運命の恋人は銀の騎士〜甘やかな独占愛の千一夜〜

藤谷藍

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恋のかたち

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邸の中へと招き入れたリリアを、ジェイドは黙って見ている。
目を逸らさず、一挙一動見守るその視線に、勇気を出したはずのリリアはつい俯きそうになった。

もしかして……自分から誘うなんて、レディーらしくないと思われた?

けれども扉が閉まった瞬間、温かい胸の中へさらわれてーー……

「ありがとうリリア……大事にすると誓う。ーー寝室はどこだ?」

こめかみに額がコツンと当たり、抑えた声が耳をくすぐる。
ド、キン……と、鼓動が大きく跳ね上がった。

「……一番上の、右の部屋よ」

見つめ返したその眼差しはひどく熱っぽい。
ーー捕らえたからには、もはや逃しはしないーーそう語りかけてきて、まさしく捕食者の野性味がほとばしる。王子として普段なりを潜める獣性を隠しもしない、こんなジェイドはいつにも増して魅力的で……

(っなんて、艶めいてるの……)

凄艶せいえんな雄の本能がにじみでる瞳に、魅入ってしまう。
軽々と抱かれたまま階段を上がる合間も鼓動は早まりーードキドキと鳴る音をごまかすように、その首に回した腕に力を込めた。

このまま、離さないで欲しい。

一直線にベッドに向かったジェイドは、まるで大切な宝を扱うように、そうっとシーツの上に下ろしてくれる。でも、まだ……離れたくない。
腕を解くのを躊躇ためらっていると、ジェイドの目尻が優しく下がる。心を許すキスがふんわり唇に落ちてきた。

「湯浴みをしてくる。湯殿はあの扉の向こうか?」

剣を立てかける姿にハッとした。そんなものを身につけていることにも気づかなかった……きっと、魔導具なのだろう。

「ええ。……でも水は張ってあるけど、冷たいから、温めないと……」
「任せておけ」

問題ないと笑ったその姿は、すでに服を脱ぎはじめている。

「き、きゃあ! ジェイドっ、こんなところで」

(だからどうしてっ、そんなに躊躇ためらいってものがーー)

とっさに手で顔を覆ったリリアの耳が、独り言のような低い笑いを捉える。

「ふっ、何をいまさら……」

扉に消える後ろ姿を指の間からしばらく視線で追ったが、聞こえてくる水音で我に返った。
そうだ。タオルを用意しないと。階下には確か、新しく購入したものがあったはず。

女主人らしくと……、ジェイドをおもてなしするべく、リリアはベッドから起き上がり暗い階段を降りていった。リネン室でお日様の匂いのするタオルを胸に抱きしめ、本当にこれは現実なの?と疑ってしまう。今、この邸でジェイドが湯浴みをしている。そして、今夜はきっとーーさっきからドキドキが止まらないけど、後戻りする気もない。
タオルを握り締めたリリアは、囚われた心のまま『転移』と唱えた。

「え? あっ⁉︎」
「何だ、いやに堂々とした覗きだな」
「きゃあぁ、違うのっ!」

ーー短距離移動の目標を誤った。うっかり直接、湯殿へと転移してしまった。

「そんなに、待ちきれないか?」

面白そうな声とともに湯船からざばっと立ち上がったジェイドは、前を隠しもしない。
裸身のまま堂々とリリアに向きあう。
ーーっそうだった! ジェイドは魔法で身体を乾かせるのだ。
気がついた時には、長い手が伸びてきてリリアの腕からタオルを受け取っていた。笑いながら身体を拭いている。……艶やかで張りのある肌、引き締まった腰の線、しなやかな筋肉が動くたびに逞しい雄の香りがその身体から匂い立つ。

「あ、あの、その……ジェイド……」

言い訳も何も思いつかない。
濡れた髪をかきあげるジェイドのスパイスのような刺激がリリアの脳天を直撃して、翠の瞳を大きく見開いたままだ。

(あ、なっ、私ったら、何てことを……!)

