1 / 6
1 ポンコツ
しおりを挟む
8月20日。
職場に新しい人が入ることになった。前はコンビニで働いていた48歳の男だとは聞いていたが、身長180センチはある、ガタイのいい男とは思っていなかったので大きさに驚いた。昔、柔道をやっていたとのこと。太り気味。
森村正敏はチェックのシャツを着てオタクのような風体だが、コミュ障ではなさそうだ。タバコも喫わない。
メガネがななめにかかっているのが気になった。左右の高さが3センチくらい違っていた。
「それ、直した方がいいよ」
人と関わる仕事だし、見た目は大切なので言った。
次の日から図書室の仕事を教える。メガネは直してきたという。聞けば一か月前からななめのメガネをかけていたらしい。
説明に対し「なるほど」と相槌を打ち、メモを取る。説明を聞く際、腰掛けた状態で下から横目で見上げるのが気になった。
パソコンのスキルは、この年代の男にしては乏しかった。自分のパソコンは持っていないという。それは別に問題なかった。中途半端に詳しくて、下手にいじってトラブルを起こされるよりよかった。業務に必要なことを覚えてもらえばいいのだから。
キーボード操作する太っとい指が不器用そうだった。そしたらやっぱり不器用だった。
なんかそそっかしい。パソコンの終了のしかたの手順を説明した直後に、押してはいけない電源ボタンを押して強制終了したり、非常口のブラインドの説明をした直後に、まだ上げておいておかなくてはいけないのに下ろしたり、やってはいけないと言うことをやる。注意を促した直後にやらかす。
別の事に気を取られて注意力散漫になっているようだ。
ミスが多い。ポンコツというワードが浮かぶ。自立支援機関からの紹介だが、これではどこに行っても勤まらないと思った。
両親と暮らす一人っ子。早生まれの48歳。
研修2日目、森村は「何とかなりそうだ」と自分で言った。慢心が見えたので、過信した時が危険だと釘を刺した。その直後にミスをする。
9月2日、ひとり業務の初日。
図書室の仕事は、早番と遅番の交代制で、一人でやっている。
太っている人は汗っかきと聞いたことがあるが、森村もかなりの汗っかきだった。引き継いだカウンターは奴の汗でべたついていた。業務日誌も汗でふやけていた。椅子は湿っぽかった。
紺色のTシャツを着ていた森村の肩はフケで白くなっていた。皮膚炎の人はそうなることを知っていたので聞いたらやはりそうだった。昔はアトピーだったという。
体型的に血圧が高そうにも思えたので聞いたら、案の定高めだった。甘いパンとネットゲームが好きらしい。
9月3日。
森村が来て2週間。森村から「流されてここに来た」と聞かされた。私はてっきり、この仕事がしたくて来たのだと思っていたので、ちょっと心配になった。
「流されてきたにしても、ここに流されてきたのはラッキーだと思うよ」
だが森村はそうは思ていない。ここの仕事に長くいる確約はできないと自分から言う。
森村は自分が原因でパワハラ、モラハラを誘発して人間関係が悪くなって仕事を辞めるタイプの気がした。
9月6日。
前日遅番だった森村が業務日誌に、「パソコンのトラブルがあった」と書いていた。だが5日にメンテナンスがあったばかりで、今日は問題なく作動している。奴の不器用で太っとい指が、押す必要のないキーでも押してしまったのだろう。
19日に消防訓練がある。森村には参加してほしいので、派遣元に交渉してその分の時給を出してもらうようにした。
9月9日
返却もれで配架。
9月10日、遅番の日。
遅刻してきた。時間を勘違いしたという。心配なキャラだ。
「延滞に気づいたら、督促(電話)をしたほうがいいか」と聞いてきたが、今までの行動を鑑みて心配だった。本の貸出返却だけを確実にやってほしいと伝えて業務を引き渡した。
9月11日。
昨日返却された、市外からの相互貸借の本2冊が、【配送票】がない状態で配送ケースに入っていた。
気づいたのは今日早番だった葉山さん。彼女が確認すると、必要な返却処理がされていなかった。一緒に返却された雑誌も、処理されないまま配架されていた。
昨日「貸出返却を確実にやってほしいと」言って引き渡したばかりなのに、森村はやらなかった。
9月12日。
市立図書館から、予約確保してほしい本があると電話あり。
9日の11:43、10日の16:53に予約されたもの。勤務していたのは森村。
9月14日。
施設管理人の本堂さんから、昨夜図書室の電気がつけっぱなしになっていたと連絡があった。遅番だった森村にそのことを伝えると、「ちゃんと消したし、確かめた」と言う。
昨日の森村のシフトの時間に届いた【予約配送依頼表】はプリンターの用紙を入れておくカセットに入れられ、予約配送処理はされていなかった。
毎回何かしらやらかして、職場での義務をやり遂げることができていない。
森村は言われたことだけやっていればよかった。それなのに言われたことはやらないで、どうでもいいことに意識を向けて、大事なことを見落としている感じだ。
研修中も、今説明していることとは関係ないことばかり質問していた。
葉山さんから森村がハローワークに行っているらしいと聞く。葉山さんは自分が言ったことは内緒にしてほしいと言う。
仕事ができない森村を雇う所はないから、ここで細く長く働いていくものと思っていたので驚いた。奴にとってこの仕事は腰掛けなのか。身を入れているように感じられなかったのはそういうことだったのか。
根を下ろすものと思って育てた人材があっさりいなくなったのでは徒労になる。腰掛けならそれでもいいが、そうなると接し方も変わってくる。簡単な仕事もできずにいる森村には、必要最低限の仕事だけをしっかり教え、確実にやってもらうことにしよう。
職場に新しい人が入ることになった。前はコンビニで働いていた48歳の男だとは聞いていたが、身長180センチはある、ガタイのいい男とは思っていなかったので大きさに驚いた。昔、柔道をやっていたとのこと。太り気味。
森村正敏はチェックのシャツを着てオタクのような風体だが、コミュ障ではなさそうだ。タバコも喫わない。
メガネがななめにかかっているのが気になった。左右の高さが3センチくらい違っていた。
「それ、直した方がいいよ」
人と関わる仕事だし、見た目は大切なので言った。
次の日から図書室の仕事を教える。メガネは直してきたという。聞けば一か月前からななめのメガネをかけていたらしい。
説明に対し「なるほど」と相槌を打ち、メモを取る。説明を聞く際、腰掛けた状態で下から横目で見上げるのが気になった。
パソコンのスキルは、この年代の男にしては乏しかった。自分のパソコンは持っていないという。それは別に問題なかった。中途半端に詳しくて、下手にいじってトラブルを起こされるよりよかった。業務に必要なことを覚えてもらえばいいのだから。
キーボード操作する太っとい指が不器用そうだった。そしたらやっぱり不器用だった。
なんかそそっかしい。パソコンの終了のしかたの手順を説明した直後に、押してはいけない電源ボタンを押して強制終了したり、非常口のブラインドの説明をした直後に、まだ上げておいておかなくてはいけないのに下ろしたり、やってはいけないと言うことをやる。注意を促した直後にやらかす。
別の事に気を取られて注意力散漫になっているようだ。
ミスが多い。ポンコツというワードが浮かぶ。自立支援機関からの紹介だが、これではどこに行っても勤まらないと思った。
両親と暮らす一人っ子。早生まれの48歳。
研修2日目、森村は「何とかなりそうだ」と自分で言った。慢心が見えたので、過信した時が危険だと釘を刺した。その直後にミスをする。
9月2日、ひとり業務の初日。
図書室の仕事は、早番と遅番の交代制で、一人でやっている。
太っている人は汗っかきと聞いたことがあるが、森村もかなりの汗っかきだった。引き継いだカウンターは奴の汗でべたついていた。業務日誌も汗でふやけていた。椅子は湿っぽかった。
紺色のTシャツを着ていた森村の肩はフケで白くなっていた。皮膚炎の人はそうなることを知っていたので聞いたらやはりそうだった。昔はアトピーだったという。
体型的に血圧が高そうにも思えたので聞いたら、案の定高めだった。甘いパンとネットゲームが好きらしい。
9月3日。
森村が来て2週間。森村から「流されてここに来た」と聞かされた。私はてっきり、この仕事がしたくて来たのだと思っていたので、ちょっと心配になった。
「流されてきたにしても、ここに流されてきたのはラッキーだと思うよ」
だが森村はそうは思ていない。ここの仕事に長くいる確約はできないと自分から言う。
森村は自分が原因でパワハラ、モラハラを誘発して人間関係が悪くなって仕事を辞めるタイプの気がした。
9月6日。
前日遅番だった森村が業務日誌に、「パソコンのトラブルがあった」と書いていた。だが5日にメンテナンスがあったばかりで、今日は問題なく作動している。奴の不器用で太っとい指が、押す必要のないキーでも押してしまったのだろう。
19日に消防訓練がある。森村には参加してほしいので、派遣元に交渉してその分の時給を出してもらうようにした。
9月9日
返却もれで配架。
9月10日、遅番の日。
遅刻してきた。時間を勘違いしたという。心配なキャラだ。
「延滞に気づいたら、督促(電話)をしたほうがいいか」と聞いてきたが、今までの行動を鑑みて心配だった。本の貸出返却だけを確実にやってほしいと伝えて業務を引き渡した。
9月11日。
昨日返却された、市外からの相互貸借の本2冊が、【配送票】がない状態で配送ケースに入っていた。
気づいたのは今日早番だった葉山さん。彼女が確認すると、必要な返却処理がされていなかった。一緒に返却された雑誌も、処理されないまま配架されていた。
昨日「貸出返却を確実にやってほしいと」言って引き渡したばかりなのに、森村はやらなかった。
9月12日。
市立図書館から、予約確保してほしい本があると電話あり。
9日の11:43、10日の16:53に予約されたもの。勤務していたのは森村。
9月14日。
施設管理人の本堂さんから、昨夜図書室の電気がつけっぱなしになっていたと連絡があった。遅番だった森村にそのことを伝えると、「ちゃんと消したし、確かめた」と言う。
昨日の森村のシフトの時間に届いた【予約配送依頼表】はプリンターの用紙を入れておくカセットに入れられ、予約配送処理はされていなかった。
毎回何かしらやらかして、職場での義務をやり遂げることができていない。
森村は言われたことだけやっていればよかった。それなのに言われたことはやらないで、どうでもいいことに意識を向けて、大事なことを見落としている感じだ。
研修中も、今説明していることとは関係ないことばかり質問していた。
葉山さんから森村がハローワークに行っているらしいと聞く。葉山さんは自分が言ったことは内緒にしてほしいと言う。
仕事ができない森村を雇う所はないから、ここで細く長く働いていくものと思っていたので驚いた。奴にとってこの仕事は腰掛けなのか。身を入れているように感じられなかったのはそういうことだったのか。
根を下ろすものと思って育てた人材があっさりいなくなったのでは徒労になる。腰掛けならそれでもいいが、そうなると接し方も変わってくる。簡単な仕事もできずにいる森村には、必要最低限の仕事だけをしっかり教え、確実にやってもらうことにしよう。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる