41 / 94
宝珠の視点
辛かったです。
しおりを挟む
「ごめんなさい。私、三日月さんを困らせてますよね」
「いや、そんな事は、ないよ」
「すぐに、三日月さんへの想いを消さなくちゃって思ったんです。でも、三日月さんが人間に戻った事で、三日月さんが断ち切ったはずの縁がくっついたんです。少なくとも、私はそう感じました。」
宮部さんは、私の腕にしがみついた。
駄目だよって、言おうとしたけど言えなかった。
宮部さんの痛みがわかる。
「喜与恵さんと一緒にいる三日月さんを見たんです。三日月の家に行った時に…。よかったって気持ちと同時に、三日月さんが色褪せていた。それが、悲しかった。あの日、私に見せてくれた三日月さんじゃなかった。もっと、無邪気で楽しそうで…。喜与恵さんが、見せている全ては、私は手に入れられないのがわかった。だから…だから…」
「消えたくなった?」
私の言葉に、宮部さんは私を見つめる。
「はい。三日月さんには、もう二度と会わないって思いました。でも、喜与恵さんに話しかけられてしまって…。それで、また会おうねって」
「何度か、会ったのかな?ごめんね。覚えてなくて…。」
「会いましたよ!何度か。その度に、私は辛くて悲しくて…。光珠さんは、それでもいいって。三日月さんを忘れられない私のままでいいって言ってくれたんです。」
宮部さんは、私から離れた。
「私は、それに甘えていました。一年が過ぎたあたりから、三日月さんへの気持ちは急に失くなっていきました。なのに、またこうやって再会して話をしたら…。気持ちがないのが、悲しくなってきたんです。三日月さんが、どんどん色褪せていく気がしたんです。」
私は、宮部さんにハンカチを差し出した。
「すみません。困らせてばかりで…。」
「全然、大丈夫ですよ。色褪せるって、気持ちはわかるよ。私も、光珠と並ぶ宮部さんを見て悲しかったから…。私は、宮部さんにあんな顔をさせてあげられないから…。」
「何か、三日月さんと私って、似てますね。」
「似ていたら、駄目なんだよね。反発し合って、消耗するから…」
「じゃあ、駄目じゃないですか」
宮部さんは、涙を拭いながら笑った。
「宮部さん、悲しいのはきっと好きだった事を覚えているからだよ。」
「それって、私と三日月さんはちゃんと愛し合っていたって事ですよね?」
私は、宮部さんに頷いた。
宮部さんは、ニコッと笑った。
「その代償が、この悲しみなら…。辛くても、受け入れたい。でも、今だけ、少しだけ。ごめんなさい。」
「宮部さん」
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。」
宮部さんは、私の腕にしがみついて泣いている。
「本当は、怖いのですね。彼に会うのが…。」
「怖いです。」
「前に進むのは、勇気がいりますね。」
「そうですね」
宮部さんのビジョンが、流れてきてしまった。
【智(とも)君。何で……。】
「三日月さん、私のビジョン見てますよね」
「えっ?あっ、すみません。でも、まだ智君、何でしか、まだ入ってきてませんよ。今から、切りますね。」
「切らないで下さい。」
「何故ですか?それに、ビジョンを見てるのがよくわかりましたね。」
「三日月さんと、今、少し共鳴した気がしました。」
「切らなくていいのですか?」
「はい。切らないで。受け取って下さい。怖いから…。」
宮部さんは、ポロポロ泣いている。
「そう言うことですか、大丈夫ですよ。」
私は、宮部さんの頭を撫でてあげる。
「辛かったですね」
そのビジョンは、宮部さんがひかりちゃんを失った後のビジョンだった。
「三日月さん、それでも私は、前に進みたいです。」
「わかっています。」
前に進むのは、勇気がいる。
宮部さんは、その一歩をいつでも自分の力で踏み出してきた人だ。
「宮部さんは、凄いです。自分の足で、いつでも一歩を踏み出せる。」
「だから、一人で生きていけるんですよね」
「そうでしょうね。でも、宮部さんは、それだけじゃなくて、ちゃんと自分の弱さもわかっている。今だって、私にしがみついてるけれど、宮部さんはとっくに前に進んでいる。ただ、少しだけ残る悲しみを拭いきれないだけですよね。」
宮部さんは、頷いていた。
私は、溢(あふ)れる涙が止まらなくてわざと上を向いた。
私も同じだ。
この僅かにだけ残る悲しみを取りきれずにいる。
「いや、そんな事は、ないよ」
「すぐに、三日月さんへの想いを消さなくちゃって思ったんです。でも、三日月さんが人間に戻った事で、三日月さんが断ち切ったはずの縁がくっついたんです。少なくとも、私はそう感じました。」
宮部さんは、私の腕にしがみついた。
駄目だよって、言おうとしたけど言えなかった。
宮部さんの痛みがわかる。
「喜与恵さんと一緒にいる三日月さんを見たんです。三日月の家に行った時に…。よかったって気持ちと同時に、三日月さんが色褪せていた。それが、悲しかった。あの日、私に見せてくれた三日月さんじゃなかった。もっと、無邪気で楽しそうで…。喜与恵さんが、見せている全ては、私は手に入れられないのがわかった。だから…だから…」
「消えたくなった?」
私の言葉に、宮部さんは私を見つめる。
「はい。三日月さんには、もう二度と会わないって思いました。でも、喜与恵さんに話しかけられてしまって…。それで、また会おうねって」
「何度か、会ったのかな?ごめんね。覚えてなくて…。」
「会いましたよ!何度か。その度に、私は辛くて悲しくて…。光珠さんは、それでもいいって。三日月さんを忘れられない私のままでいいって言ってくれたんです。」
宮部さんは、私から離れた。
「私は、それに甘えていました。一年が過ぎたあたりから、三日月さんへの気持ちは急に失くなっていきました。なのに、またこうやって再会して話をしたら…。気持ちがないのが、悲しくなってきたんです。三日月さんが、どんどん色褪せていく気がしたんです。」
私は、宮部さんにハンカチを差し出した。
「すみません。困らせてばかりで…。」
「全然、大丈夫ですよ。色褪せるって、気持ちはわかるよ。私も、光珠と並ぶ宮部さんを見て悲しかったから…。私は、宮部さんにあんな顔をさせてあげられないから…。」
「何か、三日月さんと私って、似てますね。」
「似ていたら、駄目なんだよね。反発し合って、消耗するから…」
「じゃあ、駄目じゃないですか」
宮部さんは、涙を拭いながら笑った。
「宮部さん、悲しいのはきっと好きだった事を覚えているからだよ。」
「それって、私と三日月さんはちゃんと愛し合っていたって事ですよね?」
私は、宮部さんに頷いた。
宮部さんは、ニコッと笑った。
「その代償が、この悲しみなら…。辛くても、受け入れたい。でも、今だけ、少しだけ。ごめんなさい。」
「宮部さん」
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。」
宮部さんは、私の腕にしがみついて泣いている。
「本当は、怖いのですね。彼に会うのが…。」
「怖いです。」
「前に進むのは、勇気がいりますね。」
「そうですね」
宮部さんのビジョンが、流れてきてしまった。
【智(とも)君。何で……。】
「三日月さん、私のビジョン見てますよね」
「えっ?あっ、すみません。でも、まだ智君、何でしか、まだ入ってきてませんよ。今から、切りますね。」
「切らないで下さい。」
「何故ですか?それに、ビジョンを見てるのがよくわかりましたね。」
「三日月さんと、今、少し共鳴した気がしました。」
「切らなくていいのですか?」
「はい。切らないで。受け取って下さい。怖いから…。」
宮部さんは、ポロポロ泣いている。
「そう言うことですか、大丈夫ですよ。」
私は、宮部さんの頭を撫でてあげる。
「辛かったですね」
そのビジョンは、宮部さんがひかりちゃんを失った後のビジョンだった。
「三日月さん、それでも私は、前に進みたいです。」
「わかっています。」
前に進むのは、勇気がいる。
宮部さんは、その一歩をいつでも自分の力で踏み出してきた人だ。
「宮部さんは、凄いです。自分の足で、いつでも一歩を踏み出せる。」
「だから、一人で生きていけるんですよね」
「そうでしょうね。でも、宮部さんは、それだけじゃなくて、ちゃんと自分の弱さもわかっている。今だって、私にしがみついてるけれど、宮部さんはとっくに前に進んでいる。ただ、少しだけ残る悲しみを拭いきれないだけですよね。」
宮部さんは、頷いていた。
私は、溢(あふ)れる涙が止まらなくてわざと上を向いた。
私も同じだ。
この僅かにだけ残る悲しみを取りきれずにいる。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
私は逃げます
恵葉
ファンタジー
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜
サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。
冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。
ひとりの新人配信者が注目されつつあった。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる