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土地を、開拓しましょう

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途方もなく大きな魔法陣が足元に浮かび上がる。と、ほぼ同時に、竜の放ったエネルギーと同等量に匹敵する魔力を感じ取った。
ぐらり、と世界が歪んだ気がした。周りの景色が解けるように消えてゆく……
そして次の瞬間には、いきなり吹いてきた海風に、ビューと吹き飛ばされそうになった。

「きゃ!」
「大丈夫だ」

長い腕がしっかり腰に巻きついていて、暖かい胸に身体を引き寄せられた。
ふう、危なかったわ、と安堵のため息とともに、周りを素早く見渡した。
深く冷たいマリンブルーの海は、強風に煽られて荒波からしぶきが吹き飛んでいる。
ヒンヤリと冷たい風が吹きつけてきて、そのまま空を見上げると晴れ模様なのに色がどことなく違って見える……

(ここは……)

ドレスを生地の厚い巫女服に瞬時で変換しながら、周りは海ばかりの景色でも一瞬で判断した。
見慣れた空の色を見上げながら時間の猶予はそれ程ないと感じて、直ぐに方向指示を出す。

「このまま西に向かって!」
「フェン、木や森の匂いのする方角へ飛べ、奴は多分、俺たちをこのまま追ってくる」

風にも負けないよく通る声に、そうよね、と肩越しに後ろを、恐る恐る振り返ってみた。
ビュービューと吹き荒れる海風に、黒い霧が徐々に吹き飛ばされていく。
そして霧の目隠しが取れるとそこには、強大な竜の姿が……黒い目がこちらをギロリと睨んでロックオンしてきた!

「リナ、俺の腕にしっかり捕まれ、フェン、全速力だ!」
「ヤッホーい、鬼さんこちら~」

(きゃあ! フェンってば、竜を煽ってどうするのよ~!)

焦る気持ちもそこそこに、次の瞬間には全身が一気に、ぐん、と後ろに引かれた。突然身体にかかったものすごいGで、そんなことも言ってられないくらい余裕がなくなった。

(うっそー、何このスピードぉぉぉ、キャアアァ!)

凄い! 耳鳴りが轟々ごうごうと鳴っている。クーちゃん達のあげる悲鳴も風に流され後ろに流れてゆく。

『ギャアぁーー、何これーー?』

海しか見えなかった前方に、小さく点が、ポツンと見えたかと思うとそれはぐんぐんと近づいてくる。

(キャアアアーーぶつかるーーっ)

みるみる目の前の迫ってくる果てしなく高い絶壁に、思わず目をギュッと瞑った。
すると、今度は身体がGに逆らって、ぐんぐんと上昇していく。
ジェットコースターも真っ青なフェンの全速力ライドだ。

(もうダメ…なんか気が遠くなる……)

それは、頭がふらりとしかけた時に、やっとこさ、フッとスピードが落ち出した。

「着いたぞーい。ここでいいのか~?」
「そうだな、ここは確かに未開の地みたいだな」

フラフラする頭で見下ろせば、そこは、原始の森が遥か遠くまで続く台地の上空だった。
人の手が入った事のない森は鬱蒼としている。
その暗い大森林は、蔓草や蔦のような植物が森の針葉樹を覆っていて、未開の森の生態はさながらジャングルのようだった。
しかしながら、森を上空から束の間観察したリナの心には、切羽詰まった状況とは裏腹に、ムクムクと希望の芽が芽生えてくる。

「凄いーー! 初めてよ…この場所の環境を知る事ができるのは!」
「そうなのか? 一応バルドランの国土なのだろう?」
「だから、あの絶壁のせいで誰も上がれなかったんだってば! 私、将来的には国の発展の為にも、ここを調査して開発するのが夢だったの!」

腐竜に追われている状況ではあったが、思わず弾んだ声が出てしまった。

「ほうー、じゃあ何か、今なら多少地形が変わっても問題ないと?」
「どころか、あのバカでかい崖が少しでも崩れてくれるのなら、大歓迎よっ!」
「なるほどな、そうか、なら…」

リナの興奮した言葉を聞いたシンは、跨っているフェンの背中をポンポン、と軽く叩いた。

「フェン、お前、ちょっとその崖の前あたりに立って、腐竜を多少煽ってやれ」
「ホイよ~」
「うまく誘導して崖を崩すんだぞ」
「まったく、相変わらず狼づかいの荒い主人だぜ、ホイホイと」
「俺もリナの安全を確保したら出る。ちょっとアイツを牽制して、しばらく土木工事に付き合ってもらおう」

シンはそう言ってリナを大事そうに抱えると、フェンの背中から浮上した。

(う、うわー、浮いてるよ、私! シンに抱えられて浮いてるーーっ!)

事態は緊迫しているはずなのに、相も変わらずのシンの落ち着いた態度とフェンの陽気な返事だ。
この二人にとっては腐竜が迫るこの状況も、ぜんぜん余裕であるらしい……
暖かく逞しい腕に抱えられて、リナは説明の出来ない不思議な安堵を覚えていた。

(シンはいつでも私に、『希望』を与えてくれるのね……)

城を出ることになっても、初めての旅で緊張しても、魔獣に襲われても、シンという頼りになる人とテンという仲間がいたから、いつもどこかで、きっと大丈夫、と信じる事が出来た……
この危機も、絶対何とか乗り越えていける。

(例えシンが恐ろしいと言い伝えられている悪魔でも、私にとっては黒い翼の愛しい人よ)

「大好きよ、シン」

腐竜はすぐそこにまで迫っている。
…にも関わらず未開の台地の森の上空で、リナは逞しく硬い胸に頬を甘えるように、スリと押し付け、艶やかな黒い翼を広げたシンの鼓動を聞いて落ちついていた。

「リナはクーちゃん達と一緒にシールドの中で待機してくれ。俺は腐竜の相手をして、ちょっと海岸整備をしてくる」

そんな風に甘えるように頬を押し付けていると、低い美声が、そっと囁いてきた。

「わかったわ……」

シンの言葉に素直に頷いて、「クーちゃん来て」と物珍しいそうに飛び回っている飛龍達を呼び寄せた。
クーちゃん達は、さすがに竜種だけのことはある。
既にあの恐怖の絶叫ライドから回復して、そこら辺を珍しそうに旋回している。
フェンの出す驚異的なスピードに初めは驚きおののいてはいたものの、ライド自体は楽しんでいたらしい。
途中から楽しそうな、キャーという嬉しそうな悲鳴が聞こえていたのだ。

シンはホバリングをして待機しているクーちゃんの背中にリナをそっと下ろすと、「行ってくる」と眦に唇を寄せて、颯爽と黒い翼を羽ばたかせて崖の方に飛んでいった。

(あ、来る……)

数秒後、ドーン、ドーンと天地を揺るがすような衝撃音が続いて辺りに響き渡った。
咄嗟に張ったシールドでやり過ごしたものの、目を見開いてもいまだ周りは衝撃の余波で、ビュンビュンと熱風が唸っている。
足元に見えていた大地が、大規模な地滑りのように、ガラガラーと地鳴りをあげて海の方に崩れていく。
腐竜に狙われないよう光魔法を行使しながら辺りを見渡すが、物の見事に土煙で何も見えない。

何ともまあ、凄い威力だ。

クーちゃん達と高く飛び上がって崖を見下ろし、抉れた大地を見て呆れ返った。
直ぐに今度は、遠く左手でとてつもなく大きな火の玉が飛んできて崖にぶつかるのが小さく見えた。

(あ、シン達ってば移動して、台地の崖を崩してるんだわ…)

土木工事と言っていたが、凄いスピードだ。
こんな短い時間であっという間に絶壁が崩れていく……

台地があった足元は、どーんと地震のような衝撃で揺れる度に、地滑りが止まらず徐々に岩肌がくずれて海へと土砂が流れ出していく。
じっとしていられなくなったリナは、「クーちゃん行くわよ」と上空で音のする方を目指して飛龍たちを飛ばした。
地鳴りや破壊音だけは聞こえるが、もうすでにシン達の姿は視界には見えない。
遠くなっていく衝撃音を追いかけて、そちらの方へと飛んでいく。

(もしかして、この方向って…)

それは、バルドランに向かって移動しているのだ、と直ぐに太陽の位置から推測出来た。
シン達はわざわざ腐竜を煽って、バルドランの方へと、どんどん崖を崩しにかかっているのだ。

(…湾岸整備って、そのままの意味だったのね…)

思い当たった途端、胸を熱いものが込み上げてきた。

(シン…ありがとう……)

おもがけない贈り物にリナが感動に浸っていると、恐る恐るといった声が頭に聞こえてきた。

『あの~、ところでさっきの竜なんですが、なぜか、どことなく懐かしい感じがするんですが……?』
「懐かしい?」
『上手く言えないんですが、同じような匂いがする、と言いますか…』

ビュンビュン風に乗ってバルドランの方へ移動しながら、クーちゃんが首を傾げながらリナに語りかけてきた。
同じような匂い? さっきのグロい腐ったような匂いを放つ鱗を持つ腐竜がだろうか?

(クーちゃんと一緒って…あ、そう言えば…)

すぐさま頭に、以前受けたテンの説明が浮かび上がってきた。

(腐竜は単に呼び名で、元々は鬱病にかかった竜のことなんだっけ? という事は、火の玉を投げて来るし、あの竜は元々、クーちゃんと同じ火竜って事?)

