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禁断の恋は、トロけるように甘くて…… 3

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濡れた舌がふっくらした花びらをぬるぬると這い回る。
愛液を啜る淫らな音は羞恥で聞きがたいのに、深い愉悦を感じて目の焦点が合わない。小さな花芽をチロチロと嬲られるとイザベルの身体は快感に打ち震えた。

「……あ、……あぁ、……っあ」

舌の感触が大蛇とまるで違う。
分厚い舌は温度があって、舌触りも柔らかくぬるっとしている。気持ち良すぎて、感じすぎて、喘ぎがくぐもってくる。甘く痺れる下腹部の奥が熱い。

「あぁっ、ああっ、そんなに掻き回したらぃやぁ……」
「蜜のように甘い。どこもかしこも……ベルのすべて」

熱い舌が蠢くたび、淫らな水音もだんだん激しくなる。
誰にも許したことのない身体の奥への蹂躙に、たっぷりの蜜がコプッと溢れだした。

「だいぶほぐれてきたな。こんなに溢れさせて……可愛い……」

大蛇は舌を引きぬくと、花芽の包皮を舌先で押しあげ花芯を剥き出にした。ぷりんとあらわになった艶やかな肉芽にかぶり付くと、硬い粒を唇で挟んでちゅううと吸い上げる。

「あぁあっ、まっッ、ふうぅん~~っーー……」

チカチカーー目蓋の裏が点滅した。
脳まで痺れる激しい快感に腰はがくがく、開いた唇から唾液が流れ落ちる。下半身が甘く痺れたまま意識がフワリ浮いて、フヨフヨ浮いたまま下りてこれない。
……ーー何も……考えられない。大蛇の与えてくれる快感にただただ溶けていくーーーー……

「トロけるような芳香だ……ベル……」

剥いた花芽を再び指先で撫でられ、切羽詰まった感覚を逃がそうとイザベルが腰を揺らすと全身がいっせいにざわりと粟立った。

「ダ、めっ、もっ……」
「何度でも、イクがいい」

容赦無く花芽を押しつぶされてしまい、イザベルの腰から甘美な稲妻が駆け上った。真っ白に溶ける。

「ああぁっ……っ」

全身が痙攣して、呼吸が苦しい。
そして急速な落下が始まったが、大蛇が強く抱きしめてくるから溺れそうなイザベルは逞しい身体にぎゅうとすがった。「かったか」と嬉しそうにささやかれても朦朧としたまま、ゆるやかに収縮する陶酔感に身を任せる。太ももに一筋また一筋と濡れ伝う感覚がこの上なく恥ずかしいけど、どうにもできない。
溢れ流れ出る蜜を大蛇が美味しそうに啜っている。
ーーいっそもう、ひと思いに奪って。
イザベルの心の叫びが聞こえたように大蛇は濡れた唇を満足そうに拭うと覆いかぶさってきた。深いキスをすると唇をつけたまま囁いてくる。

「もっと満足させてやりたいが、私も限界だ。魔力が尽きる前に……」

荒い息が顔にかかって、雄の象徴が蜜口にあてがわれた。

「愛しいベル……これで完全に、私のものに」

おぼろげなイザベルは、無意識に灼熱の塊に手を添えた。
この手触り……すべすべして滑らかで熱くてずっと……ずっとずっと指より太いーーーー?

「む、無理ですわ。こんな大きいのっーー裂けてしまいますわ! 小さくしてくださあぁぁっ!」

熱い熱い熱いーー! 
焼けつくような痛みに涙がボロボロ落ちる…………
オーバーサイズだと喘ぎながら訴えたのに、にちゅ、ずずずっと信じられないことに身体の中に硬くなった蛇が入ってくる!
イザベルの太腿を抱えて腰を落とした大蛇は、嬉しそうに笑った。

「そんなにあおってくれるな。どうしてくれよう……いっそ食べてしまおうか」

眩しい笑顔でわざと腰を揺らしてくる。

「ッ、んうっぅぅ」
「くっ、今締め付けても、まだ半分も挿入はいってないぞ。身体の力を抜け、ベル。私を見ろ。見るんだ!」

強い調子で名前を呼ばれて、つかの間、痛みから意識がそれた。
……麗しい顔がひどく汗ばんでいる。
マリンブルーの瞳が威圧感もたっぷりな態度で要求してくる。

「その心も身体も魂も、すべて私のもの。煽ったからには呑み込め。覚悟を決めろ」

ヒリヒリするその熱い視線に胸が踊って。頬も自然と緩んだ。
ーーあぁーーもう、こんな時に…………
はっきり自覚した。
組み敷いた女など、たやすくゴリ押しで奪えるのに。わざわざ受け入れろと迫ってくる。
大好き。そんな気持ちが止まらない……たとえ人の道から外れても、この大蛇を好きにならずにいられない。
強張っていた身体から、ふっと力が抜けた。

「……どうぞご存分に。私のすべては貴方のものですわ」
「よく言った。ーーならば、私も誓いを立てよう」

ーーえ?

いったい何を……と頭に疑問が浮かんだけど、続いて聞こえた朗々とした声にすぐ気を取られる。

「”……我が言葉は言霊、心と魂と共に、未来永劫この命が果てるまでこの誓いを違えることはない。与えられたこの身のすべてで、イザベル・メローズを我がものとする”」

大蛇が口にしたのは、古代魔導語だ。低い声が部屋に響くと同時に二人は虹の魔法陣に包まれた。大蛇が一気に腰を進める。

「痛っーー!」

柔らかい膜が非情に破られ、その痛みはまるで焼印を押し当てられたよう。

「ーー一番奥まで」

けれど子宮口をグチュっと突かれた瞬間、イザベルの唇からこぼれたのは甲高い歓喜だった。

「っあ、ぁぁぁっーー~~っ」

大蛇に埋め尽くされた身体に、焼ける熱がピッタリ嵌ったこの感覚ーーーー!
重量感たっぷりの大蛇が膣中なかに収まった。嘘みたいだけど、嬉しい‼︎
ついに大蛇のモノになった甘い幸福感が押し寄せて、イザベルは自然と微笑んでいた。
生まれて初めて”好き”を意識した大蛇とこれ以上ないくらい密接に繋がっている。痛みや不安をはるか上回る充実感で心も身体もまるまる満たされる。

「うっ、下半身が溶けそうだ」

初めての身体を気遣い、動きを止めた男の額から汗が流れ落ちた。まだ見慣れない男らしい顔にイザベルはキュンとなる。
ーーこの瞬間は、一生忘れないわ。そう思うと愛おしさが溢れ、うっとり目を閉じる。
この背徳な関係が露見すれば、魔獣と交わった魔女だと糾弾される。
流されたこの時を振り返って、後で泣くかもしれない。けれど、後悔だけはしない。もう引き返せないし、引き返したくない。すべてを受け止める覚悟だ。
どちらともなく深いキスを交わした身体に異変を感じたのはその瞬間ときだった。
イザベルのみなぎる魔力が……繋がった唇や身体から、みるみる大蛇に吸い取られていく。それはかつてない感覚で驚きと疑問が湧いたが、イザベルは抵抗せず身を任せた。大蛇に縋りつき震える。

「ん、ふ……んっ……っ」

身体の中心ーー腰の奥で彼が蠢くのを感じる。心臓はバクバクで、深い濃密な交わりに溶けそうーーーー
イザベル……遠くでそう呼ばれた気がした。

「ーーーーったぞ、記憶が戻った‼︎」

突然。重なっていた唇が離れて、大蛇が痛くなるほど強く身体を抱きしめてきた。
ーーふ……ぇ……? ーー記、憶……ってナニーー?
多幸感に囚われてぼうとしたまま大蛇を見ると、マリンブルーの瞳が喜びで輝いている。

「イグナスだ!」
「……イグ、ナス……?」

……どういう意味だろう? 思わず口にしたけど。

「そうだ。我が名はイグナス。イグナス・アルトゥス・ビストルジュ」

とろんと蕩けていた意識がだんだん戻ってきた。
ーー我が名って……あぁ、そうなのね! もしかして、探していたのは…………

「ようやくすべてを思い出せた。ベルのおかげだ」
「……私が……?」

記憶を……? 

「もう一度、呼んでみろ。イグナスと」
「え? あ、イグナス……様?」
「ーー久しぶりだな、そう呼ばれるのは」

魔物なのに名を持つ。
ーーイグナス・アルトゥス・ビストルジュ。とても素敵な響きだ。けど、何かーー……?
大蛇ーーイグナスは、おもむろにイザベルの腰を抱え直すと、眩しい笑顔を見せた。

「私のベル。こうなったからには、離すものか……」
「っぇ……?」
「なるべく優しくする」

「力を抜いていろ」と唇がそっと重なって、イグナスが腰を動かし始めた。挿入のたびに、ずちゅ、ずちゅと恥骨にぶつかり、ひだや花芽が押しつぶされる。初めての感覚に頭に引っかかった違和感も流され、ゆるく刻まれるリズムに身体が揺れた。

「んっ……んんっ……っ」

息苦しいが、イザベルの後頭部を押さえ込んだイグナスはお構いなし。赤く腫れた唇を貪りつくす。舌を絡めては唾液を吸い上げ口蓋まで探ってくる。唇と子宮口なかへの濃厚なキスにイザベルの胸がキュンキュンと疼いた。秘所の鈍い痛みさえも薄らいだ気がする。
勢いを得たイグナスは埋め込んだまま腰を動かしつつ身を起こし、イザベルの膝裏をすくいあげると互いをより深く繋ぎ合わせた。

「こうすると、すごく締まるな……」
「……っん、んぅ……ふぅん……」

浅く深く腰を蠢かせ、角度を変えてはイザベルが上げる艶かしい喘ぎに満足そうに口端を上げる。

「私も快い。とてつもなくよい。……ベル」

グリと内壁の奥を擦られた途端、うなじまでぞくりとする甘い痺れが走って、イザベルは睫毛を震わせた。

「あんっ、んふぅん……そこ……んっっ……」
「ここか……ベルのいいところは」

同じ場所を確かめるように突かれると、くらりと酩酊したように脳まで甘く痺れる。
髪の地肌にイグナスの吐く熱い息がかかった。

「こちらはどうだ………?」

感じた内壁を違う角度からピンポイントで穿たれた。今度は甘い電流が身体を走り抜ける。

「っ~~ぁっ、あん……だ、だめっ~~……」

繋がった部分がきゅんきゅんと収縮して濃密な蜜がとろりと流れ落ちる。強すぎる快感に腰が浮く。
白い喉元を晒したイザベルを狙ったように、イグナスはガブっと噛みついた。急所へを立てられ、たまらず仰け反った拍子に腰がずれるが、長い腕が伸びてきて容赦無く元の位置に引き戻される。
くっきり痕が残った肌をイグナスはねっとり舐めあげ、勝ち誇った笑顔を浮かべた。強靭な腰使いでイザベルをリズミカルに穿って、さらに高みへと押し上げる。
がっちり固定されたまま何度も腰を送り込まれ、淫らな水音がグチュグチュと激しくなるにつれ波状に広がる甘美な痺れしか感じない。
足先まで快楽の波が寄せてきて、だんだん大きくなっていきーーなんだか怖い。
だけど同時に、どうしようもなく気持ちいい。

「やっ……またイっちゃ……怖いっ、の…………」

何を口走っているか、もう分からない。甘いよがりが喉奥から漏れ、意識は混濁して頭の芯までボーっとする。

「何度でもイけ……私の形になるまで」

唸るような低い声。イグナスにいつもの余裕は感じられず、どこか苦しそうなかすれ声に、視線だけ向けると汗で濡れた前髪が目に入る。濃厚なブルーの瞳と目が合った。

「っ……また締まった……すぎる……」

トロンと蕩けて半開きになった唇にイグナスの唇が重なる。深いキスを交わしながら腰を動かされると溶け合う感がますます増して、イグナスが愛おしくて欲が出る。
もっと……もっと激しくしていい。このままずっと抱いて欲しい……

「ベル……こんなに熱く蕩けて……いっそこのまま……」

甘く繋がった唾液の銀糸を赤い口端からそっと拭うと、イグナスは荒い息を吐きながら抜かずに片足を肩に乗せ斜めに抱え直した。体勢を変えギリギリまで引き「……最奥で果てたい」と重い一突きで柔らかい身体を貫く。

「ーーーあぁぁっ‼︎ あっ、ぁっ」
「可愛い声だ。ずっと啼かせたくなる……」

引き締まった腰がたっぷりの蜜でほぐれた膣中なかをぐちゅぐちゅと激しくかき回す。さらに重量感ある突き上げを連続されて、イザベルは腰が抜けそうだ。
熱いーー奥が熱い。痺れて、中もずきずきでーー壊れてしまうーー!
今まで手加減されていた。
そうと気づいて湧き上がる感情を抑えイザベルは目を閉じた。
強靭な腰使いが繰り出す波のリズムに連動して、なまめかしい喘ぎがとめどなく唇から漏れる。迎えるように腰を揺らすとさらに硬く猛った彼に腰を掴まれ、抽送がますます激しくなった。
向けられる情熱を身体中で受け止めて、心までぐちゅぐちゅに溶ける。うつ伏せにさせられ後ろから獣のようにのしかかられたまま攻められ、掴まれた手首の熱さにイザベルは甘美でむせび泣いた。顎を掴まれ振り向かされると本能的に舌を伸ばしキスを交わす。
気持ち……いーーーー…………
感じるのは身体を穿つ熱と、名を呼ぶ声。包まれる体温と彼の匂いだけ。彼以外は何も考えられない。
猛り切ったイグナスはイザベルが最も感じる最奥を攻め続け、イザベルは追い込まれる焦燥感と極まりへの予感で目尻から涙をこぼした。

「んあっ、もうもう、もうだめーーーー……」
「ベルっ、一緒に…………」

ズンっと一際強く突かれてイザベルの目の前で火花が弾けた。世界が淡い白光に包まれる。

「っーーぅ、ん~~~~っ」

甘美な痺れが電撃のように身体中に広がって、足の親指までピンと立った。
声にならない叫びが喉の奥から漏れ、仰け反った身体をイグナスが固く抱きしめてくる。
イザベルの甘い締め付けに耐えるイグナスは低く唸り二度、三度、最奥まで己をねじ込むとそのまま踏みとどまるかに見えた。だが猛烈な勢いで自身を引き抜くと、熱い飛沫がイザベルの背に吐き出される。
ーーあ、そんなーー…………!
その瞬間、泣きだしそうになった。フワフワ浮いた心が急速に萎んでいく。シーツの上にどっと倒れこんだ背に飛び散った白濁は冷たくなって、すぐに温度が消える。
……ーーこれはもしかして……娼婦を抱くやり方ーーーーっ? 
慟哭の衝動で意識が混濁した。
淑女として育てられ、夜の営みは従順にと教えられた。こんな関係では当然かも……だけど。
イザベルの濡れた背中が急激に冷えこむ。
たとえ後ろ指を指され異端と罵られても、膣中で熱い子種を受け止めたかった。それは愛を渇望する本能的な欲求で、極まりの余韻で心臓はドキドキと大きく打ち続けるのに、小さく震えながら心はうなだれる。
けど、そんな胸の内はおくびにも出さずイザベルはゆっくり寝返った。肩まで飛んできた体液を指で掬って舐めてみる。
ぺろり。その妖艶とも言える仕草に傷ついた心を上手に包み隠した。
ーー泣いたりしないわ。後悔はしないと決めたのだから。
再度硬く決心しながら、口内でゆっくり初めての精を味わう。

