3 / 6
3 やらかし
しおりを挟む
10月1日。
「陶芸の本が借りたい」という感じで利用者が来たときなどは、私は本のリストを見やすい一覧にプリントアウトして、そこから選んでもらうようにしていた。
先日森村は、私が作ったリストを利用者の高齢男性に渡していた。利用者がそのリスト見ながら予約しに来た。
「これ、すごくいいね。森村さんにお礼言っといて」
「あの、それ作ったの、私なんですけど」
リストの作り方を教えたが、森村はできかねていた。私が作って、いつでも渡せるようにしていた物だった。
「自分が作ったと言っていた。とんでもない奴だ。
人の手柄を横取りする奴は、気をつけた方がいいよ」
高齢男性は激怒した。
「そこまで悪い人じゃないと思うんですが」
私は森村をかばった。奴の中では私が作ったリストを、自分が作ったことになっている。
10日5日。
今までは森村のミスを口頭や人目に触れないメモで指摘していたが、それでは改善されないので、名指しで日誌に記録することにした。
借り直しの本は返却してから再貸出することになっているのに、返却処理しないで貸出していた。同じことが数日前にもあった。
予約本があるのに貸出しないまま利用者を帰すことも度々ある。
ミスを防ぐため、〈なんでこうなったか、こうならないようにするにはどうするか〉を奴本人に考えてもらえば、ミスがなくなるかと考えた。だが、それもダメなことが分かった。
誰にでもできることが奴にはできないことが、だんだん分かってきた。できなかったことを指摘するより、奴がミスしようのない仕組みを作ることにした。
10月12日。
昨日の返却処理のもれが6冊あったことが分かった。予約本も貸出しなかった。
10月14日。
12日に、図書カードも名前を間違って発行していた。携帯電話番号も違っていた。しかも二重登録。利用者番号は雑誌用のコードを使っていた。
図書カードを発行する際は、二重登録を避けるための手順があるのだが、図書カードを「作っていない」と言われたから、確認しなかったと言う。
教えたとおりにやらないことがわかった。マニュアルがあるにもかかわらず、自己流でカード発行した。プリンターの設定までおかしくした。
簡単なことなのに、奴はミスをしない仕組みを作ってもその通りにしないので、あいかわらずミスを繰り返す。それなのに清掃のおばさんに「仕事は慣れた?」と聞かれると、「慣れた」と調子のいいことを言っていた。まともにできていないに困ったものだ。仕事に慣れたのではなく、失敗することに慣れたのだろうと言いたい。
私は言葉のわからない赤ちゃんや動物にも、話しかけることがある。言霊があると思っている。言葉がわからなくても伝わるものがあると信じている。だが、奴には伝わらない。人の話を理解しない。
私もいろんな人と関わってきたが、奴の言動は予測を超えている。伝説級のポンコツ。モリモリ伝説だ!