突如、ナメクジ悪魔の言い分も脳裏に蘇ってくる。

『卵をちょっくら竜巣から掻っ攫って、竜を呼び寄せただけ』
『どっかの時間軸で卵を落として無くしちゃった事を、嗅ぎ付かれちゃってよ~』 

そして、なぜか一匹だけ、他の飛龍達とは明らかに毛色の変わった上位種火竜のクーちゃん。

(クーちゃんって、もしかして……⁉︎)

「ねえ、クーちゃん、って親はいるの?」
『え? 親ですか? いませんよ~。森に卵が、ポツンと落ちていたんだそうです。運よく治安隊に拾われたそうですから』

大して気にした様子もなく、火竜の説明はのんびりと続く。

『それで思春期に入ってですねえ、ちょっとグレてみたんですが…世の中には、人外の恐ろしい生き物が沢山いるっていう事、ようやく悟りました~。いや~、初めてを見た時、生まれて初めてこの身が恐怖で震えてしまいましたよ。その上、その横にはすごいオーラのお姉さんがいるし、恐ろしい妖獣の兄貴がついてるし……』などと、しみじみ語りながらも凄いスピードが出ている。
見るとカー君とキーちゃんは覚えたてのズルをして、先ほどと同じようにクーちゃんの尻尾を捕まえて滑空している。
二匹の飛龍を引っ張っていても、クーちゃんの速度は全然落ちない。

(さすが、上位種火竜、凄いわ……)

遠くの海の沖合に、巨大な腐竜の姿がボンヤリと見えてきた。
シンとフェンの姿はここからは見えないが、竜にはしっかり見えているのだろう。
遠距離攻撃に飽きたのか、その姿が見る間にどんどん崖の方に近づいてきて、口から物凄い火炎砲を吐き出した。

「嘘っ! シンーーっ!」

思わず悲鳴をあげたら、クーちゃんがすかさず語り掛けてきてくれた。

『あの方なら、大丈夫ですよ、ほら』

瞬時に、空に展開されたとてつもなく巨大な魔法陣が、眩く黒く光った。
炎の砲撃は崖に届くまでもなく、あっという間に、スーとその中に引っ張られるように吸い込まれてゆく。

(なーーっ! 凄過ぎるっ! あんな街一つ丸々飲み込まれそうな攻撃を、一撃で呆気なく……)

明らかにシンが放ったのであろう闇魔法の威力に、開いた口が塞がらない。

(はっ! こんなところで、ボーっと見物してる場合じゃないわ…!)

竜が怒り狂って次の攻撃のために入っている今は、最大のチャンスだっ!

「クーちゃん、全速力で、あの竜に近付いて!」
『了解です!』

リナの命令を聞いたカー君とキーちゃんが、パッと咥えていた尻尾を離すと同時に、グンと身体が後ろに持っていかれそうになる。
ぐんぐん近付いてくる竜の姿に向かって、両手を突き出し、思いっきり最大威力の聖なる光を浴びさせた。

「そこの腐竜さんーーっ! ちょっと待ってーー!」
『ママーっ、ダメだよーーっ、その人やば過ぎるって!』

(あ、やっぱり! そうなんだ…)

「クーちゃん!」
『さっきの怒りの波長でようやく分かりました、アレ、うちのママです』

そのまま風のように腐竜の方に飛んでいきながら、焦ったクーちゃんの呟きが聞こえてくる。

『止めなきゃ、あの方が本気になったら、ママの命が危ないっ!』

(えええーーっ? 危ないのは竜の方なの?)

聖なる光を浴びただけでは、少し鱗の色が変わっただけに見えた竜だったが、クーちゃんの声が頭に響き渡った途端、腐りかけの鱗が全て、パリンと砕けた。見る間にちりじりの粉になって風にのり海へと落ちていく。そしてその下からは、鮮やかな真紅の鱗の色が現れたのだ。

『坊や? 私の坊やなの?』
『ママーっ!』

(あ、マズイ、このままでは、あのでっかい竜とクーちゃんの間で押し潰されるっ!)

ぐんぐん近付いてくる巨大な竜に、下は海だし…大丈夫よね?と、迷っている暇はないとばかり、「えいっ」とクーちゃんの背中から飛び降りた。

「こらこら、まったく無茶をする」
「あ! シン、ありがとう」

フリーフォールのスリルを味わう暇もなく、クーちゃんの背中からジャンプした途端、ふわりと身体の周りに長い腕が巻きついた。

「どう言う事なんだ、これは一体…?」
「あ、あのね、クーちゃんって卵の時、拾われた、って聞いたから、同じ火竜だし」
「ああ! そうか、なるほど、鬱の原因は卵の行方不明か…」
「多分、無意識に竜の居そうな場所を探し回ってたのね」

ナメクジは時空軸で卵を落としたと言っていた。
と言うことはきっと何年も前に、卵のクーちゃんはこの世界に迷い込んだのだろう。
山ほどの大きさだった真紅の竜は小さく変化して、クーちゃんの頭を満足そうに撫でている。
フェンもこちらに向かってバサバサと飛んでくると、「おー、治ったんだな、よかった、よかった」と親子の再会を喜んでいた。

『この度は、ウチの坊やを見つけて頂いて、なんとお礼を申し上げて良いのやら』
「いえいえ、お二人が無事、再会出来て良かったです」
『えーと、この度は、ママがご迷惑をお掛けしました』

取り敢えずは地上の台地上に場所を移して、シンが面談を行うことになった。
台地の崖は見渡す限りの範囲で崖崩れをおこしており、ようやく地滑りが止みはじめたところだ。
未開の森の奥地の適当なところで、この辺の木を切り倒していいか?と聞かれた。リナがもちろん、と頷くと
あっという間にそこいらの木が切り倒され、竜と一同が座れるぐらいの空き地が出来上がってしまったのだ。

切り株に腰を下ろしたシンとリナの二人に、竜の親子は深々と頭を下げた。

「まあ、今回の事情は大体分かった。俺としては腐竜の脅威と過度な瘴気の汚染さえなければ、それ以外は管轄外だ」
『ほんとうに申し訳ございません、正気を失っていたにしても、この土地にも多大な被害を与えてしまって……』

火竜はすまなさそうに竜体を縮こませて、地滑りで地形が変わってしまっている崖の方に目をやる。
ガラガラと小規模の土砂崩れの音がするたび、火竜は困ったように、上腕を額に当てていた。

「いやいや、大した被害は…」

ないので、と続けようとしたら後ろから大きな手が口を覆ってきて、続く声がもごもごとこもってしまった。
なあに、どうしたの? と目で問いかけるようにシンを見上げたら、ここは任せろ、と目配せしてくる。

「そうだなー、せっかく、この土地に美味しそうな果樹園や街でも作ろうか? と計画していたんだがなあ」と見渡す限り崖崩れと地滑りでひっくり返った土地を、いかにも残念そうに、チラ、と見ている。

(へ? あれ? さっきフェンと一緒にワザと火竜を煽ってたよね…?)

「これだけ崩れてしまうと、どうしたものか?」

シンは、クーちゃんの方を向いて、協力しろ、と目で促してきた。
クーちゃんはシンの意図を察して、大急ぎで熱のこもった説得を試みる。

『あの、ママ、僕はここに残るよ。一緒に育った兄妹の面倒も見なきゃだし、お仕えするマスターもいるし。だからママさえ良ければ、もう少し僕達と一緒にここに残ってくれたら嬉しいなあ、なんて……』
『あらまあ。この子ったら卵からちょっと見ない間に、随分と成長したのねえ』

クーちゃん達も、シンがワザと崖を崩した事は百も承知のはずだが、賢い火竜は長い物には巻かれろ式の処世術をすでに悟っているようだった。
クーちゃんの言葉を受けて、ママ火竜は、それなら、と提案してきた。

『…あの、それでしたら、私で良ければお手伝いさせて下さい。庭いじりも趣味ですし、街づくりにも興味がありますし』
「えっ、いいんですか?」
「ふむ、それなら…ここはまあ、この崩れてしまった土地をなだらかにして、木でも植えてもらえば何とかなるか。そうだな、北方向にある森までこの土地をなだらかにして繋げてもらえば、この惨状はチャラという事で、どうだろう」
『はい、もちろんその程度でお詫びになるのなら喜んで。果樹園や街づくりもお手伝いさせていただきます。この子もこの世界に留まるつもりみたいですし、しばらくはこの子の基本教育の為にも、残ろうと思います』

(…この人ってば、あっさり火竜を説得しちゃったわ。いにしえの頃から未開発だったこの台地が、森と地続きに……)

そんな会話を、ニコニコと横で笑って見てはいたものの、事の成り行きに内心ではあんぐり呆気にとられてしまった。
その間にも『竜式瞬間移動など、基本ぐらいは教えておかないと…』と中々教育ママ火竜の発言に、クーちゃんは『ぎゃー、またレッスンだ~……』と心なしか竜顔が、再会の喜びから多少引き攣った顔に様変わりしている。

(でも、クーちゃん達親子も、なんだかんだ水入らずで楽しそう……)

火竜の親子を城や街中で放し飼いにするよりかは、この未開の森で思う存分羽を伸ばしてもらったほうがいいような気もする。
納得のいく解決策に、それならと、しばらくは火竜の住処としてこの台地を提供し様子見をする事にした。

『あの、果樹園の他にも、畑やお花畑、湖なんかも作っていいですか?』

火竜ママは、『どうでしょうか?』目を輝かせて聞いてきた。
庭いじりが趣味だ、というのは本当らしい……

(湖って、作れるものなんだ……)

畑と湖を同等扱いしているところが、凄すぎる……
それでも表向きはニッコリ笑って、いかにもいい考えだ、と相槌を打っておく。

「もちろんいいですよ。広大な土地ですから開拓しがいがあると思います。ただ、森の自然を壊したいわけではないので、有害な植物や動物を除いては、ある程度の自然を残して頂けますか?」
『当然です。評判には聞いていましたが、この世界は本当に自然が豊かで食べ物が美味しいので、環境破壊をする気はありませんよ』

(へえ~、そうなんだ…)

火竜の思いがけない言葉には、ちょっと驚いて目を見張った。
自分は普通だと思っていたこの世界は、異世界の中では中々評判が良いらしい。

(あ、でもそういえば、シンもテンもご飯に関しては、とても満足そうに毎回食べているわ……)

まあ、腐竜の件に関しては、これで一件落着だ。

異常瘴気の元凶であった腐った鱗も全部葬ったそうだし、取り敢えずはテンの様子も気になると、リナ達はキラ王国に一旦戻る事にした。
開拓については、取り敢えずは土地をバルドランの森まである程度整地をしてもらってから、日を改めて詳しく話し合う事にする。

『この子の名を呼んで頂ければ、呼び出しに応じられるように教育しておきますので。それでは道中お気を付けて~』
『ぎゃ~、早速そんなプレッシャーっ!』

火竜ママの挨拶に、クーちゃんはがっくり首を垂れた後、据わった目で、クルリと兄妹の飛龍たちに向き直った。

『お兄ちゃんを一人で置いて行くなんて薄情なマネ、しないよな? お前達も残るよなぁ?』と半ば強制的にカー君とキーちゃんも居残り決定だ。
これから施されるであろうスパルタ教育を思ってか、こちらも顔が引きつっている。

「それではまた、後程お会いしましょう。お前達、呼び出しには即応じられるよう、しっかり鍛えてもらえ」
「クーちゃん達、風邪ひかないようにね」
「拾い食いには、気をつけろよ~」

見送る竜たちに手を振って、シンと一緒にフェンに跨ると、早速、ぐらりと世界が揺れて日差しの強い太陽を肌に感じた。

「戻ってきたのね!」
「ああ、ちょっと待ってろ、一旦あの島に上陸してから、テンを迎えに行くぞ」

「見つかったら厄介だ」と言われて指をさされた方向を確認すると、遠くにローリーの乗っている豪華なヨットを取り囲むキラ海軍の戦艦隊が見えた。
フェンは素早く方向を変えて飛び立ち、一番近くの島の海岸に、バサと飛び降りた。

「テンー! 無事なのーっ?」
「リナ! 大丈夫ですよ~」

(よかったっ! いつもの声だわー!)

のんびり返事をしながら、シンの開いた次元から、テンがその元気な姿をヒョイっと現した。
その姿を見た途端、フニャ、と身体から一気に緊張感が抜けてくる。
テンの事だから心配はない、とは分かっていても、やはり知らない世界の理に関してだからなのか、いつの間にか身体に力が入っていたらしい。

「テンッ!」
「まあまあ、ほら、私は何ともありませんよ」

優しいいつもの顔に銀色の髪が揺れて、腕に飛び込んできたリナの背中を、そっと優しい手が昔の様に撫でてくれる。

(はあ~、よかったー、テンが戻ってきてくれたっ)

城の皆は優しいし、こちらの意を汲んでリナをワザと特別扱いしないことは知っている。
だけどやっぱり、幼い頃に両親を亡くしたリナにとっては、テンは親代わりの特別な人なのだ。

(ふふふ、テンが、大切な日常が戻ってきた!)

と安堵のあまり、涙ぐんで微笑んでいたが、次第に何か忘れているような気がしてきた。

(あれ? そう言えば…)

「テン、メラニーはどうしたの?」
「ああ、あの人は同僚に引き渡しました。契約は契約ですからね。幾らゴネても、サインをしてしまった以上は如何しようも無いので、専門家に投げました」

「まあ、チョイスはそんなにないと思いますが、それでも魂が助かるならねえ」と思慮深い態度のテンである。

(…メラニーはもしかしたら、もう、帰ってこれないかも知れないのね…)

暗殺指示に、願いを叶えるための悪魔との取引、人としての魂を売り渡した挙句、自分が何を召喚したかも分かろうとせずに大勢の人を巻き込んで多大な被害を与えその挙句は他人に尻拭いをさせた。
どうやら彼女は超えてはいけない線を超えてしまった、らしい。
浮かない顔のリナに、テンは優しく諭す様に元気付けてくれる。

「リナ、どんな人であれ、皆それぞれの生き方があるのですよ。その人の人生はその人のものであり、誰もその人に取って変わる事は出来ないのです」
「分かってる、彼女のした事を認めはしないけど、残された人の事を思うとね…」
「そうですね、彼女の夫には彼女が帰らぬ人となってしまった事実は辛いでしょう。リナがローリーとこの話をするのは酷ですね、私が告げましょう」
「いえ、私が告げるわ。大丈夫よ」

愛する妻を亡くしたローリーには、自分が責任を持って真実を告げる。
当事者のリナは、その重荷から逃げるつもりは無かった。
心配そうなテンやシンの気持ちは嬉しい。

(でも、私だって、今もしシンが私の前からいなくなったら…)

自分の半身を失った様な気持ちになるに違いない。
絶対、その理由ぐらいは知っておきたいと思うだろう。
自分が、シン、という心から愛せる大切な人に出会えたのも、ある意味ローリーに振られたからこそでもあるのだし……

(私、今初めて深く自覚した。人を愛するのって、凄く勇気がいる事なんだ)

ふわふわの幸せな気持ちにもなると同時に、もしこの人を失ったら、と理屈なしで感じる恐怖は怖いほどリアルだ。思わず、シンの傍に寄り添い抱きついて、その暖かい存在を確かめてしまうリナであった。

「ん? どうしたんだ、リナ?」
「…ん、何でもない」

突然甘えてくるリナに、不思議そうな顔をしながらも、シンはポンポンと肩を抱き寄せてくれる。
「甘えん坊だな」と笑っているシンを見て、愛する人のそばにいれる自分は、本当にラッキーだ、と心の底から感じたのだった。



「リナ、今晩は満月だ」

先にお風呂に入ったシンは、バルコニーに出ているらしい。
今夜リナ達は、魔獣退治達成のお礼として、キラ島一の高級ホテルに招待してもらっていた。
クルーザーに残っていたローリーからリナの身分を聞き出した海軍カイル大将と海軍元帥は、リナ達を国賓として扱い丁寧な挨拶とお礼を述べてくれた。王女が冒険者として活躍していることには驚かれたが、『さすが”バルドランの軍神”との聞こえが高かった方のご息女ですな』と妙に納得もされた。
その上リナの身分を踏まえての手厚いおもてなしの一環として宿泊配慮をしてくれたのだった。本当は国賓として王城に招待されたのだが、ことを大げさにしたくないお忍びの旅との言い訳で丁重に辞退をした。代りに、ローリーが花嫁が魔獣に襲われた貴族として王城に招かれている。

キロ島に残っていた瘴気に囚われた魔獣達も、大人しい魔獣は聖光で正気に戻した。厄介な魔獣は、フェンが、パクッとおやつ代わりに飲み込んで無事依頼を達成した。
ローリーは、メラニーが悪魔に魂を売り渡した罪のために女神の使いに連行されたと聞いて、目を曇らせはしたが、どこか、ホッとしたようでもあった。
リナに『話してくれて有難う』と告げると『僕は大丈夫だから』と海軍に呼ばれているリナ達に、気にしないで行くように、と促してくれた。
元婚約者のローリーには、幼馴染として新婚で妻を亡くしてしまった悲劇的な状況に同情する気持ちはあるが、やはりそれ以上のものは感じられない。

海が見渡せるバルコニーから、「リナ、一緒に見ないか?」との低い魅惑の声に誘われて、カーテンを広げて外へ一歩踏み出したリナは、月夜の大きさと明るさに「まあ、凄い」と感嘆の声をあげた。

「ほんと、今日はなんだか、とても大きく見えるわ」
「そう言えば、リナは俺が何処から来たか聞きたがっていたな、今でもやはり、知りたいか?」
「もちろんよ、シンのことなら何でも知りたいわ」

満月を背にバルコニーに寄りかかるシンは、まるでお伽話に出てくる王子のようだ。
そんなシンに以前出身国を聞いたときは、祖国の名前は教えてくれなかった。

(確か、『シンと親密な関係の人にしか教えない』って言われたのよね)

昨夜プロポーズをされて承諾したのだから、自分はそのシンの言う『親密な関係の人』に格上げされた筈である。

(だって、これって婚約者同士って事よね?)

腐竜の件とお家騒動がすべて片付いてからだ、と思っていたので、二人が結婚の約束をした事はいまだ誰にも告げていない。
だけど、今日腐竜の件が片付いたので、せめてテンにはこの秘密をそうそう打ち明けるつもりでいた。
テンは今、天界に用事があるとかで、ちょっと留守にしている。

「リナはもう何度か、俺の本当の姿を見ているよな?」

そう言ったシンの背中からは、バサッとから黒光りしている艶やかな翼が現れた。

「あ…やっぱりシンって、伝説の悪魔、なの?」
「違うっ! 俺は天魔人だっ! まあ、たまに区別がつかなくて別世界ではそうとも呼ばれているらしいが」
「天魔人?」

(と言う事は、月の女神に属する世界の人だったのねっ!)

「俺はこの世界の警備を預かる、天魔人だ。天魔界から派遣されてきた。ちなみにだが、この姿は俺の最終形態ではない」
「最終形態?」
「ああ、俺たちの一族は天魔人の中でも人型だ。だがな、守護が基本の天界人と違って、俺たちは闘う戦士族だ。リナの言う通り元悪魔を職業としていたものも多くてな、まあ、要するにだ、この世界の人と多少見た目が違っている」
「…だから、飛んだり出来るし、あんなに桁外れに強いのね…」
「まあな、コレが俺達の最終形態だ」
「あっ…」

いつの間にかシンの頭には立派なツノが、二本生えていた。
けれども、それは一瞬で消えて、たちまちシンの背中に大剣が同時に現れた。

「そうだ、このツノは俺たちが戦う剣として具現化出来る。俺たちの最強武器だ」

そう言えばテンも、ツノを見せたり消したり出来る。多分似たような感じなのだろう。

「凄い! そうだったのね」
「怖くないのか?」

シンに近寄って、「もう一度見せて」と、ツノを手で撫で撫でと愛でていると、シンは面白そうに聞いてくる。

「以前腐竜の鱗から突き出たツノを怖がっていただろ。テキストにも、この世界では基本ツノを生やす生き物は動物や魔獣しか居ないから、人にはこの形態で接してはいけない、と書いてあったんだが」
「あれは、あのツノからは、醜悪な気配しか感じられなかったからよ。…テキストってなあに?」
「この本の事だ。この世界の警備人として派遣されてきたのは俺が初めてではない。ちゃんと派遣先に溶け込めるようにマニュアル本があるんだ」

(この本、どこかで見覚えが…あ、コレは、シンがカルドラン行きの船の中で読んでいた本だわ……)

「因みに、プロポーズの仕方なんて必要ないと思っていたからな、生活習慣の章でもその辺りは飛ばして全然読んでいなかったんだ。すまない、もう少し早く読むべきだった」
「あ、じゃあもしかして、シンの国では、つがいになるって言うのが……」
「そうだ、こちらの求愛に該当する」

(そうだったのね、私ってばとっくの昔に船上でシンにプロポーズされてたんだ……)

「あれ? じゃあ、あのサインをした紙って何?」
「…異世界渡航条約で俺たちが異世界に派遣されている事実は、一応派遣先の世界には知られてはいけない事になっている。理由は単純にその世界独自の文化を守るためだ。だから正体がバレるとな、上に呼び戻されて、その世界には違う人材が送られてくる」

「俺たちの派遣先世界では、異世界人など眉唾物の伝説とされている事が多いからな、本人がいなくなれば騒ぎにはならない」と冷静に語るシンに、思わず抱きついてしまった。

「なっ? いやっダメっ! そんな、帰っちゃダメよーーっ!」
「大丈夫だ、だからこそ、誓約書にサインをしてそれを阻止したんだ」
「シンディオン! 一体なんの話をしているの? 何なの? その誓約書って?」

(え…? だあれ、この人?)

真上から降って来た声に驚いて見上げれば、そこには次元が開かれ、そこから黒髪の男性が茶色の翼を広げて空中に現れた。だがその髪はシンとは違って、女性のように長く伸ばされていた。

「メフィ⁉︎ どうしてここに?」
「どうしてって、なんか腐竜がこの保護地域で暴れたって報告が上がってきたから、念のために応援に来たんじゃないの」

音楽的な声を持つその人は、見た目はものすごく綺麗だが、どことなく中性的なお兄さんだった。
身体にベタベタ引っ付いてくるのを、シンが片手で煩そうに押し退けている。

「くっつくなっ、セクハラで訴えるぞ!」
「まあ、部下を心配して駆けつけた上司に、なんて言い草なの?」
「今度はパワハラか? 全く俺に応援などいらない事は、上司のお前が一番わかっているだろうに…」
「ふふふ、いいじゃない、可愛い部下の顔が見たくなっただけよ」
「まったく、何が可愛い部下、だ」

上司の言葉なのに、シンは渋い顔だ。

「どうせ、天界人のテンの存在を報告で見て揶揄からかいに来たんだろ、生憎だがテンは今、留守だ」
「は~い、呼びました?」
「テン!」

絶妙のタイミングで、テンが夜空から、ポワンと翼を広げて舞い降りてくる。
その銀色の髪の天使のような姿を見た途端、メフィと呼ばれたシンの上司は目を輝かせた!

「我が愛しのテンジェリカーーっ! 久し振りねっーー!」
「なーーーーっ‼︎ 何でこいつがここにいるんですーーーーっ⁉︎」

テンは、キキーと大慌て急ブレーキ、心底嫌そうな叫び声が夜空に響き渡った。

「そんなつれないことを言う、いけない唇はこれなの? これはもう、お仕置きだわね」
「その腐った手で、私に触れないで下さいっ!」

抱き寄せようとしてくるメフィに、テンは珍しくさせまいと必死で両手で押し返して抵抗している。
だが、如何せん見た目は中性的でもメフィはシンと同じように上背もあるし、身体つきも逞しい。
力の差は歴然としていて、必死の抵抗にも構わずガッチリと抱きしめられたテンは、しっかり、ブチュと熱烈なキスを頬に受けていた。頬なのは、テンが迫ってくるメフィから顔を必死で逸らした結果だ。

「リナ! シン! 助けて下さいっ、このケダモノを、私の身体から離してっ!」
「あ~、こらメフィ、それ以上やると、お前また訴えられるぞ?」
「そんな! 恋人同士が一夜を共にして、何で訴えられなきゃならないのよっ!」
「誰が恋人ですか! 酔っ払わせて合意なしで強引に迫った事、忘れたわけではありませんよっ!」
「誤解だって言ったじゃない! 酔わせてなんていないってばっ!」
うるさいですね、しつこい男は嫌いですっ!」

ボーゼンと二人のやりとりを見ていた頭が、テンの悲鳴でようやく動き出した。

(あらら、これはどう解釈したらいいのかしら?)

何だか二人で痴話喧嘩を始めてしまっているだけに、止めた方がいいのかが判断できない。

(だけど、こんな感情を剥き出しにしたテンって、初めて見るわ……)

「ねえ、シン、あの人って本当にあなたの上司なの?」
「あ~、まあな、アレでも仕事は出来る上司なんだ、ちょっと私生活に問題アリなんだが」
「あの人、さっきはシンに迫ってなかった?」
「アイツはな、綺麗な人なら、男女関係なしだからな」

(それって問題アリまくりじゃないの?) 

先ほどの痴話喧嘩の会話が脳裏を掠める。

(さっきのテンの悲鳴を聞いただけでも、なんか、酔っ払わせてとか犯罪紛いのこと言ってたし……)

がるるっ、とない牙を剥いて、取りつく島もなく威嚇するテンの言い分に、メフィは憤慨している。

「二人とも痴話喧嘩はよそでやれ、迷惑だ」
「痴話喧嘩じゃありませんっ!」
「そうよ、テンジェリカってば、ちょっと拗ねてるだけ、よね?」
「違いますっ!」

「相変わらずのその無神経さっ!たまらなく虫唾が走りますっ」と怒鳴っているテンに、「あ~、まあまあ」とシンは二人の間に割って入った。
リナも、ここぞとばかりにバルコニーに降りてきたテンの肩を、どうどうと叩いて宥めにかかる。

「ところで、腐竜の他に用件がないなら、さっさと帰れ、メフィ」
「シン、あなたと言う人は上司に向かって……」
「上司なら上司らしく行動しろ」

腐竜の件は一件落着だ、と素気無く取り合わないシンに、メフィは溜息をついて諦め顔になった。

「シン、さっき言ってた誓約書とは何の事なの?」
「ああ、それはプライベートな事だ、気にするな」
「何言ってるのよ、この女性にしっかり正体バラしているの聞いちゃったわよ!」

テンにもシンにもつれなくされて、メフィは、キッと悔しそうにリナの方を見る。
テンはリナの後ろに隠れてフン、とソッポを向いているし、シンはリナの肩をしっかり抱いているしで、何か彼にとっては気に入らない状況らしい。
シンは重いため息をついて、しょうがないなぁ、とばかりに、ポンと誓約書を出して上司に見せた。

「な! これは、こんなズルい事、まかり通るのっ?」
「形式に則った書類だ、どこもにも不備は無い」
「けど、こんな事、前例がないわよ!」
「知った事か」
「だけど条約が……」
「全ての制約は無効、だ。大体上からのお達しで、少子化予防のため結婚は奨励されているだろうが」
「それはそうだけど、上司の私を差し置いて結婚なんてそんな羨ましい…分かったわよ、ならこの課題をクリアしたら、全面的に認めるわ」
「お前の承認など要らないのだが」

もうすでに誓約書は実効済みだ、とシンは両手に光る輪を見せる。

「うっ、だから、もしズルいって他から批判が出たら、抑えてあげるって言ってるんじゃないのっ」
「お前以外、誰もそんなこと言ってこないだろ」
「まあ見てなさい、あなた達の言う愛の絆がどれほどもろいものか、このメフィさんが証明してあげようじゃないのっ」
「聞いてるか? こら、ここでキレるな、メフィ、お前一体何を!」
「ちょっとっ! そこの腐れ外道! 私の可愛いリナに何する気ですか!」

(え? 私?)

と思った途端、目の前がフッと暗くなった。


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