上 下
74 / 94
喜与恵と宝珠の視点

喜与恵の痛み

しおりを挟む
喜与恵の痛みが、流れてくる。

橋崎先生は、私に言った。

【いつか、幸せを手に入れてもMOON先生。誰かを傷つけるような人間には、ならないで下さいね。子を授かれない事は、望むものにとって、本当に辛い事なのです。】

私は、橋崎先生に頷いたのを覚えている。

「喜与恵、お昼ご飯食べるんだって!」

「成木さんには、連絡してる?」

「うん、ちゃんとしてるよ。」

「なら、よかった。」

喜与恵は、いつも私の体を丁寧に洗ってくれる。

営みをしない私達に、とってお風呂は大切なコミニュケーションの一つだ。

「バスタオルで、拭くね」

「うん」

人間は、なぜ優劣をつけたがるのだろうか…。

宮部さんのように望まない人間も、喜与恵のように望む人間も、何故、報われないのだろうか…。

同じ電車に乗って、同じ駅で降りない私達は、どうして可哀想だと哀れみをもたれ、蔑まれなければならないのだろう…。

「宝珠、拭けないよ」

「ごめん」

私は、喜与恵を抱き締めていた。

望みを叶えてあげられない事が、辛い。

【嫁が、妊娠したんです。不倫相手の子だと100%わかってるんです。あなたも、検査したんでしょ?】

40過ぎのおじさんに検査に行った時に突然話しかけられて驚いた。

私は、幽体だと思っていた。

5年後、あの人はニュースに出てきた。

【三日月さん、やっぱり私ね!許せなかったんです。不倫相手の子を育てられなかったんです。血が繋がってるって怖いですよ!相手は、私の友達でね。五歳の息子の蟹の食べ方が同じだったんです。それでね、やりました。】

一家惨殺事件の犯人になり、自殺した彼が現れて私に話した。


「大丈夫?震えてるよ。」

「大丈夫」

とめてあげたかった。

そもそも、検査結果をしらなければあの人は幸せでいれたのに…。

何故、検査などしたのだろうか?

そんな幽体を沢山見てきた。

【三日月先生、検査をしなければ幸せでした。】

【三日月先生、治療をしなければ幸せでした。】

【三日月先生、妊娠しない理由などいらなかった。】

検査を受けて、治療を受けて、その結果授かる人もいる。

しかし、その一方で、検査を受けて治療しても思い描いた未来を得られなかった人、検査をした事で、うまくいかなくなった人、治療を続けられなくなった人、私は沢山の幽体に話を聞いた。

その悲しみや苦しみや痛みを知った。

「宝珠」

「喜与恵の痛みや悲しみや苦しみの根本を解決出来ない事が悲しい。」

涙がスッーと流れてくる。

「同性を愛するだけで辛いのに、私は子種もない。だから、だから、喜与恵の願いをどんな形でも叶えられないのが辛く悲しい。」

「宝珠」

喜与恵は、私の涙を拭ってくれる。

「喜与恵、生きてる限り苦しむのかな?それなら、こんな拷問はないね。」

「宝珠」

「それでも、一緒にいる時間だけは忘れようね。忘れさせてあげれるようにするから…」

私は、喜与恵にキスをする。

「宝珠」

「喜与恵、私が傍にいるから」

「うん」

喜与恵と何度もキスをした後で、服を着替えてお風呂を上がった。

「何て名前にするの?」

私は、喜与恵から水を受け取って飲む。

喜与恵は、昨日ゐ空さんに渡された二体を動かした。

(う?)

(ううっ)

喜与恵は、また頭を撫でてもらっている。

「宝珠、何て名前がいい?」

「何だろう?ゆっくり考えようか」

「うん。珈琲いれるね」

「うん」

喜与恵は、珈琲をいれてきた。

「はい、混ぜ混ぜして」

(うっ?)

うんうん頷いている。

私と喜与恵のカップに、砂糖を2つ入れて混ぜてくれる。

どうぞと言われた。

「いただきます」

うんうん頷いて、笑った。

私と喜与恵は、珈琲を飲んだ。

「もうすぐ出ようか?」

「嫌だよ。外は、嫌い」

「喜与恵」

「子連れを見ると惨めになるんだよ。だから、嫌なの」

「それでも、彼がね。9時過ぎには来るから迎えに行かなくちゃいけなくてね。ほら、八時だし。」

喜与恵は、時計を見る。

「カラオケとかに行ったら、子供連れいないだろうし。見えないし…。三日月の家に行く?それか、神社で時間を潰して。」

喜与恵は、ポロポロ泣いてしまった。

「何で、こんな優しい喜与恵が苦しまなくちゃならないんだろうね。もっと、優しい世界に喜与恵と生きていたいね。」

私は、喜与恵の手を握りしめた。

二体は、頭を撫で続けてる。

惨めになる。そう言われても、世の中に子連れは多いわけだし。

どうするべきだろうか…。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
※コミカライズ進行中。 なんか気が付いたら目の前に神様がいた。 異世界に転生させる相手を間違えたらしい。 元の世界に戻れないと謝罪を受けたが、 代わりにどんなものでも手に入るスキルと、 どんな食材かを理解するスキルと、 まだ見ぬレシピを知るスキルの、 3つの力を付与された。 うまい飯さえ食えればそれでいい。 なんか世界の危機らしいが、俺には関係ない。 今日も楽しくぼっち飯。 ──の筈が、飯にありつこうとする奴らが集まってきて、なんだか騒がしい。 やかましい。 食わせてやるから、黙って俺の飯を食え。 貰った体が、どうやら勇者様に与える筈のものだったことが分かってきたが、俺には戦う能力なんてないし、そのつもりもない。 前世同様、野菜を育てて、たまに狩猟をして、釣りを楽しんでのんびり暮らす。 最近は精霊の子株を我が子として、親バカ育児奮闘中。 更新頻度……深夜に突然うまいものが食いたくなったら。

【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん
ファンタジー
 人族によって滅亡を辿る運命だった魔族を神々からの指名として救った魔王ジークルード・フィーデン。 しかし神々に与えられた恩恵が強力過ぎて神に近しい存在にまでなってしまった。  膨大に膨れ上がる魔力は自分が救った魔族まで傷付けてしまう恐れがあった。 なので魔王は魔力が漏れない様に自身が張った結界の中で一人過ごす事になったのだが、暇潰しに色々やっても尽きる気配の無い寿命を前にすると焼け石に水であった。  暇に耐えられなくなった魔王はその魔王生を終わらせるべく自分を殺そうと召喚魔法によって神を下界に召喚する。 神に自分を殺してくれと魔王は頼んだが条件を出された。  それは神域に至った魔王に神になるか人族として転生するかを選べと言うものだった。 神域に至る程の魂を完全に浄化するのは難しいので、そのまま神になるか人族として大きく力を減らした状態で転生するかしか選択肢が無いらしい。  魔王はもう退屈はうんざりだと言う事で神になって下界の管理をするだけになるのは嫌なので人族を選択した。 そして転生した魔王が今度は人族として2度目の人生を送っていく。  魔王時代に知り合った者達や転生してから出会った者達と共に、元魔王様がセカンドライフを送っていくストーリーです! 元魔王が人族として自由気ままに過ごしていく感じで書いていければと思ってます!  カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...