10月16日。
9日に返却された本も、処理されないまま配架されていた。
10月21日。
相互貸借について再度説明をする。メモを取るように言っても「大丈夫」と言って取ろうとしない。だが、取らせた。
「慌ててしまう」と言うので、なぜかと聞いた。「失敗してはいけないと思ってしまう。前はこうではなかった。ここに来てからそうなった」と言う。
「プッレッシャーをかけたことはないよ。失敗しない人はいないんだから、責めるより、どう解決するかが大切だと思ってるけど」と伝えた。
失敗してはいけないと思っているわりには、失敗しかしていないようだが。
10月22日。
図書室ではDVDを扱えないと説明していたのに、返却を受け付けた。
10月28日。
堂本さんは森村のことを「あの体型は自己管理できてないし、ストレスを溜め込むタイプだ」と言った。
10月29日
ブックラリーのハンコは本が返却された時に台紙につくと説明し、文書もあるにもかかわらず、貸出時についていた。
ブックラリーとは、おススメの本を読むスタンプラリーのこと。
10月30日。
申込書と違う受け取り場所、連絡方法を間違えて予約を入れていた。
配架の途中のだったことを忘れて本を置いたまま帰って行った。
一つ教えると一つ忘れているようだが、自分を過信している気がする。
11月3日。
私たちは市外から届く相互貸借の本は、エクセルに入力して貸出・返却状況を把握していた。
今日返却された本を森村は、すでに10月27日に返却されたこととして入力していた。こういう間違いは支障がある。
11月8日。
私たちはコピー用紙の印刷面に×印をつけて、裏紙を再利用していた。
森村が、赤い油性マジックで大きな×印を書くようになった。異様だった。
11月16日。
予約が入っている本は、貸出中の利用者が継続を希望してもお断りして、返却日までに返却してもらうことになっていた。にもかかわらず奴は、継続貸出をして予約者をないがしろにすることが何度もあった。
そればかりか8日には、予約者の名前で、継続貸出するという信じられないことまでやらかした。
赤い油性マジックで異様な×印を書いたあの日だ。
利用者が【貸出レシート】を見て、まだ借りていない本が借りていることになっているのに驚いて、問い合わせして発覚した。
うちの図書室を利用したことのないその人が、うちの図書室から借りていることになっていた。ということは、奴は返却処理して出てきた【予約配送表】を見て、印字されている予約者の利用者コードで貸出したことになる。
その時に出た【予約配送表】を見て確認することにした。間違って貸出したにしても、ファイルに綴じてあるはずだ。それなのにどこを探しても見当たらない。どうしたか聞いたら、そんなものは「出なかった」と言う。
そんなはずはない。でなければ起り得ないことなのだ。奴が捨てたとしか考えられない。それには個人情報が印刷されている。
奴が予約者のコードで貸出をしたために、予約も消え、次借りられるはずだったその人は、しばらく待たされることになった。解雇されるレベルのミスだった。
「ミスが続いてるし、このままでは危ないよ」
「その時は辞めます」
「辞めてすむことじゃないよ。何かあったら辞めればいいっていう気持ちで働くのは困るよ。無責任だよ」
本音は辞めてほしかったが。
「陶芸の本が借りたい」という感じで利用者が来たときなどは、私は本のリストを見やすい一覧にプリントアウトして、そこから選んでもらうようにしていた。
先日森村は、私が作ったリストを利用者の高齢男性に渡していた。利用者がそのリスト見ながら予約しに来た。
「これ、すごくいいね。森村さんにお礼言っといて」
「あの、それ作ったの、私なんですけど」
リストの作り方を教えたが、森村はできかねていた。私が作って、いつでも渡せるようにしていた物だった。
「自分が作ったと言っていた。とんでもない奴だ。
人の手柄を横取りする奴は、気をつけた方がいいよ」
高齢男性は激怒した。
「そこまで悪い人じゃないと思うんですが」
私は森村をかばった。奴の中では私が作ったリストを、自分が作ったことになっている。
10日5日。
今までは森村のミスを口頭や人目に触れないメモで指摘していたが、それでは改善されないので、名指しで日誌に記録することにした。
借り直しの本は返却してから再貸出することになっているのに、返却処理しないで貸出していた。同じことが数日前にもあった。
予約本があるのに貸出しないまま利用者を帰すことも度々ある。
ミスを防ぐため、〈なんでこうなったか、こうならないようにするにはどうするか〉を奴本人に考えてもらえば、ミスがなくなるかと考えた。だが、それもダメなことが分かった。
誰にでもできることが奴にはできないことが、だんだん分かってきた。できなかったことを指摘するより、奴がミスしようのない仕組みを作ることにした。
10月12日。
昨日の返却処理のもれが6冊あったことが分かった。予約本も貸出しなかった。
10月14日。
12日に、図書カードも名前を間違って発行していた。携帯電話番号も違っていた。しかも二重登録。利用者番号は雑誌用のコードを使っていた。
図書カードを発行する際は、二重登録を避けるための手順があるのだが、図書カードを「作っていない」と言われたから、確認しなかったと言う。
教えたとおりにやらないことがわかった。マニュアルがあるにもかかわらず、自己流でカード発行した。プリンターの設定までおかしくした。
簡単なことなのに、奴はミスをしない仕組みを作ってもその通りにしないので、あいかわらずミスを繰り返す。それなのに清掃のおばさんに「仕事は慣れた?」と聞かれると、「慣れた」と調子のいいことを言っていた。まともにできていないに困ったものだ。仕事に慣れたのではなく、失敗することに慣れたのだろうと言いたい。
私は言葉のわからない赤ちゃんや動物にも、話しかけることがある。言霊があると思っている。言葉がわからなくても伝わるものがあると信じている。だが、奴には伝わらない。人の話を理解しない。
私もいろんな人と関わってきたが、奴の言動は予測を超えている。伝説級のポンコツ。モリモリ伝説だ!
10月16日。
9日に返却された本も、処理されないまま配架されていた。
10月21日。
相互貸借について再度説明をする。メモを取るように言っても「大丈夫」と言って取ろうとしない。だが、取らせた。
「慌ててしまう」と言うので、なぜかと聞いた。「失敗してはいけないと思ってしまう。前はこうではなかった。ここに来てからそうなった」と言う。
「プッレッシャーをかけたことはないよ。失敗しない人はいないんだから、責めるより、どう解決するかが大切だと思ってるけど」と伝えた。
失敗してはいけないと思っているわりには、失敗しかしていないようだが。
10月22日。
図書室ではDVDを扱えないと説明していたのに、返却を受け付けた。
10月28日。
堂本さんは森村のことを「あの体型は自己管理できてないし、ストレスを溜め込むタイプだ」と言った。
10月29日
ブックラリーのハンコは本が返却された時に台紙につくと説明し、文書もあるにもかかわらず、貸出時についていた。
ブックラリーとは、おススメの本を読むスタンプラリーのこと。
10月30日。
申込書と違う受け取り場所、連絡方法を間違えて予約を入れていた。
配架の途中のだったことを忘れて本を置いたまま帰って行った。
一つ教えると一つ忘れているようだが、自分を過信している気がする。
11月3日。
私たちは市外から届く相互貸借の本は、エクセルに入力して貸出・返却状況を把握していた。
今日返却された本を森村は、すでに10月27日に返却されたこととして入力していた。こういう間違いは支障がある。
11月8日。
私たちはコピー用紙の印刷面に×印をつけて、裏紙を再利用していた。
森村が、赤い油性マジックで大きな×印を書くようになった。異様だった。
11月16日。
予約が入っている本は、貸出中の利用者が継続を希望してもお断りして、返却日までに返却してもらうことになっていた。にもかかわらず奴は、継続貸出をして予約者をないがしろにすることが何度もあった。
そればかりか8日には、予約者の名前で、継続貸出するという信じられないことまでやらかした。
赤い油性マジックで異様な×印を書いたあの日だ。
利用者が【貸出レシート】を見て、まだ借りていない本が借りていることになっているのに驚いて、問い合わせして発覚した。
うちの図書室を利用したことのないその人が、うちの図書室から借りていることになっていた。ということは、奴は返却処理して出てきた【予約配送表】を見て、印字されている予約者の利用者コードで貸出したことになる。
その時に出た【予約配送表】を見て確認することにした。間違って貸出したにしても、ファイルに綴じてあるはずだ。それなのにどこを探しても見当たらない。どうしたか聞いたら、そんなものは「出なかった」と言う。
そんなはずはない。でなければ起り得ないことなのだ。奴が捨てたとしか考えられない。それには個人情報が印刷されている。
奴が予約者のコードで貸出をしたために、予約も消え、次借りられるはずだったその人は、しばらく待たされることになった。解雇されるレベルのミスだった。
「ミスが続いてるし、このままでは危ないよ」
「その時は辞めます」
「辞めてすむことじゃないよ。何かあったら辞めればいいっていう気持ちで働くのは困るよ。無責任だよ」
本音は辞めてほしかったが。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです
珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。
そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた
。
フリーターは少女とともに
マグローK
キャラ文芸
フリーターが少女を自らの祖父のもとまで届ける話
この作品は
カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054891574028)、
小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4627fu/)、
pixiv(https://www.pixiv.net/novel/series/1194036)にも掲載しています。
古り行く断片は虚空に消える
彼方灯火
ファンタジー
●何時か? 何処か? 何か?
