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それぞれの結末

一ノ瀬倫のキモチ

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キスを続けて疲れたジョーは、眠っていた。

私は、ジョーの髪を優しく撫でる。

ヤキモチが、嬉しかった。

上條と私は、確かに通じるものがあった。

私が、旭川愛梨と対面した時を思い出す。

【一ノ瀬…大丈夫か?】

【上條、大丈夫ではない。犯人を殺したい。】

【わかるよ、一ノ瀬】

そう上條は、言ってくれた。

【綺麗にする方法があるから、頼んだと言っていた。】

【俺も、こんな遺体を見たことがある。俺の愛してた人間もこうされたよ。】

【口の中は、治療する時に綺麗にできたけれど…あそこは、取り除けなくて…。】

【綺麗にしてやりたいよな】

上條は、そう言って愛梨の手を握ってくれた。

私は、それが嬉しかったんだ。

気持ち悪いと思われたくなかった。

だから、その遺体に敬意をはらってくれる上條の姿は、人としても医者としても尊敬できた。

だから、ジョーがヤキモチを妬く気持ちはわからなくもなかった。

愛梨の事で、肌を重ねる行為が恐怖なんだと上條に相談した。

【わかるよ、一ノ瀬。俺も怖い】

そう言ってくれたのが、印象的だった。

私は、怖い。

だから、抱くのは嫌だな。

抱かれる方が、いいかもしれない

「ジョー、その時は私を抱いてよ」

ジョーの髪を、撫でる。

「倫、起きてたの?俺、疲れて寝てたよ」

「知ってるよ。寝顔、見てたから」

「そっか、何か嬉しい」

ジョーは、私の手を握りしめてくれる。

「ジョー。話していない事があったから、聞いてくれる?」

「何、倫?」

私は、立ち上がって倫にお水を差し出した。

「ありがとう」

「お酒でも、飲まないかな?」

「飲もうか、飲んだ方が話しやすい?」

「うん」

私は、冷蔵庫からビールを取り出してジョーに渡した。

「倫、おいで」

「うん」

私は、いつものようにジョーの足の間にスッポリとはいった。

私は、これが好きだった。

ソファーに座る、ジョーの足の間にスッポリとおさまりながら話すのが大好きだ。

「乾杯」

「乾杯」

ジョーは、私の髪を撫でてくれる。

「どうした、倫?」

「旭川愛梨の話しはしたよね」

「うん、してくれたね。」

「でも、一つだけ話せなかった事があった。あの時の姿が目に焼き付いて離れなくて。唯一、上條だけが、彼女の遺体に敬意をはらってくれた。」

「うん」

私は、震える手を押さえながら話す。

「ジョー、愛梨は、犯人に強姦されていたんだ。あの日、彼女の身体のいたる所に犯人の体液があった。もちろん、あそこにも…。口の中や身体は、綺麗にしてあげれた。でも、そこは無理だった。私は、全身を綺麗にしてあげたかった。」

「うん」

「ジョー、私は、あれから怖いんだよ。恐怖なんだよ。自分が、抱く事が怖いんだ。だから、そうなる事があったらジョーが私を抱いてくれていい。私は、抱かなくていいから…。」

ジョーは、後ろから私の手に手を重ねて握りしめる。

「あのね、倫。」

「うん」

「ゆっくりでいいんだよ。俺は、何年でも待つつもりだよ。別にないならなくてもいいんだよ。それでも、倫と過ごせる事が幸せなんだよ。俺は、倫と体の関係を持ちたいから一緒になったんじゃないよ。俺は、倫と一緒にいたいから一緒になったんだよ。」

そう言って、ジョーは後ろからギュッーって抱き締めてくれた。

「倫、俺なら上手にれるよ。倫の為なら俺は、構わないよ。」

「ジョー、ぁぁぁぁぁぁあああ」

私は、泣いた、泣いて、泣いて、泣いて、ジョーの足に抱きついた。

「倫、泣けよ。たくさん、泣けよ。医者だからって、いっぱい我慢してたんだろ?」

「ジョー」

「大丈夫だよ。殺したいって思ったっていいんだよ。俺が、全部受け止めてやるから。」

「ジョー、殺したかった。あいつを殺したかった。この手で、殺したかった。」

「だから、医者を続けたくなかったんだな」

ジョーは、私の両手を握りしめてくれる。

「この手で、犯人を殺す夢を見る度に、飛び起きるんだ。でも、夢の中の私はホッとしてるんだよ。犯人をこの手で殺れた事に…。心底ホッとしてるんだ。目覚めた私は、殺ってない事にホッとしてるんだ。それを重ねる度に、自分はどっちをやりたいのかわからなくなった。院長は、そんな私に気づいていた。そして、同じ経験をした上條もわかっていたんだ。だから、私は窓際属になったんだ。」

「でも、一年前にも手術できたんだろ?」

「八光さんを手術出来たのは、奇跡みたいなもんだった。でも、罵られた。そして、退院して、亡くなった。私は、助けなければよかったと後悔を繰り返した。私は、また出来なくなった。ジョーを助けるまでは…。」

ジョーは、私を自分の元に引き寄せた。

「倫、助けてくれてありがとう。愛してるよ」

ジョーは、私を抱き締めてくれる。

「ジョー、これからも一緒にいて欲しい」

「ずっと、一緒にいるよ」

ジョーは、私にキスをしてくれる。

ジョーの優しさが、私の身体中を満たしていくのを感じていた。

そして、私たち二人は、キスをしながら心の中で同じ事を繰り返し思っていた。

【愛してる。死ぬまで、傍にいるから…。】

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