不実な紳士の甘美な愛し方

藤谷藍

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恋じゃない、この気持ちは……4

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伊織に続いて寝室へと足を踏み入れた葵は、昨日の今日で懐かしいとさえ感じた。
ナイトランプの柔らかな明かりと、かすかな男性香水の香り、それに雨音のせいだろうか……?
不思議なその感覚に浸る間も無く、ベッドの手前で伊織が振り向く。

「葵、キスがしたいな」

懇願の熱をはらんだ声は、うす暗い部屋に余韻を残し、その甘やかな空気に本気で照れ臭くなる。
返事など待たない伊織が近づいて、迎えるように目を閉じた葵の唇と触れ合った。
温かい舌がわずかな隙間から滑り込み、優しく葵の舌を捉える。葵もじゃれるように舌を絡めたら、吸い上げられて唇まで優しくまれた。
浅く、深くーーそして、ついばむキスへと……リズムよく重ねられるキスで昂った胸には、伊織への愛しさが溢れてくる。つい舌先でその口腔を探ると、キスが深まり伊織も同じ動きで応えてきた。

こんな風に伊織とキスを交わすのはとても好きーーになるかも…………

気持ちがいい。それ以上に、この人の腕の中だと、そんな実感で胸がいっぱいになる。
すっかり馴染んだ身体をしっかり支えてくれる腕。抱きこんでくる温もりや伊織の匂いにもひたって、彼を味わい吐息の交換をすると、葵は「ん……」と満足げな息をついた。
だが、ゆるり追いかけ合うキスは、回数を重ねれば重ねるほど伊織が葵をからめ取って離さなくなり……ついに深くむさぼられる葵の口端から唾液が流れだした。背中をやんわりなぞられるせいで、小さなあえぎさえ漏れはじめる。おまけに伊織の悪戯な指が、そのまま脇腹や腰まで撫であげてくる。

「……っ……ふう……ん」

くすぐったいその感覚に葵が身じろぎをすると、背中に回された腕の拘束もいっそうきつくなった。
と、葵を抱えたまま、伊織はベッドへとゆっくり倒れこむ。

「ぁ……」
「驚かせたかい?」

謝罪のキスが唇に軽く落ちてくる。けど、伊織は唇をわせたまま伝い落ちる唾液を舐め取り、ここでやめたくないと柔らかな耳たぶをしゃぶりだした。

「ん~、食べてしまいたいな……」

敏感な耳元を濡らされる感覚に、葵の心臓がますます早鐘を打ちはじめてーー

「伊織さんーーもしかして……したい……んですか?」

思いきって勇気を出したら、見つめてくる黒い瞳が欲情もあらわに艶やかに光った。

「したいな。ものすごく葵が欲しい」

ふいに被さっていた身体が動き、硬くなりつつある彼自身をわざと足の間にゆっくりこすり付けてきた。

ドッキンッ。

「っん……」
「ふ……」

かすれた喘ぎが重なると同時に、跳ねた鼓動まで部屋中に響きわたった気がした。
今までにないあからさまな挑発に、葵の脳天まで一気に血が上る。伊織の甘やかな雰囲気に野獣味が加わった、とでも言えばいいのだろうか。ロックオンされたのだ。そう肌でひしひしと感じる。

「ほら、ね。葵は嫌かい?」

悪びれもせずそんなことを聞いてくる顔をつかの間見つめた後、葵は照れてふっと目を一瞬逸らした。

「嫌じゃあないです。伊織さんなら……」

か細い返事に嬉しそうに笑った……と、思ったらその手が胸の膨らみを包んでくる。

「ありがとう。嬉しいな」
「あ……ふ……清い交際じゃ……なかった……んです……か……?」
「あり得ないほど、清い交際だよ。君が心から僕を求めるまで、手を出さなかったんだから」
「っ……」

深く感じ入った声に、返す言葉が見つからない。

奥手とは冗談にも言えない彼は、時々からかうような素振りは見せても、一貫して余裕ある態度だった。
一線を越える気配などなかったのに、やはり今日の出来事で触発された……?