白い断片の降る世界。少女は歩いて海に向かった。前後の要素とは関係なく、それだけで独立して存在させられる要素。降っている最中の雪も然り。
声を聞いた
江木 三十四
ミステリー
地方都市で起きた殺人事件。偶然事件に巻き込まれた女性占い師みさと。犯人を追う益子君と福田君という幼なじみの刑事コンビ。みさとは自分の占いに導かれ、2人の刑事は職務と正義感に従い犯人を追いつめていく。
転生の書〜陰キャぼっちの俺だけ実は人生強くてニューゲーム中だということを誰も知らない〜
椰子カナタ
ファンタジー
ある日、世界中にダンジョンが出現した。ひょんなことからレベルアップの能力を得た影ノ内孤太郎は、その能力を活かして世界最強の冒険者になる。そして孤太郎は最後のダンジョンをクリアしたが、世界にはもう、孤太郎しか生きている人間は存在しなかった。そこで孤太郎は、全ダンジョン踏破特典として手に入れた、『転生の書』を使用する。
こうして、孤太郎の文字通り第二の人生が始まった。
夏と夏風夏鈴が教えてくれた、すべてのこと
サトウ・レン
青春
「夏風夏鈴って、名前の中にふたつも〈夏〉が入っていて、これでもかって夏を前面に押し出してくる名前でしょ。ナツカゼカリン。だから嫌いなんだ。この名前も夏も」
困惑する僕に、彼女は言った。聞いてもないのに、言わなくてもいいことまで。不思議な子だな、と思った。そしてそれが不思議と嫌ではなかった。そこも含めて不思議だった。彼女はそれだけ言うと、また逃げるようにしていなくなってしまった。
※1 本作は、「ラムネ色した空は今日も赤く染まる」という以前書いた短編を元にしています。
※2 以下の作品について、本作の性質上、物語の核心、結末に触れているものがあります。
〈参考〉
伊藤左千夫『野菊の墓』(新潮文庫)
ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』(ハヤカワepi文庫)
堀辰雄『風立ちぬ/菜穂子』(小学館文庫)
三田誠広『いちご同盟』(集英社文庫)
片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』(小学館文庫)
村上春樹『ノルウェイの森』(講談社文庫)
住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉文庫)
姉に問題があると思ったら、母や私にも駄目なところがあったようです。世話になった野良猫に恩返しがてら貢いだら、さらなる幸せを得られました
珠宮さくら
恋愛
幼い頃に父が亡くなり、母と姉と暮らしていた栗原美穂。父方の祖父母は、父にそっくりな姉を可愛がり、母にそっくりな美穂は嫌われていた。
そんな美穂は、姉に日々振り回されていた。シングルマザーで必死に働いて育ててくれている母を少しでも楽にすることを目標に美穂はずっと頑張っていた。自分のことは二の次にして、家事と勉強と少しでも母の負担を減らそうとバイトまでして、余裕のなくなっていく美穂を支えたしてくれたのは人間の家族ではなくて、一匹の野良猫だった。
その猫に恩返しをしようとしたら、大事な家族が増えることになり、奇妙な偶然から美穂は新しいかけがえない家族を築くことになっていくとは、思いもしなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる