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桜の下の天使
逃げよう
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「一緒に、逃げよう」
何故、そんな言葉が口をついて出たのか私にも理解が出来なかった。
「先生、頭おかしくなっちまったか?」
「申し訳ない」
共に、45歳、おっさん同士。
何を言っている私は…。
「先生、そんな寂しい顔するなよ」
「そんなつもりはない」
寂しい顔をしているつもりは、なかった。
「先生、本気で言ってくれたのか?」
「何を?」
「一緒に、逃げるって」
「さあ?どうかな?」
「だよな。わかってるよ」
桂木さんが、悲しい目をした。
何故だろうか?
私には、理解出来なかった。
「TVでも、ゆっくり見てくれ。食事の時間だし」
そう言って私は、立ち上がった。
「先生、明日も話そう」
「ああ、構わない」
私は、桂木さんの病室を出た。
突然、私は、何を言い出したのだ。
病院近くのマンションに帰宅した。
コートとセーターを紙袋から取り出した。
バスタブに湯を溜める。
桂木さんが、微笑みながら俺の胸元を握りしめた。
しっかりと手の後が、ついていた。
助けれて、よかった。
私は、バスタブに血のついた洋服を入れた。
湯船に、薄い赤が広がってく。
さっき、手を握りしめて馬鹿みたいだった。
何を考えてるんだ。
目の前で、倒れそうになった桂木さんがすがるように私に助けを求めただけじゃないか…。
今までだって、そんな事はあったじゃないか…
患者さんが、先生助けて下さい。って言った事だって…。
その度に、こんな感情を味わってなどいなかったではないか…。
なぜ?
桂木さんの手を握りしめたのだ。
なぜ?
桂木さんは、寂しそうな顔をしたのだ。
なぜ?
そう思えば思うほどに、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
だだ、桂木さんの手を握った時に、何かが晴れる感覚がしたのは事実だった。
私は、シャワーに入りながら服を洗った。
綺麗に落ちたような落ちなかったような、ボトボトと水が落ちるコートを浴室乾燥機に干した。
セーターも、軽く絞って平起きして干しておいた。
シャワーから上がるといっきに疲れがやってきた。
お水を飲んで、私はベッドに横になった。
朝、カーテンを閉め忘れた窓から洩れる太陽の光で目が覚めた。
残り、30日。
私が終わる日と桂木さんの退院は同じだった。
なぜ?
逃げようと言ったのか、理由がいまだに解決出来ていなかった。
私は、冷蔵庫から豆乳を取り出した。
人参嫌いの彼女に好きになれと言われて作られたレシピを毎朝飲んでいる。
不味いけれど、彼女の愛を感じれる代物だ。
人参と豆乳と青汁とレモンをミキサーにかける。
人参が嫌いな私にとって、朝から拷問だ。
それでも、これを飲むことで、今日も誰かを助けたいと思えるのだった。
「ごちそうさまでした」
私は、流しにカップを置いた。
服を着替える。
今日も一日が、平凡に終わるだけだ。
そんな事は、私にでもわかっている。
桂木さんと、仕事終わりに話すことを除けば。
同じ毎日の繰り返しだ。
職場につくと上條が居た。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
上條は、同性愛者だった。
誰にも、嘘などをつかずに堂々としている。
「上條」
「なんだ?」
「あのさ、その」
「なんだよ」
「いや、男を好きなのってどんな感じかなって」
「どんな感じって?」
「いや、何か違和感みたいな」
「そんなのは、なかったよ。別に、好きな人が好きなわけだし。女とか男とか気にする必要はないだろうけど。一ノ瀬は、気にするの?」
「いや。どうかな?」
「まあ、誰かわかんないけど。自分の気持ちに素直になるのが一番だってアドバイスしといてよ。じゃあ、行くわ」
「ああ、頑張って」
「一ノ瀬もな」
そう言って、上條は行ってしまった。
好きになった人が好きか、そんな風に私も言いたいな。
「他の患者さんの迷惑になります。」
「どうした?」
「一ノ瀬先生、桂木さんです。お友達が騒いでまして。」
「私が、行くよ」
私は、桂木さんの元に行った。
「だーかーら、困るんだよ。やらないとかさ」
「うっさいな」
「もしもし、体調のすぐれない方もいるんです。大声出されるならお帰りいただきたいのですが」
「何だよ、めんどくせーな。明日もくるから」
男は、桂木さんを睨み付けて出ていった。
「桂木さん、個室にかわってもらえますか?」
「わかりました。」
桂木さんは、少し悲しそうに目を伏せて、そう話した。
「岬さん、桂木さんを個室にかえてください。」
「わかりました」
私は、頭を下げて病室を出た。
何故、そんな言葉が口をついて出たのか私にも理解が出来なかった。
「先生、頭おかしくなっちまったか?」
「申し訳ない」
共に、45歳、おっさん同士。
何を言っている私は…。
「先生、そんな寂しい顔するなよ」
「そんなつもりはない」
寂しい顔をしているつもりは、なかった。
「先生、本気で言ってくれたのか?」
「何を?」
「一緒に、逃げるって」
「さあ?どうかな?」
「だよな。わかってるよ」
桂木さんが、悲しい目をした。
何故だろうか?
私には、理解出来なかった。
「TVでも、ゆっくり見てくれ。食事の時間だし」
そう言って私は、立ち上がった。
「先生、明日も話そう」
「ああ、構わない」
私は、桂木さんの病室を出た。
突然、私は、何を言い出したのだ。
病院近くのマンションに帰宅した。
コートとセーターを紙袋から取り出した。
バスタブに湯を溜める。
桂木さんが、微笑みながら俺の胸元を握りしめた。
しっかりと手の後が、ついていた。
助けれて、よかった。
私は、バスタブに血のついた洋服を入れた。
湯船に、薄い赤が広がってく。
さっき、手を握りしめて馬鹿みたいだった。
何を考えてるんだ。
目の前で、倒れそうになった桂木さんがすがるように私に助けを求めただけじゃないか…。
今までだって、そんな事はあったじゃないか…
患者さんが、先生助けて下さい。って言った事だって…。
その度に、こんな感情を味わってなどいなかったではないか…。
なぜ?
桂木さんの手を握りしめたのだ。
なぜ?
桂木さんは、寂しそうな顔をしたのだ。
なぜ?
そう思えば思うほどに、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
だだ、桂木さんの手を握った時に、何かが晴れる感覚がしたのは事実だった。
私は、シャワーに入りながら服を洗った。
綺麗に落ちたような落ちなかったような、ボトボトと水が落ちるコートを浴室乾燥機に干した。
セーターも、軽く絞って平起きして干しておいた。
シャワーから上がるといっきに疲れがやってきた。
お水を飲んで、私はベッドに横になった。
朝、カーテンを閉め忘れた窓から洩れる太陽の光で目が覚めた。
残り、30日。
私が終わる日と桂木さんの退院は同じだった。
なぜ?
逃げようと言ったのか、理由がいまだに解決出来ていなかった。
私は、冷蔵庫から豆乳を取り出した。
人参嫌いの彼女に好きになれと言われて作られたレシピを毎朝飲んでいる。
不味いけれど、彼女の愛を感じれる代物だ。
人参と豆乳と青汁とレモンをミキサーにかける。
人参が嫌いな私にとって、朝から拷問だ。
それでも、これを飲むことで、今日も誰かを助けたいと思えるのだった。
「ごちそうさまでした」
私は、流しにカップを置いた。
服を着替える。
今日も一日が、平凡に終わるだけだ。
そんな事は、私にでもわかっている。
桂木さんと、仕事終わりに話すことを除けば。
同じ毎日の繰り返しだ。
職場につくと上條が居た。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
上條は、同性愛者だった。
誰にも、嘘などをつかずに堂々としている。
「上條」
「なんだ?」
「あのさ、その」
「なんだよ」
「いや、男を好きなのってどんな感じかなって」
「どんな感じって?」
「いや、何か違和感みたいな」
「そんなのは、なかったよ。別に、好きな人が好きなわけだし。女とか男とか気にする必要はないだろうけど。一ノ瀬は、気にするの?」
「いや。どうかな?」
「まあ、誰かわかんないけど。自分の気持ちに素直になるのが一番だってアドバイスしといてよ。じゃあ、行くわ」
「ああ、頑張って」
「一ノ瀬もな」
そう言って、上條は行ってしまった。
好きになった人が好きか、そんな風に私も言いたいな。
「他の患者さんの迷惑になります。」
「どうした?」
「一ノ瀬先生、桂木さんです。お友達が騒いでまして。」
「私が、行くよ」
私は、桂木さんの元に行った。
「だーかーら、困るんだよ。やらないとかさ」
「うっさいな」
「もしもし、体調のすぐれない方もいるんです。大声出されるならお帰りいただきたいのですが」
「何だよ、めんどくせーな。明日もくるから」
男は、桂木さんを睨み付けて出ていった。
「桂木さん、個室にかわってもらえますか?」
「わかりました。」
桂木さんは、少し悲しそうに目を伏せて、そう話した。
「岬さん、桂木さんを個室にかえてください。」
「わかりました」
私は、頭を下げて病室を出た。
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