1 / 17
手紙
しおりを挟む
「あっつー。」
茹だるような夏の暑さの中、僕は鉛みたいな体を引きずるように家に帰ってきた。
ラブホテルの清掃業、これが今の僕の仕事だった。
夕方に出て、朝に終わる。
終わってすぐに、朝定食を食べてダラダラとしながら帰る。
毎日、同じ事の繰り返しだ。
明日で、四十(しじゅう)になるというのに、今だ独身だ。
右足を引きずりながら歩く。
10年前、プロポーズした彼女に彼氏がいた。
男は、平然と僕を階段から突き落とした。
足に激痛が走った。
そいつの気がすむまで、蹴られ続けた。
足は、僕の命だった。
あの日、燃え盛る炎の中。
助けられなかった。
だから、僕は消防士になったのだ。
痛みで動けなくなった僕の元へ
金属バットを持って、そいつは再び現れた。
足の骨が、砕けるまで何度も何度も何度も何度も殴り続けた。
異常者だと思った。
バキバキに折れた右足は、元通りには戻らなかった。
夢を失くし、恋人も失くし、生きている理由は、ほとんどないくせに死ぬのが怖くて生きてる。
惨めな人間だ。
ポストを開けた、花柄の封筒が入っていた。
僕は、それを持って家に入る。
暑すぎるな。
エアコンのスイッチをいれた。
洗濯機に服を脱いで、いれる。
シャワーをさっと浴びて、短パンとTシャツに着替えた。
あがってきた時には、少し部屋が、冷えていた。
キッチンで、水を飲んだ。
いつもの晩酌の用意をする。
って、言っても朝だけど…。
冷蔵庫からビールを取り出す。
350ミリ缶を3本と、瓶に入ったイカの串を持っていく。
ソファーに座って、さっきの手紙を見つめる。
差出人は、不明だ。
ペリペリと封筒を捲る。
中の手紙を広げた。
始まりを読んだだけで、嫌な汗がジワジワと身体中から流れてくるのを感じた。
[明日、君は後悔する。]
この言葉だけで、僕は誰からの手紙かをすぐに理解した。
「また、あの日を思い出させるのかよ。」
僕は、手紙を机の上に置いた。
プシュっとビールを開けて、飲んだ。
25年だぞ。
もう、許されてもいいはずではないのか?
ゴクッ…ゴクッとビールを飲む。
これは、忘れるなという警告なのだろうか?
僕は、イカの串を食べる。
やっと、5年前から夢を見なくなった。
やっと、10年前に人を好きになれた。
明日、誕生日の僕に神様は、くそみたいなプレゼントを送りつけてきた。
イカの串を、取り出した。
無力で、惨めで、ちっぽけで
浅はかで、薄っぺらい人間で
金も、知恵も、なかった。
何故、あの日、あの場所で
声をかけてしまったのだろうか…
普通に、通り過ぎればよかったのに…。
それが、僕には出来なかった。
僕は、手紙を開く。
[明日、君は後悔する。だけど、自分を責めないでいい。TVのコメンテーターが、好き勝手言っても…。気にしなくていい。君に出来ることは、これしかなかった。その言葉を、君は今も覚えていますか?]
忘れた日などないよ。
[40歳の君は、何をしていますか?夢は、叶いましたか?結婚はしましたか?子供は出来ましたか?君の輝く未来を見れないのは、とても、残念です。]
僕の未来に君がいなくてよかったと心から思うよ。
今の僕の未来は、腐りかけている。
[君に出会って、やめようと思う日もあったのですよ。でも、幼少期からフツフツと沸いていた気持ちをすぐに消し去る事は出来なかった。だから、君は何も悪くない。きっと、君は私を探してくれるでしょう?見つけられずに、自分の無力さを責めるのだと思います。でもね、私は君に出会って幸せだった。たった、三日だったけれど…。]
僕は、新しいビールを開けた。
確かに、あの日あの場所で君を探した。
そして僕は、自分の無力さにうちひしがれた。
イカの串を取り出した。
今でも思い出す、25年前のあの日を…。
あの日も、こんな風に暑くて堪らない日だった。
茹だるような夏の暑さの中、僕は鉛みたいな体を引きずるように家に帰ってきた。
ラブホテルの清掃業、これが今の僕の仕事だった。
夕方に出て、朝に終わる。
終わってすぐに、朝定食を食べてダラダラとしながら帰る。
毎日、同じ事の繰り返しだ。
明日で、四十(しじゅう)になるというのに、今だ独身だ。
右足を引きずりながら歩く。
10年前、プロポーズした彼女に彼氏がいた。
男は、平然と僕を階段から突き落とした。
足に激痛が走った。
そいつの気がすむまで、蹴られ続けた。
足は、僕の命だった。
あの日、燃え盛る炎の中。
助けられなかった。
だから、僕は消防士になったのだ。
痛みで動けなくなった僕の元へ
金属バットを持って、そいつは再び現れた。
足の骨が、砕けるまで何度も何度も何度も何度も殴り続けた。
異常者だと思った。
バキバキに折れた右足は、元通りには戻らなかった。
夢を失くし、恋人も失くし、生きている理由は、ほとんどないくせに死ぬのが怖くて生きてる。
惨めな人間だ。
ポストを開けた、花柄の封筒が入っていた。
僕は、それを持って家に入る。
暑すぎるな。
エアコンのスイッチをいれた。
洗濯機に服を脱いで、いれる。
シャワーをさっと浴びて、短パンとTシャツに着替えた。
あがってきた時には、少し部屋が、冷えていた。
キッチンで、水を飲んだ。
いつもの晩酌の用意をする。
って、言っても朝だけど…。
冷蔵庫からビールを取り出す。
350ミリ缶を3本と、瓶に入ったイカの串を持っていく。
ソファーに座って、さっきの手紙を見つめる。
差出人は、不明だ。
ペリペリと封筒を捲る。
中の手紙を広げた。
始まりを読んだだけで、嫌な汗がジワジワと身体中から流れてくるのを感じた。
[明日、君は後悔する。]
この言葉だけで、僕は誰からの手紙かをすぐに理解した。
「また、あの日を思い出させるのかよ。」
僕は、手紙を机の上に置いた。
プシュっとビールを開けて、飲んだ。
25年だぞ。
もう、許されてもいいはずではないのか?
ゴクッ…ゴクッとビールを飲む。
これは、忘れるなという警告なのだろうか?
僕は、イカの串を食べる。
やっと、5年前から夢を見なくなった。
やっと、10年前に人を好きになれた。
明日、誕生日の僕に神様は、くそみたいなプレゼントを送りつけてきた。
イカの串を、取り出した。
無力で、惨めで、ちっぽけで
浅はかで、薄っぺらい人間で
金も、知恵も、なかった。
何故、あの日、あの場所で
声をかけてしまったのだろうか…
普通に、通り過ぎればよかったのに…。
それが、僕には出来なかった。
僕は、手紙を開く。
[明日、君は後悔する。だけど、自分を責めないでいい。TVのコメンテーターが、好き勝手言っても…。気にしなくていい。君に出来ることは、これしかなかった。その言葉を、君は今も覚えていますか?]
忘れた日などないよ。
[40歳の君は、何をしていますか?夢は、叶いましたか?結婚はしましたか?子供は出来ましたか?君の輝く未来を見れないのは、とても、残念です。]
僕の未来に君がいなくてよかったと心から思うよ。
今の僕の未来は、腐りかけている。
[君に出会って、やめようと思う日もあったのですよ。でも、幼少期からフツフツと沸いていた気持ちをすぐに消し去る事は出来なかった。だから、君は何も悪くない。きっと、君は私を探してくれるでしょう?見つけられずに、自分の無力さを責めるのだと思います。でもね、私は君に出会って幸せだった。たった、三日だったけれど…。]
僕は、新しいビールを開けた。
確かに、あの日あの場所で君を探した。
そして僕は、自分の無力さにうちひしがれた。
イカの串を取り出した。
今でも思い出す、25年前のあの日を…。
あの日も、こんな風に暑くて堪らない日だった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ぼくたちのたぬきち物語
