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5 寄せ鍋?
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ダイニングキッチンから、子どもたちの笑い声が聞こえる。あぁ、いね美さんが面倒を見にきてくれたのね。困った時はいね美さんに助けてもらうことになっていた。
眠ったので、体が楽になった。ダイニングキッチンに行くためにふすまを開ける。家の中にピエロがいる!! 料理を作っている。無防備な子どもたち。邪悪な仮面をつけている。
「誰ですか⁉」
侵入者に叫んだ。
ピエロは仮面を取った。
「やっぱり正彦君だ!」
うれしそうな萌華。萌華は、誰かもわからずに部屋に入れたのか。ぞっとした。正彦さんだったからよかったものの。
「ご飯ができましたよ」
笑顔で言う正彦さん。ガステーブルにアルマイトの大鍋が載っていた。ぎょっとする。
「やだ。この鍋使ったの?」
「うん。おでんを作るのにちょうどいい大きさだったから。いけなかった?」
「いけなくはないけど……」
捨てようとしてしていたおしゃれじゃない鍋。しかも大皿を落し蓋にしてる。
正彦さんが鍋からおでんを器に盛る。
「正彦さんが作ったの?」
「萌華ちゃんもお手伝いしてくれた」
「卵の殻を取ったのは萌華だよ」
「そう。萌華ちゃん、上手だったね。
────じゃあ、僕はこれで」
そう言って帰ろうとするは正彦さん。
「待って」引き止めた。
一緒にごはんを食べる。
「正彦くんのお料理おいしいね」
おでんと一緒にごはんをモリモリ食べる萌華。体裁の悪い鍋で作ったおでんだけど、とてもおいしかった。
いい雰囲気でみんなで食べるごはん。比べるのはよくないけど、萌香も私もこんなふうにくつろいで元夫とごはんを食べたことはなかった。
子どもたちは正彦さんとお風呂に入りたいと言って聞かず、一緒に入った。そして私がお風呂に入る間、子どもたちを寝かしつけてくれることになった。久しぶりにゆっくりお風呂に入れた。
「どうしてピエロの恰好を?」
ダイニングキッチンで正彦さんに聞く。
「いざとなったら、助けに行くために、正体を隠して、見守っていた。
────って言えればいいんだけど、未練です。
つきまといたかった」
「え? それってストーカーじゃない」
「そうだね」
ストーカーにしては屈託のない笑顔。私が体調を崩して、子どもたちはどんなに心細かったろう。子どもたちに安心を与えてくれた正彦さん。
「ありがとう。おでんおいしかったわ」
「よかった」
鍋が立派だから料理がおいしくなるとは限らない。まるで破れ鍋のような鍋だって、おいしい料理が作れる。立派な鍋に引けは取らない。
「私ね、体裁ばかり気にしてたの……」
木枯らしの夜。仕事帰りに、いね美さんに家に寄ってもらうことにした。チャイムを鳴らすと玄関ドアが開いた。
「おかえりなさーい!」
萌華と容寛と正彦さんの声が揃う。正確には容寛は「いー」と言っただけだけど。出迎えの三人は生クリームとチョコレートまみれ。
テーブルには、いね美さんが好きな赤ワインと手作りのホールケーキとローストチキンがあった。ケーキにはチョコペンで書かれた “ママ おたんじょう日 おめでとう” のメッセージ。
「わぁ、すてき。ありがとう」
立派なマンションでホームパーティーに憧れていた人が、市営住宅のダイニングキッチンに小さくまとまったわね。あたしはそんなの嫌だな。玉の輿よ。セレブなマダムになるの。
結婚指輪も結婚披露宴もなしで入籍だけだなんて。しかも妻が働いてダンナが主夫だなんて。働いてきた妻を優しくいたわるダンナか。まるでヒモじゃん。
────だけど幸せそう。うらやましいかも……。
その夜、アルマイトの大鍋で作ったおいしいポトフをみんなで食べた。
(Fin)
眠ったので、体が楽になった。ダイニングキッチンに行くためにふすまを開ける。家の中にピエロがいる!! 料理を作っている。無防備な子どもたち。邪悪な仮面をつけている。
「誰ですか⁉」
侵入者に叫んだ。
ピエロは仮面を取った。
「やっぱり正彦君だ!」
うれしそうな萌華。萌華は、誰かもわからずに部屋に入れたのか。ぞっとした。正彦さんだったからよかったものの。
「ご飯ができましたよ」
笑顔で言う正彦さん。ガステーブルにアルマイトの大鍋が載っていた。ぎょっとする。
「やだ。この鍋使ったの?」
「うん。おでんを作るのにちょうどいい大きさだったから。いけなかった?」
「いけなくはないけど……」
捨てようとしてしていたおしゃれじゃない鍋。しかも大皿を落し蓋にしてる。
正彦さんが鍋からおでんを器に盛る。
「正彦さんが作ったの?」
「萌華ちゃんもお手伝いしてくれた」
「卵の殻を取ったのは萌華だよ」
「そう。萌華ちゃん、上手だったね。
────じゃあ、僕はこれで」
そう言って帰ろうとするは正彦さん。
「待って」引き止めた。
一緒にごはんを食べる。
「正彦くんのお料理おいしいね」
おでんと一緒にごはんをモリモリ食べる萌華。体裁の悪い鍋で作ったおでんだけど、とてもおいしかった。
いい雰囲気でみんなで食べるごはん。比べるのはよくないけど、萌香も私もこんなふうにくつろいで元夫とごはんを食べたことはなかった。
子どもたちは正彦さんとお風呂に入りたいと言って聞かず、一緒に入った。そして私がお風呂に入る間、子どもたちを寝かしつけてくれることになった。久しぶりにゆっくりお風呂に入れた。
「どうしてピエロの恰好を?」
ダイニングキッチンで正彦さんに聞く。
「いざとなったら、助けに行くために、正体を隠して、見守っていた。
────って言えればいいんだけど、未練です。
つきまといたかった」
「え? それってストーカーじゃない」
「そうだね」
ストーカーにしては屈託のない笑顔。私が体調を崩して、子どもたちはどんなに心細かったろう。子どもたちに安心を与えてくれた正彦さん。
「ありがとう。おでんおいしかったわ」
「よかった」
鍋が立派だから料理がおいしくなるとは限らない。まるで破れ鍋のような鍋だって、おいしい料理が作れる。立派な鍋に引けは取らない。
「私ね、体裁ばかり気にしてたの……」
木枯らしの夜。仕事帰りに、いね美さんに家に寄ってもらうことにした。チャイムを鳴らすと玄関ドアが開いた。
「おかえりなさーい!」
萌華と容寛と正彦さんの声が揃う。正確には容寛は「いー」と言っただけだけど。出迎えの三人は生クリームとチョコレートまみれ。
テーブルには、いね美さんが好きな赤ワインと手作りのホールケーキとローストチキンがあった。ケーキにはチョコペンで書かれた “ママ おたんじょう日 おめでとう” のメッセージ。
「わぁ、すてき。ありがとう」
立派なマンションでホームパーティーに憧れていた人が、市営住宅のダイニングキッチンに小さくまとまったわね。あたしはそんなの嫌だな。玉の輿よ。セレブなマダムになるの。
結婚指輪も結婚披露宴もなしで入籍だけだなんて。しかも妻が働いてダンナが主夫だなんて。働いてきた妻を優しくいたわるダンナか。まるでヒモじゃん。
────だけど幸せそう。うらやましいかも……。
その夜、アルマイトの大鍋で作ったおいしいポトフをみんなで食べた。
(Fin)
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