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建国記念の祭典(2) アルゴン王国一愛されし令嬢

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「周囲の警備は完了しているか」 

「あっ隊長!それはもうばっちり」

王宮前の大広場。
祭典開始前の警備を行っていたミカエルは、様子を見にやってきたナインハルトに向かって大きく頷いた。





ミカエル=ディネット。平民出身ではあるが剣術の才を見込まれてヴァルギュンターに入学しアルゴンの戦士となった青年だった。ナインハルトの部下として隊の副隊長を務めており、使い魔の能力を活かした危険探知や見回りを主な業務としてこなしていた。

「全員配置完了していますし、不審物や危険生物の気配もありません。ただ、この賑やかさでロッソがビビり散らかしてまして」

ミカエルは腕の中のウサギを見下ろす。
使い魔の白ウサギ、ロッソは主人に抱かれながらもひどく静かに大人しくしていた。

「隊長のシャルロットみたいに変化できればいいのにといつも思います。そうすればこんなに怖がらせなくて済むのに」

そう言ってミカエルはため息をつき、ナインハルトはロッソの白い頭を撫でる。ロッソは鼻をぴくぴくさせはするものの、怯えた様子でじっと正面を見つめている。

「そうだな......探知スキルの高さを考えるとまだ能力を発揮しきれていないだけで、意外と変化できるかもしれないぞ」

「そうであってほしいんですけどね。ほら、怖くないぞロッソ」

ミカエルの使い魔ロッソの探知範囲は王宮一位と高スキルだった。しかし変化の力はなく、気質があまりに臆病で寂しがりであるために主人が目の届く範囲にいないと力を使えないという縛りがあった。
ナインハルトは広場の時計を見る。開始まであと30分。祭典が始まれば今より更に賑やかに騒々しくなる。

「ミカエル、ロッソは部屋に帰してきて構わない。帰したら祭典開始までにここに戻ってきてくれ」

「隊長...!!ありがとうございます!」

ミカエルは瞳を輝かせる。

「すぐ戻ります!行くぞロッソ!!」

ミカエルは寮目掛けて跳ねるように走り去って行った。ナインハルトはその様子に苦笑しつつ、最終調整が行われている祭典のステージを見る。

***********

祭典の開始時刻。

皆が見上げる目線の先には王威に満ちた男が立っている。
相当高齢のはずだが、威厳溢れる姿勢には加齢による衰えや老いは一切感じられない。

「今年も壮健で、建国記念の日を迎えられたことを嬉しく思う」

低いがよく通る声で民衆に告げる。
男の足元には黄金の毛並みを持つ獅子が伏せ、民草を見下ろしている。

「―――昨今、王都を騒がせる事件が起きている。人心を愚弄する輩を、この国では決して許さない。民と心を共にし、凡ての善良な国民が安寧を享受するよう心血を注ぐことを、私ダンテ=レオリオン=アルゴンは神と人、そして私自身の心に誓おう」

王の宣誓に応えるように、足元にいた獅子が黄金の体躯を起こし、大地を揺るがせる声で吠えた。


「アルゴンよ、永遠なれ」


王の宣誓と轟く獅子の咆哮。
まるで火がついたかのように、民衆が一斉に沸き立ち叫ぶ。

アルゴン王万歳。
アルゴン王国の栄光よ、永遠なれ。


王が宣誓を終え、座してもなお民衆は歓喜熱狂していた。
そんな折に群衆の前に立ったのは大神官の一人、カナンだった。

「今年一年の国の安寧と豊穣を祈願する《春の乙女》が、神殿によって選出されました」

そう言って壇の下に優しい眼差しを向け、民衆の視線は壇に上がる第二王子と、彼にエスコートされる赤く豊かな巻き毛を持つ令嬢へと注がれる。
令嬢が淡い桃色のドレスの裾を揺らして優雅且つ軽やかに民衆の前に立てば、華やかな容姿と愛くるしい笑顔に人々の目は釘付けになる。

「シャイレーン公爵家のマリアンナ=シャイレーンと申します。『春の乙女』というこの身に余る光栄な役を仰せつかりましたこと、大変嬉しく精一杯勤めさせていただきます。また―――――」

マリアンナはアランの方にはにかむような笑顔を向けて、涼やかな声で言った。

「王太子妃である姉のように、私も王家をお支えする一員となれれば幸いでございます」 

青空にはえる赤い髪、完璧な美しい微笑み。
辺りは歓喜に包まれとめどない声援が贈られる。

「『春の乙女』万歳!」  
「『アルゴンの英雄』万歳!」

熱狂の最中、令嬢達は羨ましげに口々に語る。

「あれほど可憐な方は見たことがないわ」
「異母姉妹のリリアナ様みたいに王子と婚約なさるのかしら?」
「由緒あるシャイレーン公爵家ですもの」
「マリアンナ様のご親類にはティターニア王家の方がいるそうよ」
「アラン様と本当にお似合いだわね」

そんな声を聞きながらマリアンナは優美に一礼をしてアランの隣へと戻る。並び立つ二人を見て観衆は益々沸き立ち、ア「周囲の警備は完了しているか」 

「あっ隊長!それはもうばっちり」

王宮前の大広場。
祭典開始前の警備を行っていたミカエルは、様子を見にやってきたナインハルトに向かって大きく頷いた。

ミカエル=ディネット。

平民出身ではあるが剣術の才を見込まれてヴァルギュンターに入学しアルゴンの戦士となった青年だった。ナインハルトの部下として隊の副隊長を務めており、使い魔の能力を活かした危険探知や見回りを主な業務としてこなしていた。