(でも……私も出会ったばかりの頃は、こんな関係になるなんて思いもしなかった……)

ショッキングな出会いーーその印象が強過ぎて、残念なイケメンだとずっと思っていた。一緒に過ごす時間が増えるにつれ、彼の本質を徐々に知っていきーー今は毎日会いたい。
強くそう願うと同時に、ホテルで言われた「そんな関係ではない」と言う言葉がつかのま頭に浮かぶ。
ーー今夜だけ、なのかな……そう思うと、胸がツクンと痛んだ。
けれど葵の唇からこぼれたのは、感じ入った「ぁっ、あん……」というあられもない声だ。
大きな手が微妙な力加減で柔らかな膨らみに触れてくるから、まともに考えることなどできない。
そんな葵の反応に伊織が甘く笑った。その笑顔に、ますますドキドキが増してくる。二人の親密さが今夜はより濃密なものになる。そんな予感を含む空気が、肌を通してじわじわ伝わってくる。

パジャマの裾をかいくぐった伊織の手が素肌をなぞり、敏感な胸を直接ねっとり揉みしだきはじめた。

「ふぁ……あ……ん……」

甘やかな序奏はゆっくり始まり、みるみる葵の思考を奪って、あっという間に前がはだけられ呼吸が乱れる。しっとり湿った肌はますます桃色に染まり、熱っぽく火照ほてっていた。
ーーきっと自分は、みっともないくらい赤くなっているに違いない。わかっていてもどうすることもできない。恥ずかしくてその逞しい上腕にすがりつく指先に、つい力がこもる。笑った顔が近づいて、伊織の低い声が葵の耳朶に触れた。

「やっぱり綺麗な胸だ……僕には開いてくれるーー葵の心、そのものだね……」

とろりと甘いささやきは最高に心地よく、肌を撫でるなめらかな声にたまらなく感じてしまって……知らず知らず太腿をすり合わせていた。
もう濡れている。身体も熱い。

(ーーこんな事、初めてーー……)

自分でも少し生真面目きまじめすぎると自覚のある葵は、はじめからこんな陶酔感に囚われたことなど一度もない。
はだけた胸の蕾はすでにツンと尖って、伊織の唇に含まれた途端そこからとろける。温かく濡れた感覚が身体中に広まり、素肌があわ立って目眩めまいでクラっとする。
何だろう、これはーー……胸の奥から溢れてくる、温かくて深くて、そして少し怖いこの気持ち。ーーよく知っているようで、まったく未知のこれは愛おしさなのだろうか……?
ーー秘めた快楽を引き出すように丁寧に施される愛撫は、始まったばかりなのに良すぎて。
心も身体も何もかもが伊織に溺れていく。

「葵のすべてが、見たい」

甘美なささやきと共に唇がゆっくりと重なった。すぐさま舌を差し入れてくる伊織の指先が髪の地肌をくすぐり髪を掻き回し、もう片方の手は腰をたどって背中とシーツとの間にまで忍んで撫でさすってくる。陶然とした葵は気がつけば全裸にされていた。

「あ、あ……んっ……ぁっ……あぁぁっ」

吸い上げられる胸の芯から心までが流れ出すようで、彼が恋しくて切なくて。
こんなの一夜限りだと割りきれそうにない…………
伊織の頭をかき抱いた葵は、自分からねだるように胸を押しつけた。
もっと奥まで触れて欲しい。裸で抱き合っているのに、まだぜんぜん伊織が足りない。
熱い彼をさらに深いところで受け止めたくて、葵は背中に回した腕に力を込める。
すると、応えるように重なった唇に強く舌を絡め取られ、おまけに硬くなった彼でじんわり濡れた秘所をリズミカルにこすられた。こんなことをされたらたまらない。
たぎる欲求を隠しもしない伊織の動きは愛の行為をなぞったもので、たちまち葵の腰の奥から熱い衝動がり上がってきた。

「ふぅんっ……んん……」

濃密で淫らなキスは延々と繰り返され、だんだん速くなるリズムに葵の目は潤んで視界がかすみ息が上がる。脳髄までーーじんじんする。

気持ちいい。キスを止められない。このままずっと……
互いの息を呑み込む勢いで唇を重ね続け、彼の髪をまさぐり、促されるまま上になり下になり、その張りのあるなめらかな肌に葵も夢中になった。
やがて高ぶりに合わせ、ねっとり濡れた秘所に彼をグリと押しつけられる。

