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ピロートークとピンクの薔薇
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「光陽、どうして髪の色が金髪に変わったの?」
「普段は黒だが、時々先祖返りで金に染まる。咲夜の好みではないか?」
「どちらも好きよ。どちらでも光陽は光陽よ。」
金髪の光陽と黒髪の光陽、髪色が違うだけで見た目が天使と悪魔ほど違って見えるが、咲夜にとってはどちらの光陽も、ちょっぴり意地悪な優しい光陽で、彼を愛する気持ちに変わりはない。
「そういえば、光陽、貴方も結界を張れるのでしょう。香りを独占したいのなら貴方が結界を張れば良かったのに、どうしてわざわざ私にさせるの。」
今も光陽の堅固なベッドルームの結界は解かれておらず、咲夜の彼の周りの結界も元に戻っており、いわば二重結界の中に二人はいる。
「咲夜の意思で僕だけに限定にして欲しかったからだ。それに咲夜にはいい練習になっただろ。」
やっぱり、見た目は金髪天使でも、中身は光陽だ。
うーと可愛く唸っていると、今だに咲夜の中から出て行かず、繋がれた腰を揺らされて、身体にまた甘い痺れが走り快感に犯される。
咲夜は、(だめだわ、このままでは大事なことが聞けずに蕩かされてしまう。)と意思の力を総動員して、快感に逆らい、一番気になる質問を喘ぎ喘ぎ声にする。
「光陽、いつまで日本に居られるの? もともと本部から応援で派遣されたと言ってたわよね?」
光陽はゆっくり腰を揺らしながら低いかすれた声で答える。
「ああ、もともと日本は支部がしっかりしていて、本部の手を借りる事など稀だったんだが、確か4、5年前から魔物の活動が盛んになって、この何年か手こずる事件が何度か起き始めた。それで、原因究明と応援を兼ねて僕が派遣されてきた。僕が今年初めから赴任してきて、原因を探ってはいるがこれと言った決定的な要因が見つからない。それに支部が言うには僕が赴任してきてからは、目立った魔物の活動も収まっているらしい。だから余計に探るのが難しくなっている。」
「じゃあ、その原因がわかるまではここに居られるのね。」
「そうだな、出来れば原因の問題が解決できれば、本部としては安心なんだが。」
近年になって魔物の出没が増え、要請を受けて、流暢な日本語を話す光陽が応援に派遣された、と確かに光陽は言っていた。魔物の活動が活発になって困っている日本支部には悪いが、原因がはっきりするまでは光陽はここにいる。
(まだ一緒に居られる。よかったわ。)
一緒に時間を過ごせば、咲夜に情も移るかもしれない。彼に愛されて、一緒に連れて行ってもらえばどんなに幸せだろう。彼に抱かれる喜びを知ってしまった咲夜は、彼なしの未来など考えられない。こうなったら時間は咲夜の貴重な味方だ。出来るだけ一分一秒でも彼と一緒に居て、もっと咲夜を知ってもらおう。
(彼の性格からして、二股をかけるような事はしない。浮気をするなら浮気ではなく、本気だわ、きっと。)
彼の話から、色々なところを転々とする生活の様だし、港港に恋人がいる船乗りではないが、咲夜の様に彼の帰りを待つ人がきっといるだろう。
(だって光陽こんなに素敵なんですもの。)
彼の類い稀な容姿は、彼の為人というか彼が彼であるが故に愛する咲夜にとって、彼を形づくる一つの要因でしかないが、他の女性にはとても魅力的に映るだろう。どうすれば彼を咲夜に繋ぎ止めておけるのか具体的な策はないが、泣いて縋るのだけはダメだ、自分が彼の立場だったら、鬱陶しいとわかる。思考の迷路に嵌まりかけている咲夜に、光陽が耳元で甘く囁く、
「何を考えている?咲夜。可愛い人」
ふっと耳に熱い息を掛けられて、咲夜の思考がバラバラになり、腰に手をかけられて、繋がったままそのまま身体を裏返しにされ、思わず甘い嬌声が咲夜の喉から漏れる。
「あぁっ、んっ・・」
感じやすい背中を羽を撫でる様に指先で優しく軽くなぞられ、熱い舌がそれに続いて、可愛く鳴き始めた咲夜に、光陽は、
「咲夜はあまり気にしなくても良い、近々本部とこの問題を話し合う予定だ。それより僕に集中して欲しい。」
と素肌に口付けながら囁く。そして後ろから咲夜の身体を抱き上げ力強く突き上げ出す。彼の注いだものが咲夜の甘くこみ上げる蜜と共に生暖かく咲夜の太ももを伝って、シーツを汚していくが、彼は構わず咲夜の胸に片手を回し、激しい突き上げと共に柔らかく揉んで咲夜の快感を押し上げる。
「こう・よ・う・・いい・・キモチ・いい・わ・・」
(好きよ・・光陽、好き・・)
角度が変わって、深いところで彼を感じて、咲夜はエクスタシーに呑み込まれ自我を手放し、忘我の快感に身体を委ねていった。
あどけない顔でくっすり眠る咲夜の髪を優しく撫で、それでは物足らず長い睫毛の閉じた瞼や、頬、最後に軽く唇にチュッと口づけをして、これ以上は咲夜を起こしてしまう、と自制心を働かせ、身体ごと咲夜から遠ざけて後ろ髪を引かれる思いで光陽はベッドルームを後にした。
今朝出ていった時と変わりなくぐっすり満ち足りた顔で寝ている咲夜の側にいると、また咲夜が欲しくなってくる。
ダメだな、自分の自制心は咲夜に関してだけは、滅多にきちんと仕事をしてくれない。
デッキに出て昼食を取りながら、光陽は軽い自己嫌悪に陥る。昨日は咲夜を抱く気はまだ無かった。いや正確には、最初に会った時から、惹かれるものを感じていた咲夜を抱きたいとは思っていても、知り合って1週間も経たないうちに抱くなんて暴挙に出る気は無かったのだ。口づけを交わして、咲夜が、長い間求めていた番いに違いない、と確信してからは、彼女がまだ自分よりうんとなん百年ほど若いこともあって、ゆっくり関係を進めるつもりだったのだ。
それがこのザマだ。
彼女に触れたくて、光陽に慣れてもらおう、と交わしたキスと愛撫は咲夜だけでなく、光陽自身をも煽ってしまい、歯止めが効かなくなった。
それも、咲夜は初めてだったのに、彼女の体力があるのをいいことに、一回では飽き足らず、一晩中抱いて、今朝、夜が明けるまで抱き潰してしまった。
己れはどんな鬼畜なんだと罵りたくなる。
今日はお詫びに休みを取って一緒に過ごそうかと思ったが、流石に咲夜の体力も限界が来て、ぐっすり寝入ってしまい、本部との会議が午後にあることも重なって、しぶしぶ仕事に赴いた。
昼には起きているか、と淡い期待を抱いていたのだが、彼女にはもう少し睡眠が必要らしい。はあーと思い溜息をつく主人にリチャードが靴音を立てて近づいてきて、電子音で、
『旦那様、何かお悩みですか?』
と聞かれる。
『いや、リチャード、いいんだ。ちょっと自己嫌悪に陥っていただけだから。』
『もしや、咲夜様に何かありましたか?将来の奥様は大事にせねば。焦ってはいけません。』
手首の魔物にも分かるこんな簡単の事を、自分は如何して実践できないのだろう・・・
『いや、もう手遅れだ。如何しよう』
仕事でも滅多に悩まない光陽には珍しく、途方にくれていた。
こんなに焦ってことを進めた自分をばかだと思うのに、咲夜を抱いた喜びの方が大きいのだから、本当、自分は如何しようもない。
はじめて抱いた咲夜は、最高に可愛かった。若くて分別のない自分だったら、絶対仕事を放棄して、一週間はベッドルームから出てこないだろう。
欲情して濡れた眼差し、上気して桃色に染まった身体、光陽に抱かれて彼の名を呼ぶ可愛らしいかすれた声。ダメだ、思い出すだけで、身体が咲夜を求めて震えてくる。
『女性のことは女性に聞くのが一番かと、アンマリーを呼びましょうか?』
そうだ、賢い彼女なら、何か答えがわかるかもしれない。光陽が頷くと、リチャードは鈴を取り出し、リンと振る。
『お呼びですか、旦那様。』
すぐにアンマリーがチリンと現れて、少し固い声で応答する。
電子音でそんな器用な真似ができるのは何故だろう、と思いながら、
『なんだ、アンマリー、何か怒っているのか?』
と聞くと、案の定アンマリーは、
『怒っているのかじゃありません。折角咲夜様がはじめてを旦那様に捧げてくださったのに、何呑気に仕事に行ってるんですか? この薄情者!ちゃんと咲夜様を大事にしないと一生寂しい独り身まっしぐらですよ。』
と主人を脅してくる。女の勘はすごい、そんなことまで分かるのか、と半分感心しながら、自分でもそうだと思ってるだけに反省しつつ、
『やっぱり、そうだよな。でも今日は本部との大事な会議が入ってて、休みが取れないんだ。』
『なんでそんな日の前日に、咲夜様を抱くんです!馬鹿ですか?』
『いや、昨日はそんな気は全然なくて、気がついたらこうなっていたと言うか・・・』
と情けなさそうに言うと、はあーと思い切りため息を電子音でつかれた。
『確かに、咲夜様のあの可愛らしい姿は、萌え萌えのヨダレものですが、旦那様もいい年なんですから、焦ってはいけません。』
この手首の魔物の夫婦は耳の痛い事を二人して光陽にズケズケと言ってくる。しかしいま、咲夜の姿をなんて言った?このタブレットの魔物語翻訳の英訳は大丈夫なんだろうか?
『まあ、旦那様も、反省しているようですし、終わった事をグズグズ言っていてもしょうがありません。仕事で側にいられないなら、咲夜様が目を覚ました時に寂しい思いをなされないよう、手紙なり、プレゼントなり用意されたらどうでしょう?女性は初めてを大事にするものです。未来の奥様に逃げられたくなければ、ちゃんとフォローするんですよ。』
(そうか、プレゼントか。)
手紙は、日本語は読めるが書くのがダメだからアウトだ、携帯のメッセージなら送れるがいつ読んでくれるかわからない。
『ありがとう、アンマリー、プレゼントか。考えてみる。』
やはり、恥を忍んで相談してよかった、といそいそと光陽は、船を降りた。
波の音が聴こえる。咲夜が柔らかな花のいい匂いに包まれて目を開けるとクリーム色と白木の天井が目に入ってきた。
(光陽。)
愛しい人の名前を心で呼んで彼の存在を確かめるが、彼が不在なことはすぐに気配で分かった。彼はここから離れた北西の方角にいる。
思ったより、がっかりしている自分に咲夜は言い聞かせる。
(きっと仕事なんだから、仕方ないじゃない。)
その時枕元に、一本の華麗なピンクの薔薇を見つけて、小さなカードが添えてあるのが目に映る。
そっと薔薇とカードを枕元から取り、バラの匂いを楽しんでからカードに目を通すと、達筆な字で、
「Thinking about you.」
とメッセージが直筆で書いてある。
彼の思いやりが嬉しくて、咲夜の心がいっぺんに晴れて口許が綻びる。
しばらくそのカードを眺めて幸せに浸っていたが、お腹も空いてきたし、身支度をしようとベッドから起きようと身動ぎすると身体の奥から、ツーと白い液体溢れて流れ落ちてくる。
「あっ・・」
昨夜の愛を交わした名残に顔が自然に赤くなって、そおっと床に足をつけたが、腰に力が入らずよろけて転んでしまう。
ドスン、と重い音がして、イタタと腰をさすっていると、チリンという音と共にドアをノックする音が聞こえて、
「咲夜様、どうなさいました?大丈夫ですか?」
とアンマリーの電子音がした。
「大丈夫よアンマリー。ちょっと躓いてしまっただけ。なんでもないわ。」
「そうですか、何かありましたら遠慮なくお呼びください。」
チリンと音がしてアンマリーが去ったのが分かる。
裸で転んでしまった咲夜はホッとして、力をゆっくり身体に回し、今度慎重にゆっくり立ち上がる。
わずかな痛みは残ったが我慢出来ないほどではなくて、そろそろとバスルームまで移動すると、シャワーは諦め、湯船に湯を張ってお風呂に入ることにした。
暖かいお湯に浸かりながら、やはり、彼の不在に寂しさを感じてしまう。
感傷的なのはらしくないと、一旦お湯に頭から浸かり、次の瞬間気合を入れて立ち上がり、タオルの横にいつの間にか出ている可愛らしい白とブルーのワンピースをつけ、部屋を出た。
お腹が空いていたのでアンマリーを呼んでデッキで遅めの昼食を取る。時間はもう3時近くで明日は早番の仕事だ。
1人で海を見ながら食事を摂り、今日は家に帰って、明日の準備をしなくては、と思うとこの船を離れるのが寂しくなる。
(明日は5時起きだし、今日は光陽何時に帰れるかしら?)
食べ物が胃に入ると、体調も元に戻り、主人不在の家に長居するのも気が引けて、そのまま帰ることにした。
二日も不在にしたのだから、家も気になる。
(帰ろう。このままここに居たら、寂しくなるだけだわ。家に帰って洗濯しよう。)
「アンマリー、船を港につけてもらえる?」
「咲夜様、お散歩ですか?」
「いいえ、そうではなくて、家に帰ろうと思うの。」
「!、咲夜様、何か気に入らないことでも御座いましたか?」
いつの間にかコツンと足音がしてリチャードも現れて、咲夜を引き止める。
「咲夜様、何か至らない点がありましたら、遠慮無く仰ってください。」
咲夜は寂しそうに苦笑いをする。
「違うのよ、明日は仕事で早番だから家に帰らなければならないの。貴方達の落ち度ではないわ。それに光陽がいないのに、私だけ彼の家にいるのもおかしいでしょう。」
「? お仕事でしたら、こちらから出勤なさればよろしいかと存じますが。」
「そういう訳にもいかないのよ。早番だから5時には起きて支度しなければならないし、家の事も気になるから。」
「早朝の支度は問題ありませんが、咲夜様のお家は確かにご心配でしょう。わかりました。ただ今、船を港に向けて出航いたします。」
リチャードが消えて1分もしないうちにクルーズ船は港に着いた。咲夜は二つの手首が見送る中、手を振ってタラップを降り、港から駅に向かって歩き出した。
遅い午後の日差しの中、坂をゆっくり歩くと、二日ぶりの我が家が見えてくる。
今日はやけに大きく見える咲夜の家に着くと、ただいまーといって玄関を開け、台所にはいる。
大きなコップに水を張り、ブレスレットから光陽のくれた薔薇を取り出し、コップに挿してしばらく眺めていたが、光陽に花のお礼と明日が早いので8時以降は今日は出掛けられない、とメッセージを送り、洗濯物が溜まっているだろうと立ち上がって、家の家事を始めた。
5時近くになると太郎が、ただいまーと元気に家に帰ってきた。
「咲夜さん、おかえりだったんですね。夕食はどうしますか? 今日は僕、バイトがないので早かったんですよ。よかったら一緒に食べませんか?」
「ありがとう、太郎。そう言えば、言い忘れてたんだけど、もしアパートに帰りたいんだったら、帰ってもいいのよ。光陽に聞いたら、太郎は多分自分で吸血鬼化をコントロール出来るから、問題ないんですって。良かったわね。」
「えっ、そうなんですか?ええと、実は僕、来週からバイトを、こっちにある支店のコンビニに変えてもらおうと思って店長と話をつけちゃったんですけど。」
しょぼんと残念な顔をする太郎に、咲夜は慌てて取り成すように言い足す。
「いえ、別に追い出すとかそう言う訳ではなくて、寧ろ私は太郎がいてくれて助かってるから、もちろんここに居たいなら好きなだけ居ていいのよ。」
今度は打って変わって、嬉しそうに太郎は顔を明るく輝かせた。
「本当ですか? でしたら僕、ここに居候させてもらっていいですか? 大学から近いし、お風呂や台所も広いし、何よりこの家、居心地がいいですよね。もちろん家賃は払いますので、咲夜さんが決めてくださって結構ですよ。」
咲夜は、その言葉に、少し考えていたが、やがてこう言った。
「家賃はいいわ。その代わり手の空いてる時に今まで通り家事を手伝だってくれると助かるわ。太郎が好きなだけ住んでくれていいのよ。私が留守でも家を守ってくれる人がいれば私も安心だし。あのね、太郎、あなたも気づいているでしょうけど、この家はちょっと特殊な場所に立っていて、強い結界によって外界から守られてるわ。だけど家の構造上誰かが家に住んでいないと、例えば長い間放置しておくと、その役目を果たさなくなるそうよ。ほら放置された家って荒れていくでしょう。そんなものよ。だから私としては太郎がこの家を気に入ってくれて嬉しいのよ。だから家のことは好きにしてくれて構わないの。」
太郎は納得したように頷くと、目を爛々と輝かせて聞いてきた。
「そうだったんですか、居心地がいい家だとは思っていましたけど。それじゃあ、庭に花とか植えてもいいですか?いやあ、ずっとマンション暮らしだったんで、庭いじりってやってみたかったんですよね。」
「もちろんよ、好きにして構わないわ。さあ夕食にしましょう。」
太郎と二人で台所に移動し、夕食の準備を始めた。
その晩、光陽から携帯に電話がかかってきた。
「咲夜、身体は大丈夫か? 今日はごめん、休みが取れなかった。」
「光陽、声が聞けて嬉しいわ。私は大丈夫よ。」
「本当に申し訳ないけど、今日は本部から急に来客があって、夜そっちに行けそうにない。明日の仕事は何時に終わる? 迎えに行くから良かったら、フローラホテルに来てもらえないか。本部からの客が貴女に会いたいんだそうだ。疲れてるのなら断ってくれて構わない。僕はできれば会わせたくない、が、これも仕事だから仕方ない。」
「お客様が、私に? 別に構わないけど。それに迎えは要らないわ。明日は昼の2時に仕事は終わるし、そのまま散歩がてら歩いて行くわ。」
「そうかい?ありがとう。それから明日だけど、念の為、僕も貴女に結界を張らせてもらう。アイツには絶対咲夜の香りを勘付かれたくない。咲夜・・貴女に会いたいよ。」
やるせなさそうに、溜め息をつく光陽に、咲夜も切なくなり、
「光陽、私も会いたいわ。今日は貴方に会えなくて本当に寂しかった。」と正直に告げる。
「咲夜、本当にごめん。今日は一緒に過ごしたかった。」
「良いのよ、仕事があったんだから仕方がないわ。じゃあ、明日ホテルで逢いましょう。」
「ああ、咲夜、おやすみ可愛い人。」
彼からの初めてのおやすみコールは会えない寂しさが増して、はあーと大きく溜め息をついて咲夜は布団に入った。
その4時間後の夜中の1時過ぎ、光陽は咲夜のベッドルームで、ぐっすり寝ている咲夜の布団ごしに咲夜の横になり、やっと今日一番の心からの笑みが顔に浮かんだ。
接待を終えて、船に戻っては見たものの、アンマリーには、『咲夜様、お寂しそうでした。一体なんの放置プレイですか?』と恨みがましく言われるし、リチャードも何か言いたそうに横に控えて無言の同意を示された。
ベッドに横になったものの、どうしても咲夜の様子が知りたくて、夜中にバイクで飛ばして来たのだ。
光陽は咲夜の横に横たわって、そのまま顔を眺めながら3時間ほど一緒に眠り、4時には起きてそっと咲夜の頬にキスを残してから、満足そうに船に帰っていった。
「普段は黒だが、時々先祖返りで金に染まる。咲夜の好みではないか?」
「どちらも好きよ。どちらでも光陽は光陽よ。」
金髪の光陽と黒髪の光陽、髪色が違うだけで見た目が天使と悪魔ほど違って見えるが、咲夜にとってはどちらの光陽も、ちょっぴり意地悪な優しい光陽で、彼を愛する気持ちに変わりはない。
「そういえば、光陽、貴方も結界を張れるのでしょう。香りを独占したいのなら貴方が結界を張れば良かったのに、どうしてわざわざ私にさせるの。」
今も光陽の堅固なベッドルームの結界は解かれておらず、咲夜の彼の周りの結界も元に戻っており、いわば二重結界の中に二人はいる。
「咲夜の意思で僕だけに限定にして欲しかったからだ。それに咲夜にはいい練習になっただろ。」
やっぱり、見た目は金髪天使でも、中身は光陽だ。
うーと可愛く唸っていると、今だに咲夜の中から出て行かず、繋がれた腰を揺らされて、身体にまた甘い痺れが走り快感に犯される。
咲夜は、(だめだわ、このままでは大事なことが聞けずに蕩かされてしまう。)と意思の力を総動員して、快感に逆らい、一番気になる質問を喘ぎ喘ぎ声にする。
「光陽、いつまで日本に居られるの? もともと本部から応援で派遣されたと言ってたわよね?」
光陽はゆっくり腰を揺らしながら低いかすれた声で答える。
「ああ、もともと日本は支部がしっかりしていて、本部の手を借りる事など稀だったんだが、確か4、5年前から魔物の活動が盛んになって、この何年か手こずる事件が何度か起き始めた。それで、原因究明と応援を兼ねて僕が派遣されてきた。僕が今年初めから赴任してきて、原因を探ってはいるがこれと言った決定的な要因が見つからない。それに支部が言うには僕が赴任してきてからは、目立った魔物の活動も収まっているらしい。だから余計に探るのが難しくなっている。」
「じゃあ、その原因がわかるまではここに居られるのね。」
「そうだな、出来れば原因の問題が解決できれば、本部としては安心なんだが。」
近年になって魔物の出没が増え、要請を受けて、流暢な日本語を話す光陽が応援に派遣された、と確かに光陽は言っていた。魔物の活動が活発になって困っている日本支部には悪いが、原因がはっきりするまでは光陽はここにいる。
(まだ一緒に居られる。よかったわ。)
一緒に時間を過ごせば、咲夜に情も移るかもしれない。彼に愛されて、一緒に連れて行ってもらえばどんなに幸せだろう。彼に抱かれる喜びを知ってしまった咲夜は、彼なしの未来など考えられない。こうなったら時間は咲夜の貴重な味方だ。出来るだけ一分一秒でも彼と一緒に居て、もっと咲夜を知ってもらおう。
(彼の性格からして、二股をかけるような事はしない。浮気をするなら浮気ではなく、本気だわ、きっと。)
彼の話から、色々なところを転々とする生活の様だし、港港に恋人がいる船乗りではないが、咲夜の様に彼の帰りを待つ人がきっといるだろう。
(だって光陽こんなに素敵なんですもの。)
彼の類い稀な容姿は、彼の為人というか彼が彼であるが故に愛する咲夜にとって、彼を形づくる一つの要因でしかないが、他の女性にはとても魅力的に映るだろう。どうすれば彼を咲夜に繋ぎ止めておけるのか具体的な策はないが、泣いて縋るのだけはダメだ、自分が彼の立場だったら、鬱陶しいとわかる。思考の迷路に嵌まりかけている咲夜に、光陽が耳元で甘く囁く、
「何を考えている?咲夜。可愛い人」
ふっと耳に熱い息を掛けられて、咲夜の思考がバラバラになり、腰に手をかけられて、繋がったままそのまま身体を裏返しにされ、思わず甘い嬌声が咲夜の喉から漏れる。
「あぁっ、んっ・・」
感じやすい背中を羽を撫でる様に指先で優しく軽くなぞられ、熱い舌がそれに続いて、可愛く鳴き始めた咲夜に、光陽は、
「咲夜はあまり気にしなくても良い、近々本部とこの問題を話し合う予定だ。それより僕に集中して欲しい。」
と素肌に口付けながら囁く。そして後ろから咲夜の身体を抱き上げ力強く突き上げ出す。彼の注いだものが咲夜の甘くこみ上げる蜜と共に生暖かく咲夜の太ももを伝って、シーツを汚していくが、彼は構わず咲夜の胸に片手を回し、激しい突き上げと共に柔らかく揉んで咲夜の快感を押し上げる。