「全員配置完了していますし、不審物や危険生物の気配もありません。ただ、この賑やかさでロッソがビビり散らかしてまして」

ミカエルは腕の中のウサギを見下ろす。
使い魔の白ウサギ、ロッソは主人に抱かれながらもひどく静かに大人しくしていた。

「隊長のシャルロットみたいに変化できればいいのにといつも思います。そうすればこんなに怖がらせなくて済むのに」

そう言ってミカエルはため息をつき、ナインハルトはロッソの白い頭を撫でる。ロッソは鼻をぴくぴくさせはするものの、怯えた様子でじっと正面を見つめている。

「そうだな......探知スキルの高さを考えるとまだ能力を発揮しきれていないだけで、意外と変化できるかもしれないぞ」

「そうであってほしいんですけどね。ほら、怖くないぞロッソ」

ミカエルの使い魔ロッソの探知範囲は王宮一位と高スキルだった。しかし変化の力はなく、気質があまりに臆病で寂しがりであるために主人が目の届く範囲にいないと力を使えないという縛りがあった。
ナインハルトは広場の時計を見る。開始まであと30分。祭典が始まれば今より更に賑やかに騒々しくなる。

「ミカエル、ロッソは部屋に帰してきて構わない。帰したら祭典開始までにここに戻ってきてくれ」

「隊長...!!ありがとうございます!」

ミカエルは瞳を輝かせる。

「すぐ戻ります!行くぞロッソ!!」

ミカエルは寮目掛けて跳ねるように走り去って行った。ナインハルトはその様子に苦笑しつつ、最終調整が行われている祭典のステージを見る。


***********
祭典の開始時刻。

皆が見上げる目線の先には王威に満ちた男が立っている。
相当高齢のはずだが、威厳溢れる姿勢には加齢による衰えや老いは一切感じられない。

「今年も壮健で、建国記念の日を迎えられたことを嬉しく思う」

低いがよく通る声で民衆に告げる。
男の足元には黄金の毛並みを持つ獅子が伏せ、民草を見下ろしている。

「―――昨今、王都を騒がせる事件が起きている。人心を愚弄する輩を、この国では決して許さない。民と心を共にし、凡ての善良な国民が安寧を享受するよう心血を注ぐことを、私ダンテ=レオリオン=アルゴンは神と人、そして私自身の心に誓おう」

王の宣誓に応えるように、足元にいた獅子が黄金の体躯を起こし、大地を揺るがせる声で吠えた。


「アルゴンよ、永遠なれ」


王の宣誓と轟く獅子の咆哮。
まるで火がついたかのように、民衆が一斉に沸き立ち叫ぶ。

アルゴン王万歳。
アルゴン王国の栄光よ、永遠なれ。


王が宣誓を終え、座してもなお民衆は歓喜熱狂していた。
そんな折に群衆の前に立ったのは大神官の一人、カナンだった。

「今年一年の国の安寧と豊穣を祈願する《春の乙女》が、神殿によって選出されました」

そう言って壇の下に優しい眼差しを向け、民衆の視線は壇に上がる第二王子と、彼にエスコートされる赤く豊かな巻き毛を持つ令嬢へと注がれる。
令嬢が淡い桃色のドレスの裾を揺らして優雅且つ軽やかに民衆の前に立てば、華やかな容姿と愛くるしい笑顔に人々の目は釘付けになる。

「シャイレーン公爵家のマリアンナ=シャイレーンと申します。『春の乙女』というこの身に余る光栄な役を仰せつかりましたこと、大変嬉しく精一杯勤めさせていただきます。また―――――」

マリアンナはアランの方にはにかむような笑顔を向けて、涼やかな声で言った。

「王太子妃である姉のように、私も王家をお支えする一員となれれば幸いでございます」 

青空にはえる赤い髪、完璧な美しい微笑み。
辺りは歓喜に包まれとめどない声援が贈られる。

「『春の乙女』万歳!」  
「『アルゴンの英雄』万歳!」

熱狂の最中、令嬢達は羨ましげに口々に語る。

「あれほど可憐な方は見たことがないわ」
「異母姉妹のリリアナ様みたいに王子と婚約なさるのかしら?」
「由緒あるシャイレーン公爵家ですもの」
「マリアンナ様のご親類にはティターニア王家の方がいるそうよ」
「アラン様と本当にお似合いだわね」

そんな声を聞きながらマリアンナは優美に一礼をしてアランの隣へと戻る。並び立つ二人を見て観衆は益々沸き立ち、アランはやれやれと思いながらもそこは王子。見事な作り笑顔を浮かべ、マリアンナもアランを見上げて愛らしくにっこりと笑った。

"春の乙女になることで王族との結婚は容易くなる。"
"の血をアルゴン王家に入れる。"

美しい笑顔の下、マリアンナは心の内で呟く。

春の乙女はひとつの通過点に過ぎないわ。
の期待に応えて、
今この国で最も美しく愛される令嬢はこの私。

誰にも邪魔なんてできやしない。

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