上 下
33 / 65
嘘つきな人

君がいないのは耐えられない

しおりを挟む
習慣のように、23時には家にいた。

この日、私は友作さんとラザニアを食べただけにした。

明日、きちんとお別れを言おう。

私は、手紙を書く事にした。

面と向かうと、言えない自分がわかっていた。

手紙を書き始めようと、ペンをとった瞬間に電話が鳴った。

「宮瀬歩さんのご家族の方でしょうか?」

電話の主は、私にそう告げた。

「いえ」

「あの、宮瀬歩さんのご家族の連絡先をご存じでしょうか?」

「歩さんには、家族はいません。私は、歩さんの婚約者です。」

なぜ、そう言ったのかわからなかった。

ただ、嫌な予感はしていたから、そう言うしかなかった。

「そうですか、あの宮瀬歩さんが本日お亡くなりになりました。」

その後の言葉は、途切れ途切れしか入ってこなかった。

空港に向かう車で事故にあった事、荷物は、こっちに送っていた事…。

何もかも頭の中に入らなかった。

私は、母に泣きながら連絡をした。

もし、私がいなくなっていたら歩と共にお墓にいれて欲しい。

永代供養でいいからお願いします。

友作さんに、書くはずの手紙に私は母へのお願いをしていた。

歩の家の住所を書く。

もしかしたら、片付けなければいけないかもしれない。

私は、通帳なども机の上に置いていた。

ボッーとした意識の中で、私は、母親に遺書のようなものを書いていた。

その間、友作さんの事は、頭の中に全くなかった。

私は、歩の事しか考えていなかった。

歩にれた温もりを必死で探した。

歩の声を必死で、思い出した。

駄目だ、出来ない。

気づくと私は、歩のマンションに来ていた。

宮瀬と書かれた表札はあった。

家にどうにか入りたかった。

ダメ元で、鍵屋さんに連絡をした。

すぐにやってきて、開けてもらった。

家に勝手に入った。

あの日のまま、変わらなかった。

私は、鍵を閉めた。

ベッドに寝転がると、歩の匂いが感じられた。

これで、歩を探す事が出来た。

私は、歩と別れた、あの日初めて、自慰行為を覚えた。

そして、今再び、歩のベッドでしていた。

歩以外と別れても、こんな事はしなかった。

あの日、無理矢理引き寄せられた運命の糸は、やはり絡まりすぎていたのだと思った。

かろうじて繋がった糸を、引き寄せたせいで歪みが発生した。

私達は、放れるべきじゃなかった。

私達は、馬鹿だったから、放れないとお互いが大切な存在に気づけなかった。

「歩、歩、歩。愛してるよ。愛してる。愛してる。」

私は、一睡も出来ずに朝まで繰り返し歩を探しながら自慰行為を続けた。

「用意しなきゃ」

私は、家に帰った。

家に帰って、シャワーを浴びた。

テーブルの上に、歩の家の鍵を置いた。

母親に、片付けを依頼した。

弁護士費用は、私のお金から払って欲しいと書いた。

鉛のように重い身体を引きずりながら、外に出た。

もう、この瞬間には死ぬのを決めていた。

静止画みたいに動かない景色を見ながら歩いた。

近くを通りすぎる人の声も遠くで聞こえていた。

あの日よりも、辛かった。

歩の温もりを再び知った身体。

歩への愛を再び感じた身体。

もう二度とそれにれられないとわかってしまうと…。

生きている事は、出来なかった。

友作さんでは、もう無理なのをわかっていた。

私は、歩と生きる未来以外いらなかった。

どこを、どうして、こうなったのかわからなかったけれど…。

気づけば、上條君が私を支えていた。

薄れ行く意識の中で、私は実行したのを知った。

それと、同時に幸せだった。

歩と同じ世界にいける。

友作さんは、悲しそうだった。

唇にキスをされたけれど、感触はわからなかった。

幸せ過ぎる。

歩といれるなんて…。

私は、ゆっくりと目を閉じた。

それから、私は二度と目覚めない夢を繰り返し見続けていた。

歩との幸せな日々の夢を…。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

処理中です...