だがジェイドが躊躇なく下半身を乾かし始めて、ようやく頭が現実に戻ってきた。
スラっとした騎士姿の下には、いくら男らしさに溢れる裸体が隠れているからってーー唇は半開きでぼうっと突っ立ったままだなんて、自分はさぞかし間抜けに見えただろう。
リリアが両手を胸の前で握りしめ、心の中で思いっきり身悶えしていると逞しい腕にさっと掬い上げられる。

「待たせたな、さあ行くぞ」
「ま、待って。あの、私も湯浴みを……」
「焦らすつもりか? ここまできて待てるか」

さらに何か言いかけた唇は、強引なキスで塞がれた。そのままベッドに運ばれ、おおかぶさってくる腕の中にやんわり封じ込められてしまう。
上から見下ろしてくるジェイドの髪が……月光に照らされ、ホウッと金属的な淡い青メタリックブルーに光る。覗き込んでくる紫水晶の瞳がリリアを再び捉えると、透明感のあったその瞳がみるみる濃厚な紫紺に色変わりしていった。

「ーー今夜は、待ったも嫌も聞かない。最後のチャンスを与える。ノーなら、今すぐ抵抗しろ」

灼けつくような情熱を孕んだ瞳と低い声に、そのまま何も言えなくなる。
リリアは睫毛を震わせそっと目を伏せた。

「ジェイドの、好きにして……」
「俺に召されるのは、嫌ではないな」

耳朶に熱い息がかかり、ちょっぴりとんがった先っぽをついばまれると背中が甘く痺れる。

「嫌ではない、わ……ジェイドだから良いのよ」
「ならば合意だ」

宣言をした声は落ち着いている。だのに、ジェイドはかぶりつくようなキスをしてきた。大きな手が身体をまさぐり、ドレスをあっという間に脱がされる。
片手で放り投げられたドレスが床にパサっと落ち、白い裸身がジェイドの目の前に晒された。
生まれたままの姿をすべて見せるのは、今夜が初めて、だ……
これまで淫らにドレスをズラされ、下穿きまでも脱がされてはいたが。ドレスは着たまま触れ合っていたから、こんな改まって見られると……、いまさらでも恥ずかしい。
シーツの上で身体をモジッとくねらせたリリアは、思わず太腿を閉じ胸を覆った。
微かに片眉をあげたジェイドは、その手首をやんわり掴んでシーツに縫い付ける。

「こんな美しいものをなぜ隠す。堪能させろ」
「ひぁん……あっ……」

にじみ出る雄々しさがその身体から漂ってきて、リリアの肌にじわじわ喰い込んでくる。唇と唇が触れるか触れないかギリギリで「好きにしていいのだろう?」と囁かれると、それは甘い痺れとなった。
ジェイドはリリアの頬を味見するようについばむと、耳の縁にも柔らかな舌を這わせる。

「リリア、俺にすべてを差し出せ」

飢えていることを隠しもしない低い声を耳に注がれ、背中がぞくっと戦慄わななく。心を鷲掴みにされたリリアは、ジェイドになら何をされてもいいと睫毛を震わせ、甘い吐息で答えた。
満足そうに耳を舐めあげられると、くぐもる吐息で喉が震える。

「美しいな、リリアは。咲き誇る花だな」

膝立ちで見下ろしてくるその顔をまともに見つめ返すのは、とても気恥ずかしい。あられもない格好をすでに何度も見られていても……だ。
でも、この瞬間は覚えておきたい。
紫紺の瞳をリリアはじっと見返す。

「ジェイドも、ーーすごく綺麗だわ」
「綺麗? 男の俺がか……?」

厚い胸板、逞しい腕、引き締まったしなやかな腰の線。
月光に照らされた裸身は逞しい上、今にも飛びかかってきそうな妖しさがある。
ーー襲いかかりたい衝動を無理やり理性で抑え付けている、そんな野性味溢れる姿に見惚れてしまう。

「そう、とってもビューティフルなの」

伸ばした手に応えるように覆いかぶさってきた逞しい身体の肘から上腕へとなぞり、リリアはわざと抑制した声で答えた。だって、そうでもしないと、視界の端でそり立ってくるたぎりにうっかり目がいきそうになる。

ジェイドは明らかに欲情している。
視覚に入ったその象徴に、脳まで痺れそうでリリアの鼓動は乱れ打つ。
張りのある脇腹に手をそろそろと滑らせたら、そうっと握り込まれーーそのまま硬くなっていく彼へと直に導かれた。

「あっ……」
「触れてくれ。俺を感じろ、ここまで煽ったのはリリアだぞ」

熱い。
ヒートした熱気の塊、それが周りの空気まで揺らしているようだ。

熱くて硬くて、猛々たけだけしい。なのに滑らかだなんて、その濃密な空気に手が溶けてしまいそう。
布越しでしか触れていなかった男性器を直接握らされている。のに、嫌悪感どころか……
これからジェイドに愛される。そうと思うと、熱がじわじわ浸透して、恥ずかしさよりもずっと深い欲望が頭をもたげてきた。腰の奥がズクンと疼いてくるのが自分でもわかる。

近づいてくる瞳に自然と閉じた目蓋へ、唇が優しく触れた。ちゅっと音を立てて一旦離れ、すぐさま唇へと重なる。
甘いキスに合わせるリリアの手は、ジェイドをリズミカルにしごく。布越しの触れ合いとは比べ物にならない熱と硬さに、夢中になって手を動かした。唇から唾液が溢れるほど舌がねっとり絡んできて、とろけるほど気持ちのいいキスを延々と交わす。
滑りの良くなった手の中でつぷり濡れてくる先端を無意識に指先でもてあそんでいると、ジェイドが唇を合わせたまま笑った。

「それ以上煽ったら、どうなっても知らんぞ」

首筋に顔を埋め「十分だ、ありがとう」と、肌を鼻先でこすってくる。その唇が首筋を伝い滑らかに滑り落ち、肩先をペロリ舐めとった。柔らかい肌に歯を立て甘噛みしてくる。その間も手は優しく胸の膨らみを揉みしだいていた。

甘やかすように戯れてくる……そんなジェイドの雄の気配に、リリアの身体がぞくっと痺れ、喉をらしあえいだ。

「あぁ、あっ……んっ」

足の間へ手が滑るように進入してくる。分かっていても止めらない。もちろん、止める気もないけど。快感に翻弄されはじめた思考が、バラバラになってくる。
胸の尖りをくすぐるように舌で転がされ、同時に花びらを優しくさすられると、溢れた蜜でヌルッとした感触がとても気持ちいい。ジェイドは滑りをよくした蜜を広げるように、秘所全体を優しく撫で回した。

「濡れているな。気持ちいいか?」
「いいわ……ふぁ……ぁんっ……」

湧き上がる愛蜜と共に、リリアの羞恥心まで押し流される。
ジェイドは時折胸をちゅうと吸い上げながら、そっと触れてくる。ーーもどかしい……とうずく腰の奥に我慢ができず、わずかに身をよじらせると、すぐ蜜壺に浅く指が潜入してきた。クチュリ……

「ん……あ、んん……」

初めは異物感のあった指の抜き差しだが、何度もされるうちに最近はすんなり入るまでになっている。指先が感じる内壁を探り当て軽く擦ると、リリアは甘い声を喉から漏らした。
小さく上がる喘ぎを楽しむように、ジェイドはクチュ、クチュと中を掻き回すが、しばらくしてそおっと指を引き抜いた。
今度は、感じ過ぎて包皮から顔を出した真珠色の花芽を指の腹で押してくる。いじられた小さな突起が、ますますぷくりと膨らんだ。これをされると腰が快感につられ、ビクビクと揺れ動く。
器用に動く指が張りのある表面をさすって、花芽をつまんだ途端、鋭い快感が走った。全身が戦慄わなないて、細かい震えが止まらない。

「あ、あ、ジェイド……」

愛しい名を呼ぶ語尾も、意図せず震えた。

「指だけで達したか、可愛いな」

唇の端を上げ艶やかに笑うジェイドは、愛蜜で濡れそぼった指を美味しそうにペロリと舐める。その仕草に色めく男の色香を感じとり、背筋を優しく撫ぜられたようにぞくり震えた。

「リリアの味がする。甘い」
「そんなこと……いちいち言わなくっても」
「美味だぞ、知りたいだろう?」

恥ずかしげもなく、悪戯っぽく告げてくる顔は満足そうだ。

「肌も甘い香りがする」

長い指を秘所にクチュクチュと出し入れしながら、胸の尖りを口に含んだジェイドはリリアを可愛がり続けた。

「ん、ん……や、あ……」
「俺にこうされるのは、好きだな」
「んん……も、いじ……わる……」

ニヤッと笑った顔はリリアが喘ぐようになじると、さらに笑みを深めた。
「そうか、じゃあ……」と言いながら胸から、脇腹へと唇で優しく辿っていく。

柔らかなへその下にキスしたまま、大きな手を移動させ膝小僧をグイッと広げた。太腿の間に身体を割り入れる。

「枕を貸せ、可愛がってやるから」

腰の下に入れた枕で高くした柔らかな尻をジェイドは両手で撫であげると、果実にかぶりつくように顔を埋めた。とろりとした愛蜜で濡れた花びらを、舐めほぐす。
可憐な花びらを熱い舌が押し広げた。

「俺を欲しがれ、望むままねだって良い」

すっかり膨らんだ花芽を舌先で舐めあげられる。

「んっーー、あ、あ、あっ」

たったそれだけで、身体が甘美に震えた。
フルフル揺れる腰は意図せず、ジェイドの口へさらに押し付けられる。花芽の覆いが押し上げられ、剥き出しになった花芯がヒクついている。ツルッとした表面を柔らかい舌で優しくつつかれると、身体は強い刺激を求め痛いほど疼きだした。
もっと、もっと触れて欲しい。
恥じらい以上に、とても気持ちいい……

リリアの耳には自分であげる喘ぎや、ちゅくちゅくと濡れた音がやけに大きく聞こえだす。
密口に差し入れられた指がうごめきだすとさらにぐちゅぐちゅと淫猥な響きに変化して、甘い声が切羽詰まったものとなった。
ジェイドは容赦無く花芯を吸い上げる。愛液が後から後から滴り落ち、腰ががくがく震え、目の前がチカチカ霞みはじめた。
迫りくる衝動に耐えた瞬間、ひきつった花芯をカリッと甘噛みされてーー。

「ああーーっ」

身体中を走り抜けた甘い痺れに、何も聞こえなくなる。濡れた睫毛が震え、身体は大きくビクンビクンと打ち震えた。目蓋を閉じたまま聞こえてくる、乱れた心臓の音。

「……もっとか? 俺のすべてが欲しいか?」

濡れた秘所にかかる息が、なんだか、くすぐったい。
とくとくと溢れては滴る蜜を丁寧に舌先で舐め取られ、ぽうとしたまま浅い息を繰り返しながら、リリアはふわり笑った。
ちゅ、ちゅといつまでも花びらや花芽へのキスを止めないジェイドに、「ジェイド、もう……」と感じるまま伝えようとするけど。ーーそれ以上何を言えばいいのかが分からない。
言葉に詰まった唇に、身体を起こしたジェイドがそっとキスをくれた。

「こんなに感じやすくて、美しいなんてな……リリア」

ちゅ。ちゅっ。ちゅちゅ。そのままこめかみや頬、肩先に優しく唇が触れてくる。
身体にキスされるのが、どうしようもなく気持ちいい……

待ちかねたようにその逞しい身体の方へと両腕を伸ばすと、力強く抱きしめ返してくれる。
腕の中の存在が、愛しくて恋しくてしょうがない。

「俺のものにする」

鍛えられたしなやかな身体が、可憐な白い身体を組み敷いた。

「きて……お願いーー……」

ジェイドを見上げると、こめかみから汗が落ちてきた。いつもの落ち着いた様子はそこにない。瞳を細め己の何かを押さえつけるよう、ゆっくり深く呼吸している。
片膝を抱えられたリリアの動悸が、狂ったように早打ちーー蕩けた密口にヌチュと熱い熱量が当てられた。と思ったら、手を握り締めたジェイドがゆっくり腰を沈める。

「ーーっ……」

リリアは大きく目を見開いた。
初めて感じる圧迫感と、つぷっと鋭く走った痛みにーー喉元がそり小さな喘ぎが漏れる。
すべてを受け止めたい。

「は、い……った……」

低く抑えた声が勝利の宣言を告げた。
瞬間、溶け合うような一体感に包まれるーー……
その間にも小さな抽送を繰り返し、ジェイドはリリアの中に自分を完全に馴染ませるよう深く腰を進めてくる。やがて動きが止まり二人は完全に一つとなって溶けた。

「……はっ……」
「っーー、ぜんぶ……、ぜんぶ挿入はいったの……?」

身体のナカが焼けるように熱い。なのにゾクゾクする震えが止まらない。

「ーーああ、すべてだ」

(あ、もう……ほんと苦……し……)

圧迫感は半端なく、正直痛みの方が強い。まるで大型の獣にのしかかられているよう。でも……

どうしようもなく、嬉しい。

身体の奥深くから感じる、この至上の悦び!

幸せで身体中がざわめき、興奮でのぼせてしまいそう。
クラクラする嬉しさに、感じている痛みさえ一瞬忘れた。
潤んだ瞳の奥を覗き込む顔が優しく尋ねかけてくる。

「痛いか、もう少しだけ我慢しろ。すぐによくしてやる」

額に流れる汗も気にせず、じっと堪えるように動かない大きな身体がたまらなく愛おしい。涙が目尻から溢れてくる。ーー静かに涙を流すリリアの目尻から頬、そして唇へとジェイドは何度もキスをした。

「泣かせてしまったな、リリア」

唇を柔らかくむその仕草にいたわりを感じる。低い声はけれども、嬉しさを滲ませていた。
涙目で大丈夫だと甘噛みを返すと、堪えきれなくなった唇が強く重なってきた。

「ん……んん……」

瞳を閉じると、ジェイドで頭がいっぱいになる。
唇を貪られるまま好きに動いてと腰をわずかに揺らすと、握られた手にグッと重みがかかる。

「……俺にしがみつけ」

リリアを気遣いながらもジェイドは、ゆっくり腰を動かしはじめた。
ずっずっずっ、とリズミカルな音と共に、さらに深く奥へと埋め込んでくる。
リリアは思わずまた目を見開いた。喉の奥からあえかな声が漏れ、愉悦を感じはじめている。

「ぁ……んーーっ」
「いいな、すごくいい……っ、リリアっ、こっちを向け」
「ん、んんっ……んんーーっ……」

傾けた唇にキスをされた途端、打ち付けられた奥がビリビリと甘く痺れた。深く重ねられる唇と絡みつく熱い舌、熱に侵された身体がますます敏感になる。

「あ……ふぁ……ジェイド……」

ジェイドでいっぱいで身体が苦しい。けど、そんなことが些細に思えるほどそれの何倍も何百倍も……

「っ嬉しいわーー」

応えるようにジェイドが腰を回すと、再び甘い痺れが身体中を駆け抜ける。

「あぁっ、んん……っ、や、そこ、だめ、ああっ……」
「わかった、ここがいいんだな。可愛いな」

ほらもっと快くなれとささやかれると、ぞくっとする。
甘い締め付けに我慢は限界だとばかり、ジェイドの腰の動きがだんだん激しくなってきた。
奥を抉られるような初めての感覚に、リリアは追い詰められていく。

「も、……なにか、クるのぉ……ジェイドっーー」
「俺も、だ……」

熱く硬い半身を、うねる膣壁に埋め込むジェイドの声も余裕がない。
たかぶった二人は一緒に高みを目指し、お互いの手を握りしめあった。

「……っく、いくぞ、リリアっ」

一際強く腰を打ちつけられ、掠れた声で名を呼ばれた。
愛おしさをにじませる声音がリリアの心を打ち、心臓が狂ったように高鳴る。目蓋の裏で白い光が弾けた。

(ああぁっ、愛してるわジェイドーー)

腰をグッと押し付けてきたジェイドが、小さく唸った。
荒い息を吐くと、もっと近くに来いとリリアをきつく抱きしめ唇を塞ぐ。極めたばかりのところへ舌が押し入ってくると同時に、身体の奥が熱く濡らされるのを感じた。
ドクッ、ドクンーー。
鼓動とジェイドの情熱が注がれる音が重なる。

「~~っふ……っ」

息が苦しい。けど、それにもまして。

(お腹が熱いわーー……っ)

突然湧いた大きな至福感。続く充足感の波に心が瞬く間にさらわれる。
高揚した気持ちのままリリアは両腕をジェイドの首に巻きつけ、キスを自ら深めた。

(ジェイド、ジェイド、好きよ、大好き……)

愛する人への、想いはさらに深まる。
角度を変えジェイドは長いキスをますます甘くする。
そうするうちにも、腰を押し付け合うその動きで溢れだした生暖かい白濁が、リリアの太腿をしたたり落ちていった。

しばらくの間、深く繋がりあったまま二人は唇を解かなかった。乱れ切った呼吸のまま交わすキスは苦しいはず。……なのにぜんぜん止まらない。

「大丈夫か、リリア?」

やがて荒い息を吐き唇をつけたまま、ジェイドは優しく気遣ってきた。

「……平気、よ……」

本当は全然平気じゃない。繋がった周りが濡れてジンジンするし、頭はフラフラで、身体には力がまったく入らない。何より、呼吸が苦しいほどのドキドキが、まったく治まらない。
けれども同時に…… 

「ーー気持ち、よかったわ……すごく……」

二人の吐息が混じり合い、より強い本音がこぼれ落ちる。
トロンと蕩けた瞳のリリアは、甘やかな幸福感に酔いしれていた。

(一瞬、身体が浮いて、放り出されたようなあの感じーー……)

全身に甘い痺れが走って脳が真っ白になり、眩い光に包まれた。先ほどの極まりが忘れられない。

「いいな、その顔。俺のものになった顔だ」
「ジェイドの……ものに……」

そうだ、ついにジェイドと愛を交わしてーー心だけでなく、自分のすべてが彼のものになったのだ。

「蕩けそうなこの瞳も、可愛い唇も、キスをねだっている。開花したリリアはさらに美しいな」

ジェイドは首筋をネチネチと舐めながら、お尻の丸みを名残惜しそうに撫でてくる。笑いを含んだ紫の瞳を軽く睨んだら、手が背中の方にまで回ってきた。緩い曲線に沿って肌をなぞる手が、ますますもって淫らなタッチになる。

(ふふ、愛してるわ……ジェイドーー)

なんて甘い気持ちにさせられるのだろう。

恋がこんなに切なく、同時に優しい気持ちになれるものだなんて知らなかった。
ジェイドに恋して、満たされ抱き合い、あんないやらしいことやこんな恥ずかしい姿も……何もかも見られているのに。幸せに彩られた甘さがすべてで、めまいがしそう。

「リリアは最高だ」

感に入ったように耳にささかれると、ふるり身体が震えた。
この充実感にたっぷりどっぷり、いつまでも二人で浸っていたい。
ーーだが、目尻にたまった感涙を指で拭い目を開くと、再び逞しい身体の下に組み敷かれていた。

「え? あの、ジェ、ジェイド……?」

(ま、まさか、ぁ……)

