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嘘つきは泥棒(初恋)の始まり②

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 夕刻、俺は私は怪人として活動しており、今日もその活動は順調に進む。一人の公安活動の英雄気取りである人と出会った。私服姿の英雄様の前に怪人の姿で出会う。

「怪人!?」

「はい、怪人」

 そして、記憶を奪い。「怪人に出会った」と言う嘘が生まれる。姿も見えない彼は何事もないように立ち去る。その一瞬で彼の記憶を貰い、報告書をスマホで作った。

 社会に溶け込んでお金を儲けてる怪人が買ってくれるのだろう。総統はすぐに私の口座にお金を振り込んでくれる。これでマサキとの交際費と生活費。それと化粧道具に髪止め、指輪、ネックレス等々、いっぱいある。

「はぁ、人間は金がかかる」

 欲しい物を頭を振って我慢する。仲間には怪人として「強盗すればいいじゃないか?」と思われているが、私は潜伏。多大なリスクを取るのは嫌である。せっかく、学生として溶け込んでいるのだから。怪人としてバレる行為はやめるべきだ。

 それでも、組織に居るための仕事を両立しないといけない。全く不自由で、自由である。

「バイト終わったし……◯メダでもいこうかな?」

 ゆっくりしてもしてもいい。面倒なのはバイト中とマサキに言ってる事。面倒臭い、怪しまれる。

「はぁ、時間早く過ぎないかな?」



 耳元でピアノの音が響く。怪人である私だけに聞こえる音であるのか周りの大人たちは反応しない。その音は次第に大きくなり、私を呼んでいる事がわかった。

「呼ぶならメールしてよ」

 「面倒くさい呼び方をする同業者ね」と思いながら音の方向へ歩いた。しかし、音は途切れず。しかも、街中から大分離れた場所まで誘われた。移動時間にして1時間。日はしっかりと落ちこみ。一件の豪邸に到着する。

 塀は高くコンクリート。そのコンクリートから音楽が聞こえる。なので怪人となってジャンプして乗り越えて庭に立った。お手入れが行き届いた芝の先に、大きい家に部屋に置かれたグランドピアノが窓から見える。非常に美しい黒色は月明かりで煌めいていた。

 そんな中で一人の青年がピアノを弾いている。彼が私を誘った本人だろう。

 窓を開けて靴を脱ぎ、部屋に入ると音楽は止み。目の前の怪人は私を笑みを向けて迎え入れた。

「ようこそ、名も無き人」

 綺麗な声だ。まるで声優みたいだ。歌い手も出来そうな人に私は問いかける。

「ここまでくるのに大変だった。タクシー代頂戴よ」

「ははは、僕は金無しでね……」

「なるほど。生まれたばかりの怪人ですね。じゃぁ、ちょっと総統に連絡を………」

「いや、いいよ。お願いがあるんだ。君に」

 スマホを片付けて話を聞く。すると彼は問いかけた。

「君は『記憶を喰い、物にすることができる』よね」

「何故それを?」

「怪人として知ってるのかな? わからない。でも、生前の僕は願った。その能力を」

「生前? もしや、一度死んで復活を? なかなかレアケースですね」

「ええ、気付いたら。ここに居たんです。そして、ここは……」

 ガチャ

 扉が音を立てて開く。そして、金髪の綺麗な女性がワンピース姿で顔を出した。「あなたは……誰ですか?」と不安げに質問する。「警察呼べばいいのに」と私は思いながら私は慌てて記憶を喰おうとした時、ピアノの怪人が静止し、静かに「妹をお願いします」と言い残して消える。消えた瞬間に部屋は明るくなって私と同じ背丈の女の子と顔を合わせた。

 見た目は非常に細く、やつれている子である。

「え、学生? 女性?」

「え、えっと……ピアノの音楽が聞こえて……その男性の方に……妹をお願いされて来ました。ここで演奏してたみたいで……壁にかかってる写真の男性なんですけど」

 嘘をつかずに正直に答えた。壁にはコンクール入賞の写真が飾っていた。怪人の能力なのか記憶を喰えない。非常に背筋が冷える。

「え……え……」

 同じ背丈の少女は唐突に泣き出す。そのままへたりこみ、泣き出したのだ。私はその行為に深呼吸を挟んで冷静になって近付き、ハンカチを渡す。受け取った彼女は「お兄様……お兄様……」と漏らして心の病を見せてくる。

 あの怪人は「生前」と言った。ならば、分かりやすい。あの怪人はお兄様であり、彼を産み出した負の感情はこの女性本人の物である。

「お兄様……お兄様……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 私には何があったかわからない。しかし、耳元で「記憶を見てあげほしい、そして……お願いがある」と囁かれる。

 その声に従い私は記憶を覗こうとしたが、首を振る。無闇やたらに見るべきじゃない。

「その、お兄様について教えてほしい。ピアノの事も」

 彼女は頷いた、そして落ち着くまで待つのだった。





 落ち着いた彼女から話を聞いた。兄の死因は怪人と公安警察との戦闘による殺傷。たまたま鉢合わせ、巻き込まれて一緒に怪人と共に亡くなったらしい。家庭環境など質問すると、死のきっかけで父と母は疎遠。仕事ばっかりで家に帰って来ない。兄の死後に完全な家庭崩壊が起こっており、彼女は引きこもってしまったようだ。家事は家政婦を雇っているがそれでも暗く汚れている家だった。

