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事件と秋静樹
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あれから、20年が経った。
「なっこ、きたでー。元気やったか?」
あの瞳が、また私を見つめてくれやしないだろうか?
「今日未明、茶色のボストンバックが見つかりました。……さんの所持品と見られ、血痕が付着している事から何者かと争ったとみて捜査をしています。……さんの姿は見えず、出血の量からして……さんは、すでに死亡している可能性があるのではないかと思われています。」
20年前の私の誕生日の夜にTVから流れたニュースに息がとまったのを、今でもハッキリと覚えている。
苦しくて、悲しくて、堪らなかった。
あー。
私は、彼を深く深く愛していたんだと感じた。
「10年前に失踪したお兄さんがね。出血量が凄かったみたいですね」
三十歳の誕生日の時に、たまたまつけたTVに彼の弟を名乗る人物が映っていた。
モザイクがかかり、声も修正されていたけれど必死で
「兄は、どこかで生きています。」
と繰り返していた。
「我々も協力します。」
「必ず生きてます。」
「この桜の木の下で鞄が見つかりました。白いジャケットに血痕がついていまして、この辺り一面に、当時は血がひろがっていたようです。」
淡々とリポーターさんが話し、
「お兄さん、必ず見つけましょう」
熱い眼差しで、アナウンサーが彼の弟の手を握った。
泣きながら、それを最後まで見てしまった。
結局、何の手掛かりもなく終わった。
それから、何回か放送されていたけれど未だに行方不明のままだった。
何の手がかりも足取りも掴めず。
犯人さえわからず、まるで神隠しにあったように彼だけが存在しなかった。
「雲を掴むような事件ですね」
とコメンテーターが話した。
彼は、本当に生きていたのだろうか?
体の隅々に、彼の痕跡を探すけれど…。
もう、手繰り寄せる事は出来なかった。
キスをしたかった。
なっこって、呼んで欲しい。
彼に、触れられるなら、もう何もいらないと思えた。
それからも、私の日々は変わらずに過ぎていった。
未だに、彼に縛られたままの私
「なつこ、いつ結婚するの?晩婚のとこちゃんかって行ったでしょ?まだ、四十よ。子供だって産める」
「はいはい、わかったから。うるさいなー」
毎日、ギャンギャンと母は犬のように吠える。
30歳を迎えてから、より一層強くなった。
「なっこは、もう恋なんてしないのよ。って言っちゃえばよかったじゃない?」
彼を失ってから、15年が過ぎた時
行きつけのバーで、私は彼に会った。
私と同じ傷を抱え、折れた翼で必死で飛んでいた。
「言えないわよ。静樹」
彼の名前は、秋静樹。
彼と私は、すぐに意気投合し同棲を始めた。
静樹は、同性愛者だった。
21歳の静樹の誕生日に特別なプレゼントをあげると実家に帰った彼は、自ら車ごと海に飛び込んだ。
静樹は、彼が最後に投函した手紙を捨てられずにいた。
そして、彼の遺体はあがらなかった。
「出会ったあの日に、あの歌のフレーズを悪戯に口にした自分が情けない」
「その時は、それしかないって思ったのよ」
「静樹、私ね。本当に、もう恋はしないの。」
「わかってる」
禁煙中の静樹は、棒の長いキャンディーを舐めている。
「だってね、ここも、ここも、ここも、彼以外の形になりたくないのよ。静樹」
「知ってるわ、なっこ」
静樹は、私を抱き締めてくれる。
「私も同じよ」
酔った私をいつもこうやって宥める。
興味がないわけじゃない。
誰かと一つになれるなんて、尊くて素晴らしい事。
そんなの誰かに言われなくたってわかってる。
でもね、誰かの形に全身が変わっていくごとに、私は彼を一つずつ失っていくの。
最後に、ここまで変わってしまったら…。
もう二度と彼に会えないじゃない。
「なっこ、辛くない?」
「通りすぎれば、明日になるから」
「そうね、私も知ってる」
同棲して3ヶ月、静樹と手を繋いで眠る事だけを私は私に許してあげた。
それから、半年が経ち、私は静樹に抱き締められる事を許してあげた。
そして、今は頭を撫でられる事まで許していた。
「なっこ、きたでー。元気やったか?」
あの瞳が、また私を見つめてくれやしないだろうか?
「今日未明、茶色のボストンバックが見つかりました。……さんの所持品と見られ、血痕が付着している事から何者かと争ったとみて捜査をしています。……さんの姿は見えず、出血の量からして……さんは、すでに死亡している可能性があるのではないかと思われています。」
20年前の私の誕生日の夜にTVから流れたニュースに息がとまったのを、今でもハッキリと覚えている。
苦しくて、悲しくて、堪らなかった。
あー。
私は、彼を深く深く愛していたんだと感じた。
「10年前に失踪したお兄さんがね。出血量が凄かったみたいですね」
三十歳の誕生日の時に、たまたまつけたTVに彼の弟を名乗る人物が映っていた。
モザイクがかかり、声も修正されていたけれど必死で
「兄は、どこかで生きています。」
と繰り返していた。
「我々も協力します。」
「必ず生きてます。」
「この桜の木の下で鞄が見つかりました。白いジャケットに血痕がついていまして、この辺り一面に、当時は血がひろがっていたようです。」
淡々とリポーターさんが話し、
「お兄さん、必ず見つけましょう」
熱い眼差しで、アナウンサーが彼の弟の手を握った。
泣きながら、それを最後まで見てしまった。
結局、何の手掛かりもなく終わった。
それから、何回か放送されていたけれど未だに行方不明のままだった。
何の手がかりも足取りも掴めず。
犯人さえわからず、まるで神隠しにあったように彼だけが存在しなかった。
「雲を掴むような事件ですね」
とコメンテーターが話した。
彼は、本当に生きていたのだろうか?
体の隅々に、彼の痕跡を探すけれど…。
もう、手繰り寄せる事は出来なかった。
キスをしたかった。
なっこって、呼んで欲しい。
彼に、触れられるなら、もう何もいらないと思えた。
それからも、私の日々は変わらずに過ぎていった。
未だに、彼に縛られたままの私
「なつこ、いつ結婚するの?晩婚のとこちゃんかって行ったでしょ?まだ、四十よ。子供だって産める」
「はいはい、わかったから。うるさいなー」
毎日、ギャンギャンと母は犬のように吠える。
30歳を迎えてから、より一層強くなった。
「なっこは、もう恋なんてしないのよ。って言っちゃえばよかったじゃない?」
彼を失ってから、15年が過ぎた時
行きつけのバーで、私は彼に会った。
私と同じ傷を抱え、折れた翼で必死で飛んでいた。
「言えないわよ。静樹」
彼の名前は、秋静樹。
彼と私は、すぐに意気投合し同棲を始めた。
静樹は、同性愛者だった。
21歳の静樹の誕生日に特別なプレゼントをあげると実家に帰った彼は、自ら車ごと海に飛び込んだ。
静樹は、彼が最後に投函した手紙を捨てられずにいた。
そして、彼の遺体はあがらなかった。
「出会ったあの日に、あの歌のフレーズを悪戯に口にした自分が情けない」
「その時は、それしかないって思ったのよ」
「静樹、私ね。本当に、もう恋はしないの。」
「わかってる」
禁煙中の静樹は、棒の長いキャンディーを舐めている。
「だってね、ここも、ここも、ここも、彼以外の形になりたくないのよ。静樹」
「知ってるわ、なっこ」
静樹は、私を抱き締めてくれる。
「私も同じよ」
酔った私をいつもこうやって宥める。
興味がないわけじゃない。
誰かと一つになれるなんて、尊くて素晴らしい事。
そんなの誰かに言われなくたってわかってる。
でもね、誰かの形に全身が変わっていくごとに、私は彼を一つずつ失っていくの。
最後に、ここまで変わってしまったら…。
もう二度と彼に会えないじゃない。
「なっこ、辛くない?」
「通りすぎれば、明日になるから」
「そうね、私も知ってる」
同棲して3ヶ月、静樹と手を繋いで眠る事だけを私は私に許してあげた。
それから、半年が経ち、私は静樹に抱き締められる事を許してあげた。
そして、今は頭を撫でられる事まで許していた。
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