れるが、君を置いていくのは心配だ。傷は深いか?」
「かすり傷よ。私もバリアを張れるから大丈夫、行って。」
「・・・わかった。」
ティアの言葉にレイは剣を構えて気配を探るが、すぐにティアのバリアからドンと音がした。
「コイツらティアだけを狙ってる・・・・ティア、何か色の着く液体を持ってないか、ソースでも何でも。」
(あ、髪の染料!)
「あるわ! はいこれ。」
「よし、くらえ!」
レイがティアから受け取ったボトルを風に乗せて気配がする方へばら撒く。すると30匹ぐらいの黒いサルがたちまち現れた。
「お返しだ!」
ウオーターカッターでいっぺんに見えザルを全滅させたレイは、急いでティアの傷の具合を確かめる。
「大丈夫か?」
「ほんのかすり傷よ、こんなの、傷薬をつければ治るわ。」
「薬を貸せ、俺が塗る。」
「ありがとう。」
親切なレイの申し出にティアは頷いた。
レイは、光が差す森の柔らかい草むらにティアを移動させ、腕の怪我した傷に指でそっと薬を塗っていく。
スウの調合した薬はたちまち傷を治して、ティアのスベスベの肌に傷一つ残ることはない。元通り、滑るような肌触りの綺麗なティアの肌をゆっくり撫で上げ、レイは感嘆したように述べる。
「この薬、何だ? こんな薬見た事ない・・・」
「スウは薬草と魔法にすごく詳しいのよ。若い頃は研究熱心な学者だったって聞いたわ。」
「・・・こんな才能、ハテに眠らせておくのは・・・」
「スウは派手なことを嫌うのよ、研究が出来れば満足って感じ。」
「そうか・・・それにしても・・・」
腕を塗り終わって、膝の後ろの傷に薬を塗ろうとするが、レイは見えない、とティアに側の木に掴まって後ろを向くように言った。
そしてブーツと戦闘用ドレスの合間の素足にできた傷に薬を塗っていく。
「ドレス、破けてるな。中まで引っ掻かれたんじゃないか?」
うー、さっきからお尻の方が沁みるのはそれか!
でもでも、さすがにそこに薬を塗ってもらうのは・・・
「ちょっとこれ、ずらすぞ。ああ、ほらやっぱり、ここ、引っ掻かれたんだろう。」
「ま、まって、それ以上は・・・」
「ティア、かすり傷でも魔物の傷だ。ダメだ、ほっとく訳にはいかない。君じゃ届かないだろ。沁みるんだろうけど、我慢するんだ。ドレスは後から俺が直す。塗るのに邪魔だ。」
「きゃあ!」
「大丈夫、ドレスを切り取っただけだ。痛くないだろ。」
痛くないけど、この格好恥ずかしすぎる!
下半身、ショーツとブーツだけで木に掴まって後ろ向きに立っている・・・・誰もいないけど、いや、レイが居たか、めっちゃ恥ずかしい!
ヒヤリ、と薬が丁寧に太ももの裏に塗られる。レイの塗り方は優しくて、指でそっと抑えるように傷に気を使ってくれているのは、分かる。分かるけど、それと恥ずかしいのは別の問題なのよ・・・なんか身体が熱くなってくる。
「ここもか、ちょっとどけるぞ。」
「ああっ・・」
ショーツまであっけなく脱がされて、すべすべしたお尻にヒンヤリとした薬がレイの暖かい長い指で丁寧に塗られていく。
いっやー、もう勘弁してください。
心の中で叫んだティアは、恥ずかしさと、気持ち良さで涙目だ。レイが優しく丸みのある肌を撫でさすったのにも気がつかない。
「ティア、もう痛いところはないか?」
「ないない、ないです。」
「じゃあ、ほら、服だ。」
(嫌!無理!こンな格好で振り向けないから!)
何もつけてない裸で振り向けるはずもなく、ティアはそこから動けない。
「動けないのか?じゃあ、俺が着せてやる。」
直してもらったショーツを足をあげて履かせてもらうと、ピリっと肌に痛みが走った。
「イっ・・」
「あ、こら、まだ傷が残ってたんだな。どこだ。」
(ダメダメ、絶対恥ずかしくて言えない・・)
モジモジと太ももを閉じたティアを見ても、レイは容赦がなかった。
「こら、ティアだめだ、ちゃんと傷は治すんだ。跡が残ったらどうする」
「でもでも、あの、私、自分で・・・」
「見えないだろ。いい加減に塗ったらダメだ。」
「あのね、でも・・」
「いいから、もう一度、やり直し。」
「キャ、きゃあ。」
「ここか、ちょっと暗くて見えないな、ティア、足もっと広げろ。」
(ふえん。こんな格好・・・)
だけど、ここまできたら治してもらわないと、なんか見られ損のような気がする。
恥ずかしさに全身真っ赤になりながら、少しずつ太ももを広げたティアを満足そうに見て、足の間にレイはそっと手を入れる。
「暗くて見えないからどこが痛いのか、教えてくれ、ここか?」
フルフルと頭を振るティアを見て手を移動させる。
「痛っ」
「ここか、ちょっと待ってろ。」
薬を塗ってもらって、もうこれで勘弁・・・と全身から力を抜いたティアは、突然走った快感に身体をビクンと大きく震わせた。
「もう他に痛いところはないか?」
「やっ、やっ・・・」
秘所を優しく指で確かめるように撫でられて、身体に力が入らない。だんだん奥に入ってくる指に、ダメだ、止めなきゃ、と思うのに、太ももは震えるばかりだ。だんだん花びらのような割れ目の上に濡れた指が上がってきて膨らんだ突起にレイの指がクチュ、と擦れた途端、背を大きく反らして身体に力を入れることができず、ティアそのまま崩れるように倒れた。
「ああっ!・・」
「おっと、大丈夫か。」
ポト、ポト、ぽつん、と一瞬通り雨が降って二人の髪を濡らす。
そのまま動けないティアを柔らかい草の上に寝かせて、レイは修復した服を次々と、ティアに着せて行く。
ゼエゼエと荒い息を吐くティアの側に座り、レイはそっと柔らかいティアの髪を撫ぜている。
ティアの息が整ってくると、前髪をそっとあげて聞いてきた。
「ティア、大丈夫か、動けるか?」
「う・・ん、大丈夫、怪我はもうない。」
「しばらく休憩するか?」
「いや、動ける。ちょっと、待って。」
(あともう少しで、目的地の滝だ。日が暮れる前に・・・これくらい何でもない。)
それにコレは痛くてこうなったんじゃない、さっき身体中に走った快感が原因だ。
恥ずかしてそんな事、とてもじゃないがレイに言えない・・・・そっと起き上がった、ティアを心配そうにレイが見ている。
しっかりしなきゃ、ここは魔の森、油断は命取りになる。
「うん、大丈夫、もう痛くない。さあ出発よ。」
「ああ、無理はするなよ。」
お腹に力を入れて、さもなんでもないように、レイと肩を並べて先を急ぐ。
長年の勘と太陽で位置を確かめながら、しばらく小一時間ほど葉の茂る暗い森を魔物と戦いながら進むと、遂にルナデドロップの自生する目的地、滝がある野原に二人は辿りついた。
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