桜髪の乙女は元兄上様、魔女で絶対な悪役令嬢へと堕落す。弟を奪うために

書くこと大好きな水銀党員

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変わる関係、終わりの鐘

脱ぎ捨てる兄上という顔

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「お嬢さん、お嬢さん、お起きてください。夜ですよ」

「ん……」

 モゾモゾと私は優しく肩を叩かれる。目を開けて、机にうつ伏せになっていた私は背筋を伸ばす。そして不思議に思う。何故、懺悔室で寝ていたのだろうかと。

「すいません……寝てしまいました。その、懺悔を聞き届け下さりありがとうございます」

 私は目を擦り、荒れ狂った感情を吐露したあとのスッキリした気持ちで振り向き顔を上げると……そこには男性の牧師が首を傾げている姿だった。どうやら私の事を聞き届けたのはこの人ではないようだ。

「あら? ごめんなさい。人違いですね。あの……女性の牧師さんにお礼を言っておいてもらえないでしょうか?」

「女性の牧師?」

「はい、綺麗なかわいらしい声の方でした」

 幼そうな声に優しくも強い声音だった。

「……」

 私の発言に牧師が神妙な顔になる。その顔を見ながら私は魔力のカンテラで照らされる懺悔室の聞いてくれる側、奥を覗いた。誰も居ないと思われるそこに私は確かに悩みなど聞いてくれた筈と思いもう一度、牧師の彼に聞く。

「懺悔室を清掃していると言ってました。牧師とも発言しておりました」

「何を見られたかわかりませんが……ここの教会には女性の牧師はいません。牧師見習いの修道女も今日はすでに清掃済みで帰っております」

「……えっ?」

 どういう事? じゃぁ……あれはいったい?

「それに、どのように教会に入って来られたのでしょうか?」

「それは……閂が壊れており……そ、そうです。閂が壊れているのを伝えに来たのです」

「閂ですか? 本当に閂ですか?」

「はい!!」

「……では、一緒に来て下さい」

 私は牧師についていき、懺悔室を出る。そして、教会の出入り口の前まで来て口を押さえた。閂の木は全くおれておらず。綺麗なままだったのだ。そう、木は真新しく艶がある。

「嘘……どうして」

「……確かにここからですね」

「はい……」

 牧師が神妙な顔で木を擦り、上を見上げる。私も同じように上を向いた。教会の窓は閉まっており。密室になっているのが伺えた。

「……お名前を聞いてもいいですか?」

「すいません、不法侵入したことを謝ります。エルヴィスと申します」

「エルヴィス嬢……エルヴィス嬢……ああ。あの家の子ですね。大きくなりましたね……エルヴィス嬢。ここであった出来事は誰にも言ってはいけません。懺悔室であった事も私以外には他言無用です」

 牧師は私を知っているようだった。教会に来たことは……あったが。私には記憶が薄い。

「どうしてでしょうか?」

「木が若い、艶々しており……別物です。そして、仄かに暖かい魔力を感じます。そう、あの像に触れたときに感じるような魔力を」

 牧師と私は振り向く。教会には大剣を抱いた女神像があり、この教会の崇拝する神様の姿がしっかりと飾られていた。それを牧師は見つめ……腰につけていた小さな銀のナイフを取り出した。

「懺悔室で何があったかを教えてください。私目に」

「……はい」

 私は牧師に今までの事を嘘を言わずに正直に答える。そして……牧師は私に銀のナイフを手渡した。

「剣の御守りです。どうぞ持ってお帰りください。懺悔室で会った方はきっと……そういう方です」

 牧師は何かを察している。そして……私もそれを受け取り、察して胸に手をやり……女神像を見つめる。

「……しかし、不問にされました」

「司る物が違うのです。剣を持つ女神は勇敢な剣士であり魔王を打ち倒した武人。しかし……だからと言って貴女の事を断罪するわけでもない。気まぐれではありますが。確かに神はいます。そして、他にも多くの神は居ます。それの目印としてお持ちください」

 神様はいる。牧師の言葉に私は確信をする。あれは夢じゃない事を。

「何故、現れたかわかりませんが……頑張ってください」

「……はい。しかし、ここの女神にはお礼を言ってもお祈りはできないですね」

「いえいえ……大丈夫です。女神には知り合いがいるのでしょう。我々の知らぬ所でこの世界に存在し、神は俗世に強いようですから」

 牧師はそう言いながら閂を外す。外は既に真っ暗であり、私は小さく魔法を唱えて掌に光球を生み出して照らす。

「牧師さん、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。教えていただきありがとうございます。神の気まぐれを見れたので非常に満足であり、剣技に精が出ます。女神は世界を守るため見守ってくださってますからね。懺悔室を聞くのが得意じゃない武神ですから」

「そういえばそうですね。ここの奉られている神はそうですね。弟が大好きば所だった。何度も何度も言います。ありがとうございます。牧師さん、また来ます」

「はい。お待ちしております」

 私は晴れやかな気分で教会を後にする。心は軽く……そして……熱く燃え上がっていた。神に破門された筈の足取りは軽い。そして、笑みがついている。さぁ……これから。私は兄失格として生きる。

 そう、立派な素晴らしいこの世で一番の兄の仮面を私はこの日を持って握りつぶし投げ捨てたのだった。





 早朝、高ぶる心臓。心を押さえて……一筆したためる。それを鞄に入れ。髪を整え、薄い紅を塗り。かわいい仕草でウィンクする。

 整った自身の顔に母上父上に感謝をし、好ましい顔で笑みを作る。悪い笑みも、怒り、圧する笑みもちょっと練習をしてブーツを履く。

「……目的の意思表示。そして……弟やそれ以外の方々の幻想を目を醒ませないといけません」

 覚悟を背負い。私は屋敷を出る。予定としては……先にバーティスを迎えに行く。

 そして……今の私を見てもらう。彼女は私の親友……隠し事したくはなかったのだ。

「さぁ、私は耐えられるかな。友達を失うことに」

 バーティスは果たして……どんな反応をしてくれるだろうか?

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