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花びらの舞い散る夜に…

お墓と上條さん

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次の日も、上條さんは、普通にやってきた。

「いつ仕事してるんですか?」

「今日は、夜勤ですよ」

「そうですか」

僕は、健斗さんの骨壺を持って家を出た。

上條さんの車に乗り込んだ。

「ここは、永代供養も出来るんですよ。」

そう言って、やってきた。

「上條さん、それ」

僕は、お花を指差した。

「結斗のお墓があるんです。」

「そうなんですね。僕も行ってもいいですか?」

「構いませんよ」

車から降りて、お墓の手続きをした。

「健斗さん、ゆっくり休んでね」

「冴草さん、少しだけ浜井さんを貸して下さいね」

無事に永代供養をする事が出来た。

「春になったら、綺麗なんですよ。ここらいったいは…。」

健斗さんのお墓の場所辺りを上條さんは言っていた。

【春を好きにさせてやる。】

健斗さんと上條さんが、重なった。

「私は、春が大好きなんです。」

「どうしてですか?」

「結斗に出会った季節だからですよ。」

上條さんと歩きながらお墓に来ていた。

「14歳だったんですよね?」

「そうですね」

上條さんは、お墓にお花を供えていた。

「結斗、元気にしてる?そっちは、どう?こっちは、大変な事ばかりなんだよ。それでも、生きてるよ。」

そう言いながら、上條さんは手を合わせていた。

「初めまして、浜井凌平はまいりょうへいです。少しだけ、上條さんをお借りしたいです。」

僕は、そう言って手を合わせた。

「行こうか」

「はい」

上條さんの車に戻った。

発進したのと、同時に僕は、話しかけた。

「上條さんは、何歳なんですか?」

「31歳ですよ。」

「えっ?歳近いんですね」

「そうですか」

「はい」

「上條さんは、先生になって何年目ですか?」

「五年目です。」

上條さんは、そう言って笑っていた。

「あの、苦しくないですか?」

「何がですか?」

「五木さんをずっと想っていて」

「あれから、もう18年経ちました。でも、苦しいなんて思った事は一度もありませんよ。私は、結斗から愛されていた。例え、14歳でも結斗の愛は本物でしたよ。だから、苦しくなんてありませんよ。私の中で、今でも結斗は存在し、ハッキリと色づいているままです。誰かに恋をすることはあっても、誰かを愛する事はいまだにできません。そして、理解してくれる人にもいまだに出会えていませんね。」

そう言って、上條さんは笑って言った。18年…。

上條さんは、強い意思を持った人だと思った。

「上條さんは、五木さんを好きなままなんですね。」

「そうですね。結斗は、別次元にいます。理解してもらえるかわかりませんが…。結斗は、私の心の一番上にずっといるんです。けして、その場所は変わることがありません。それでも、恋はしてるんですよ。沢山ではなくても…。でもね、捨てられるんです。何でか、わかりますか?」

「いえ、わかりません」

「私ね、付き合った人とハグと手を繋ぐ事以外しないんです。そしたら、嫌われるんですよ。大切にしすぎだとか、嫌いなのかとか言われてね」

「それって」

「私は、結斗の形のままでいたいんです。あの日に感じたままで」

上條さんは、そう言って寂しそうな顔をしていた。

「自分で自分も慰めていないのですか?」

「浜井さん、面白い事聞きますね」

「すみません」

「さすがに、それはしますよ。でも、空しいですから…。頻繁にそんな事は、しませんね。」

「上條さんは、ずっと五木さんの形を覚えているんですか?」

「はい、今でもハッキリと手繰り寄せられる。何故だかわかりますか?」

「いえ」

「結斗しか知らないからですよ」

そう言って、上條さんは笑った。

「僕も、健斗さんしか知りません。僕も手繰り寄せられますかね?」

「大丈夫ですよ。」

家について、上條さんは車をとめた。

「それじゃあ、ありがとうございました。」

「明日も、また来ていいですか?って、朝上がるんですがね」

「上條さん」

「はい」

「いつでも、来てください」

僕は、そう言って笑った。

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