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極悪令嬢に堕ちる
面傷の心の傷
しおりを挟む私はやらかした。非常にいけないと思う事をやらかした。私だけの執務室。学園で優遇してもらった個室で唸る。この個室は幹部執務室と名であり、私が指名した者のみが入れる。今は二人のみであり、セシル君やハルト君さえ入る事は出来ないようにしている。学園内にわざわざ用意させた物の一つである。旧校舎であり、ボロいが……別に悪くはない。内装を綺麗にすればいいだけのことだ。
「エルヴィス……何、頭を押さえてるのよ」
「エルヴィスお姉さん? どうしたんですか? 薬いりますか?」
「ルビアちゃんの薬はいらない。バーディスは話を聞いてくれる?」
「いいわよ」
二人に私は昨日犯した事を話をする。
「昨日、ジゴク・メグル令嬢をボコボコに泣かした」
「ええ……姉さん。そんな」
「エルヴィス。生きてるわよね?」
「生きてる。だけど、今はやりすぎたと反省してるわ」
私は大きくため息を吐く。あんなにびくびくと縮んだ令嬢になんて酷い事を思っている。
「ついつい手が出たのね。エルヴィス」
「そう、だから……謝りたいけど……逃げそう」
「エルヴィス姉さんは怖いで通じてますから」
「そうなのよ……まぁ、必要なのだけど……ねぇ」
私は机に手を置き、目を閉じる。力の使い方を間違えばすぐに人生は終わる。目的のためにゆっくりと歩むしかない。だが……やはり。気になる。
「エルヴィス、あなたはあの子気になってるけど何があったのよ?」
「昔に……会ったような記憶があるの。喧嘩を仲裁し鍛えなさいとも言った覚えがあったの。忘れてたわ……ヒナト以下の事象でしたし」
「なるほど。お姉さんは出会ったことあったんですね。ふーん」
「まぁ、昔は昔です。今は仲間のなって欲しいと思ってます。ああいう令嬢を集めたいので」
「はぁ……エルヴィス。私達では役不足なの?」
「役不足かは、実戦すればわかると思うわ……」
「実戦……」
「ええ」
私は静かに構想を練る。今は爪を研ぐ時期であり。そのために実戦経験も彼女たちに経験させたかった。
トントン!!
「お姉さま方、報告があります」
扉の先で立派な声が響く。バーディスのお控えの令嬢の一人だろう。名前は覚えている。
「どうぞ……」
私は許可を下し、令嬢の一人。小指に指輪がはめている令嬢が中に入る。お辞儀をしたあとにバーディス嬢に向けて彼女は語った。
「バーディスお姉さま。今朝……ジゴク・メグル令嬢が男たちに囲まれて拐われました」
「「「!?」」」
私たち三人は驚いた表情を浮かべただろう。バーディスが慌てて出来事を詳しくと問いかける。
「どういう事!! カスミさん!! 詳しく話なさい!! 何があったのです!!」
「バーディス落ち着きなさい……」
私は静かに底冷えするようにセリフを吐いた。演じるように……静かに囁いただけだったが皆の表情が一瞬で緊迫した物になる。
「え、エルヴィス?」
「落ち着きなさいバーディス。私たちは姉なのよ。姉である私たちが慌てたら、妹たちは安心できないでしょう。カスミさん……話の続きをどうぞ」
私は優しく手をどうぞと言うように向けて背筋が伸びたカスミさんがゆっくりと口を開く。
「は、はい……今朝から家を出たあとを登校せずに何処かへ行ったのが確認されました。バーディス姉さんの指示の元で監視していたのですが……行方がわからず。聞き込みでわかりました。家にも帰ってきておらず、何処かへと連れ拐われた情報が……私の耳に入りました」
「ふむ。わかりました。男はどんな人かわかりますか?」
「いえ、ただ……浮浪者に聞いてみたので信憑性は皆無です」
「……わかりました。まぁ、あの子の事はもう諦めましょう。夜遊びのようです。お疲れ様、カスミさん」
「はい!! 失礼します!!」
彼女は慌てたように部屋から逃げだす。すると空気が少し緩み、私はそのまま席に深く座った。
「……はぁ」
「エルヴィス。怖いわよ……それ」
「ギラギラしてる。お姉さん……好きよ」
「二人とも。これが必要なんですよ。怖いってのが……まぁ後でカスミさんのメンタルケアお願いしますね」
「もちろん、褒めの言葉をくださいな」
「もちろん、カスミさんは素晴らしい令嬢ね」
情報をまとめて報告に上がった彼女はやり手である事はわかっていた。バーディスの左腕と思われる。
「にしても、穏やかじゃないわね。バーディス。ルビアちゃん」
「はい」「な~に?」
「私は私で……探ります。穏やかじゃない臭いがすごいします」
「はい、そうですね」
「うん」
「少し、彼女の回りを探りましょう」
私は立ち上がり、壁にかけているマントを手に取り男装した姿で部屋を後にする。バーディスもルビアちゃんも同じように動き出し、噂を探り始めるのだった。
*
「うっ……」
私は暗がりの部屋で目が覚める。数人の男たちに囲まれており、身を捻ると腕と足が椅子にくくりつけられており。身動きが取れない状態だった。鮮明になる意識で思い出すのは登校中に襲われた事だった。一人二人の男を倒した時に背後から首を絞められて気絶してしまったのだ。大きい腕だったと思い出し、部屋の男を見ると一人筋肉隆々とした男がいた。
「起きたか?」
「……」
バゴン!!
