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嘘つきは泥棒(初恋)の始まり⑦

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 胃が痛い。最悪である。わが組織に順位があるかは知らないが確実に1番~4番目の実力者の二人が顔を出しに来る。それは私の願う平穏の学校生活を苦しい物にする事だろう。

 だからこそ、私は能力の使用まで念頭に入れる。そして、いつ来るかわからないのが厄介だった。

「ヒム、今日はなんでベンチに座ってるんだ?」

 放課後、私は野球部の練習を見ていた。3年が主に特別守備練習を行ってる中で1年は素振り、キャッチボールをしている。ブルペンのような場所で皆が投手の真似事をしていた。そんな中でヤマダは一つ抜けた能力を持っている。

「最近、調子いいみたい。ふっきっれたね、ヤマダ。迷いがあって、全くよくなかった」

「お前、あいつと友達だったのか?」

「ヒカリも友達だったんでしょ?」

「あっいや。一人、ここのベンチで黄昏てて、つい言葉をかけてしまったんだ」

「陽キャめ……はぁ……さいてい」

 私の内心は穏やかでない。理由はわかっている。もう、バカではない。呪いのような感情と向き合い、そして達観する。

「ヤマダの夢はプロになりたいんだって」

「知ってる。女性のプロは数が少ないけど、大丈夫か? 狭き門だろ? それにこの学校は強豪とは一応言われてるけど……」

「そう、本人たちが一番わかってる。だけど、夢だからさ。人の夢は儚いもんだよ。全員、叶うわけじゃない。だからさ。だから……人は憧れる。希少性に……普通じゃない自分に憧れる。そして、そんな姿にも憧れる。本当にうらやましいね」

「ヒムも何か、ピアノとか音楽に打ち込めたりしないのか?」

「あれは『忘れられた神様』がくれた物だよ。そう、才能。生まれた瞬間に持ってる物。神様は不公平で、そして残酷で、そして平等で……夢を与える」

「ヒムは他になにかやりたいのとかないのか?」

「私はもう十分。ただ、夢は見るよ」

「あるんだ夢が、聞いてもいいか?」

「聞いたら、逃げられなくなるよ?」

「うーん?」

「ムカついたから言う。私はね……そう」

 遠くを見る。夕暮れの空を眺めながら手をあげる。遠い遠い、夢を空と重ねる。

「誰かと恋仲になって……一緒に学校生活しながら、春は桜を見て、夏は花火を見て、秋は紅葉を見て、冬は白い雪を見て、毎日毎日美しい世界を感じて生きたい」

「………」

 聞こえてないのか、何も喋らない。ただ今はそれがありがたい。

「そんな中で間違いがあって……キスして、世間様に怒られるような事をしてお腹大きくしてさ、卒業と共に結婚。子供が居て、非常に大変な事でも頑張って生きて、生きて……ちょっと普通じゃない人生を夢を見てるかな。ピアノはその道具にしかならないかも」

 笑みを彼に向ける。顔を背ける彼はきっと恥ずかしいだろう。だから問いかける。

「別にすぐって事もないよ。ただ、今の関係が心地いいから。今の関係でいようね」

「……おう」

 静かな応答に私は大きく背伸びする。そして、大きい溜め息を吐いた。

「顔、真っ赤だぞ、ヒーロー」

「ばっか!! くそ……からかいやがって……」

「へへへ、ごめんね。恥ずかしいのは私も。だから……許してね。さぁ、帰ろう。一緒に」

 私から手を差し出す。彼はそれを取り、私の気持ちに答えてくれたことを感じた。強く握り締めてこの一瞬を記憶する。いつか食べる記憶を。

「ヒム、えっと……これって……『付き合おう』て事でいいよな?」

「そう思う? 夢を見させてくれるの?」

「……なんか俺がヘタレでごめん。好意に気付いてたんだけど」

「ううん、気にしないで……私には……なんでもない、行こう」

 私は言葉を飲み込む。「私には時間がない」事を伝えるのは怪人に戻るその日までなのだから。

プルルルル

 彼が電話に出る。私は背筋が冷える。怪人が現れたのだ。そして、戦いに行くこと。「死ぬかもしれない可能性」を思い起こさせる。

「なんだ? えっ『化物系ドラゴン』の怪人と『精神操作系』。それに他の怪人も発起しただって!?」

 最悪である。心当たりしかない。くっそ最悪である。ドラゴンの咆哮が高笑いにしか聞こえない。

「ヒム、ごめん。行ってくる」

「相手はドラゴン系怪人だよ?」

「……怖いけどさ。『君を護るために行く』って言ったら止めるか?」

「本当に最悪、止められないよ。そんな言い訳」

「待っててくれ。明日はきっとお休みだから」

 私は彼が走り出すのを見ながら、苦情のメールをした。同僚に「なんて事をしてくれたんですか?」と。





 

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