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女神の尖兵

勇者討伐後の帰路

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§勇者討伐後の帰路、スパルタ国王




 私は帝国で勇者を倒した。長くもなく苦しくもなく、普通に倒し、仕事をしたと言う充足感がある帰路での事。スパルタと言うコロシアムと綺麗なオアシスが美しい場所に私は立ち寄っていた。数日かけラクダに乗り換えての移動。砂漠のオアシスである都市で私は……

「あの~キビキビ歩け」

「………私。魔王」

「すいません。歩いてください」

「はぁ…………どうして。しくしく」

 捕まっていた。一度初めて立ち寄ったがすぐに素通りして帝国へ向かったのだが。なにかいけなかったのか衛兵に連行されている。

 早く早くトキヤと逢いたいのに立ち往生している。都市で魔力を放出し爆発してもよかったけど。流石に怒られそうだったので我慢し、さめざめと泣きながら衛兵についていくのだ。

「な、泣かないでください………別に王が会いたいと言っているだけで………すいません。国賓で迎えるべきですが………隠密されていると」

「しくしく………どうして………どうしてすぐに帰りたいのに」

「泣かないでください………」

 ぽろぽろと泣きながら衛兵についていく姿に周りからは白い目で見られる。なーにも悪さをしていない筈なのにと思いやるせない気持ちで歩く。すると石を掘ったような牙城につれてこられた。中身は帝国や祖国の城と変わらず。使っている石だけが黄色いだけだった。泣き止み………心を入れ変える。

「なぜ? スパルタ王が私に?」

「それは………」

「聞かされてない?」

「すいません」

「ワガママな王」

「ええ。しかし!! 素晴らしい王です!! どうぞ中へ」

 玉座の間に案内される。柱が6本に椅子が中心に座っており。玉座の間はどこも本当におなじなんだな~と感想を漏らす。多分、私は色んな場所の玉座を知っている珍しい人物である事はわかっている。普通って難しい。もう普通に戻れない。

「ふーん」

 私は見回した後に椅子に座っている筋肉隆々としたズボンだけを履いている人間を見る。不敵な笑みを浮かべ。玉座に肘をついて大胆不敵に堂々と偉そうにしていた。まぁ偉いんでしょうけど。私も一応女王だ。ちょっと今は騎士の鎧で淑女ぽくはないけども。

「えーとお初にお目にかかります。ネフィア・ネロリリス」

「スパルタチャンピオン!! メオニダス・スパルタだ。魔王」

 メオニダスと言った男は席から立ち上がる。ガハハハと大きく笑いをあげる。エルダードラゴンのヘルカイトと言う男がいたが。それに似た豪快な人だろうと私は推測した。

「中々。魔王は男前だな」

「ぶちのめすぞ。メオニダスと言う男よ……あっ……ごめんなさい。言葉が汚かったですわ~」

 一瞬だけ。昔を思いだしたように荒々しい言葉を発してしまった。いけない、淑女を保て……挑発だ。

「くくく。すまぬな。なるほど………これが帝国で陛下の愛人と噂され。傾国の美男子であり。惚れた男を不幸においやり。恨みや妬み。仇なす敵を葬ってきた男か」

 スゴく不名誉な事を言っているが。惚れていそうな男を葬って来たのは確かだし。勇者を取られた妬みで襲われもした。考えてみれば……悪女だなと思う。

「男ではありません。女です。そんなことより何故………余を魔王とわかった。中々やりよるな」

 クククと笑いながら顔を斜めに構えて影を作りながら威厳を持って偉そうに言う。

「めちゃくちゃ分かりやすい鎧を着て。冒険者の名前をネフィアと言うままで通るバカが居てだな。それも2回」

「………それらは偽物影武者」

「いや。本人だろ」

「……………くぅ」

 私はわかっていたが。顔を押さえる。仕方ないじゃないか!! 目立つんだから!!

「しかし、逆に言えば………堂々と渡るその剛胆に感服している」

「近道なんです。直通の………でっ、私を呼んだのはなんですか? 私は早く帰らなければ行けません」

「………帝国で勇者を暗殺したからか? 逃げている?」

「まぁそうです」

 逃げていると言うよりかは暗黙の了解を得て殺した。情報を売って。

「暗殺を隠さぬか……勇者を倒したその手腕……なかなかと見る。少し聞こうじゃないか………奴隷をどう思う?」

 メオニダスが笑みを浮かべ。やらしい目で私を見る。私は試されていると思う。

「ここのコロシアムは奴隷の亜人が剣闘士として戦い。日夜、奴隷として人間に使えている。聖女よ………奴等を解放するか?」

「へぇ~そうなんですか。コロシアムで戦ってるんですか。初耳です」

「解放したければどうする?」

 亜人奴隷の解放。それは確かに良いことだろう。しかし、そんなことを実行すればスパルタと戦争だ。まぁ~それを聞いているのだろうか?