「こう・よ・う・・いい・・キモチ・いい・わ・・」
(好きよ・・光陽、好き・・)
角度が変わって、深いところで彼を感じて、咲夜はエクスタシーに呑み込まれ自我を手放し、忘我の快感に身体を委ねていった。
あどけない顔でくっすり眠る咲夜の髪を優しく撫で、それでは物足らず長い睫毛の閉じた瞼や、頬、最後に軽く唇にチュッと口づけをして、これ以上は咲夜を起こしてしまう、と自制心を働かせ、身体ごと咲夜から遠ざけて後ろ髪を引かれる思いで光陽はベッドルームを後にした。
今朝出ていった時と変わりなくぐっすり満ち足りた顔で寝ている咲夜の側にいると、また咲夜が欲しくなってくる。
ダメだな、自分の自制心は咲夜に関してだけは、滅多にきちんと仕事をしてくれない。
デッキに出て昼食を取りながら、光陽は軽い自己嫌悪に陥る。昨日は咲夜を抱く気はまだ無かった。いや正確には、最初に会った時から、惹かれるものを感じていた咲夜を抱きたいとは思っていても、知り合って1週間も経たないうちに抱くなんて暴挙に出る気は無かったのだ。口づけを交わして、咲夜が、長い間求めていた番いに違いない、と確信してからは、彼女がまだ自分よりうんとなん百年ほど若いこともあって、ゆっくり関係を進めるつもりだったのだ。
それがこのザマだ。
彼女に触れたくて、光陽に慣れてもらおう、と交わしたキスと愛撫は咲夜だけでなく、光陽自身をも煽ってしまい、歯止めが効かなくなった。
それも、咲夜は初めてだったのに、彼女の体力があるのをいいことに、一回では飽き足らず、一晩中抱いて、今朝、夜が明けるまで抱き潰してしまった。
己れはどんな鬼畜なんだと罵りたくなる。
今日はお詫びに休みを取って一緒に過ごそうかと思ったが、流石に咲夜の体力も限界が来て、ぐっすり寝入ってしまい、本部との会議が午後にあることも重なって、しぶしぶ仕事に赴いた。
昼には起きているか、と淡い期待を抱いていたのだが、彼女にはもう少し睡眠が必要らしい。はあーと思い溜息をつく主人にリチャードが靴音を立てて近づいてきて、電子音で、
『旦那様、何かお悩みですか?』
と聞かれる。
『いや、リチャード、いいんだ。ちょっと自己嫌悪に陥っていただけだから。』
『もしや、咲夜様に何かありましたか?将来の奥様は大事にせねば。焦ってはいけません。』
手首の魔物にも分かるこんな簡単の事を、自分は如何して実践できないのだろう・・・
『いや、もう手遅れだ。如何しよう』
仕事でも滅多に悩まない光陽には珍しく、途方にくれていた。
こんなに焦ってことを進めた自分をばかだと思うのに、咲夜を抱いた喜びの方が大きいのだから、本当、自分は如何しようもない。
はじめて抱いた咲夜は、最高に可愛かった。若くて分別のない自分だったら、絶対仕事を放棄して、一週間はベッドルームから出てこないだろう。
欲情して濡れた眼差し、上気して桃色に染まった身体、光陽に抱かれて彼の名を呼ぶ可愛らしいかすれた声。ダメだ、思い出すだけで、身体が咲夜を求めて震えてくる。
『女性のことは女性に聞くのが一番かと、アンマリーを呼びましょうか?』
そうだ、賢い彼女なら、何か答えがわかるかもしれない。光陽が頷くと、リチャードは鈴を取り出し、リンと振る。
『お呼びですか、旦那様。』
すぐにアンマリーがチリンと現れて、少し固い声で応答する。
電子音でそんな器用な真似ができるのは何故だろう、と思いながら、
『なんだ、アンマリー、何か怒っているのか?』
と聞くと、案の定アンマリーは、
『怒っているのかじゃありません。折角咲夜様がはじめてを旦那様に捧げてくださったのに、何呑気に仕事に行ってるんですか? この薄情者!ちゃんと咲夜様を大事にしないと一生寂しい独り身まっしぐらですよ。』
と主人を脅してくる。女の勘はすごい、そんなことまで分かるのか、と半分感心しながら、自分でもそうだと思ってるだけに反省しつつ、
『やっぱり、そうだよな。でも今日は本部との大事な会議が入ってて、休みが取れないんだ。』
『なんでそんな日の前日に、咲夜様を抱くんです!馬鹿ですか?』
『いや、昨日はそんな気は全然なくて、気がついたらこうなっていたと言うか・・・』
と情けなさそうに言うと、はあーと思い切りため息を電子音でつかれた。
『確かに、咲夜様のあの可愛らしい姿は、萌え萌えのヨダレものですが、旦那様もいい年なんですから、焦ってはいけません。』
この手首の魔物の夫婦は耳の痛い事を二人して光陽にズケズケと言ってくる。しかしいま、咲夜の姿をなんて言った?このタブレットの魔物語翻訳の英訳は大丈夫なんだろうか?
『まあ、旦那様も、反省しているようですし、終わった事をグズグズ言っていてもしょうがありません。仕事で側にいられないなら、咲夜様が目を覚ました時に寂しい思いをなされないよう、手紙なり、プレゼントなり用意されたらどうでしょう?女性は初めてを大事にするものです。未来の奥様に逃げられたくなければ、ちゃんとフォローするんですよ。』
(そうか、プレゼントか。)
手紙は、日本語は読めるが書くのがダメだからアウトだ、携帯のメッセージなら送れるがいつ読んでくれるかわからない。
『ありがとう、アンマリー、プレゼントか。考えてみる。』
やはり、恥を忍んで相談してよかった、といそいそと光陽は、船を降りた。
波の音が聴こえる。咲夜が柔らかな花のいい匂いに包まれて目を開けるとクリーム色と白木の天井が目に入ってきた。
(光陽。)
愛しい人の名前を心で呼んで彼の存在を確かめるが、彼が不在なことはすぐに気配で分かった。彼はここから離れた北西の方角にいる。
思ったより、がっかりしている自分に咲夜は言い聞かせる。
(きっと仕事なんだから、仕方ないじゃない。)
その時枕元に、一本の華麗なピンクの薔薇を見つけて、小さなカードが添えてあるのが目に映る。
そっと薔薇とカードを枕元から取り、バラの匂いを楽しんでからカードに目を通すと、達筆な字で、
「Thinking about you.」
とメッセージが直筆で書いてある。
彼の思いやりが嬉しくて、咲夜の心がいっぺんに晴れて口許が綻びる。
しばらくそのカードを眺めて幸せに浸っていたが、お腹も空いてきたし、身支度をしようとベッドから起きようと身動ぎすると身体の奥から、ツーと白い液体溢れて流れ落ちてくる。
「あっ・・」
昨夜の愛を交わした名残に顔が自然に赤くなって、そおっと床に足をつけたが、腰に力が入らずよろけて転んでしまう。
ドスン、と重い音がして、イタタと腰をさすっていると、チリンという音と共にドアをノックする音が聞こえて、
「咲夜様、どうなさいました?大丈夫ですか?」
とアンマリーの電子音がした。
「大丈夫よアンマリー。ちょっと躓いてしまっただけ。なんでもないわ。」
「そうですか、何かありましたら遠慮なくお呼びください。」
チリンと音がしてアンマリーが去ったのが分かる。
裸で転んでしまった咲夜はホッとして、力をゆっくり身体に回し、今度慎重にゆっくり立ち上がる。
わずかな痛みは残ったが我慢出来ないほどではなくて、そろそろとバスルームまで移動すると、シャワーは諦め、湯船に湯を張ってお風呂に入ることにした。
暖かいお湯に浸かりながら、やはり、彼の不在に寂しさを感じてしまう。
感傷的なのはらしくないと、一旦お湯に頭から浸かり、次の瞬間気合を入れて立ち上がり、タオルの横にいつの間にか出ている可愛らしい白とブルーのワンピースをつけ、部屋を出た。
お腹が空いていたのでアンマリーを呼んでデッキで遅めの昼食を取る。時間はもう3時近くで明日は早番の仕事だ。
1人で海を見ながら食事を摂り、今日は家に帰って、明日の準備をしなくては、と思うとこの船を離れるのが寂しくなる。
(明日は5時起きだし、今日は光陽何時に帰れるかしら?)
食べ物が胃に入ると、体調も元に戻り、主人不在の家に長居するのも気が引けて、そのまま帰ることにした。
二日も不在にしたのだから、家も気になる。
(帰ろう。このままここに居たら、寂しくなるだけだわ。家に帰って洗濯しよう。)
「アンマリー、船を港につけてもらえる?」
「咲夜様、お散歩ですか?」
「いいえ、そうではなくて、家に帰ろうと思うの。」
「!、咲夜様、何か気に入らないことでも御座いましたか?」
いつの間にかコツンと足音がしてリチャードも現れて、咲夜を引き止める。
「咲夜様、何か至らない点がありましたら、遠慮無く仰ってください。」
咲夜は寂しそうに苦笑いをする。
「違うのよ、明日は仕事で早番だから家に帰らなければならないの。貴方達の落ち度ではないわ。それに光陽がいないのに、私だけ彼の家にいるのもおかしいでしょう。」
「? お仕事でしたら、こちらから出勤なさればよろしいかと存じますが。」
「そういう訳にもいかないのよ。早番だから5時には起きて支度しなければならないし、家の事も気になるから。」
「早朝の支度は問題ありませんが、咲夜様のお家は確かにご心配でしょう。わかりました。ただ今、船を港に向けて出航いたします。」
リチャードが消えて1分もしないうちにクルーズ船は港に着いた。咲夜は二つの手首が見送る中、手を振ってタラップを降り、港から駅に向かって歩き出した。
遅い午後の日差しの中、坂をゆっくり歩くと、二日ぶりの我が家が見えてくる。
今日はやけに大きく見える咲夜の家に着くと、ただいまーといって玄関を開け、台所にはいる。
大きなコップに水を張り、ブレスレットから光陽のくれた薔薇を取り出し、コップに挿してしばらく眺めていたが、光陽に花のお礼と明日が早いので8時以降は今日は出掛けられない、とメッセージを送り、洗濯物が溜まっているだろうと立ち上がって、家の家事を始めた。
5時近くになると太郎が、ただいまーと元気に家に帰ってきた。
「咲夜さん、おかえりだったんですね。夕食はどうしますか? 今日は僕、バイトがないので早かったんですよ。よかったら一緒に食べませんか?」
「ありがとう、太郎。そう言えば、言い忘れてたんだけど、もしアパートに帰りたいんだったら、帰ってもいいのよ。光陽に聞いたら、太郎は多分自分で吸血鬼化をコントロール出来るから、問題ないんですって。良かったわね。」
「えっ、そうなんですか?ええと、実は僕、来週からバイトを、こっちにある支店のコンビニに変えてもらおうと思って店長と話をつけちゃったんですけど。」
しょぼんと残念な顔をする太郎に、咲夜は慌てて取り成すように言い足す。
「いえ、別に追い出すとかそう言う訳ではなくて、寧ろ私は太郎がいてくれて助かってるから、もちろんここに居たいなら好きなだけ居ていいのよ。」
今度は打って変わって、嬉しそうに太郎は顔を明るく輝かせた。
「本当ですか? でしたら僕、ここに居候させてもらっていいですか? 大学から近いし、お風呂や台所も広いし、何よりこの家、居心地がいいですよね。もちろん家賃は払いますので、咲夜さんが決めてくださって結構ですよ。」
咲夜は、その言葉に、少し考えていたが、やがてこう言った。
「家賃はいいわ。その代わり手の空いてる時に今まで通り家事を手伝だってくれると助かるわ。太郎が好きなだけ住んでくれていいのよ。私が留守でも家を守ってくれる人がいれば私も安心だし。あのね、太郎、あなたも気づいているでしょうけど、この家はちょっと特殊な場所に立っていて、強い結界によって外界から守られてるわ。だけど家の構造上誰かが家に住んでいないと、例えば長い間放置しておくと、その役目を果たさなくなるそうよ。ほら放置された家って荒れていくでしょう。そんなものよ。だから私としては太郎がこの家を気に入ってくれて嬉しいのよ。だから家のことは好きにしてくれて構わないの。」
太郎は納得したように頷くと、目を爛々と輝かせて聞いてきた。
「そうだったんですか、居心地がいい家だとは思っていましたけど。それじゃあ、庭に花とか植えてもいいですか?いやあ、ずっとマンション暮らしだったんで、庭いじりってやってみたかったんですよね。」
「もちろんよ、好きにして構わないわ。さあ夕食にしましょう。」
太郎と二人で台所に移動し、夕食の準備を始めた。
その晩、光陽から携帯に電話がかかってきた。
「咲夜、身体は大丈夫か? 今日はごめん、休みが取れなかった。」
「光陽、声が聞けて嬉しいわ。私は大丈夫よ。」
「本当に申し訳ないけど、今日は本部から急に来客があって、夜そっちに行けそうにない。明日の仕事は何時に終わる? 迎えに行くから良かったら、フローラホテルに来てもらえないか。本部からの客が貴女に会いたいんだそうだ。疲れてるのなら断ってくれて構わない。僕はできれば会わせたくない、が、これも仕事だから仕方ない。」
「お客様が、私に? 別に構わないけど。それに迎えは要らないわ。明日は昼の2時に仕事は終わるし、そのまま散歩がてら歩いて行くわ。」
「そうかい?ありがとう。それから明日だけど、念の為、僕も貴女に結界を張らせてもらう。アイツには絶対咲夜の香りを勘付かれたくない。咲夜・・貴女に会いたいよ。」
やるせなさそうに、溜め息をつく光陽に、咲夜も切なくなり、
「光陽、私も会いたいわ。今日は貴方に会えなくて本当に寂しかった。」と正直に告げる。
「咲夜、本当にごめん。今日は一緒に過ごしたかった。」
「良いのよ、仕事があったんだから仕方がないわ。じゃあ、明日ホテルで逢いましょう。」
「ああ、咲夜、おやすみ可愛い人。」
彼からの初めてのおやすみコールは会えない寂しさが増して、はあーと大きく溜め息をついて咲夜は布団に入った。
その4時間後の夜中の1時過ぎ、光陽は咲夜のベッドルームで、ぐっすり寝ている咲夜の布団ごしに咲夜の横になり、やっと今日一番の心からの笑みが顔に浮かんだ。
接待を終えて、船に戻っては見たものの、アンマリーには、『咲夜様、お寂しそうでした。一体なんの放置プレイですか?』と恨みがましく言われるし、リチャードも何か言いたそうに横に控えて無言の同意を示された。
ベッドに横になったものの、どうしても咲夜の様子が知りたくて、夜中にバイクで飛ばして来たのだ。
光陽は咲夜の横に横たわって、そのまま顔を眺めながら3時間ほど一緒に眠り、4時には起きてそっと咲夜の頬にキスを残してから、満足そうに船に帰っていった。
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