「兄は忙しいお母様、お父様の代わりにいつもここで遊んでくださったんです。ピアノをひいては歌を家政婦と共に」

「そうなんだ」

「数年前にそんなお兄様は私を庇って……私のお兄様が亡くなってから、毎日が怖い。お兄様がいないこち、思い出を思い出すたびに苦しいです。お兄様は私にとってとても大切な存在でした。お兄様との時間を大切にし、一緒に過ごした日々を永遠に忘れられない。でも、忘れたい……嫌だ……いや」

 会話が同じ事を繰り返す。彼女の「お兄様……お兄様……」と言う言葉には重い物があって呪いのように締め付けていた。目にくまなどがあるのは眠れてないからだろう。非常に体も細く、生気も薄い。

「あの、ピアノ、今も弾けるんですか?」

「……もう腕に力が出なくって……それに……忘れてしまって……兄の好きだった曲も……」

 私にもそんな知識も、技術もない。怪人でありながら「元気付けたい」と思う私はきっと誰かさんのヒーローの影響だろう。彼は本当に明るい人であり、会わせてあげたいほどだ。だが、今は彼はいない。

「弾けるよ、君なら」

 そんな事を考えていると耳元で囁く青年の声に驚くと共に目の前に一人がスッと現れ、手を差しのべてくる。

「いこう、君なら大丈夫。君だからこそ出来る」

 私はそれを手に取って立ち上がる。

「なぜそう言いきれるの?」

 隣の彼女は不思議そうに様子をみていた。私は彼女が目の前の青年が見えてない事がわかる。弱い気迫な怪人でいつ消えてもおかしくないほど存在が希薄なのだ。そんな彼だが、手は逃がさない意思を感じれるほどに力強く。私を引き、ピアノの前の席に座らせる。そして、彼は手を離して鍵盤に手を置いた。見よう見まねで私は鍵盤に手を置く。

「弾けるんですか?」

「……わからない」

 そう、わからない。鍵盤が白い、黒いしかわからない。だが、ふと私は鍵盤の意味がわかるようになる。白い音階と半音階。シャープやフラット、それに音符の意味やテンポ。そう、譜面も読めるようになる。

 それに合わせて私の手は勝手に動き出す。まるで最初から知っていたような。

「弾ける……」

 綺麗な翼を伴った音が部屋に響き渡る。ピアノの調律が悪い気がするが我慢し、鍵盤から音に翼を授けてピアノから飛ばす。

「凄い!? それ……お兄様が好きだった曲」

「……ええ、そう。好きだった」

 私は思い出す。彼女と共に過ごした日々を。彼女は一人で悲しんでいた日々に私と出会い。友となった。私はこの家に雇われたバイト。

 ピアノの調律も悪くなく。息を吹き替えしたように滑らかな弦を叩く音を響かせる。

 部屋の風景も変わり、棚に譜面。白い壁には飾られていたコンクール入賞の写真に変化が出る。私と彼女の二人で写真が写っていた。金賞の賞状を見せて笑みを浮かべる。

「え、え、え?」

 私は困惑する。世界が変わる中で、私の経験したことのない筈の経験した日々が思い出として浮かぶ。

 まるで最初から、私はここに居たような状況。そして、最初から。「お兄様」なんて居なかったような環境に。

「!? だめ!! 止めなくちゃ、私!! 何が起きて!?」

 嫌な予感がする。しかし、手が止まらない。ピアノを弾く手が止まらず。そして、一曲を弾き終える。「ありがとう」との言葉と共に。私は呆然とする。

「ヒムちゃん、やっぱりうまいね。ピアノ、なんで吹奏楽部に来ないの?」

「えっと……吹奏楽はピアノ関係ない」

「もう、他でも活躍できるって部活入りなよ」

 私は彼女の名前がわかる。タカナシ・ヒメ。ヒメなんて名前なので凄くわかりやすい。

「ごめんなさい、そろそろ帰るね」

「泊まって行けばいいじゃん」

「電話したい人がいるから」

「あー、また。仕方ないなぁ」

 私は立ち上がって、玄関から出ていく。今さっきまで暗く重たい空気は全くなく、それどころか健康的dr非常に肉つきがよくなった彼女の体つきと笑顔に胸がキュッと絞られる。

 逃げるように挨拶を済まして私はその場を離れ、一人で空を見上げる。何が起きたか、なにをしたかを私は理解し、小さく彼を呼ぶ。

「タカナシ・ミキ君……」

 呼んだ瞬間に耳元で「ありがとう」と囁く声に私は続ける。

「なんで……なんで!!」

 私は今のこの状況になってやっとわかった。彼の人生を私が「奪い取った」のだ。そして、それがわかるのは私だけである。

「もっといい方法があったはず!! もっと別の!! これじゃぁ……」

 囁く声は小さい。だけど、そこには感謝しかなく。今まで固まった彼女の時間を取り戻してくれた事の旨だか伝わる。

「どうして……そこまで……できるんですか……」

 私は記憶を奪い喰った結果。知っている答えを問いかけてしまう。それは深い深い物で今の私には重く。受け止めるには手が震えていた。

「この世で一番愛してるから」

 泣きじゃくるりながら、私は走って帰路につくのだった。
 








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