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嘘つきな人

君がいないのは耐えられない

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習慣のように、23時には家にいた。

この日、私は友作さんとラザニアを食べただけにした。

明日、きちんとお別れを言おう。

私は、手紙を書く事にした。

面と向かうと、言えない自分がわかっていた。

手紙を書き始めようと、ペンをとった瞬間に電話が鳴った。

「宮瀬歩さんのご家族の方でしょうか?」

電話の主は、私にそう告げた。

「いえ」

「あの、宮瀬歩さんのご家族の連絡先をご存じでしょうか?」

「歩さんには、家族はいません。私は、歩さんの婚約者です。」

なぜ、そう言ったのかわからなかった。

ただ、嫌な予感はしていたから、そう言うしかなかった。

「そうですか、あの宮瀬歩さんが本日お亡くなりになりました。」

その後の言葉は、途切れ途切れしか入ってこなかった。

空港に向かう車で事故にあった事、荷物は、こっちに送っていた事…。

何もかも頭の中に入らなかった。

私は、母に泣きながら連絡をした。

もし、私がいなくなっていたら歩と共にお墓にいれて欲しい。

永代供養でいいからお願いします。

友作さんに、書くはずの手紙に私は母へのお願いをしていた。

歩の家の住所を書く。

もしかしたら、片付けなければいけないかもしれない。

私は、通帳なども机の上に置いていた。

ボッーとした意識の中で、私は、母親に遺書のようなものを書いていた。

その間、友作さんの事は、頭の中に全くなかった。

私は、歩の事しか考えていなかった。

歩にれた温もりを必死で探した。

歩の声を必死で、思い出した。

駄目だ、出来ない。

気づくと私は、歩のマンションに来ていた。

宮瀬と書かれた表札はあった。

家にどうにか入りたかった。

ダメ元で、鍵屋さんに連絡をした。

すぐにやってきて、開けてもらった。

家に勝手に入った。

あの日のまま、変わらなかった。

私は、鍵を閉めた。

ベッドに寝転がると、歩の匂いが感じられた。

これで、歩を探す事が出来た。

私は、歩と別れた、あの日初めて、自慰行為を覚えた。

そして、今再び、歩のベッドでしていた。

歩以外と別れても、こんな事はしなかった。

あの日、無理矢理引き寄せられた運命の糸は、やはり絡まりすぎていたのだと思った。

かろうじて繋がった糸を、引き寄せたせいで歪みが発生した。

私達は、放れるべきじゃなかった。

私達は、馬鹿だったから、放れないとお互いが大切な存在に気づけなかった。

「歩、歩、歩。愛してるよ。愛してる。愛してる。」

私は、一睡も出来ずに朝まで繰り返し歩を探しながら自慰行為を続けた。

「用意しなきゃ」

私は、家に帰った。

家に帰って、シャワーを浴びた。

テーブルの上に、歩の家の鍵を置いた。

母親に、片付けを依頼した。

弁護士費用は、私のお金から払って欲しいと書いた。

鉛のように重い身体を引きずりながら、外に出た。

もう、この瞬間には死ぬのを決めていた。

静止画みたいに動かない景色を見ながら歩いた。

近くを通りすぎる人の声も遠くで聞こえていた。

あの日よりも、辛かった。

歩の温もりを再び知った身体。

歩への愛を再び感じた身体。

もう二度とそれにれられないとわかってしまうと…。

生きている事は、出来なかった。

友作さんでは、もう無理なのをわかっていた。

私は、歩と生きる未来以外いらなかった。

どこを、どうして、こうなったのかわからなかったけれど…。

気づけば、上條君が私を支えていた。

薄れ行く意識の中で、私は実行したのを知った。

それと、同時に幸せだった。

歩と同じ世界にいける。

友作さんは、悲しそうだった。

唇にキスをされたけれど、感触はわからなかった。

幸せ過ぎる。

歩といれるなんて…。

私は、ゆっくりと目を閉じた。

それから、私は二度と目覚めない夢を繰り返し見続けていた。

歩との幸せな日々の夢を…。



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