アポロ
ライト文芸
一章にエピソード①〜⑩をまとめました。大人のための童話風ライト文芸として書きましたが、小学生でも読めます。
どの章から読みはじめても大丈夫です。
挿絵はアポロの友人・絵描きのひろ生さん提供。
アポロとたぬきちの見守り隊長、いつもありがとう。
初稿はnoteにて2021年夏〜22年冬、「こたぬきたぬきち、町へゆく」のタイトルで連載していました。
この思い入れのある作品を、全編加筆修正してアルファポリスに投稿します。
🍀一章│①〜⑩のあらすじ🍀
たぬきちは、化け狸の子です。
生まれてはじめて変化の術に成功し、ちょっとおしゃれなかわいい少年にうまく化けました。やったね。
たぬきちは、人生ではじめて山から町へ行くのです。(はい、人生です)
現在行方不明の父さんたぬき・ぽんたから教えてもらった記憶を頼りに、憧れの町の「映画館」を目指します。
さて無事にたどり着けるかどうか。
旅にハプニングはつきものです。
少年たぬきちの小さな冒険を、ぜひ見守ってあげてください。
届けたいのは、ささやかな感動です。
心を込め込め書きました。
あなたにも、届け。
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
月の女神と夜の女王
海獺屋ぼの
ライト文芸
北関東のとある地方都市に住む双子の姉妹の物語。
妹の月姫(ルナ)は父親が経営するコンビニでアルバイトしながら高校に通っていた。彼女は双子の姉に対する強いコンプレックスがあり、それを払拭することがどうしてもできなかった。あるとき、月姫(ルナ)はある兄妹と出会うのだが……。
姉の裏月(ヘカテー)は実家を飛び出してバンド活動に明け暮れていた。クセの強いバンドメンバー、クリスチャンの友人、退学した高校の悪友。そんな個性が強すぎる面々と絡んでいく。ある日彼女のバンド活動にも転機が訪れた……。
月姫(ルナ)と裏月(ヘカテー)の姉妹の物語が各章ごとに交錯し、ある結末へと向かう。
ハルのてのひら、ナツのそら。
華子
恋愛
中学三年生のナツは、一年生の頃からずっと想いを寄せているハルにこの気持ちを伝えるのだと、決意を固めた。
人生で初めての恋、そして、初めての告白。
「ハルくん。わたしはハルくんが好きです。ハルくんはわたしをどう思っていますか」
しかし、ハルはその答えを教えてはくれなかった。
何度勇気を出して伝えてもはぐらかされ、なのに思わせぶりな態度をとってくるハルと続いてしまう、曖昧なふたりの関係。
ハルからどうしても「好き」だと言われたいナツ。
ナツにはどうしても「好き」だと言いたくないハル。
どちらも一歩もゆずれない、切ない訳がそこにはあった。
表紙はフリーのもの。
【完結】大江戸くんの恋物語
月影 流詩亜(旧 るしあん)
ライト文芸
両親が なくなり僕は 両親の葬式の時に 初めて会った 祖母の所に 世話になる
事に………
そこで 僕は 彼女達に会った
これは 僕と彼女達の物語だ
るしあん 四作目の物語です。
青い死神に似合う服
fig
ライト文芸
テーラー・ヨネに縫えないものはない。
どんな洋服も思いのまま。
だから、いつか必ず縫ってみせる。
愛しい、青い死神に似合う服を。
寺田ヨネは洋館を改装し仕立て屋を営んでいた。テーラー・ヨネの仕立てる服は特別製。どんな願いも叶える力を持つ。
少女のような外見ながら、その腕前は老舗のテーラーと比べても遜色ない。
アシスタントのマチとチャコ、客を紹介してくれるパイロット・ノアの協力を得ながら、ヨネは日々忙しく働いていた。
ある日、ノアの紹介でやってきたのは、若くして命を落としたバレエ・ダンサーの萌衣だった。
彼女の望みは婚約者への復讐。それを叶えるためのロマンチック・チュチュがご所望だった。
依頼の真意がわからずにいたが、次第に彼女が受けた傷、悲しみ、愛を理解していく。
そしてヨネ自身も、過去の愛と向き合うことになる。
ヨネにもかつて、愛した人がいた。遠い遠い昔のことだ。
いつか、その人のために服を縫いたいと夢を見ていた。
まだ、その夢は捨ててはいない。
ハナサクカフェ
あまくに みか
ライト文芸
第2回ライト文芸大賞 家族愛賞いただきました。
カクヨムの方に若干修正したものを載せています
https://kakuyomu.jp/works/16818093077419700039
ハナサクカフェは、赤ちゃん&乳児専用のカフェ。
おばあちゃん店長の櫻子さん、微笑みのハナさん、ちょっと口の悪い田辺のおばちゃんが、お迎えします。
目次
ノイローゼの女
イクメンの男
SNSの女
シングルの女
逃げた女
閑話:死ぬまでに、やりたいこと
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる