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魔獣にも、色々と事情があるようです 2

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「クーちゃんはもしかして、飛龍ではなくて、『火竜』なのかしら?」
「どうやら、そうらしいですね」

ミツマタアナコンダの残した被害と事態の収拾に治安隊や飛龍隊が忙しく動き回る中、リナ達は一仕事を終えてカンターの街で昼食休憩を取ることにした。
クーちゃん達も楽しみにしていたらしい昼食を、他の飛龍達と一緒に配られたバケツに顔を突っ込んで、ガツガツと食べている。

「…そういや火竜の中には、産んだ卵を他の竜巣に運ぶ種類のがいたな」
「え? そんな竜は聞いた事ないけど? っていうか、火竜自体がほぼ伝説上の生き物じゃ……」

リナの不思議そうな様子に、「そういやそうだったな」と相槌を打ったシンは、テンの方を振り向いて、確かめる様に聞いている。

「…どうなっているんだ?」
「ここは保護区ですから、火竜の類は召喚されない限り、自然には存在しないはず、ですよ?」
「だよなぁ」

火を吹く竜など、人の手で大人しく躾けられるわけがない。
妖魔獣の飛龍より上位の竜は、さらに賢く、召喚獣に値する。
つまりは、この世界にいる飛龍やダンジョンにいる土龍以外は、全て伝説上の上位竜達、元々はこの世にいない筈の妖魔獣だ……

「…もしかしてこれは、どこかの火竜が何をトチ狂ったのか、この次元に迷い込んで卵を落としていったのか……?」
「…そんな途方もなく神がかり的な偶然、十分あり得ますね」

(…あり得るのね、そんな事……)

テンの返答にはちょっとビックリだ。
上位竜が、テンのように次元を超えるほどの能力を持っているとは……

(だけど確かに、竜種って別扱いだわ。妖魔獣扱いされていないし)

どうやら、そんな伝説の『火竜』種らしい、暴れん坊クーちゃんである。
他の二匹の飛龍は、赤っぽいのを『カー君』、黄色っぽいのを『キーちゃん』と呼ぶことに決めて、黒っぽい『クーちゃん』と並んでお行儀よくバケツから餌を食べ終わるのを、リナは興味深く観察していた。

(あっ! カー君がキーちゃんのバケツから、オオブタガエルを一匹、さらったわ…!)

よそ見をした隙の横取りに気づいたキーちゃんは、カー君に向かって明らかな抗議声でいなないている。と思ったら、クーちゃんが翼でカー君の頭部を、パシッと叩いて、仕方なさそうに、自分のバケツからカエルを一匹咥えて、キーちゃんのバケツにヒョイと移した。

「…乳兄弟の面倒を見るのも、なかなか大変なようだな……」
「兄妹仲はいいようですね」
「三匹一緒に育ったのね、じゃあ、みんな揃って譲ってもらえて、本当良かったわ……」

そういっている間にもクーちゃんは、うまやの隅から、チョロチョロっと走り出してきたトウカネズミをハシッと脚で押えて、ちゃっかり、パクッと口に入れていた。

この飛龍の賑やかな食事風景を眺めていると、三匹の性格と力関係が大方把握できたように思える。
微笑ましい一コマに、思わず笑いを抑えながらも食事を終えると、早速リナ達は飛龍三匹を連れて先ほど治安隊に確認しておいた次の目的地に向かう事にした。

マデレード王女を筆頭にした大勢の見送る人々に「ごきげんよう、じゃあ」と元気に手を振って、三匹の飛龍に乗り込み、手綱さばきも見事に大きく空を旋回して目指す方向へと向かっていく。

強大化したミツマタアナコンダだが、地元の治安隊によると、この魔獣は元々最初に目撃確認された場所からそれほど遠くない、大きな洞窟がそばにある谷奥に住み着いていたらしい。
バルドランから続く大山脈の南西奥にあるその洞窟、とやらが今日のリナ達の最終目的地だ。
人が滅多に足を踏み入れることがないその山奥の谷間の洞窟は、竜種の好みそうな住処だ、と言うのがテンとシンの共通した見解だった。

『腐竜もどうやら、まだかろうじて理性が残っているのでしょう。人目につくのを避けて移動しているようですし』
『その洞窟というのは、一度チェックしておいた方がいいだろう、近くの谷に住んでいた魔獣のミツマタアナコンダが、漂う瘴気に晒されて巨大化した可能性は十分にある』
『ふうん、でもどうして、その腐竜とやらは一箇所に留まらずに次々と場所を移動しているのかしら? ってか、そもそも腐竜ってどんな竜なの?』
『腐竜、とはですね…』

テンの説明によると、そもそも竜種とは、『とても賢く理性もあり言語も操る、その能力は計り知れない生き物』なのだそうだ。

『中には、私達神族と同等の能力、もしくはそれ以上の力を持つ竜もいまして、其のことわりは私達にとっても枠外の存在なのですよ』
『枠外…女神様や神様でも把握出来ない生き物なのね……』

だけども、その竜も何せ生き物だ。
幸福も感じれば不幸も感じる。気分によっては暇な時に、イタズラを仕掛けたくなる事もあるらしい。
ダンジョンなどは、暇な竜種が気まぐれでパズル遊びのような感覚で作った物もあると言う。

『そして問題は、心の病気にかかってしまった竜なんですよね……』

理性的な竜が精神的なうつ病にかかる事は本当に稀な事だが、全然ない訳ではないらしい。
何らかの理由で精神的に病んだ竜を、『腐竜』と一纏めで呼んでいるのだそうだ。
腐竜の特徴は、竜の鱗が囚われた精神的な闇のせいでだんだん腐っていく事。
…で、腐った鱗がこの前ヨークシア山脈の奥谷に落ちていたように、たまに、ポロリと本体から腐り落ちていくらしい。

初めて聞く竜種の内輪事情に、驚きもしたが、伝説上の遠い存在だったその姿に身近な親近感も湧いてくる。こうして世界の真理に少し触れてしまったような雑学を心に留めながらも、目的地の洞窟へと飛龍に乗って出発した。
昼食を食べ終えて元気な飛龍たちは、遥か下に見える連なる山脈の間を、うねうねと流れる渓谷を辿り、爽快に空を駆け抜けてゆく。
シンに「フェンに乗って行かないの?」と聞いてみると、「別にいいんじゃないか? わざわざ乗り換えるのも面倒だ」とごくまともな答えが返ってきた。
テンは、一見楽しそうに飛龍に乗っている様に見える。…が、実は体は浮いていて一緒に飛んでいるようなものだ。
そして曇り模様の今日の天気では、山脈に近づくほど案外雲が低く感じられた。クーちゃん達は薄い雲の中へも、躊躇せず平気で突っ込んでいく。なのでぼんやりしていて突然飛び込まれた雲の中で「きゃあ、前!」と慌てて風魔法で雲を吹き飛ばしたりもした。そうこうするうちに、やっとそれらしき場所に近づいてきた。

「ねえ、多分この辺りよね? えっと、どこにこの飛龍達を下ろせるかしら…」

見下ろす眼下は険しい渓谷、その真ん中には小さな小川が流れている。
渓谷はその高さはもちろんのこと、広さがなにせ狭い。クーちゃん達が翼を広げて通れるか通れないか、ギッリギリの線だ。そんな所で着陸を試みれば、そのまま川に突っ込んでしまう。飛龍達を安全に下ろせる、広場のような適当な場所が必要であったが見当たらないのだ。
これは、やっぱり…とリナが心の中でオプションを考慮していると、思いがけずクーちゃんの『呼んでもらえば、迎えにきますので』と言う声が心に聞こえた。

「よし、お前達はその辺で適当に遊んでおけ、行くぞ」
「お先に失礼」
「わかったわ、せ~の!っと」

シンはカー君の背から軽々、ひらりとジャンプして真っ直ぐ下の河原へ飛び降りて行く。
テンは人目がないことをいい事に、そのまま堂々と、フワリと宙に浮いてゆっくり下降していった。
リナはそんな超人技はもちろん出来ない。なので、クーちゃんに渓谷の崖上にある森の近くでスピードを落としてもらい、風魔法でタイミングを計り横に伸びた幹に鉄棒の要領で両手を伸ばし飛びついて地面に降り立った。
直後、隣にテンが、ふんわりと着陸する。

「シーン、私達はこの辺りで何かないか、探してみるわーっ」
「わかった。何かあれば呼んでくれっ!」

遥か下の峡谷の底、谷川のそばに見えるシンに向かって叫ぶと、テンと二人で周りを見渡してみる。
大きな洞窟、とは聞いているが、地元の治安隊の中でも誰も正確な場所を知っている人はいなかった。皆昔からの言い伝えで、この辺りだろう、と大まかな説明であった。
なので取り敢えずはテンには谷向こうに飛んでもらって、三手に分かれて辺りの探索に乗り出す。