「……ベル……」

汗を滴らせた美男ーーイグナスはそんなイザベルの頬を指先で辿り、目が合うとふっと目を細めた。

「中で果てたかったが、ベルは令嬢だからな。子ができたら名誉にかかわる」

ーーいいえっ、いいえそんなことーー! 
心からそう言いたかったが、イザベルは黙って微笑んだ。
分かっている。大蛇の子を授かるなんてとんでもない。頭ではそう解っているのに、魔獣のくせにと愚痴りたくなる自分がきっとおかしい。
初めての恋でノボせている……そんな自分にイザベルは目を曇らせる。すると、「悪いようにはしない」と目尻と鼻の頭に男の唇がそっと落ちてきた。

「ーーすまないが、火急の用ができた。メイドに湯浴みを用意させる。ゆっくり休め」
「……いいえ、お気遣いなく。自分でできますわ」

遠ざかる体温が名残惜しくて目をゆっくり開いたら、大蛇の姿に戻ったイグナスが振り返りもせず部屋を出ていくところだった。重い扉がパタンと閉まった途端、イザベルの微笑みが寂しいものになる。
体力も強がりも尽き果てて、力なくベッドに突っ伏した。
……余韻も何もなく、あっけない。置き去りのこの状況は噂に聞くひとときの情事そのものだわ…………
シーツには、イグナスの温もりや匂いまで残っているのに。その温度差がひどくショックだ。
生まれてはじめてすべてをなげうってもいいと思える愛おしさを感じた。
イグナスの果てて汗で湿ったその前髪に触れたくてしょうがなかったのに。腕を伸ばす前に身体を離された。

イグナスにとって、イザベルは偶然拾った人間だ。

分かっているけど、心がついてこない。
すべてを捧げても置いてけぼりにされて。せき止めたはずの涙が勝手に次々と溢れてくる。投げ捨てた道徳感や背徳感がひたひたと忍び寄ってくる。
ーーダメよダメ。こんなマイナス思考は。
そんなことより、これからどうする……だ。
ひどく動揺して心がグラついている。
流れ伝う涙が邪魔で天井を見上げたイザベルは、唇を噛んだ。
部屋の外へ声が漏れないよう結界を張っておくべきだった。落ち込んでる暇はない。
頬を伝う雫を無視して、起きるのがやっとの身体を無理やり動かす。
はしたない声をあんなに派手に上げてしまった。それにそうだ。体液だらけのシーツや夜着もこのままではダメだ。
出血で汚れたシーツや夜着を魔法で清めるが、身体がズキズキ痛んで思うように進まない。けど、メイドに勘づかれるわけにはいかない。
どうして、”好き”になったのがよりによって人外の魔獣ーー大蛇なのだろう。デリカシーの欠片かけらもないし、強引で勝手で……先はいばら道どころか、進むアテさえない。
そう思う一方で魔導書を取り出し、手早く呪文を唱え魔法で浴槽に湯を張る。
ゆっくり浸かると、まだズキズキする身体に湯が地味に染みた。ポチャンと肩まで浸かり湯の中で髪がゆらゆら踊るのをぼんやり見ていると、頭に浮かぶのは大蛇のことばかり。
……イグナス・アルトゥス・ビストルジュ。大蛇はそう名乗った。それに魔力を吸われたあの感じ。今、落ち着いて考えれば思い当たるふしがある。
ツックン。
突然感じたイヤな胸騒ぎに、イザベルは思わず胸を押さえた。こういう悪い予感は、必ず当たってしまう。

「お嬢様ーー? お呼びでしょうか?」

しばらくすると人の気配がしてメイドの呼びかけがかすかに聞こえた。天井を眺めていたイザベルは慌てて頭を湯から戻す。後頭部を湯に浸していたせいでノックを聞き逃したらしい。メイドを寄越したのはイグナスだろう。先にベッドを整えたのはほんと正解だった。
安堵のため息をついたイザベルだが、そのしわがれ声を聞いたメイドたちは女主人が風邪をひいたものと勘違いしてしまい、まあ大変と湯からその身体を引き上げにかかった。初めてのダメージでふらついた身体では、いくら大丈夫と言っても説得力はない。
結局イザベルはメイドたちの手で、整えたばかりのベッドのパリッとしたシーツへ押し戻されたのだった。
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