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祈り……

宝珠の死

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「宝珠」

糸埜(いとの)さんが、起き上がった。

【成功しました。お疲れ様でした。皆、よく頑張りましたね】

「それだけですか?」

【それだけです。】

「それだけ……」

糸埜さんは、ボタボタと泣いてる。

案内人さんは、外に出ていったままだ。

【三日月宝珠に、触(ふ)れていいのは、巫女と喜与恵(きよえ)だけです。】

皆さんが、目を覚ました。

「宝珠」

皆さんは、泣きながら名前を呼んでいる。

いつの間にか、成木(なるき)さんは元の肉体に戻り、五木結斗と二条さんと呼ばれた方が立っていた。

ドドーンと雷が鳴り響く。

「雨ですね」

巫女さんは、そう言った。

糸埜さんが、外に出るのを私も追いかける。

「喜与恵、雨ですよ。」

案内人さんは、這いつくばって入り口を探している。

「宝珠の所に行かねばならぬのです。宝珠の所に…」

「喜与恵、そんな事はもう必要がない」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

案内人さんは、糸埜さんに抱きついた。

「後、一時間で目が覚めんかったらやった事は無駄やったんやな」

関西弁の男の人が、やってきた。

「広大(ごうだい)さん、私は出来る限りを…」

皆さんの人形が、祭壇にちょこんと座って並んでいる。

「別に、糸ちゃんのせいやゆうてへんやん。豊澄(とよす)が、豊澄の部分が、まだあるんちゃうかって思いたかったんや!」

そう言って、器と呼ばれる場所の近くを触(さわ)っている。

ドドーン、雷が落ちた。

地響きがする。

ビカンっと、稲光が走る。

いつもなら、怖いのに…。

今日は、ここにいたい。

「宝珠は、まだ生きてます」

糸埜さんが、何かに気づいた瞬間

シャンシャンと鈴の音が、響き渡る。

『さぁー、さぁー、さぁー、さぁー』

「何だ?」

『皆さん』

幽体の皆さんが、稲光に照らされた。

『まだ、生きてる』

「二条」

二条さんと呼ばれた方が、近づいてきた。

『糸埜、広大、二条、喜与恵。手伝ってもらえるか?』

「礼珠(れいじゅ)さん」

三日月さんのお父さんが、現れた。

「うまくいくのですか?」

『やった事がない。しかし、息子の為にやってあげたい。最後に、父親としてやってあげたい。』

「それでは…。」

『私が、豊澄と共に鍵になる。』

「宝珠と代わるのですね。そんな事を宝珠は…」

『わかってるよ。望まない事ぐらい。父として、あの子をずっと見てきた。宝珠は、自分の幸せを全て捨ててしまう子だった。だけど、真理亜の時にはわがままを言った。柊真琴の時も、喜与恵の時も、宮部さんの時も、宝珠は意思をもってワガママを言った。』

三日月さんのお父さんは、数珠を強く握りしめる。

『最後は、私のわがままを聞いてもらいたい。あの子には、生きて欲しい。人間として、生きて欲しい。願いは、それだけだ。』

「無理だったら…」

『あの子が、死ぬだけだ。』

「何か出来る事は?」

『ない』

三日月さんのお父さんは、首を横に振った。

「何もないのですか…」

糸埜さんも喜与恵さんも、泣いている。

【礼珠、我が約束を守ります】

「天野神(あまのかみ)、どうか宝珠と喜与恵を…。約束した通りに…。」

【わかっています。】

「私が、きちんと連れてきます。あの子をちゃんと…」

【皆は、宝珠の為に祈りなさい。祈りを私がエネルギーにかえ礼珠に送ります。】

皆が、出てきた。

【母上、助けるのですね。三日月宝珠を…】

【そなたも、それが正しいと思っていたからこれをつけたのであろう?】

鈴のついた糸を持ち上げる。

「まさか、主(かみ)がつけてくださったのですか?宝珠の魂に、鈴の結界を…。」

【あぁ、最後の瞬間につけておいた。後は、賭けだった。豊澄が、豊澄として中におれば、この鈴の音が鳴り響く。しかし、いなければこの鈴の音は鳴らない。断ち切られているからだ。】

「ほんなら、豊澄は…」

【あの主と完全に同化していなかったのだ。】

広大さんと呼ばれた方は、三日月さんのお父さんを見つめている。

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