 腹の探り合いもない。恐ろしいほどの直球だと私は思う。戦うかい? と聞いている気がする。まぁ……答えなんて決まってる。

「どうするもなにも…………何もしませんが?」

「…………ん? 見捨てると言うことか? 戦いを避けると?」

 メオニダスが眉を潜めた。私は堂々と言い放つ。

「運がなかった。諦めろ………次の生に期待して。悟れ、以上です。私は目の前の人しか助けませんよ。人間の女神さえ、全員救う事は出来ず。人間のみしか手を差し伸べない。無情ですからねこの世界は」

「………そうか。お前はそういう奴か」

「幻滅されて結構。私は私の好きにさせていただきます」

「大胆不敵に悪びれもせず。罪悪感も飲み込める。俺の前でも恐怖せずに立つ。何処からどう見ても女ではおかしいほどに巧ましいな」

「貶す事は許しませんよ」

「ははは!! 誉めているんだ!! 魔王!! よし、特別に王となったお主にこれをやろう!! 国宝だ!!」

 メオニダスが衛兵を呼んで小さい刺繍がされた高級そうな箱を持ってくる。衛兵は私の前に跪き手を差し伸べ箱を掲げる。それを受け取り箱を開けた。すると………

「つっ!?」

 白い手袋が置かれていた。贈り物ではない果たし状だ。メオニダスが大きく大きく笑い。牙を向く。

「我が友人。レオンを退け。勇者を倒した武勇が見たい!!」

 私はこの糞、脳筋野郎と声を出したかったが名案を思い付き。背後を見せる。箱の中をフッと息を吹きかけた。

「さぁ!! 決闘場へ案内しよう!!」

「待ってください。箱の中は空ですよ?」

「なに!?」

 私は箱を見せ。中身がないことを確認させる。パラパラとゴミが舞うが木屑しか見えない。白い手袋は何処かへ消えたのだ。

「…………衛兵。体を探れ」

「触るな!!」

 ブワッ

「わわ!?」

「おお!!」

 衛兵が近付くのを白翼を展開しそれで遮る。

「殿方が勝手に淑女の体を探るのは無礼です。怒りました!! 帰ります!! 帰らせてもらいます!!」

 翼で衛兵を退かしながら。踵を返して玉座を後にしようとする。メオニダスが大きな声を出す。静止を促す声を……それを聞いた私は歩を止めて魔法で伝える。囁くように。

「メオニダス。今日は早く寝ることだ。今夜はきっと悪夢ナイトメアを見るだろう」

「なに?」

 私はそのまま。振り返らずに去った。





 魔王が何かした。俺はそれを見ていた。背後を向いた瞬間に木箱に何かしたのだ。

 衛兵が慌てて木箱を見る。衛兵に持ってこさせたとき俺は驚きの声をあげる。

「あの一瞬でか………」

 中には灰が積もり。焦げ臭い。手袋は灰になっていた。

「ククク!! 魔王………魔術士か。確かに大胆不敵に入り込める。爆発したら危ないからな」

 メオニダスは魔王の実力を知った以上。好奇心が増す。

 女でありながら自分の発する圧力に屈せず。堂々としていた姿に都市スパルタ内の誰よりも男を見た。

「今日は早く寝よう。何があるのだな」

 先代よりも話題の魔王に期待せずにはおれなかった。







 月光に照らされた草原にメオニダスは寝転んでいた。メオニダスはゆっくり立ち上がり風を感じる。穏やかな夜風が火照った体を心地よく冷やしてくれる。これはなんだとメオニダスは周りを見渡した。

「ようこそ。悪夢へ」

「ここは………そうか。お前は夢魔の亜人だったな。あまりにもハッキリした夢だ」

「ええ夢魔です。ハッキリした夢です。魂を呼んでいるので」

 バサッ!!

 ネフィアが翼を大きな広げる。月に照らされた銀翼はキラキラと輝かせ幻想的な姿を見せる。メオニダスは心になかで「何が夢魔だ」と否定する。まるで「白翼の天使じゃないか」と愚痴った。「見るものを誘惑する悪魔なら正しいが」とも考えた。

「メオニダス。白い手袋は受けとりました。殺し合いは出来ませんし。私は女です。だから………夢でのみしか闘いません」

「ほう、闘ってくれるとな?」

「はい。獲物は想像してください」

 ネフィアが手本で剣を出す。メオニダスも同じように丸い大きい盾と槍に脇差しのような太いナイフを用意した。だが…………ネフィアが剣を投げ捨てた瞬間。同じように武器を捨てた。

「何故ですか?」

「俺は武器も扱えるが格闘も得意だ。お前は?」

「奇遇ですね。私もです。ですが……今回は気まぐれです」

 ネフィアは負ける気でいる。格闘では勝てない事はわかっている。だが………わざと負けても怒られないように格闘で挑もうと思っている全力で。

 ネフィアは手甲をニギニギし、メオニダスは何も着けずに構える。

「格闘で俺とやろうってのはいい根性だ」

「…………」

「言葉は不要か」

 メオニダスは魔王が真っ直ぐ睨む目と落ち着きに心が踊った。「夢であるなら殺してもいい。ならば………全力でやるまで」と。「拳で語ろうではないか」と思うのだ。

 ざっ………ダダダ!!

 メオニダスが辛抱たまらず走り出す。

「はや!?」

 ネフィアは焦る。想像以上の速さに間合いに入られたために。苦し紛れにフックを打つが下に潜られた。

ドゴンッ!!

「げはっ!?」

 ネフィアの腹部に重い一撃が入りうめき声を漏らす。メオニダスは驚く。鎧の上とは言え衝撃を耐えたネフィアに。女のような細い腰に何処にこんな芯があるんだと驚くのだ。ネフィアは歯を食い縛り、離れたメオニダスに右手でスマッシュを放つ。速く鋭い突きのようなパンチにメオニダスは避けず顔に入った。

「がは!?」

 ネフィアは鋼を殴っているような硬度を感じ。メオニダスは女とは思えない鋭い拳に舌を巻く。

「やっぱ男だな」

「ちがう!! か弱い女の子!!」

「か弱い女の子が!! 俺の一撃耐えれるわけないだろうが!!」

 メオニダスはネフィアと殴り合う。インファイトになり、顔や腹を殴り合う。ネフィアは「何でこんなにも顔面殴るんだよ!!」と心で愚痴りながら。メオニダスは笑顔で嬉しそうに殴り合う。彼は「楽しい楽しい楽しい」と思考が占領される。

 しゅばん!!