するとしばらくしてリナの心に、『前方に、何か、大きな洞窟がありました~』というクーちゃんからの報告が入った。

「どの辺?」
『えっと~、説明するのは難しいので一旦そちらに戻ります』

クーちゃんの報告が切れると、テンがフワフワと飛んできた。
トン、と言う音に振り向くと、シンが小さなフェンを伴って丁度渓谷から飛び上がってきた所だった。
毎度の事ながらその信じられないようなタイミング、この直角に近い崖の壁を、この短時間でどうやって駆け登ったのであろうか……

「リナ、俺はここからはフェンに乗って行く、魔力を分けてもらうぞ」
「ぁ…」

逞しい腕が伸びてきて、あっという間に唇が重なる。

ん…と逆らわずに極自然にシンの首に手を回したリナの身体を暖かい魔力が巡って、甘く冷たい液体が喉を潤していった。

だがそれはあまりにも短く呆気なく、すぐにシンの唇は離れてしまって、内心ちょっぴり、ガッカリしてしまった。

「お待たせ、お? 飯かい?」

ポン、と大きくなったフェンは飛んでくる飛龍たちを認め、嬉しそうに尻尾を、フサフサと振り出した。

(あ、そうだった! フェンの好物は魔獣だったわ!)

うっかり忘れていたその事実に、大慌てで否定する。

「ダメーっ! クーちゃん達は、ご飯じゃないからっ!」
「フェン、あいつらはリナのペットだからな、食用ではない」

リナとシンの言葉に、フェンはちょっと残念そうな狼顔だ。

「おっ、火竜じゃん! 中々渋い選択だね~、お嬢ちゃん」

「後の二匹も駄目なのか?」と首をかしげるフェンに「竜種は全面禁止、やむを得ない場合以外の捕食禁令を忘れたか?」とシンは答えている。
そう言いながらも、「ほら、これでも食べて我慢しろ」とポナナの皮を剥いて投げてやっていた。
ムシャムシャとポナナを頬張りながらフェンは、ブツブツと、「そういやこの頃、『乱獲禁止』、とか『共存主義』、とか流行ってるんだっけ」とボヤきながらもう一つ欲しい、と要求してくる。

クーちゃん達はフェンの姿を見ると、大慌てで、キキーと急ブレーキ、はさすがに出来ないので翼で角度を調節しながら上空で様子を伺うように旋回している。

「ほう、スピード調整の仕方が大分上達したな。そんなに警戒しなくても、フェンは大丈夫だ」

フェンはシンが飛び乗ると、ポナナを頬張りながらも翼を実現化させて、大きく、バサバサと広げると上空に飛び立っていった。
リナの心に、『げっ! こっちに来るーっ』と言う慌てた声が聞こえてきた。

「フェンは怖がらなくても大丈夫よー!」
「とって食いはしませんよ~」

なにはさておき、恐る恐る一緒に、ぐるーりと空を回り始めたところを見ると、話し合い?は無事ついたらしい。

「飛び乗るから、谷に降りてきてー!」

頃合いを見てリナが空に向かって叫ぶと、影がこちらに向かって飛んでくる。それを確認すると、渓谷の縁部のほんの僅かな地面を谷に沿って走り出した。
走るスピードに合わせ真横を飛行してくるクーちゃんへと、地面を、エイっと蹴り飛び上がると、タイミングよく着陸予想地点のその背に、ストンと飛び乗る。
リナが無事竜に飛び乗ると、続いて他の二匹とシンを乗せたフェン、それにテンも舞い上がってきた。
テンは人の姿のないここでは自由に空を飛べるので、白くきらきら光る半透明な翼を具現化している。すると一行を洞窟の方へ案内しながらの、クーちゃんの感心したような『綺麗な翼だな~』という呟きが聞こえてきた。

『こっちです~』との案内に任せ、肌に感じる夕刻の風を少し冷たくなってきたわね、と思いながらしばらく滑空を続けると、間もなく渓谷のそばの森に大きな岩肌が見えてきた。
洞窟の前は幸い大きな大木はなく、ちょうど潅木はすべて薙ぎ倒されていて、大きな平地が出来ている。
クーちゃん達をそこへ下ろしては見たものの、何かしら良くないものを洞窟から感じるらしく、『ここは危ないです』との警戒声を着陸するなり発してきた。

「もう夕方で薄暗いし、リナ達はここで待ってろ、俺たちがちょっと行ってくる」
「えっ? でもっ!」
「大丈夫ですよ、ここには腐竜はいません。気配が感じられませんからね」
「…わかったわ」

確かに瘴気は微かに感じられるが、この間の身の毛もよだつ感覚とは全然違う。
心配そうなリナを引き寄せて、「大丈夫だ、茶でも飲んで待っていろ」とシンは眦にそっと唇をあててきた。
ふふ、くすぐったいと笑みがこぼれそうになった半開きの唇に、チャンスとばかりに素早くキスをされる。あ、と思った時には、チュッと唇が離れていった。
頬を染めたリナを満足そうに見つめると、シンは気負う様子もなく平然と、「フェン、行くぞ、食事だ」と、サッサと洞窟に入っていった。

「リナ、ほらおやつですよ」
「ありがとうテン、はい、飲み物」

こうして飛龍達にも、おやつのイモ揚げをお裾分けをしつつ待つこと半刻、満足そうな顔をしたフェンと、平然としたシンが洞窟から姿を現した。

「お帰りなさい! どうだった?」
「瘴気に当てられた小物が少々、とやはり、鱗のみだった」
「いやあ、ご馳走さま~、今日の飯も美味かった~」
「そうですか、ではやはり、腐竜は移動した後なんですね」

テンの言葉に頷くと、シンはすっかり陽が傾いた空を見上げている。そして、「今日はここまでにしておくか」とおもむろに焚き火の用意を始めた。
テンとフェンは、いつものようにいそいそと森に食料の調達をしに入っていき、クーちゃん達は『俺たち、狩に行ってきます』と声が聞こえたので頷くと、兄妹達を促して大空に羽ばたいていった。

この場所はバルドランより南に位置するからなのか、ヨクシア村へ出向いた時程の寒さは感じられない。それでも焚き火でお湯を沸かす準備を整え、燃えさかる炎を見ていると、あったか~い、と何となく落ち着いた気分になってくる。
パチパチと燃える小枝の音に、もう少し丸太を注ぎ足そう、とそばに転がっている太い幹に手を伸ばした。

「あ…これは…」
「リナ? どうした?」

一瞬、お腹のあたりが暖かくなって、突然ビジョンが瞼に浮かんで来る。

(これは…海?)

明るい空が一瞬光って炎の玉がいきなり目の前に飛んでくる、あ、当たる! と思った瞬間ビジョンは、ふっと消えた。

気がつくとそこは薪の傍で、暖かいと思ったら逞しい腕が身体をしっかり支えていてくれていた。

「シン…ありがとう、なんだか今のお告げ、何の事かわからないんだけど…」
「何が見えたんだ?」
「えっと、多分だけども南の方の海、海の色が見たこともない綺麗なターコイズ色だったし、そこを飛んでいたら炎の玉?だと思うのだけれど、それがいきなりぶつかってきた、かな?」
「南の海…この間の、シマモドキナットウイカだったか、あれも確か普段は南海に主に生息する海の魔獣だったな」
「あ…それに…何か、変な匂いがしたような?」
「どんな匂いだ?」
「あ~、う~ん、強いて言えば、腐った匂いと言うか茹で卵? よく分からないけど、ほら、茹で卵を切った時にする匂い…」
「硫黄臭か、火山の近くなのか?」

抱きしめた腕がそのまま胸まで上がってきて、巫女服の上の隙間からシンが手を差し入れてきた。

「な、何をしているのよっ? シン⁈」
「昨夜の事、何か覚えているか?」

(っ! 覚えてる、覚えてるっ! ハッキリと…お互い一糸纒わぬ姿で…)

昨夜の出来事が、突如頭に、ふわん、と浮かび上がってくる。
シンの大きな手が胸を遠慮なく揉みしだいていて、余計にその記憶がその感触と共に鮮明になる。

(きゃー、考えるだけで顔から火が噴きそうで、今日は一日中思考の隅っこに無理やり押し込んでいたのに~!)

「も、もちろん覚えてるわよっ!」
「どこまでだ?」
「えっ?」

どこまで? と言われても……

(ぁん…こんな…あぁ…)

確か、こんな風に胸を触られ、気持ちよくなってしまって……

(いっぱいキスをして、胸をあんなことや、こんなことされて…)

その後、自分は大胆にもシンに直接触ってしまい、確か、口に……

「あれ? ワインを飲んだような感じまでは何となく…でも…」
「やっぱり、そうか…」

あやふやな記憶の断片で凄く恥ずかしい事をされた、とは思うが、ただひたすら気持ち良かったとしか……

(あ、そうっ…こんな感じで、胸をいじられて感じ過ぎちゃって…)

「シンってばっ…んんっ…」

後ろから抱き込まれたまま、大きな手に直に優しく揉みしだかれると、切ないくらい感じてしまってっ…何も考えられなくなってしまう。
振り向いて、こんなところで、と抗議しかけたリナの顎に、手がかけられ、クイと角度をかえてシンの唇が重なってきた。

あん、またこんな強引に…とは思うのだが、如何いかんせん先程の魔力の補給でなんだか物足りなさを感じてくすぶっていたのだ。
正直な身体は逞しい身体に瞬く間に凭れ掛かり、両腕を上げてシンの誘惑に屈してしまった。
もっと、という要求に駆られ自分から唇を開くと、待っていたように温かい舌が侵入してきた。

優しく揉まれる胸の中心を、ギュと指で押されて、んん…と喉から微かな声が漏れる。
長い指でピンクの頂きを挟まれると、思わず、「お願い、摘んでこすって…」と一瞬唇を離して、呟いていた。
すぐさま尖りは望むように摘まれ、指先でクリクリと捏ねられる……ふう、んと甘えるような愉悦の吐息でシンの唇を掠めるように、チュッとお返しのキスをした。

キスをゆっくり解いて唇を離したシンは、耳たぶを嬲るようにかじってくる。

「リナ、どこまで覚えている?」
「ぁ…シンの…味わって…ワインのような…」

息があがってきて、途切れ途切れにそこまで答えると、身体をクルッと回された。そしていきなり、腰に手がかかり、そのままお尻の丸みのあるカーブを掴まれ、身体を軽々と抱き上げられた。

「シン…?」

落ちないように、逞しい首に腕を回して、紺碧の瞳を覗き込んだ。

「我慢しろよ、森は結構声が響くからな」
「え?」

大きな手がお尻を撫でるように丸みを辿っている…と、そばの大木の根元に、背中を押し付けるように降ろされていた。
シンはそのままいきなりしゃがみ込んで、スカートを捲り上げてきた。
中に潜り込まれたのにビックリして、危うく、叫びそうになり慌てて口を押さえた。

「シン⁈」
「口を押さえておけ」
「えっ? ぁ…」

(一体何を…?)

中で下着を降ろされ、反射的に太ももを閉じようとしたが、既に大きな身体が足の間に割り込んでいる。これでは足を閉じる事が出来ないっ!

「ん、んんっーーっ」
「そうだ、しっかり押さえておけよ。もう濡れてる、可愛いな」

袖を口に当てて抗議していたリナは、シンが喋ると湿った恥ずかしいところに彼の息を温かく感じて、思わず、いやーんっと心の中で叫んでしまった。

(ちょっと、なんてところに、ああぁっ…)

足の間が濡れてきていることは感じていたが、そこに熱い舌が、ピトとあてがわれると、背中じゅうがビクウと震えて思わず後ろの木に凭れかかった。
森の独特の木々の匂いと共に、またあの良い香りが鼻腔をくすぐっている。

「は…んっ…」

熱い舌でベロン、と舐め上げられると、不覚にもなまめかしい声が喉から漏れた。慌てて袖を口元に強く当てて、声を口の中に閉じ込める。
シンはペロペロと全体を確かめるように舐め尽くした後、指で開いたスリットの中に舌をねじ込んできた。

(あ…うそうそ…やんーっ…)

舌の先でやわやわと形をなぞられたり、溢れてくる蜜を掬うように舐めとられたり、熱い息と舌で身体の中心を思う存分味わうようにまさぐられている。

(や、なに、こんな…すっごく、気持ちいい……)

恥ずかしいけど、シンの与えてくれるこの感覚を、自分は間違えなく覚えている。

快感で身体が、フワフワ浮いてしまいそうで、片手を縋るように木の幹に回した。
もう一つの手は、知らず知らずスカート越しに、シンの頭を抱え込んでいた。

腰に力が入らなくて、へなりと座り込みそうになる。そんな状態でも必死に耐えつつ立っていると、知らず知らず後ろ手の指に力が入る……
何とか幹に掴まろうと、無我夢中だ。
つい腰を揺らして、声をあげてしまいそうになる。じゅるとすするような音が聞こえたびに、いい…あん、と恥ずかしい声が漏れそうになって、ますます顔に血が昇ってきた。
身体からはだんだん力が抜けていく……
なのに太ももには余計な力が入ってしまい、ついつい閉じてしまいそうになるのを、逞しい手に、だめだ、とガッチリと抑えられて余計に広げられてしまった。
広い肩に太ももを担ぎ載せられて、あられもない姿で立たされ濡れてくる秘所に温かい唇が吸い付いてくる。
溢れてくる愛蜜を啜る音が、ちゅる、じゅる、と大きくなってきて、だんだん動悸が激しくなり不注意にも小さな喘ぎが漏れだした。

(ぁ…ん…ぁあーーっ…)

ジュウウ、と一際大胆に啜られた後に、尖った舌先で優しくジンジン感じる膨らみを、ツンとつつかれると、もう、ダメと身体が大きく、ビクン、ビクンと震えてきた。
もはや、立っている事ができない……
お尻からズルズル身体がずれ落ちてゆくのを、「おっと」と呟く声が聞こえて、気がつくとがっしりそのまま支えられていた。

「やっぱり甘いな…リナ、思い出したか?」
「…ハァ…ハァ…思い…出した…わ…」

自分達の交わした熱い吐息にシーツの乱れ……
めくるめく快感に我を忘れて身体が震える度、知らず知らず溢れ出した熱い蜜…それをシンに、貪欲に貪られて……

荒い息をしながら頬を染めて答えると、シンは額と額をくっ付けて、鼻先を優しく自分の鼻先と擦り合わせ安心したように囁いてきた。

「よかった、同意だよな? もちろん」
「…ハァ…ん…そうね」
「心変わりはしていないな?」
「…ないわ」

それを聞くと、氷の美貌の目尻が下がって優しい顔になり、堪らないと言いたげにキスを、チュッとされる。ぎゅううと愛しげに固く強く抱き締められた。
心から満足そうなシンは、やっと息が整ってきたリナの服の乱れを優しく直してやり、薪の側に座らせると、「そこで休んでいろ」とせっせとスープを温め出した。

未だ激しい動悸がする胸を押さえて、昨夜も今もシンに喜んで身を任せた行為に恥ずかしさは感じても、それより求められる喜びをありありと噛み締めてしまう。
そして、シンへの想いは時間を追う毎にさらに積もり、自然に、もっと…と身体は疼いてくる。
その頼もしい背中を見つめていると、胸がキュンと切なくなった。

今朝のシンとテンの会話を聞いても、改めて、やはり気持ちは変わらない……と思ってしまう。

(…私って結構、本能の人だったんだわ……)

テンと対等に堂々と話していることから、シンは普通の人ではない、とは思っている。
けれども、この人は信頼できる人、という気持ちに揺るぎはなかった。
そして思い出すのも、きゃー恥ずかしい、と身悶えする、シンと裸でベッドで抱き合って寝ているところを見つかってしまった後の、彼とテンの二人のやり取りだ。

(モシカシテ、シンってこの世界の生まれではない?)

そう考えれば、シンの異常な強さや先程の火竜の知識にも納得がいった。
そして何と言っても、昨夜シンに請われて血判を押した、例の宣言書だ。
暗闇で眩く光っていたのは、この世にあり得ない、摩訶不思議な紙である。

シンが自分の傍にずっといてくれるのなら、サインをしたことは後悔はしていない。…が、やはり自分は異世界人を夫にしようとしているのだろうか?

(でもまあ、昔から、テンも一緒にいるしね……)

その一般によく考えればとんでもないアイデアは、実はリナにとっては驚く程ハードルが低かった……

やっと落ち着いてきた動悸を、胸に手を当てて確かめてみる。
皆が戻ってきた後も、シンがそばにいる為に、ドキドキとときめいて身体は未だ少し熱い。

(普通に恋がしたかったのに、なんで私の周りって、こんな、普通でない人とか、人外ばっかりなのかしら…?)

今度は周りを見渡して目に入ってきた光景に、思わず、ホウッとため息が漏れ出てしまった。
こんな異国の怪しい洞窟の前で、なにやら食べ物らしき芋や果物を抱えている絶世の美女のテンと、口に何か咥えて戻ってきた大型狼のフェン、それにクーちゃん達三匹の飛龍と隣に座るやたらと男前のシン。

小さい頃、自分の思い描いた晩餐の風景とは、あまりに違いすぎる……

闇鍋に近い美味しい夕食を焚き火を囲んで一緒に食べながらも、このメンバーの余りにも多い人外率に、リナは突発的にまた、小さく溜息をついたのだった。
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