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2 甘くない○○
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いつになく気分よく起きられた。天使が料理を作るなんて、面白い夢だった。なんか、幸せな気分。
ダイニングキッチンに行くと、天使がいた。まだ、夢の中だろうか。
「おはよう、智子。すぐ朝ごはんできるからね。お弁当も」
まだ夢の続き?
「私、朝はいつもコーヒーを飲むだけなの。お弁当も何も作らなくていいから。
って、冷蔵庫には料理の材料になるものなんか入っていなかったはずだけど」
「じゃーん♪」
そう言って天使は冷蔵庫の扉を開けた。中には卵やブロッコリー、いちごなど、朝食によさそうな食材が入っていた。
「必要なものが出てくる不思議な冷蔵庫♪」
私は顔を洗ったり着替えたりメイクを済ませてから、ダイニングキッチンでインスタントコーヒーを淹れて飲み始める。TVでチョコレートを紹介していた。リポーターがトリュフ・チョコレートを食べて「幸せ~」とコメント。私にはその感覚がわからない。そんなもので幸せになれるなんて。コスパはよさそうだけど。
「朝はコーヒーだけ、昼はバナナ、夜は栄養ゼリー。そんなんじゃ身体によくないよ」
「大丈夫。ちゃんとサプリメント飲んでるから」
私はサプリメントをどっさりストックしている。
「ちゃんと食事しないと、栄養素を分解し、吸収する体の器官の能力が衰えてしまうんだよ。おいしく食事することは、心の栄養になるし。味気ない食事では心も飢えちゃうよ。
おいしい料理をゆっくり味わって食べなきゃ」
「そういう気になれないのよね。その時間があったら眠っていたいの。ケアマネージャー目指して勉強だってしてるし」
「そんな智子のために、料理を作るために僕が来たんだよ。食べたいものがあったら何でも言って」
「食べることに興味がないの。あわただしくて心にゆとりがなくて、おいしい物を時間をかけて食べる気にはなれない」
「食べることに興味がないんて、人生の楽しみがかなりなくなるよ」
「もう、こうしちゃいられない。仕事に行かなくちゃ」
時間は午前7時50分。今日は日勤だった。
今夜も木枯らしが、皮下脂肪のない身体を冷やす。午後6時すぎ。徒歩の家路。
私の働いている特別養護老人ホーム、略して「特養」は、つねに介護を必要とする人のための施設で、要介護3以上の人が入所できる。要介護3というのは食事や排泄、着替え、入浴など介助が必要。要介護4の人は介助がないと日常生活は送れず、要介護5になると、寝たきりで、寝返りにも介助が必要で、意思疎通もできない。
でも何でも介助すればいいというものではない。みよ子さんは右半身にマヒがあるが、ちょっと手伝えば一人で着替えができた。利用者さんには自分でできることはやっていただくようにしていた。自立支援も仕事のうち。
それなのにみよ子さんは面会に来た家族に、私がちっともお世話してくれないと愚痴を言った。みよ子さんの家族はそれを真に受けて、私は仕事をちゃんとしないけしからん介護職員ということになった。
まじめに仕事をしていればみんなにわかると思っていたがそうではなかった。世の中甘くない。そう痛感する日だった。せつないなぁ……
アパートの私の部屋に、今夜も明かりがついていた。まさか──────
「おかえり、智子」
ムニエルの中性的な声。なかなかのイケボ。イケメンな天使が満面の笑みで出迎える。カレーの匂いがした。
「……た、ただいま」
ずっといるんだろうか。
「お疲れさま♪」
返事をするように、きゅーっと大きな音でお腹が鳴った。
着替えを済ませて行くとテーブルにカレーが置かれ、いろんな野菜を使ったサラダが添えられていた。
「世の中甘くねえ辛さのカレーです」 変なネーミング。ゆうべのねぎらいのネギラーメンもだけど。「さあ召上れ」
向かい側の椅子に天使が掛けて、にこにこしている。
「い……いただきます」
まずはサラダを食べた。
「胃腸の疲れを癒す大根とキャベツ。りんごとブロッコリーは冷え性にいいし、セロリは老化防止」
天使は食材の効能を語る。和風ドレッシングをかけたサラダだった。千切りにした大根とりんごとキャベツとセロリはシャキシャキした歯ざわりで、ブロッコリーは柔らかすぎず程よいかたさ。
それからカレーライスの肉を一口……
「辛っ!」
ほんとに〈世の中甘くねえ〉ってくらいの辛さだった。ひーっ。
「辛い料理にはリフレッシュ効果があるし、肉を食べると幸せな気分になるよ」
辛いけどおいしい。何とも言えぬスパイスの香り。
「肉は豚肉ね」
「疲労を回復させるビタミンB1が非常に豊富だよ。体に潤いを与え、肌の乾燥や老化防止にも効果的」
結局、完食した。
「どう?」
「おいしかった」
「よかった。そう言ってもらえるのが一番うれしい」
ほんとうにうれしそうにしてる。なんか癒されるな。仕事で嫌なことがあっても、天使が作った料理を食べるたら元気になった。明日も頑張ろうっていう前向きな気持ちになれた。
ダイニングキッチンに行くと、天使がいた。まだ、夢の中だろうか。
「おはよう、智子。すぐ朝ごはんできるからね。お弁当も」
まだ夢の続き?
「私、朝はいつもコーヒーを飲むだけなの。お弁当も何も作らなくていいから。
って、冷蔵庫には料理の材料になるものなんか入っていなかったはずだけど」
「じゃーん♪」
そう言って天使は冷蔵庫の扉を開けた。中には卵やブロッコリー、いちごなど、朝食によさそうな食材が入っていた。
「必要なものが出てくる不思議な冷蔵庫♪」
私は顔を洗ったり着替えたりメイクを済ませてから、ダイニングキッチンでインスタントコーヒーを淹れて飲み始める。TVでチョコレートを紹介していた。リポーターがトリュフ・チョコレートを食べて「幸せ~」とコメント。私にはその感覚がわからない。そんなもので幸せになれるなんて。コスパはよさそうだけど。
「朝はコーヒーだけ、昼はバナナ、夜は栄養ゼリー。そんなんじゃ身体によくないよ」
「大丈夫。ちゃんとサプリメント飲んでるから」
私はサプリメントをどっさりストックしている。
「ちゃんと食事しないと、栄養素を分解し、吸収する体の器官の能力が衰えてしまうんだよ。おいしく食事することは、心の栄養になるし。味気ない食事では心も飢えちゃうよ。
おいしい料理をゆっくり味わって食べなきゃ」
「そういう気になれないのよね。その時間があったら眠っていたいの。ケアマネージャー目指して勉強だってしてるし」
「そんな智子のために、料理を作るために僕が来たんだよ。食べたいものがあったら何でも言って」
「食べることに興味がないの。あわただしくて心にゆとりがなくて、おいしい物を時間をかけて食べる気にはなれない」
「食べることに興味がないんて、人生の楽しみがかなりなくなるよ」
「もう、こうしちゃいられない。仕事に行かなくちゃ」
時間は午前7時50分。今日は日勤だった。
今夜も木枯らしが、皮下脂肪のない身体を冷やす。午後6時すぎ。徒歩の家路。
私の働いている特別養護老人ホーム、略して「特養」は、つねに介護を必要とする人のための施設で、要介護3以上の人が入所できる。要介護3というのは食事や排泄、着替え、入浴など介助が必要。要介護4の人は介助がないと日常生活は送れず、要介護5になると、寝たきりで、寝返りにも介助が必要で、意思疎通もできない。
でも何でも介助すればいいというものではない。みよ子さんは右半身にマヒがあるが、ちょっと手伝えば一人で着替えができた。利用者さんには自分でできることはやっていただくようにしていた。自立支援も仕事のうち。
それなのにみよ子さんは面会に来た家族に、私がちっともお世話してくれないと愚痴を言った。みよ子さんの家族はそれを真に受けて、私は仕事をちゃんとしないけしからん介護職員ということになった。
まじめに仕事をしていればみんなにわかると思っていたがそうではなかった。世の中甘くない。そう痛感する日だった。せつないなぁ……
アパートの私の部屋に、今夜も明かりがついていた。まさか──────
「おかえり、智子」
ムニエルの中性的な声。なかなかのイケボ。イケメンな天使が満面の笑みで出迎える。カレーの匂いがした。
「……た、ただいま」
ずっといるんだろうか。
「お疲れさま♪」
返事をするように、きゅーっと大きな音でお腹が鳴った。
着替えを済ませて行くとテーブルにカレーが置かれ、いろんな野菜を使ったサラダが添えられていた。
「世の中甘くねえ辛さのカレーです」 変なネーミング。ゆうべのねぎらいのネギラーメンもだけど。「さあ召上れ」
向かい側の椅子に天使が掛けて、にこにこしている。
「い……いただきます」
まずはサラダを食べた。
「胃腸の疲れを癒す大根とキャベツ。りんごとブロッコリーは冷え性にいいし、セロリは老化防止」
天使は食材の効能を語る。和風ドレッシングをかけたサラダだった。千切りにした大根とりんごとキャベツとセロリはシャキシャキした歯ざわりで、ブロッコリーは柔らかすぎず程よいかたさ。
それからカレーライスの肉を一口……
「辛っ!」
ほんとに〈世の中甘くねえ〉ってくらいの辛さだった。ひーっ。
「辛い料理にはリフレッシュ効果があるし、肉を食べると幸せな気分になるよ」
辛いけどおいしい。何とも言えぬスパイスの香り。
「肉は豚肉ね」
「疲労を回復させるビタミンB1が非常に豊富だよ。体に潤いを与え、肌の乾燥や老化防止にも効果的」
結局、完食した。
「どう?」
「おいしかった」
「よかった。そう言ってもらえるのが一番うれしい」
ほんとうにうれしそうにしてる。なんか癒されるな。仕事で嫌なことがあっても、天使が作った料理を食べるたら元気になった。明日も頑張ろうっていう前向きな気持ちになれた。
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