「悪いが、一度では終われない」
「う、うそ、あぁーーっ」

ゆっくりと腰を引きはじめたジェイドが、一気に奥深くまでつらぬいた。
ぬちゅと濡れた音を耳が拾ったと同時に、目蓋まぶたの裏がチカチカ光る。

「煽ったのはリリアだ。責任は取ってもらうぞ」

腰を抱え直す低い声がささやいてくる。

「え、あ……や、んっ……」

身に覚えのない揶揄やゆに気を取られる間も無く、激しく打ち付けられた腰でグリと奥まで擦られる。

「ここがイイんだったな」
「だ、ダメ……あ……」

微かな痛みはまだある。のに、身体が勝手に動く。ジェイドの突き上げに合わせ腰は揺れはじめた。

「は、あっ、っぁ、っあ……」
「ーーすごく良さそうだな」

甘い痺れが波状に広がると、中でジェイドをきゅうきゅうと締め付ける。
目を細めたジェイドは、荒い息だ。

「ならば、……俺の形を覚えるまで、抱こう」

恐ろしいほど真剣な顔で宣言をすると、ひと時も攻めの手を緩めない。
獣欲に取り憑かれたその灼けるような情熱を、リリアの身体へ何度も注ぎ込む。
そしてついに、わずかに残っていたリリアの意識をも奪って夜は更けていった。



目を開くと、この一ヶ月ですっかり見慣れた天井が視界に映った。
日差しが随分と明るい。
夜空を眺めつつ眠りにつくのが好きなリリアは、カーテンを閉めない癖がついている。けれども、いつもならとっくに起きる時刻にも、再び目を瞑った。
……今日は久しぶりの休日。だから、少しくらいの怠惰は息抜きだ。
そんなリリアの心の中では昨夜の幸せがまだ続いている。シーツの間でふふと微笑みが溢れた。

(ジェイドは……まだ、寝ているかしら?)

愛おしい姿を求め、ゆっくり横を向いたリリアの胸が、ツクッと小さく痛んだ。
温もりを探し手を伸ばすと、シーツをそおっと指でなぞってみる。

ーー冷たい。

ひんやりとした感触はそこに人がいたという痕跡が、まるで感じられない。
昨夜の出来事は、すべて夢だった……? 一瞬そんなあらぬ考えが頭を横切ってしまうほどに。
夢であるわけがない。
ジェイドと交わした愛は、はっきり覚えている。その愛おしい顔も、紫の瞳が濃厚な熱を帯びたことも、唇を重ねながらジェイドのものになった瞬間も。
リリアが起き上がろうとすると、腰から下に鈍痛が走った。生温かい感触が足の間から溢れ、内腿をとろとろ伝い落ちる。

(ああ、私の中……まだ濡れて……)

溢れ出た愛の名残に、目頭が熱くなった。
やはり夢ではなかった。
昨夜は何度も抱かれ、ジェイドはいつまでもリリアを離さず、……こんな少しの身動ぎで、後ろにまで白濁がたらりしたたるほど愛されたのだ。
……最後のほうの記憶は朦朧としているけれど、愛し合った時に見つめあったジェイドの真摯な瞳と紫紺のきらめきは忘れられない。
思い出すリリアの胸がキュンとなった。ーー愛おしさと、切なさがミックスされたこの気持ちは、言葉にできなそうにない。

分かってる。ジェイドは、この国の王子なのだから。
……いつも忙しそうだし、きっと休日でも外せない用事があるのだろう。
過大な期待などしないほうがいい。
そうは思っても。

(っでもーー)

初めての時ぐらいは、一緒に目覚めたかった。
激しく愛されたのは昨夜のことなのに、彼の温もりが隣に感じられないだけで心が不安に揺れる。
ジェイドを想う気持ちは、”好き”以上にずっと深いという自覚はあったけれど。
ーーこんな気弱ではいけない。『大事にする』、ジェイドはそう言ってくれたのだから……

シーツに突っ伏したリリアは、しばらくすると自分の心情に折り合いをつけ、まずは思うように動けない身体をどうにかしようと、ベッドからそろそろと起き上がった。


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