「ぐっ!! いいフックだ!!」

「きゃふぅ!! 顔面ばっか狙ってんじゃないわよ!! 顔は命よ!! 女の子の命!!」

「うるせぇえ!! どんだけタフなんだよ!!」

 ネフィアの一撃は軽くはないがメオニダスよりは軽い。しかも、メオニダスの方が手数は上。なのに………ネフィアは倒れない。なぜならネフィアは勝手にゆっくり自己回復し、メオニダスの攻撃を半減させていた。それでも重い一撃は芯にダメージが入り、回復されなくなっていく。

 「どれだけ打ち合っただろうか」と両方が思う中。ネフィアは口の中は血で鉄臭く、拳が痛みを発する。しかしネフィアの心を苛めるのは耐えている「女とは思えない耐久」の自分に対してだった。メオニダスはインファイトの過剰な体力損耗に汗を流す。良いものをくれてやっているのに倒れないネフィアにじり貧を感じたのだ。

「タフガイ」

「うぅ……うぅ……」

 「悲しい」とネフィアは思う。「潔く負けたい」と。「女のプライドが~」と。多くを悩み失う事に苦しむ。

「はぁ、チマチマ回復しやがって。まぁ楽しかった。これで終わりにするぜ。うぉおおおおおおおおおぉ」

 メオニダスが距離を取る。そして声を………咆哮を上げる。「回復するならそれ以上の一撃を叩き込めばいい」と。必殺というものを使う決意をする。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 メオニダスの体から魔力のような物が溢れ、赤いオーラのように可視化した。「魔力じゃないそれは鍛えぬかれた闘志だろう」とネフィアは理解し、納得し、学ぶ。

「すぅ………ふぅ………」

 ネフィアは脱力して構える。迎え打つために。

「俺の一撃。受けてみろ魔王!! 剛槍ただの右ストレート!!」

 メオニダスが走り出す。地面が爆発したかのような衝撃のあと。空間がオーラで歪んで見える。ネフィアは負けを認めるが拳を一応握る。

 そしてネフィアは今まで顔面殴った事への怒りと無茶苦茶な事をして旅路を邪魔したこと。滅茶苦茶殴られた事とこんな理不尽な決闘をやらされている事の怒りを左の拳に込めて走る。「一発殴らせろ」と思うほどに。

「魔おおおおおおうおおおおりゃあああああああああ!!」
 
 ネフィアの顔面に向けて拳が迫る。ネフィア以外なら魔力と違ったオーラで触れずに吹き飛ぶか千切れ飛ぶかしていたが。そこは今までの歴戦を戦ったネフィア。芯が生きているためと足腰が強いため細い体でも耐え抜き。顔を勘でスッとかわす。

 そして、メオニダスとネフィアの時間がゆっくりとなり、ネフィアの左腕がメオニダスの右腕に絡むようにクロスしてメオニダスの顔に触れる。

「この、顔面ばっかり狙ってんじゃ!! ないわよおおおおおおおおおお!!」

 時が動きだしネフィアは左拳を振り抜いた。メオニダスの顔面に深々と刺さり。目玉を飛び出させ。脳症をぶちまけ。首から上がバラバラ粉々に消し飛ぶ。振り抜いた拳から拳圧飛び草原を抉る。

 ネフィアは考える前に条件反射と直感と剣より拳の才能と己の肉体の扱いの上手さでカウンターが決まってしまったのだった。メオニダスの力も加わった一撃は破壊力抜群だった。メオニダスもカウンターが来るなんて一切考えない力の一撃だったためにもろに当り、利用される事や今までにそんな事がなかったために初見殺しとなる。

「ふぅふぅ」

 ネフィアはへたりこむ。そして、顔を押さえた。「恥ずかしい。やらかした」と。

「うわあああああああああん!! なんでなんで!!」

 ネフィアは大声で泣き出す。女の子らしくなく殴り勝った事に。女の子としてのプライドに傷がついたのだった。







「がああああああああ!!………はぁはぁ」

「王!! 大丈夫ですか!!」

 メオニダスはベッドから起き上がり、大汗をかく。テーブルに置いてあった水瓶の水を飲み干す。衛兵が慌てた様子で何かあったかを聞いてきた。寝ている間に叫び続けていたらしく。衛兵が「慌てて起こしに来ました」という。何度も起こそうとするが無理だったのだ。

「ああ、大丈夫だ。負けたか…………」

「はい?」

「だが、清々しい…………あの一撃を利用されたか」

 予想だにしなかった事が起きて負けたが。余韻が残り手を震わせるメオニダス。彼の体が痺れていた。そう、満たされていた。

「王、すごく機嫌がいいですね?」

「ああ。素晴らしい………素晴らしい!! 悪夢だった!!」

 メオニダスは歓喜し、ネフィアの強さを称えた。

「さすが勇者を倒し。レオンを雑魚と言った豪傑!! ネフィア!! あやつは………強い!!」

 メオニダスは衛兵に「ネフィア女王に会いたい」と言う。しかし、次の日にはネフィアを衛兵が探しに行ったが。早朝、逃げるように宿屋から旅立った後だったのは言うまでもない。






§商業都市ネフィア~凱旋~



 俺は一人、ギルドの酒場である人物を待っていた。その人物はワザワザ迎えにいかなくてもきっと驚異的な嗅覚と直感となにか奇跡でも起こしてでも俺のもとへ来るだろう事がわかっていた。たとへ、異界へ行こうと壁をぶち破って来そうだ。やべぇ……死んでもきっと無理。

