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お腹いっぱい、召し上がれ

交際

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俺と美花は、付き合った。

朝型、バイトを終えると美花の家に行った。

料理を、朝から作る。

それを、美味しそうに美花が食べる。

胃袋に、俺が作った食べ物が運ばれていく映像が見える。

嬉しくて、堪らない。

そんな日々を何ヵ月も続けた。

美花は、大学生になった。

美花は、大学に通い始めてから自殺未遂を繰り返すようになった。

「美花、何してんの?」

「重みで、紐がちぎれて死ねなかった。」

「何で、死ぬの?俺が、いるのに」

「ごめんね、美鶴」

「ううん、キスしようか?」

「うん」

「もっと早くすればよかったね」

俺は、美花に優しくキスをした。

「美鶴以外いらない」

「うん」

美花は、いじめられてると話した。

太ってる事を馬鹿にされてるって高校時代より、大学になってからのいじめの方が酷すぎて死にたいと言った。

「俺がいるから、だから死なないでくれ」

「うん、ごめんね。美鶴」

そう言って、泣いていた。

俺は、美花に毎日毎日ご飯を作った。

体型を気にする美花の為に、少しでもダイエットになるメニューを考えた。

俺は、美花が美味しそうに食べてくれるだけでよかった。

また、自殺未遂をした。

「美花」

「ごめんね、美鶴。血を見ると安心するの」

「傷だらけだよ、美花の身体」

「ごめんね、美鶴」

美花は、手首を切る事に幸せを感じていたようだった。

「はい、召し上がれ」

「いらない」

ガチャン、パリン、パリン…

美花は、太りたくないと俺のご飯を食べなくなった。

よくわからない飲料だけを口にして二週間が経った。

「それなら、しよう」

「えっ?」

「俺は、そうでもしなきゃ。美花に否定されてる」

「どういう意味?」

「美花が、ご飯を食べてくれるだけで、俺は多幸感に包まれてる。なのに、こんな風に毎日、毎日拒まれたら…。俺は、生きていけなくなる」

「ごめんね、美鶴」

謝って欲しいわけじゃなかった。

俺は、何度も美花に謝られた。

「もう、いいよ」

俺は、美花と肌を重ねた。

「マシュマロみたい」

俺は、美花と一つになれた事が嬉しかった。

「もっと、しよう」

「うん」

「痛くない?」

「痛いけど、大丈夫」

「うん」

俺は、美花を求めた。

次の日から、美花にサラダだけを作るようになった。

そのかわり、身体を重ねる日々だ。

痩せなかった美花も、少しずつ体重が落ちてきていた。

「美鶴、愛してる」

「俺も、美花を愛してるよ」

多幸感を感じるのは、俺にとってこれしかなかった。

「よく、私に出来るよね?」

まだ、少しだけしか痩せてなかった美花はそう言って笑った。

「美花だったら、いくらでも出来る」

俺は、そう言って抱き締めた。

美花を抱いてると多幸感に包まれる。

俺達を壊すことなんて、誰にも出来ない。

引き裂く事なんて、誰にも出来ない。

俺は、そう信じていたんだ。

「これ、あげる」

交際して、明日で一年が経つ。

俺は、美花の誕生日にプレゼント
を渡した。

「指輪は、痩せてからがいいと思ったからネックレスだよ」

「ありがとう」

体重が、90キロ台にやっとなってきた美花に、俺はネックレスのプレゼントをした。

「ダイヤモンド?」

「うん、美花に似合うと思って」

「高かったでしょ?」

「たいした事ないよ。もっと、いいやつを今度は買ってあげる。後、これ」

「クマ?」

「キーホルダーなんだよ。鞄につけてよ。俺も、お揃い」

「可愛い」

「うん」

俺は、美花を抱き締めた。

「また、明日からご飯作って食べさせてよ」

「何が、食べたい?」

「ミートスパゲティとケーキ」

「わかった。作ってあげる」

「材料は、買って帰ってくるね」

「わかった。」

美花が、また俺の料理を口にしてくれる事が嬉しかった。

俺は、この日も美花を抱いた。

また、あの幸せな日々がやってくると思うだけで嬉しかった。

身体や心が、繋がるよりも…

俺にとって、食べ物を肯定される事は何よりも快感で、幸福で…

それを愛する人が、食べてくれるだけでもっと幸せだった。

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