闇を照らす桜の木ー夏子ー

三愛 紫月 (さんあい しづき)

文字の大きさ
上 下
16 / 20

壊れゆく心

しおりを挟む
「それが、最後の言葉なの?」

静樹は、涙をボロボロ流していた。

若さだ。と言えばそれまでだった。

私は、静樹と同じ檻に閉じ込められた。

「ねぇー。私に静樹をちょうだいよ」

「なっこ」

「犯人は、私を探したんだって。この男が、ここまで言うならどんなに素晴らしい女性なのか、味わってみたかったって」

「なっこが、生きていてよかった」

静樹は、私を強く抱き締めてくれた。

「静樹、私はもう逃げられないじゃない。」

「なっこ」
 
「最後の言葉は、なに?ひかるは、私を許さないじゃない」

「そんな事ないわよ」

静樹は、私の髪を優しく撫でる。

「私は、ずっと光を待つしかないのよ」

「それは、違うわ。彼は、死ぬなんて思わなかったのよ。イタッ」

気づくと私は、静樹の左胸の膨らみをギリッと噛んでいた。

「ごめんなさい」

「忘れさせて欲しいのね。心が、壊れそうなの?それとも、壊れたの?」

静樹は、そう言って私の頬に手を当てる。

私は、静樹をソファーに押し倒した。

「なっこ」

「キスして、静樹の形にして」

「わかったわ、なっこのしたいようにしていいのよ」

静樹は、そう言って笑った。

私は、静樹にキスをした。

「んっ…」

静樹の唇は、想像以上に柔らかくて、口の中は、想像以上に暖かくて、私は何度も何度も静樹にキスを繰り返した。

「なっこ」

唇を離した私に、静樹がそう言った。

私は、静樹の首筋にキスをしてゆっくりと下に…


リリリーン

まただ。

私は、その音を無視して続けようとした。

「なっこ、駄目よ。出なきゃ」

そう言われて、静樹の上から降りた。


「もしもし」

『ロッカーの場所がわかったみたいです。』

「そうですか」

『警察が、なっこさんに確認して欲しいもんがあるそうです。』

「私にですか?」

『今から、これますでしょうか?』

「わかりました」

『では、……署に来て下さい。』

「わかりました。」

プー、プー

「なっこ」

電話を終えた私を静樹が呼んだ。

「警察に行かないと行けなくなった。」

「そう」

「仕事場に、電話してから用意する」

「わかった」

静樹は、モコモコのルームウェアを着てる。

さっきの勢いを失ったせいで、私は静樹に、もう一度キスが出来なかった。

「静樹、服着替えてくるね」

「ついていく?」

「わからない」

静樹は、通りすぎる私の腕を掴んだ。

「彼の従兄弟に抱き締められるわね。きっと…。なっこは、もうずっと泣いているから」

静樹は、目を伏せた。

「じゃあ、ついてきてよ。私の意見なんか聞かずについてきてよ」

「なっこ」

静樹が、悪いわけじゃないのに…

この悲しみを怒りを悔しさを、ぶつける場所が見つけられなかった。

「行くわ」

静樹は、そう言って立ち上がった。

「私は、春樹や光さんと同じよ。なっこを誰にも取られたくないもの」

その言葉に私は、静樹に近づいた。

「帰ってきたら、私を静樹の形にして、ここも、ここも、ここも」

静樹は、その言葉に泣いてる。

「わかったわ。しましょう。私の形にしてあげる。」

頬に当てた手で、涙を拭ってくれる。

「私は、静樹のものよ」

「うん」 

「誰もれさせないで」

「わかってるわ」

私達の間に、もう誰も近づけて欲しくなかった。

「静樹、職場にかけてくる」

「わかったわ」

スマホを持って、洗面所で電話した。

今日は、休みをとった。

服を着替える。

洗面所の鏡で、静樹にキスをした唇をさわった。

20年ぶりに、人の唇にキスをした。

柔らかくて、トロけそうで、何度もしていたかった。

あの唇が、首筋にれれば…

私の体にれれば…

ひかるを忘れられる気がした。

「なっこ、着替えないと」

「あっ、うん」

静樹に見られたのでは、ないかと思った。

唇をさわった左手の人差し指一本で、私は体を撫でていた。

「なっこ、帰ったらいくらでもしてあげるわ」

静樹は、後ろから私を抱き締めて耳元で囁いた。

息をかけられてゾクゾクッとした感覚が、体に伝わる。

「ハァー、静樹。私は、静樹のものになりたい」

その言葉に、静樹はさらに私を強く抱き締めてくれた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたと別れて、この子を生みました

キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。 クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。 自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。 この子は私一人で生んだ私一人の子だと。 ジュリアとクリスの過去に何があったのか。 子は鎹となり得るのか。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 ⚠️ご注意⚠️ 作者は元サヤハピエン主義です。 え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。 誤字脱字、最初に謝っておきます。 申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...