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五条の視点

無理…

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それから、丸三年は何事もなく過ごしていたのに、今からちょうど、7カ月前。

突然珠理からの助けてを受け取ったと思った瞬間に電話が鳴った。

真夜中の2時を過ぎたぐらいだった。

「もしもし」

鼻声と時折鼻をすする仕草に泣いているのがわかった。

「どうした?珠理」
 
暫く沈黙だった。
 
『五条、起きとった?』

「うん」

気を遣う性格なのがわかっているから、ついさっき起きたばかりだとは言わなかった。

『あんな、うちな』

「うん」

『剛と別れてもうた』

私は、その言葉に耳を疑った。

「なぜ?」

前世からの縁が、断ち切られるはずはないのだ。おかしい、何かがおかしい。そう思った。

『子供を親に見せたりたいんやって』

子供と言われ、珠理が酷く落胆したのがわかった。どうしても、自分には無理な事を相手に求められる悲しさと空しさ…。


私は、珠理の言葉に親友の話を思い出した。

子供が欲しいから別れてと愛する妻に言われ、自分はその能力がないのをわかっていた。彼は、自分が無価値で無意味で無能だと思ったと話した。だから、不倫相手と一緒になりたいと言った妻を応援したと私に笑いながら話してくれた。能力を使っていれば、止めれた。でも、私は、親友の心(なか)を能力で見たくなかった。次の日、親友は死んだ。悔やんでも悔やみきれなかった。子供がいなければ、人間をやめなければならないのだろうか?でも、きっと、親友には何の言葉も響かなかったのがわかる。だって、彼の世界の中心は奥さんだったから…。奥さんを本当に愛していたから…。

私は、気付いたら泣いていた。

「珠理、今から、行けないけど、大丈夫か?」

『大丈夫』

「明日、朝一で行くから」

『ええよ、ええよ。来んでも』

「行くから、生きて待ってろよ。珠理」

『無理』

その小さな言葉を聞き逃さなかった。

「酒のんでるから、どうにかして行く」

『五条、大丈夫。やから、ずっと話してて』

お酒を飲まなければよかったと、激しく後悔した。

「テレビ電話にしよう。顔が見れるから、珠理。」

『ええよ。別に…。そんなんええよ。』

「じゃあ、ずっと喋っててくれ。全部、聞くから」

それから、始発が走る時間まで珠理は話してて。

私は、始発に乗ってすぐに珠理の家に行った。

電車に乗ってる間も、ずっとメッセージを続けてた。

珠理の家について、珠理の顔を見た瞬間抱き締めていた。


【不思議な縁だな!特別だ!そうか、五条と珠理は、前世は、双子だったのだ。】

あの方に、そう言われた。

【現世では、珠理の事を守ってやりたくて別々に産まれ墜ちた。】

前世で双子の兄弟だった、私と珠理は、酷い虐待をされて育ったらしい。前世で私の弟だった珠理を父親に殺された私は、次の世では別々に産まれ墜ちる事を願ったと言う。

私達は、特別な縁で結ばれている。

一卵性双生児だった私達は、現世に来るときに魂が二つに分かれたと言う。その別れの時に、一人でひとつの球体を作った。

なので、結婚も子供も望まない珠理が出来上がった。

私は、一部の欠けを修復出来ずに産まれ墜ちた。

だから、珠理とは違うかった。

でも、私は、珠理と会った瞬間から、この子を一生守らねばならないとすぐに思ったのだ。

「五条、ごめんね」

「いや、生きて待ってくれてよかった。」

私は、珠理を抱き締める。

「五条、辛いよ。息苦しい。剛とずっと生きたかった。」

「うん」

身体中に、ガラスの破片が這っていく感覚が広がる。

その痛みが、我慢出来ないのを感じる。

私は、今の世でも珠理を幸せに出来なかったのではないだろうか…

「五条、うちな、剛を愛してるねん。どんな形でもええから、剛といたい。剛といれるなら、どんなんでもええ。おられんのやったら、死んでしまいたい。お願い、五条。うちを許して」

「私は、珠理を許すよ。珠理の望み通りにすればいい。彼といたいならいればいい。世間が、許してくれなくても…。私が、許す」

珠理は、ずっと泣いていた。

.
.
.

私は、目を開けて涙を流した。

「珠理、また何かあったんだね」

私は、珠理にメッセージを送るか、迷いながらスマホを見つめていた。
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