「ぐぅ!!」
反応せずに睨んだ時、男の一人が顔を殴る。痛みが走り、口の中に鉄の味が染み出した。
「やめろ。いたぶるのは後だ」
「ばっか、今さっき倒されたからそれの借りだよ」
「なんだよ。お前ら……」
私は殴った男を睨み付けながら問いかける。クスクスと笑う男たちは嫌な笑みを向け続ける。
「なんだよじゃぁねぇよ。メグルさぁん」
「私の名前を?」
「そりゃぁ、その顔の傷の令嬢は一発でわかる。名前もな……目立つし、護衛なしとしちゃ~素晴らしい標的だったぜ」
「……」
私は震える。もしや……エルヴィス嬢がわざわざ用意したのかと。このまま、殺されるのかと身震いする。
「おうおう、ビビってしまって可愛いねぇ」
「吊って回していいな。体は中々いい。殺すのも奴隷として売るのも勿体ないね」
周りが笑い出し。私は後悔をする。誰に喧嘩を売ってしまったかを……身を持って味わっていた。
「エルヴィス嬢に、命乞いできないかな……」
だからこそ私は惨めにそう呟く。すると……予想と違う反応が帰ってきた。
「エルヴィス・ヴェニスか。奴とお前の関係はなんだ?」
関係を聞かれた。そこから私はエルヴィス嬢が雇った人ではないとわかる。
「……関係は……」
だからこそ私は悪巧みを思い付く。
「仲間です」
「ほう、そうか。嘘だな……噂でそこまで仲がよくないと聞いている。依頼者だろう。おまえが奴の」
「何を!!」
話が噛み合わない。男はイラつきながら私に顔を近付ける。
「吐け、何を交渉した……」
「何も交渉できていない……」
パァン!!
頬を強く叩かれてそのまま痛みで目に涙が浮かぶ。
「泣くなよ。喚いても誰もこねぇ。さぁ、聞くぞ……お前はエルヴィス・ヴェニスに『復讐』を依頼したな。最近、近づき、その傷を教え、その傷の『復讐』を依頼した筈だ」
「……そんなことは……」
「嘘つけ!! お前のその行動で姫さん方が家から出れなくなったの知らねぇと言わせねぇよ」
「姫……もしかして。お前ら……この傷をつけた。あいつらから雇われたのか?」
「そうだ。『悪役令嬢』に近づいてるってんで怖い怖いと言ってな。だから……依頼を取り下げるために誘拐したんだ。それか……消えてもらう」
「あいつら!! 私の顔に傷をつけるだけに収まらず!! 保身のために私を連行したのか!! くっ……もっと早くもっと早く!! 殺したらよかった!!」
「そうはさせねぇ。依頼主からたんとお金を貰わないといけねぇからな。まぁ、お前を今から拷問する。そして……エルヴィスのお嬢さんに刺客を断らせたら許してやろう」
「……エルヴィス嬢には何も頼んでない!! 復讐はしないと言った」
「信じられねぇな。ヴェニス家と言う金貸しは何をするかわかったもんじゃない。関わっちゃいけねぇのさ」
「くっ……本当に何も……」
私は悔し涙を流す。何も出来ず、強くなったと思ったが今も全く手がでない。強くなったと思っていてもいじめられている。そう……ずっと。
「あーあ、泣かせたよ。可愛いなぁ……」
「うぐぅ……畜生!! 畜生!!」
「まぁ、俺も鬼じゃない。エルヴィス嬢に依頼を取り下げれば……見逃してやろう」
私は悔しい中で……小さくボソッっと言ってしまう。
「えぐ……エルヴィス嬢……呼んで来たら。取り止める……」
何もお願いしてない。だが……もうこれ以上いじめられるのは嫌だった。だから……私は……エルヴィス嬢を巻き込んでしまう。
「おうおう、来てくれたらいいな。そっか、それではかればいいな。来なければ依頼は無かった。来たら依頼をやめさせられる。いい手だ」
「えぐ……ひぐ……」
私は……本当に何をしているのだろうか?
「では、呼ぶとしよう。または……処分してもいいかも聞いてみようか」
何も出来ない。
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