ポット・ホーム

真田奈依

文字の大きさ
上 下
5 / 5

5 寄せ鍋?

しおりを挟む
 ダイニングキッチンから、子どもたちの笑い声が聞こえる。あぁ、いね美さんが面倒を見にきてくれたのね。困った時はいね美さんに助けてもらうことになっていた。
 眠ったので、体が楽になった。ダイニングキッチンに行くためにふすまを開ける。家の中にピエロがいる!! 料理を作っている。無防備な子どもたち。邪悪な仮面をつけている。
「誰ですか⁉」
 侵入者に叫んだ。




 ピエロは仮面を取った。
「やっぱり正彦君だ!」
 うれしそうな萌華もなか。萌華は、誰かもわからずに部屋に入れたのか。ぞっとした。正彦さんだったからよかったものの。
「ご飯ができましたよ」
 笑顔で言う正彦さん。ガステーブルにアルマイトの大鍋が載っていた。ぎょっとする。
「やだ。この鍋使ったの?」
「うん。おでんを作るのにちょうどいい大きさだったから。いけなかった?」
「いけなくはないけど……」
 捨てようとしてしていたおしゃれじゃない鍋。しかも大皿を落しぶたにしてる。
 正彦さんが鍋からおでんを器に盛る。
「正彦さんが作ったの?」
「萌華ちゃんもお手伝いしてくれた」
「卵の殻を取ったのは萌華だよ」
「そう。萌華ちゃん、上手だったね。
 ────じゃあ、僕はこれで」
 そう言って帰ろうとするは正彦さん。
「待って」引き止めた。
 一緒にごはんを食べる。
「正彦くんのお料理おいしいね」
 おでんと一緒にごはんをモリモリ食べる萌華。体裁の悪い鍋で作ったおでんだけど、とてもおいしかった。
 いい雰囲気でみんなで食べるごはん。比べるのはよくないけど、萌香も私もこんなふうにくつろいで元夫とごはんを食べたことはなかった。
 子どもたちは正彦さんとお風呂に入りたいと言って聞かず、一緒に入った。そして私がお風呂に入る間、子どもたちを寝かしつけてくれることになった。久しぶりにゆっくりお風呂に入れた。
「どうしてピエロの恰好を?」
 ダイニングキッチンで正彦さんに聞く。
「いざとなったら、助けに行くために、正体を隠して、見守っていた。
 ────って言えればいいんだけど、未練です。
 つきまといたかった」
「え? それってストーカーじゃない」
「そうだね」
 ストーカーにしては屈託のない笑顔。私が体調を崩して、子どもたちはどんなに心細かったろう。子どもたちに安心を与えてくれた正彦さん。
「ありがとう。おでんおいしかったわ」
「よかった」
 鍋が立派だから料理がおいしくなるとは限らない。まるで破れ鍋のような鍋だって、おいしい料理が作れる。立派な鍋に引けは取らない。
「私ね、体裁ばかり気にしてたの……」




 木枯らしの夜。仕事帰りに、いね美さんに家に寄ってもらうことにした。チャイムを鳴らすと玄関ドアが開いた。
「おかえりなさーい!」
 萌華もなか容寛ようかんと正彦さんの声が揃う。正確には容寛は「いー」と言っただけだけど。出迎えの三人は生クリームとチョコレートまみれ。
 テーブルには、いね美さんが好きな赤ワインと手作りのホールケーキとローストチキンがあった。ケーキにはチョコペンで書かれた “ママ おたんじょう日 おめでとう” のメッセージ。
「わぁ、すてき。ありがとう」



 立派なマンションでホームパーティーに憧れていた人が、市営住宅のダイニングキッチンに小さくまとまったわね。あたしはそんなの嫌だな。玉の輿よ。セレブなマダムになるの。
 結婚指輪も結婚披露宴もなしで入籍だけだなんて。しかも妻が働いてダンナが主夫だなんて。働いてきた妻を優しくいたわるダンナか。まるでヒモじゃん。
  ────だけど幸せそう。うらやましいかも……。



 その夜、アルマイトの大鍋で作ったおいしいポトフをみんなで食べた。 



                (Fin)

                  
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ガチ恋オタクの厄介ちゃん

阿良々木与太
現代文学
配信者である「らろあ」に恋をしている渚。いわゆるガチ恋と呼ばれるその感情は、日に日にエスカレートしていく。画面の向こうにいるあったこともない人間への恋心は、次第に形を変えていった。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

太一の決心

ハリマオ65
現代文学
母がパートで父が君津製鉄所の夜勤をし社宅に住んでいた。家事を手伝い勉強していた。収入と支出を考え生活しを切り詰め家族4人の生活を続けた。太一は中学卒業後、近所の商店で働いたが店主が気に入らない事があると当たり散らした。自分の力だけで稼ぐ方法はないかと考えた。その時、友人の父が株で暮らしてると知った。彼が経済学部に入り日本では投資で儲かると言い彼の指示通り投資し金を掴む。やがて結婚へ、その後・・・。小説家になろう、アルファポリス、ノベルデイズに重複投稿中。  

病窓の桜

喜島 塔
現代文学
 花曇りの空の下、薄桃色の桜の花が色付く季節になると、私は、千代子(ちよこ)さんと一緒に病室の窓越しに見た桜の花を思い出す。千代子さんは、もう、此岸には存在しない人だ。私が、潰瘍性大腸炎という難病で入退院を繰り返していた頃、ほんの数週間、同じ病室の隣のベッドに入院していた患者同士というだけで、特段、親しい間柄というわけではない。それでも、あの日、千代子さんが病室の窓越しの桜を眺めながら「綺麗ねえ」と紡いだ凡庸な言葉を忘れることができない。  私は、ベッドのカーテン越しに聞き知った情報を元に、退院後、千代子さんが所属している『ウグイス合唱団』の定期演奏会へと足を運んだ。だが、そこに、千代子さんの姿はなかった。  一年ほどの時が過ぎ、私は、アルバイトを始めた。忙しい日々の中、千代子さんと見た病窓の桜の記憶が薄れていった頃、私は、千代子さんの訃報を知ることになる。

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

世界の端に舞う雪

秋初夏生(あきは なつき)
現代文学
雪が降る夜、駅のホームで僕は彼女に出会った まるで雪の精のように、ふわりと現れ、消えていった少女── 静かな夜の駅で、心をふっと温める、少し不思議で儚い物語

処理中です...