「んんっ、んんぅーーっ!」

舌が痺れるくらい深く絡められたキスからはのがれられない。葵は逞しい腕にきつくすがり小さく震えた。
なのに伊織は腰を密着させたまま、きっ先で膨らんだ小さなしこりを何度もなぞってくる。上り詰めた葵は彼のあおるような愛撫のせいで快感の火種がくすぶり続け、生み出された熱がいつまでも冷めない。
キスだけでこんなーーこれまで感じたこともない深い悦楽の予兆は、それはもう怖いほどで。
身体の奥が溶け出すこの感じが続いたら、正気を保てなくなる……
そう感じるのに、身体の芯はさらに熱くなってくる。
高鳴る胸の音に誘われるように、伊織は身をかがめ色づいた蕾をまた口に含んだ。

「あぁ、ぁ、あっ」

ちゅ、ちゅうと胸の芯が吸い上げられる感覚に、痺れるような歓喜が襲ってくる。
貪欲な唇に蕾を軽く引っ張られ、転がされ柔らかく甘噛みまでされて。葵の吐く息は乱れて、もう涙目だ。

「ん……や……ぁ、ぁ、あっ……」

じゅう、ちゅ、と音を立ててしゃぶられても、その淫らな音さえかき消すなまめかしい嬌声が次々と唇からこぼれる。
黒髪を抱え余韻を残すつややかな音色を奏でる葵の反応にますます興奮したのか、伊織はさらに熱心に赤い蕾をねぶった。葵の素肌には、ぬめった硬い彼の先走りがヌルッと染み込み、胸は左右とも伊織の唾液まみれだ。けど、伊織が甘い果実を味わいつくす強い吸い上げをやめないから、じんじんするうずきも止まらない。

「あ……も……だめ……ぁ……っ」
「なんて甘いんだ……やめられない」

ふいに濡れた肌に熱い息がかかり伊織の唇が身体を彷徨さまいはじめた。キスマークを転々と残し、伊織のものだと無言で主張する。

「んっ、んっ……っ……」

ゾクゾクッ。痛いほど肌を吸い上げられるたびに、葵の身体中の細胞が震える。
霞みがかった余韻にボーとしていると、キスを奪われ柔らかい太腿に手がかかり、足を大きく開かされた。すかさず伊織がかがみ込んでくる。
膝の裏を押さえての、葵のすべてを余すところなくさらけだそうとする動きに。

「や……こんな……丸見え……」

わずかに残った理性がか細い声で伝える。が、じっと見つめられると全身から力が抜けた。
いい。彼の好きにしていい。ーー目で伝えたそんな気持ちを、伊織は極上の笑みで受け止める。
全部見られている。
痛いほどの視線を感じてしまって、なんだかやたら恥ずかしい。そう正直に口にしたらーー

「恥ずかしいことでも何でも、共有できるのが恋人だよ……」

甘い声が誇らしそうに告げてくる。そして、「なら、一緒にーー」とくるり身体の上下、続いて前後まで体勢を入れ換えられた。霞んだ意識が状況を捉えた時は、葵は彼の身体を跨いだ格好だ。その上、彼の昂る屹立が目の前にある。

(あ、嘘、伊織さんもこんなに……)

初めて目にする彼に恥じらうも、その猛々しさに視線が釘付けになった。次の瞬間は衝動的に手が伸び彼に触れていた。
熱い。すべすべしているのに、柔らかくて硬くて何よりも熱い。
手の中の弾けるような逞しさに、葵は甘やかな気持ちになる。彼も感じている……
引き寄せた先端にそっとキスを落とすとぽつぽつ浮き出てくる透明な滴に、ふふ、と一人でに笑みがこぼれた。形を確かめるように撫で上げ、くぼみに舌を伸ばし舐め取る。ーーと、伊織の味が口いっぱいに広がった。
彼にも、もっと気持ち良くなって欲しい。
ますますじんわり溢れてくるしずくで手の滑りがよくなると、込み上げた衝動のまま葵は熱い彼を上からくわえ、呑み込むように唇を滑らせた。

「はっ、くっ……」

伊織の腰がベッドから一瞬浮き、跳ねる。

「まいった、結構クるな……」

珍しく悔しそうな、それでいて嬉しさが滲んだ声。伊織のそんな声は初めて聞くがとても嬉しい。
ジュ、ジュルとすする水音が響くたび伊織の息が緊切になっていったが、このままでは一方的に追い詰められると伊織は葵の腰を指先で優しく一撫でした。
とたんに葵の動きがぎこちなくなる。

「いいな……触れる前から、こんなに濡れてる」

かすれ声のささやきは興奮で上ずっている。
熱い息がぬらぬらと照り光る白い肌をそよふき、ぬかるんだ秘所まで届いて。湿り気を帯びた太腿の内側を堪能するように長い指先でなぞられると、葵の背中がぞくっと痺れた。

「葵、もっと腰を落として」

そんな恥ずかしいことを、堂々とねだらないでほしい。上気した頬はこの上なく火照って、一瞬ギュッと目を閉じたが、思い切って密口に温かい息が直接かかるまでゆっくり動く。
すべりのよい花弁をぬるり舐め上げられると、共に差し入れられた指先がクプッと中に吸い込まれた。

「ふっう……ん…ーー」
「もう柔らかい……たくさん可愛がってあげるから、葵の全部を見せて」

大切に、大切に触れてくるからーー胸がにわかに切なくなる。まるで繊細なガラス細工を扱う手つきで、伊織は秘所を押し広げ、感じるところを一つ一つ丁寧に暴いていった。すると与えられる快感で葵の手がおろそかになりはじめる。

「可愛い……トロトロだ。食べていいかな」

情熱のこもる舌でねっとり蜜壺を掻き回されると、葵はグズグズに溶け出した。
手の中の屹立がさらに硬くたけって、伊織が興奮しているのが分かる。だからこそ、ますます濡れてくる。押し広げられたから密口からひっきりなしに愛蜜が滴り落ち、それを伊織が舐めとった。
秘所をやわらかく舐める舌や、肌を撫でさする指先は泣きたくなるくらい優しくて、決して乱暴に扱わない甘美な触れ方に我慢しきれず、葵はむせび泣くような喘ぎを漏らした。
朦朧としてくる意識を引き戻すように彼を咥え直すが、集中しなきゃと思うのに呼応するように膨らんだ花芽を口に含まれると快感で意識が遠くへ連れていかれそうで、身体に力が入らない。

「んうっ……やっ……だめ……」
「そんな声を聞かされるとーーすぐに挿れたくなるよ……」

ひくっとひきつる花芽をさらに吸引され、身体中が快感の糸で強く引っ張られた。

「んんぅーー……っ」

鋭い痺れが駆け抜け足の指までピンと反り返る。
またも極めてしまった。なのに伊織の唇はそこから離れない。じんじん痺れた花芽を含んだまま舌先で舐め回してきて、またも強く吸い上げられる。

「や、ダメ、伊織……さん、また、イッちゃぅ……っ」

切れ切れの息で訴えたら、返事の代わりに軽く甘噛みされた。

「ひぁん……あぁっーー……」

連続でイカされて、頭にとろりモヤがかかる。弛緩した身体から溢れ出る蜜を喉を鳴らして飲む伊織は、感じすぎて涙を浮かべた葵の下で満足そうだ。細かい痙攣を繰り返す花芽に熱くて柔らかい舌を当てている。
鋭い快感でじんじんする膨らみを癒すように、優しくそっと包み込まれた。だが、花芽を覆う動きがそこでピタと止まる。

「ぁ、あ……やぁ……」

温かくてヌルッとした舌は動かない。
散々弄られただけにジクジク疼いてしょうがない花芽は、いくらなだめるように肌を撫でられても、いっそうひくつくだけだ。腰を揺らし逃れようとしても逞しい腕の固いホールドはそれを許さない。

「ぁう、動いて、お願い……」

身体の奥からせり上げてくる熱い何かを、必死で繋ぎ止めるけど焦らされる時間は永遠にも思え、ついに小さな痙攣を引き起こしはじめる。ーー刺激をねだる葵の切なげな喘ぎに、伊織がふっと笑った。

「や、だっメぇーーくるぅ、動いちゃ……だめぇ……」

かすれ声で懇願したのに膨らんだ花芽を舌で一気に押し潰され、葵を引き留めていた糸がふっと切れる。

「ーーっ……んんぅんっ……!」

直後、尿意にも似た感覚の温かい液体が勢いよく飛び出て意識がフワンと浮いた。
こんなことーーこんなにーー……
葵は恥ずかし過ぎて、目をぎゅううとつむった。
身体に力が入らない。下半身が溶けてしまった。ーーなのに、満足感で満たされている。
感じまくった自分が身悶えするほど恥ずかしくて全身真っ赤な葵が荒い呼吸を繰り返していると、顔を拭った伊織が身体を起こし覆いかぶさってくる。耳たぶを柔らかく食まれた。

「……僕も限界だ……葵の中に、今すぐ入りたい」

伊織の呼吸も乱れている。
小さなプラスチックの袋を噛みちぎると、しつこい程の入念な愛撫でグジュグジュに蕩けた密口に硬い彼を擦り付けてきた。

「大丈夫かい?」

快感以外の感覚は、もうない。
気遣うような伊織の声音や眼差しには本気の思いやりしかない。それだけで甘い痺れが駆け抜けて、身体中が震えた。

「っーー……っ」

入れて。そう葵の唇は動いたのに、声が出てこない。
けど、そんな気持ちを読み取ったように葵の唇に軽くキスを落とし、その膝裏に手をかけた伊織は腰を沈めてきた。

「ふうっん~~~~……っ」

滑らかに、ゆっくり、入ってくる。熱くて硬い伊織のとろけた密口への侵入を、葵は溢れてくる愛蜜で柔らかく出迎えた。たちまち陶酔感を伴う幸せが身体中に駆け巡る。
気持ちよくてーー頭もふわふわする。
葵の最奥で伊織が確かめるように軽くトンと突くと、心と身体がキュウンと切なくうねった。伊織への愛おしさは苦しくなるほどで。

(もっとーー愛して……)

伊織が吐き出した熱い息にさえ、葵は小刻みにひきつった。

「っ……は」

葵を抱く腕に力がこもり、こめかみから汗を流した伊織がなぜだかふっと笑う気配がする。

「……危なかった。もう、持っていかれそうになった」

蕩けそうな黒い瞳で見つめられると、さっきから感じている多幸感がますます増した。

快美でリズミカルで、うっとりする優しい愛し方ーー…………

ーー伊織はゆったりと腰を動かし、葵の身体を味わうようにゆらゆらと揺らしてくる。

「あっ……は…あ……ん……んん」
「気持ちが入ると、こんなにいいんだな……」

馴染ませるように。堪能するように。じれったいほどの緩慢な抽送を繰り返しながら、伊織は感極まった表情で「葵とは、初めてばかりだ……」と小さく呟いている。
けれど葵は幸せに浮かれて、意識はぽうとしたままだ。

「あっ、あっ、っぁ……あぁっ……」

甘い喘ぎが止めどなく喉奥から溢れ、身体がまるで伊織にじっくり弾き込まれる楽器になったようだった。
湧き上がる熱を浸透させる伊織のそのゆっくりとした抽送は、葵を気遣いながらも妖しい官能を引き出し、葵は甘く奥まで蕩かされチリチリとあぶられる。唇が思わず動いた。

「ぁ……もっ、ーー激しく、て……いいっ……からっ」

葵のいじらしい提案に、低いセクシー声が答えた。

「今煽ったらーーダメだよ。余裕なんか……まったく……ない」
「で…も……これじゃ……い、おり……さん……が……」

言い返した途端、灼熱の屹立で感じる内壁をグッと擦りつけられた。

「……あ、そこ……ぁ、あっ、あ、ぁっん」
「気絶するほど激しくする……それだけが快感じゃあない……」

甘やかしつつのじっくり攻め落とすような抽送が繰り返される。

「ーー葵の身体に僕の愛し方を……たっぷり教え込む」

緩やかにリズミカルに腰を浅く深く差し入れては、回してくる。

「良すぎるよ、葵……」

絶妙なタイミングで内側の浅い部分を掠められると、堪らなくいいーー……
その巧みな動きに葵はとろけて、またまたイってしまいそうになる。

「あぁ……っ、あ、あ、ぁーー……っ」
「ーー葵との大切な初めてだ……心ゆくまで、味わい尽くす……。一気なんて、そんな惜しいことは……しないよ」

甘い囁きとその丁寧なまでの愛し方に葵は身悶えて、気がつけばすすり泣いていた。
繋がった箇所から耳を塞ぎたくなる淫らなぬめった音がする。内側からグチュグチュに溶けてヒクヒクひくつく膣奥が伊織を欲しがって彼に絡みつき、波のリズムで揺らされるたびに身体がしなった。

「ん……ぁ……んん……っああ、伊織、さ……ん……」

その腕に離さないでと、しがみつく。

「そろそろ……伊織と呼んでくれてもーー、いいんじゃ……ないか?」

独り言のような欲求をつきつけるように、ググッと恥骨に当たるまで腰を押し付けられた。

「あ……や……あん……んっ」
「伊織、だ……葵ーー……」
「んっ、ま、待ってーーん……んンっーー」
「まだ愛し方が……足りない、か……」

今度はいきなり足を深く折り曲げられる。角度が変わると今まで届かなかった奥にまで快感が広がった。
深い、彼から与え続けられる心まで蕩ける愛撫と優しさに甘やかされるまま、伊織と溶けあう。
ズルイーーこんな甘やかす愛し方。
心も身体もうっとり溺れるほど優しいなんて、ほんとズル過ぎる。
これだから困る。本当に困る。こんな風に抱かれたら、ダメだと分かっていても本気に取ってしまいそうになる。
彼に愛されてると勘違いする…………

(伊織さんの……大切な、特別な、相手になりたい……)

その他大勢の一人ではなくーー…………
奥深く挿入れられたまま、さらにじっくり愛されてポロリと本音が漏れそうになり、彼にしがみついた。心と膣中なかがキュウンとうねる。

「……は……っ……いいな……」

耳元のかすれ声に肌が優しくなぞられて、苦しいほど脈打つ心臓がさらにドキンとはねる。
こみ上げる衝動をさらに煽るように、唇が重なってきた。
緩く舌をしゃぶられると、なんともいえない甘い快感が全身をつらぬく。

「ーーふぁ……ぅんっ……っんふ」

もうダメだ。こんな甘いキスーーしないで欲しい。

堪えきれず、嗚咽おえつが喉から漏れた。

「……あ、も……だめ……、いやーー……」
「……何が……だい?」

切ない訴えに、唇をつけたまま優しく問われた。

「……伊織さん……の……リストに加わって……、それで終わる……なんて……」
「……リスト? 終わるって、なんだ……それは……」

快感に喘ぎながらもどこか苦しそうな葵に、伊織は目を見張った。腰の動きを一旦止める。

「っ……ってーー私たちは、関係じゃ……ない、って……」
「ーー当たり前だ。違うに……決まっているだろう……」

強い声が繋がる箇所を強調するように、突然力強く突き上げてきた。

「ひぁ……そ……だ、め……ぇーー……ぁっ、ぁん……あ、あぁ……」

痺れるような快感がビリっと、波状に広がる。葵の全身がくまなく甘く疼いた。

「葵を適当に……あしらうわけがないーー僕たちは、そんな浅い関係じゃあ、ない」

突き上げがあやすペースに戻り、言い聞かせるような甘い囁きが耳朶に注がれる。

「誰よりも葵が大切だよ……。一晩で終わらせる気なんか、毛頭ない……」

じわじわと染み入る言葉は、ゆるゆる攻めてくる腰の抽送を伝って心魂にまで届き、葵を優しく包み込む。

「ーーこれからだ……ほらもっと。もっと僕を……欲しがって乱れていい。感じてる葵は綺麗だ……」
「っあ、あぁぁ……い、いのーー、伊織さ……もーー……?」

彼も、感じてくれてる……? ーー快感に翻弄されての無意識の問いの返事は、いきなり子宮口を鋭く突くグチュっと言う音だった。

「ふあぁあっ、ん~~っーー…………っ」
「快いどころか、もう何度も……持ってかれそう、に……なってる……」

額から流れる汗。艶やかに光る瞳。甘いその言葉を聞いただけで、心がキュンと甘く締め付けられた。目尻からしずくが流れ伝ってこぼれ落ちる。

「くっ、また……っ」

奥まで届いていた屹立が、ゆっくり引き抜かれたと思うと、気持ちの良い内壁を小刻みに擦り上げてくる。わざと快感を引き伸ばし時間をかけて焦らすような技巧に、葵はみるみる我を忘れるほど追い詰められた。

「あっ、あっ、あっ、ぁ……っあ、はああっ……」

重なった肌は妬けるほど熱くて、何度も腰を送り込まれる頭の芯は甘く痺れて恍惚状態だ。

わけが分からないほど、気持ちいいーー…………

全身がびくびくと震えて、息も絶え絶え。なのに最奥まで彼で埋め尽くされる快感に、膣中が激しく痙攣し続ける。
イッたままの身体を抽送する腰の動きが、だんだん力強くなってきた。

「あっ……も……、いおっ……りぃ……ああっ……だ、めえ~~ーー……」
「っ僕も……堪らないっ……あお、い……」

伊織はついに葵の腰を抱え直し、意思によってせき止めていた情熱を開放しはじめた。
掠れたセクシー声が、荒い呼吸で何度も名前を呼んでくる。

「葵……葵っ……葵っ……」

激しい抽送で腰の奥を突き上げられ、耳元で囁かれるだけで蜜が溢れ出す。
固く抱きしめられ、強く押しつけられた唇。めくるめく快感の波が怒涛のごとく一気に押し寄せた。

「んんん~~っぅーー!」

目の前が真っ白になった後、身体の奥で温かい白濁が放たれた感覚に全身が溶けた。
ーーしばらくして唇が離れると、葵は無意識に「熱っいーー……」と口走っていた。


結局、葵は伊織に一度愛されただけで、気を失ったように朝まで目を覚まさずコンコンと眠り続けた。
何度も何度もイかされた濃密な交わりは、たった一度とはいえ、葵の身体だけでなく心にも十分過ぎる充実感をもたらし満ち足りた深い眠りだった。
翌朝。葵がふと目を覚ましシーツの間で身じろぎをすると、隣ですでに起きていたらしい伊織と目が合う。自分をじっと見つめてくる伊織に、慌てて身を起こし枯れた声で「おはようございます」と朝の挨拶をしたらーー
腰に手が回ってきて再びベッドに引きずり込まれた。

「葵。起きたばかりで悪いけど、今すぐ抱きたい」
「え、あの? ぁ、朝ごはんは……」

予想もしていなかった朝の挨拶に、とっさに頭に浮かんだのは、間抜けな質問だ。

「後で好きなだけ、食べていいから」

説得もそこそこに唇が重なってきて、昨夜の熱情でまだ柔らかい密口に固くて熱い彼がすんなり挿入ってくる。

(ウソっ、あ~~ーー)

たちまち潤ったそこからクチュと濡れたいやらしい音が聞こえた。
伊織らしくない性急さに葵は息をのんだ。が、硬い彼をすぐに、それもよろこんで受け入れた自分の身体にも一瞬思考が止まった。
熱い彼を膣中なかで感じると興奮でさらに濡れてくる。首筋に唇を這わせられつつ緩やかに腰を送り込まれ、たまらず喘ぎが漏れた。

「心配しなくていい……葵の身体には、負担をかけない」

その言葉通り腰を抱え直した伊織は、深いキスを交わしながらめまいがするほどの快感を身体の奥に送ってきて、葵は潤んだ瞳を閉じてその肩にすがった。
少しづつ突き上げる速度が速くなっていき、めくるめく快感と共にやがて伊織と同時に上り詰める。

「ぁ、あ、あっ、……もう、もうだめぇ……ああぁっ」
「葵っ……」

最奥を突かれて身体中を走り抜けた快感に身を震わせていると、同じタイミングで腰を震わせた伊織がしばらくして、そっと目尻にたまった涙を指先で拭ってくれた。

「大丈夫かい?」

葵はうっとり閉じていた目を開ける。心配そうに覗き込む顔を見て笑った。

「……伊織さん、たら……朝寝坊……なんて……嘘、ばっかり……」

まだ早鐘を打っている胸の鼓動のせいで、なじる声も途切れ途切れになる。

「葵の寝顔が可愛いせいだよ。これでも、抑えてるんだけど」

伊織は淡白な付き合いしかしないと知っているから、その言葉に心から驚いた。
でも、困ったような顔をした彼を見ていると……ぷっと吹き出す。

「わかりました……今日は……、伊織さんの、好きにしていいです……」
「本当かい?」

瞳を輝かせた顔に、葵は真面目な顔で告げた。

「はい。でも……朝ごはんだけは、食べさせて下さい」
「それも自信なくなってきた」

中に入ったままだった彼は、心なしかさが増している。小さなプラスチックの袋を再び手荒く引きちぎる伊織に、葵は信じられないと、目を大きく見開いたのだった。


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