「………あっ俺。どうやっても一生、独り身はないな」 

 そんなことを思いながら一人。酒場で時間を潰す。深く考えてなかった事が今になって恐怖しながら。

「んむ」

 マスターはグラスを磨いていので聞くだけなら聞いてくれそうだ。周りの亜人が俺をチラチラと伺う。昔は全くこんなにも知られてなかったのに。今では有名人だ。

「マスター」

「なんでしょうか?」

「俺………有名人?」

「それはもう。トキヤ王配」

「………何故こうなったんだろうな」

 今更だが。そこら辺の騎士だった俺が今の肩書きがスゴいことになっていた。考えてもなかったが落ち着いて考えると大変な事になっている。王配に公爵。広言された勇者。城に忍び込んでネフィアを盗んだ日が本当に懐かしい。騎士から冒険者に落ち。冒険者から貴族を通り越して王族になってしまった。波瀾万丈の人生に驚かされる。

「あ、あの。トキヤ殿ですよね?」

「すまん。人違いだ」

「………そんなことはないでしょう? 私、わかるんです!!」

 一人の虫族の亜人に声をかけられる。トンボなのかセミなのか透明な羽を持った女性だ。最近増えている魔物からの新しい種族だろう。服を着ているが中々のスタイルの良さだった。昆虫亜人族の女性はモテ、人気になりそうだ。
 
「隣、いいですか?」

「いいけど………」

「ありがとうございます!!」

「でっ………俺になんのようだ?」

「あ、握手してください。公爵様………」

「勝手に握ってろ」

「は、はい………ああ。公爵さまの手です。いつも姫様を御守り下さりありがとうございます」

「………ああ」

 ネフィアの人気は異常に高い。いや、異常でもない。何故なら偏見もなく。誰にでもそこそこ優しい。区別もつくし料理も洗濯も出来る。綺麗で可愛い。しかし、真面目な時は本当に180度変わる。歌や踊りが得意で。聖職者としての一面も持ち。今では悪魔らしからぬ白い翼さえ生えてしまった。

 誰にもない物を持ち、憧れの対象。魔族でもあそこまで聖なる者になれると示したから。夢を与えたとも言える。

 そう考えながらも……ちょっと認められて嬉しくもあり。寂しくある。世界で俺一人だけしか魅力を知らなかったのに。今では沢山の奴が知ってしまった。そう、なついている子が他の子と仲良くしていると妬けるあの気持ちに近い。

「ああ、独占欲は………あるんだな。俺」

 少しだけ。「独り占めしたい」と今更だが思ってしまったのだ。ずっと独り占めしてきたくせに。独り占め出来なくなってからその要求に気付く。

「………ありがとうございました。トキヤ公爵。お仕事頑張ってください。陽の導きがあらんことを」

「陽の導きがあらんことを」

 女の子は嬉しそうに席を離れた。後ろで友人と触ったや、格好いいやらをキャキャ言って楽しそうに会話する。まるで人気貴族様になったような気分だが。人気貴族になっているんだろう。

「はぁ………見られてるってこんなに面倒なんだな。ネフィア………」

 妻の名を口にする。人気者や人に見られるのはなれていないとつくづく思う。そうそう愛想笑いも出来ない。ネフィアは笑みを振り撒けるだろうに。

「……………まぁいいか。今更、ランスロット王子のような感じもできやしね~し。俺は俺らしくするか」

 俺は気にしてもしょうがないと諦める。現にネフィアの配偶者なのだ。これ以上、求めるのは罪だ。俺にとっては無限の金貨。至宝の宝石以上の価値を持っているのだから。

 ドタドタドタ!! バンっ!! ゴロゴロ!!

「ん?」

 酒場にトカゲの衛兵が転がって入ってくる。慌てた様子で躓き。テーブルにぶつかった。しかし衛兵はそんなの関係ないかのように叫ぶ。

「陛下が!? 陛下が!!」

「「「「!?」」」」

「帝国から単身帰ってきたぞおおおおおお!!」

 酒場が静まり。そして………無造作に席を立つ。無音。一人が衛兵に問いただす。

「本物?」

「本物。俺は聖教者だから。眩しくて眩しくて………見えなかったんだ。陽に誓う。嘘は言わない」

「…………」

「陛下は………たった一人の天使族だったよ。勇者を倒した………本物だよ」

 その一言で酒場は戦場になる。皆は一目見ようと一目散に酒場を出て行った。俺は、ドン引きしながら事の成り行きを見ていた。「嘘だろ」と。

「お、大袈裟すぎだろ…………」

「………あっ。トキヤ公爵。店じまいです」

「えっマスター?」

「トキヤ公爵も向かいますよね? では………」

 マスターがエプロンをカウンターに置いて走り出す。ギルドの受付も立て札が「営業終わりました」となり。人間の冒険者が驚く。

 残ったのは………人間の冒険者たちと俺だけだった。視線が俺に集まる。「冒険者が理解が出来ない」と言った表情だ。「俺に求められても」と思いつつ。近い言葉を発する。

「王が居たら驚くだろ? いるんだよそこに」

 冒険者が驚きながらも納得した。俺は…………静かに逃げようかと模索するのだった。







 混乱が生じた。ネフィアは商業都市の名前が変わっている事に驚き衛兵に聞いてしまったのだ。

「私の名前になってるけどどうして?」

 普通に問いたのだろう。しかし、衛兵は快く答えた。大声で。

「偉大な女王陛下の手腕によって纏まりました。ネフィア様の功績を後世に伝えるため。全ての族長が認めたのです。女王陛下の名前なら文句出すバカは居ないと。帝国からのご帰還!! お疲れさまでした!!」

「「「女王陛下!?」」」

「………あっ………うん」

「急報!! 女王陛下が勇者を倒し!! 帰還された!!」

 ネフィアは………気が付いた。エルフ族長の顔を思い浮かべながら。「してやられた」と。

ソロリ………

「女王陛下!! 何処へ行かれますか!!」

「えっと………ちょっと用事が………」

「陛下!! 我々がお手伝いします!!」

「いや……うん………えっと………探し人がいて………」

「誰でしょうか!!」

「トキヤを探してるの………」

「伝令!! 至急トキヤ公爵をお探ししろ!! 「女王陛下がお呼びです」と‼ それまで………陛下は何処で待たれた方がいいか相談します。申し訳ありません」

 衛兵が「厚遇の準備を」と叫ぶ。ネフィアはやらかした事に気が付いた。出るときこそこそしていたのに堂々と帰ってきてしまったのだ。それよりも自分がここまでの人気者なのにネフィアは驚いてしまう。

「女王陛下、教会に席をご用意させました。ご案内状しま………陛下?」

「ご、ごめん………ちょっと………えっと」

「トキヤ公爵を見つけますのでしばしお待ちください」

「あっいや………自分が探した方が………」

「草の根を掻き分けても見つけ出します」

 ネフィアはトキヤを良く知っている。そしてトキヤは目立つのを嫌う。異様に……だから………「ヤバイ」とネフィアは思う。

「いや………その。お忍びだしさ?」

「お忍びでしたか………お忍びでしたか!?」

 ネフィアは手遅れを悟る。トキヤが嫌がって逃げ回って、隠れて見つからずに帰国する事を。

「ここへ来て………会えなくなるなんて……会いたいのに………逢いたいのに………」

 ネフィアはしくしくと泣き出してしまう。そしてまたその涙のせいで。騒ぎは大きくなったのだった。




 


 トキヤは………追われていた。

「トキヤ公爵!! トキヤ公爵!!」

「何処へ!?」

「陛下が泣いてらっしゃるらしい」

「トキヤ公爵は非常に高い隠密技術をお持ちだ。空気の小さな流れも見逃すな!!」

「ああ、それと………姿を消すらしい!! 時間は短いが!! 回数を増やさせてじり貧を狙おう」

 トキヤは苦悩する。自分を知り尽くされている事に。ネフィアが何かやって俺が尻拭いをするのは昔からあった。

 だが、今回ばかりは…………どうしようもない。

「女王陛下が教会でお呼びです!!」

「パレードの準備は?」

「トキヤ公爵を見つけてからだ!!」

 お祭り騒ぎ。まぁわかる。ネフィアは偉業を成したのだ。だが………影や暗いところや暗殺が得意なトキヤにとってはちょっとハードルが高かった。

 そう、トキヤはなれていない。ネフィアと同様に表で祭られる事を。

「やべぇ………どうしよ」

 隠れながら悩むトキヤ。「潔く出ようか」と思うが………ここまでの騒ぎを起こしてしまった事に気が引ける。結果、教会に直接向かい。騒ぎをネフィアに静めて貰おうと考えて行動する。

「はぁ………目立つばっかりじゃないか」

 「まだまだ………仕事は多いのに」と愚痴りながらも教会に向かう。教会も人でぎっしりなのだろうと辟易しながらも。



§商業都市ネフィア~二人の愛の形~
 

 俺は捜索する衛兵を何とかかわしながら。唯一無二の教会に向かった。教会に近付くと人々が立って談笑をしながら、ネフィアを一目見ようと集まっていた。流石に、人だかりを隠れることはできず。諦めて堂々と顔を出した。

「あ、あなた様は!?」

「ネフィアはここか?」

 一人のオークに声をかけて聞く。もちろんお待ちですと返答が帰ってきた。人だかりが俺を見る。

「はぁ。すまない。退いてくれ」

 サァー

 人だかりが波のように引き、教会の入口までの道が出来上がる。

「どうも」

 ジロジロと見られながら進み。教会の開かれた門に足を踏み入れた。そして………教会の中心でネフィアを見た。

 皆がネフィアの周りで座り、子供たちが集まって囲み彼女を尊敬した目で見ていた。翼を畳んだ天使がそこで子供たちに物語を聞かせているかのように質問に答える。

「勇者は強かったですか?」

「強かったです。でも、皆が頑張って戦ってくれたから………私は倒せたのですよ。そう、削ってくれてたんですね力を」

「スゴい!!………女王さま!! どうやったら強くなれますか?」

「お母さんとお父さんの言うことをしっかり聞けば強くなれますよ」

「女王さまは天使なんですか?」

「婬魔です」

「でも………白い翼が!!」

「皆にも翼はあります。私のはお飾りです。心の中にねある。みんなが今後の英魔国内を盛り上げる天使になるのです」

「いいなぁ~綺麗!!」

 色んな種族の子供たちがキラキラとした目でネフィアを見ていた。大人たちはそんな光景を後ろで見ながら手を合わせる。恐れ多いことで今までの魔王とは違い。全く怖くないのか………無邪気な子供たちに翼を触らせていた。

「…………ふぅ。ネフィア」

「えっ!?」

 子供たちと遊んでいる彼女に対して言葉を風で送る。ネフィアは振り返って俺を見つめた。

「と、トキヤさん?」

「トキヤ公爵だ!!」

「すげぇ!! 本物だよ!!」

「ヤバイ!! かっちょええ!!」

「ちょっと、遊んでる所ごめんな」

 俺は子供たちの頭を撫でながらネフィアの前へ歩いていく。

「と、トキヤさん?」

「なんで疑問なんだよ」

「だって………」

 ネフィアがオロオロとし出す。しかし、翼はパタパタとして感情がうかがい知れた。

「騒ぎは嫌いな方だって思って………出てこないかと………」

「ああ、騒ぎは嫌いだ」

「でしたら? どうして?」

「泣いたらしいじゃないか………ネフィア」

「あっ……えっと………」

「騒ぎは嫌いだが。それよりもお前の事がな………ふぅ」

 亜人の子供たちが目を輝かせる。大人のこういう物は好きらしい。目に焼き付けとけよ。これが大人だ。

「俺は大好きらしい」

「トキヤさん!!」

 ぎゅっ!!

 ネフィアが俺の胸に飛び込む。そして、人がみているのにも関わらず。俺の頬にキスをする。子供たちは何人か赤くなり。何人かは恥ずかしいのか顔をそらす。ちょっと………子供には刺激が強い。口にしなかったのは流石に恥ずかしかったのだろう。

「私!! やったんです!! 勇者を倒せました!!」

「知ってる。今ここに居るもんな」

「はい!!………あっ……と、トキヤさんそれ?」

 ネフィアが俺の頭についている物に触れた。

「角?」

「まぁ、角だな」

 小さな角にネフィアはクリクリと触る。

「悪魔になったんですか?」

「悪魔になったかもな。まぁこれ削るよ。ドアに当たる」

「………トキヤさんも。頑張たんですね」

 胸の中顔を埋めて。ネフィアは優しく微笑んだ。腕の中の彼女は本当に美しい。悪魔になっても手に入れたいと思えるだろう。だから、彼女の手を掴んだ。

「お前ら………大人のキス。知りたくないか?」

「と、トキヤさ……!?」

 恥ずかしがる彼女の唇を上から奪う。慌てた大人たちによって子供たちが連れられる。「見てはいけません」と言われながら。

「酷い。我慢してたのに。周りは………純粋な子ばかりですよ」

「いつか大人になる。お前のようにな」

「………もう………私の事が好きなんだから………」

「ああ、大好きさ」

 教会の中心で。二人だけの世界に浸る中で………皆が空気を読み目を剃らすのだった。ざまぁみやげれてめぇら。







 宿屋にネフィアとトキヤは帰ってくる。あの後、トキヤはネフィアを姫様抱っこして教会を出た。教会の前には人々が跪き。祈りを捧げるなかを堂々として抜け出して来た。追いかける人はいない。空気を読んでいる以上に。二人の邪魔だけはしてはならないと思われているようだ。

「有名になりすぎたのも問題だが。皆が関係を知って気を使ってくるのもなんかな~」

「私は悪い気はしないよ。トキヤとの仲が認められてるのは嬉しい。嬉しいでしょ?」

「………黙秘」

「それは、肯定だね………こっち見なよ」

 トキヤが背を向けて壁を見つめる。ネフィアは照れている顔を見たいと思い彼の前にピョコっと顔を出す。

ドンッ!!

 晒したネフィアにトキヤが迫った。壁に押し付ける。

「可愛いなお前は」

「……きょ、今日は積極的だね」

「嫉妬してる。皆がお前を慕うだろう………それにな」

「と、トキヤ!?」

 ネフィアは真面目に恥ずかしげもなく心の想いを吐露するトキヤにドキドキする。昔のトキヤを思い出して。出会った時も本心をずっと言っていた。いつからか………少し隠すようになったのに。

 ネフィアは顔を見れずに横を向け両手を胸に当てる。勇者を前にするよりも緊張し鼓動が早くなる。

 勇敢だった筈のネフィアは一瞬で乙女のように恥ずかしがる。

「あ、あの………ひゃぅ!?」

 トキヤの大きな手がネフィアの頬を撫でる。耳や、髪を。優しく。

「女王になっても………勇ましい事をしても………変わらず俺の前では女なんだな」

「んっ………だって………私は…………」

「なんだい?」

「トキヤに………女にされちゃったから………」

 トキヤは胸に込み上げる物がある。目の前の頬を赤くしてモジモジしているのがとても愛らしく。自分にしか見せない姿になんとも悶えそうになる。魔族の王とは誰も思えないその姿に………顎をあげさせる。

「目を閉じろ」

 トキヤは命令口調で強くいい放つ。ネフィアは目を閉じ待つ。ゆっくりを………ふれあう柔らかい感触。舌を絡めあう。深い愛。

「ん………んっ……………んあ……はぁ……はぁ………」

 ネフィアが甘い吐息を漏らす。目は閉じたままにトキヤに抱き付く。鎧を脱いでいたネフィアの女の子特有の柔らかさにトキヤは懐かしむ。

「ネフィア。柔らかいな」

「………トキヤは堅いね。いつも男の人ってなんでこんなにもいい匂いなの?」

 トキヤはたまらず。抱き締めてしまう。強く強く。

「あぅ………強く締めすぎ。でも………うれしい。トキヤぁ~………うぅん……旦那さま」

 ネフィアは頬を刷り寄せる。甘えるように。

「好き、好き、好き」

「………」

「もう、たまらないぐらい好き」

 ネフィアが感情をとにかく吐き出す。

「ああ。全く。これだからなぁ…………」

「だって………」

 トキヤは悪い笑みを浮かべる。小動物みたいにピコピコと尻尾があれば振っていそうなネフィアにイタズラ心が芽生える。苛めたいと。童心に戻っている気がしていた。

「実は………俺は最低な事をしてるんだ。お前に」

「えっ? な、なにを?」

「売春婦ならこの前、買った」

「!?」

 ネフィアがトキヤから離れる。驚いた表情で。

「えっと……本当に?」

「本当に」

「…………………そっか」

 ネフィアがしおらしく。目を伏せた。今のネフィアは弱く見えてのトキヤの告白だった。

「………嫌か?」

「嫌に決まってます。浮気です………酷いです………信じてたのに」

「嫌いになるか?」

「き、嫌い………なれない。なれない。嫌です。トキヤさん!! お願いです………もうそんな事しないで。ワガママですけど。お願いです」

「………まぁ抱いてはいないけどな」

「えっ? では、どうして?」

「情報を買っただけだ。あとは………まぁ確認だな」

 ネフィアが戸惑っているのをささっと楽しんだトキヤは何もしていないことを喋る。

「なにをです? 怪しい」

 安心したが少しまだ疑いの表情を見せるネフィア。

「他の女に興味が出るかどうかの………残念。お前以外はどうも無理らしい」

「ん? それってどういう事?」

「こういうことだ」

 ネフィアを抱き締めて。もう一度唇を奪う。今度は………逃がさないように。






 ベットの上でトキヤはネフィアを抱く。ネフィアは嬉しそうにトキヤを見つめる。

「トキヤ、まだ起きてる?」

「どうした?」

「少し……お話ししよ」

 トキヤは腕の中の彼女の頭を撫でた。目を細めて身を委ねる彼女。

「トキヤ………私、天使みたいだよね」

「ああ。だな」

「トキヤは悪魔みたいだいね」

「悪魔でもいいだろう別に」

「ううん。そういう事じゃなくって………天使と悪魔が愛し合うなんてロマンチックじゃない?」

「………」

「黒と白。こう、ギャップて言うのかな? 本来は敵同士なのに引かれあってとか。スゴく恋愛物語みたいで好き」

「ネフィア………」

「なーに? トキヤも好き?」

「それさぁ………最初っから俺は勇者でお前は魔王で同じと思うが?」

「ふふふ。トキヤは鈍いなぁ~」

「鈍い? あっもしかして………お前!!」

「だから、好きって言ったの」

「遠回しな………告白だな」

「………いつもありがとう。あの日からずっと感謝してるよ」

 ネフィアがトキヤ手を掴み。豊かな胸の谷間に当てる。

「ずっと………ずっと………これからも………一緒に居てね。私、頑張るから………ね?」

「居るさ、ずっとな。護ると言っただろ?」

「もう、強くなちゃったけど………でもお願いします。騎士さま旦那さま。あなた……おやすみ」

「おやすみ。ネフィア」

 トキヤは頷き。抱き締めながらまた、おでこにキスをするのだった。



§魔王の休日



 トキヤと合流した私は首都へ凱旋を果たす。今度は裏からこそこそと城へ潜入した。だが、「待っていた」と言わんばかりにエルフ族長が門の前に立っている。

「姫様、トキヤ公爵。勇者討伐の遠征お疲れさまでした」

「ええ、疲れたわ……」

「族長がなぜここに?」

「何となく。姫様がこの時間に帰られるとわかっておりました」

 私はトキヤを見てエルフ族長を指差した。トキヤ頷く。

「ネフィア。こいつ、マジで預言者かもしれん」

「嘘でしょ!?」

「姫様が帰ってくるぐらいは1分1秒でも当てられる自信があります」

「トキヤ!? 怖いよ!!」

「ネフィア。俺を盾にしない!! 俺だってこの変態嫌だよ!!」

「変態とは失敬な。姫様を尊敬しているだけです。ええ」

「それがドが過ぎてるんだよ、エルフ族長………それよりも隊員たちは?」

「解散、今は休んでおりますね。いやぁ~素晴らしい騎士となって嬉しい限りです」

 エルフ族長が「ここで話すのもあれなので」と言い。城の中へ足を踏み入れる。

「エルフ族長グレデンデ………イヴァリースの近況は?」

 私は一応魔王として近況を聞いてみた。

「ええ。平和そのものです。他都市も今は内政で忙しいでしょう。それと新しい教会建設許可を……ネフィア様を女神として奉りたいのです。そうすることで後々、楽に国を治めれます。族長たちが」

「………却下」

「姫様!?」

「エルフ族長。俺が許可を出す。王配での許可でもいいだろう?」

「いいえ………これはやはり姫様に……」

「ごめん。『自分を自分で崇めよ』と言ってさ、作らせるのは凄く酷いナルシストだと思うの。女神として奉るとか!? おかしいよ!?」

「姫様、既に下地は出来ております。ここにサインをいただきたいのです。愛の女神崇拝者も望んでおります」

「俺もほしいなぁ~俺もほしいなぁ~」

「と、トキヤ!?」

 トキヤが私の肩を掴む。

「ネフィア。俺も作ってほしい。あの女神にはお世話になっているから。お礼として信仰を増やしてやるのもいいだろう?」

「あぅ………と、トキヤが言うなら。考えても………」

「無理難題を族長に吹っ掛けてもいいだろう?」

「そっか!! トキヤが言うならいいし!! 無理難題を吹っ掛けて作らせなければいいや!!」

 私はうんうんと「名案だ」と思い。エルフ族長に言い渡す。

「作るなら城壁の外で!! 大きさは………城と同じ敷地でどうだ!!」

「許可をください」

「作れるもんならやってみろ!!」

「ここにサインを」

「いいでしょう。作れないなら諦めろよ」

「ええ、そうします。トキヤ公爵ありがとうございます」

「ああ。資金は大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫ですよ。色々と考えてありますから。それよりも長旅でお疲れでしょう。旅の汚れをお湯の用意をさせていただいておりますのお流しください。その後で寝室でごゆるりと。執務等は御座いません」

「そうなんだ!! トキヤ一緒に入りましょう?」

「いや、別々だろ?」

「トキヤ公爵。王配として一緒に入ってあげるのもお仕事では?」

「そうです。余と一緒に入れ」

「ああ、わかったよ。入るよ………エルフ族長。任せろ」

「ええ。頼みました」

「んん? なに? なに?」

 二人が目線を合わせてコンタクトを取った。私はそれはなにと聞いたが。二人は「秘密だ」と言い。少し疎外感が出る。男同士の密約束なんて………ズルいと思うのだった。

「王の権限で情報提示を求めます!!」

「職権乱用はダメです姫様」

「ダメだぞ。ネフィア」

「おかしい!? 権限効かないのですけど!?」

「姫様、それは通りません」

「そうだぞ~」

「なんでトキヤはエルフ族長側なの!? ねぇ!? なんで!?」

「お前の代わりにエルフ族長は仕事をしてくれてるんだぞ? 感謝しろよ」

「いえ、好きでやってますので」

「すいません。うちの嫁が何も出来ず」

「いえいえ、予想通りです。それにこれが望みです」

「…………あれ~おかしいなぁ………なんか私をバカにしてる雰囲気だぞ~」

 私は二人を睨むのだが。飄々と受け流される。いい感じに操られている気がして頬を膨らませた。

「可愛いですね姫様は」

「可愛いいだろう。こんなんでも女王なんだぜ」

 頬を膨らませた事で褒められて少し照れ臭くなってしまった。早く黙って風呂入ろうとするぐらいに。







 装飾を華美に彩られた大きな浴場にお湯を貯める。昔から魔王は男だったのかエルフや人間の女性の彫刻が風呂の真ん中で水瓶をもってお湯を注いでいた。水瓶の中に魔石が入っており。その魔石が水の魔法でお湯を吸い上げて再熱と循環を行っているようだ。

「おまたせ」

「ん、待ってない」

 トキヤは先に湯船に浸かっていた。私は体を流して布に石鹸を使って泡立て体を洗う。

「トキヤはあらった?」

「お前が来るのが遅いから洗った」

「女の子は脱ぐのも大変なの!!」

「それでも遅すぎる。何してたんだ?」

「使用人の子と話をしてたの。エルフ族長の奥さんと」

「はい!? エルフ族長の奥さん!?」

「この前、結婚したんだって奴隷からの大出世。族長の奥さんと言う貴族令嬢だよ。まぁずっと秘密にしてたらしいけど」

「なんで使用人してるんだよ」

「使用人でも貴族令嬢当たり前ですよ? 帝国では娘を出して教育もさせるし、学園もあるんだから」

「俺が無知で無頓着だっただけか………お相手は? 挨拶しなくちゃな」

「フィアちゃん」

「ああ、お前の影武者の…………エルフ族長………そこまで堕ちたか」

「トキヤさん。気持ちわかる。すっごーく複雑」

「見た目まんま。お前に似てるもんな。ただ、幼そうで泣きホクロがあって。全体的に小さいかな」

「…………」

「…………」

 私たちはある意味。エルフ族長の嗜好を学んでしまった。

「少女性愛か………」

「と、トキヤ。フィアちゃんには黙っててね。変態嗜好者かもしれない事!!」

「わかってる。俺だって周知見聞されてるのは考えたくない。婬魔を嫁にするのはハードだ。お前は特に大変だった」

「そうだろうね」

 私は泡を流して彼の隣に座って湯船につかる。

「あふっ………んんん」

 お湯に入るとつい。甘い吐息を漏らしてしまう。目を閉じゾクゾクと体を震わせる。

「気持ちいい………」

「ネフィア。膝の上来るか?」

「いいの!?」

「いいぞ。今日は休日だ」

「わーい」

 私は。喜んで彼の首に手を回して対面に座る。トキヤが顔をそらす。

「俺は膝の上と言った」

「これも膝の上だよ。ね?」

「前を隠せ」

「何度も何度も見てるでしょ?」

「何度も何度も何度も見ても欲情するんだぞ。大好きだからな‼ 少しは自重してくれ。たまらないんだ」

「………ごめん、前隠す。膝はもういいや」

 私は手を離して胸を隠し。膝から降りたあとに大浴場の端でトキヤから離れて座る。

「…………ブクブクブク」

「ネフィア照れてるのか?」

「ブクブク」

「ああ、まったく。こういう事が可愛いんだぞ」

 後ろから手が伸びて抱き締められた。ピクッと体が反応してしまう。私を抱き寄せた腕を私は触れた。

「恥ずかしいけど。トキヤがいっぱい『好き』て言ってくれるの大好き」

 その後、私たちは風呂のなかで体を重ね合わせたのだった。








 寝室に戻り。濡れて乱れた髪をトキヤがなでなから乾かしてくれる。櫛を使い丁寧に。

「ありがとうトキヤさん」

「いいよ。好きにしてるだけだから………綺麗な髪だ」

「うれしい!!」

 大きな鏡の前の女の子が嬉しそうにピョコピョコ体を揺らす。私はそう、自分が可愛いと思う。

「動くな絡まるぞ」

「はーい!!」

 注意され大人しくした。彼の優しい櫛使いは心地いい。

「ネフィア………これからの手は何か考えているか?」

「考えてない。でも、神を倒す術を探す」

「そうか………そうだよな」

「トキヤ? 何か?」

「いや、術があればいいな」

「ええ、あればいい」

 フワフワした空間からジトジトした空間の切り替わる。

「次の手はなんでしょうか?」

「わからない………でも。例え何が来ても打ち倒すのみ」

「…………そうですね。トキヤさん……これからもお願いします」

「任された。安心しろ………いつだってお前を護ってやるよ」

「ありがとう………トキヤ」

 私は感謝の言葉を何度も何度も口に出す。感謝してもしきれないほどにトキヤは沢山。色んな事をしてくれている。私は静かに悟るのだ。

 これからもずっとずっと戦いの日々が来ることだろう。

「愛してる」

「ネフィア、そればっかだなお前は」

「何度でも言うよ。愛してる。あなた………」

 きっと………これからも戦いの続けなければ女神の喉元へは届かないだろう。

 なら、戦い続けよう。何年かかろうと、何十年かかろうと。

 私とこの人の子を奪ったことを忘れはしないのだから。










  







 










 

 





 
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